All Chapters of 元夫の後悔をよそに、天才妻は御曹司と溺愛婚: Chapter 71 - Chapter 80

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第71話

「梓?」凛が梓を振り返ると、梓が口をへの字に曲げていた。何やら、ものすごく不満そうだ。どうしたのだろう?「凛さん、さっき誰に声を掛けたんですか?」シャンパングラスを二つ持ってきた日和が、一つを彼女に手渡す。凛は言った。「私、お酒は飲めないの」日和は凛の隣に腰を下ろす。「持っているだけでいいんです。実際に飲む必要はありませんから」凛は思わず笑ってしまった。「日和さん、あなたは挨拶まわりに行かなくていいの?」「凛さんを一人置いていきたくないですから」日和は今さら大物たちに会う必要はないと思っていた。それよりも、後で今井先生に頼み込んで、個人的に連れて行ってもらうほうが遙かにいい。それに、海斗に頼めばいつでも紹介もしてもらえるだろう。自分はいくらでも大物たちに出会えるし、何より凛を一人残していくことが後ろめたかったのだ。「本当によく考えてるのね」凛は少し顎を上げて言った。「行ってきなよ。私はここで待ってるから」しかし、日和は首を振った。凛は日和の意志の強さに少し困惑する。日和が退屈するのを避けるため、凛は立ち上がり、人の輪の中へと向かうことにした。もちろん、誰も知らないのだが。日和は歩き回りながら食べ物をつまみ、凛にも食べさせてくれた。二人はパーティーの空気とひどく不釣り合いだった。二人の横を通りかかった人々は視線を向け、なんて品のない人が来ているのだ、と思った。「誰が招待したんだ?服だけ立派でも、立ち振る舞いに育ちの悪さが滲み出てる」そんな言葉が耳に入った柚葉は、視線を向けた。すると、日和が間に入ったので、挨拶に行こうと考えた。しかし、次の瞬間横の女に目が止まる。見たことはあるが、それがあの女であるとは信じられなかった。「知り合い?」正人が不思議そうに柚葉に尋ねる。柚葉は横目で正人を見て言った。「見覚えない?レースのドレスを着てる人」正人は首を振った。「いや、知らないな」彼も気付かないらしい。柚葉も自分の見間違いかと思った。あの女がどうしてあんなでここに?誰と来たのだ?智也がエントランスで待っていなかったことを思い出し、柚葉は立ち尽くす。「もう一度見てみて」と、柚葉は正人に言った。「ただの美人だろ?」しかし、正人は全くピンときていないようだ。柚葉は少し焦った口調で
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第72話

そばにいた正人は一瞬、言葉を失った。どうやら智也が彼女を連れてきたようだまあ、おかしくないこともない。智也が柚葉を愛しているのは事実だが、彼自身も「凛には世話になっているから」と言って、離婚する気なんて全くないのだから。凛はこれからも智也の妻であり続けるし、夫が妻をパーティに同伴させるのは当たり前のことだ。ただ、ひとつ解せないのは、智也はこれまで凛を公の場に出すことは避けていたはずなのに、なぜ今日に限って連れてきたのだ?今になって世間に公表する気なのだろうか。正人は考えた末、凛に向かって「凛さん」と声をかけた。柚葉の顔が一瞬で引きつる。しかし、周りには大勢の人がいるため、ここで感情を爆発させるわけにもいかない。柚葉は何とか笑顔を浮かべた。「智也が連れてきてくれたんですね」凛は肯定も否定もしなかった。柚葉は凛の装いに視線を巡らせる。凛は質素な真珠のアクセサリーしか身に付けておらず、自分がつけている宝石のジュエリーには及ばないだろう。そう思うと、柚葉は少し落ち着くことができた。「それにしても智也は分かってないんですね。真珠だけなんて、あまりにも質素というか……」しかし正人は、その真珠こそ凛の透き通るような上品さを際立たせていて、これ以上ないほど似合っていると感じていた。最高に美しい。どうしてこれまで気づかなかったのだろう?正人が見とれていると、正人が連れてきた女性が腕を引っ張り、「何見てるのよ」と睨みつけた。普段から人を見下しているような正人が、よりによって凛の方に気を取られているなんて、柚葉には屈辱でしかなかった。凛のどこがそんなにいいのだろう。男たちが次々と彼女に目線を奪われているのが解せない。正人は言い訳するように呟いた。「俺の友達の知り合いなんだよ。変なやきもちを焼くな」正人は柚葉の目の前で「友達の嫁」とは言えなかった。もし言って柚葉の機嫌を損ねれば、後で智也に面倒なことを言われかねない。それでも「知り合い」という言い方すら許せなかったのか、柚葉の顔色はさらに曇った。「小林さん、目利きはあまり得意ではないんですね」日和が胸の前で腕を組み、言い放った。「その真珠、最高級品質の希少なものなんですけどね。それに、自分自身が身につけてる宝石が、切り屑の寄せ集めなのも気づいてないようですけど?
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第73話

