海斗は凛をB市に所有しているマンションへ連れてきた。街の中心部にありながら静かな環境に建つ、広々とした高層マンションの一室。定期的に使用人が点検と清掃に入っているため、室内は塵ひとつなく整っていた。海斗は一杯の温かいお茶を凛に差し出す。「ありがとう」凛はどこか上の空で、しばらく両手でマグカップを包み込んだままだったが、ようやく口をつけた。海斗はそんな彼女の前に立ち、ぽつりと言った。「誰かについてこいって言われたら、誰にでもついていくのか?」「え?」ようやく凛が反応した。顔を上げ、不思議そうに海斗を見る。「だって、海斗は私の彼氏でしょ?」ずっと張り詰めていた海斗の心が、その一言でふっと緩んだ。思わず小さく笑い、凛の顎を軽くつまむ。それ以上は何もしない。ただ触れることで、自分がここにいると伝えたかったのだ。「ちゃんと分かってるじゃないか」海斗は凛の隣に腰を下ろした。「つらいなら話せばいいし、悲しいなら泣いていい」「でも……分からない」つらいのは確かだったし、悲しくないわけでもない。けれど、泣くほどなのかと言われると、それは自分でも分からなかった。神谷家と血の繋がりがあるのではないかと疑い始めてから、凛は少しずつ自分の気持ちを確かめてきた。そして分かったことがある――自分は、家族として名乗り出たいわけではない。そもそも、なぜ親をはっきりさせなければならないのだ?向こうにだって、自分を迎えるつもりがないのに。ただ一つだけ知りたかった。自分は一体何者なのか?正式な夫婦の間に生まれた娘なのか、それともそうではないのか。以前海斗が言っていたことを思い出し、凛は彼を見つめた。「知ってることを教えてくれる?」海斗はすぐには答えず、先に念を押す。「俺も全部知ってるわけじゃない。28年前に何があったのか、本当のところを知ってるのは神谷家の当事者だけだ」「うん……前に、柳川部長のこと話したでしょ?彼は昔、茂さんの部下だったらしいの」凛の声はとても冷え切っていた。そんな凛の様子が、海斗の胸を締めつける。「何か分かったのか?」凛はあの日聞いた話を思い返した。「柳川部長の話だと、当時の茂さんは周りがこぞって取り入ろうとするような立場だったから、奥さんが出産した日も大勢がお見舞いに来たんだって。でも病室に行ったら、茂さんはいな
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