「友達」という言葉が、鋭利な刃物となって柚葉の胸に突き刺さる。柚葉は冷ややかに反論した。「結婚して4年、智也はあなたに一度も触れていないんですよね?でも、私たちは……」凛は軽く笑った。「寝たんでしょ?」柚葉の言葉の続きを凛は口にした。「みんなに教えてあげようか?」「り、凛さん!」柚葉は再び立ち上がると、冷静さを取り戻して言った。「気にしないんですか?」「むしろその方が都合がいいの」そう言うと凛は日和の手を引き、その場を離れた。日和は柚葉と智也の関係を公にするべきだと、まだ文句を言い続けている。凛は日和に言った。「社長のパーティーをめちゃくちゃにしたいの?」日和は不満そうに唇を尖らせる。「さっきあの女になんて言われたんですか?」「もうとっくに知ってることだったわ」「じゃあ、あの人の思わせぶりは無駄だったんですね」と日和が楽しそうに言う。遠ざかる凛を目にして、正人は慌ててスマホを取り出し、智也にメッセージを送った。【智也!奥さんと柚葉さんがもう少しで喧嘩になるところだったぞ!】部屋から出てきた智也は、その通知を見て動きを止めた。そもそも凛をパーティーに呼んでいないのに、なぜ二人が出くわしているんだ?正人は続けてメッセージを送った。【奥さんを連れてこられたんじゃないんですか?】智也は眉をひそめる。【こんな大事な場に、呼ぶわけがないだろ】正人は返信する。【じゃあ誰と来てるんですかね?】智也も当惑していた。しかし、正人からはさらに追撃がきた。【そういえば、奥様は竹内家の令嬢と一緒にいましたよ。奥さんもなかなかやりますね。セレブ会の仲間入りなんて】智也の眉間の皺が、より深くなった。その時、海斗も同じ部屋から出てきて、智也を一瞥して言った。「まさか谷口社長も、あの茅野翼(かやの つばさ)さんから紹介を受けたとは。驚きましたよ」智也はスマホをしまうと、笑顔で返した。「竹内社長ほどではありません。それに、竹内社長のお母様はあの草壁家の方って伺いましたよ」二人の間に火花が散る。海斗は鼻で笑った。「ご存じだったんですね。谷口社長、なかなか肝が据わってらっしゃる」「やはり、竹内社長には敵いませんよ。私には、人様の妻を自分のパートナーとしてここに連れてくる度胸はありませんから」智也の言
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第74話

瑶子は海斗を見やるや、この息子がまだ独り身なことに気を揉み、面白くなさそうな顔でため息をついた。「そんな大きな声を出して。みっともないわよ」と冷ややかに言うと、すぐにまた笑顔で凛に向き直る。「あとは若者同士でゆっくり、ね?今度、日和と一緒に遊びにいらして。美味しいおやつを用意して待ってるから」「ああ、それから私のことは瑶子さんって呼んでちょうだい。他人行儀なのは抜きにしましょう?」友達の両親から温かく接してもらえ、凛は恐縮しつつ「はい」と答えた。「ふふ、いい子ね」と言い、瑶子は凛を見て微笑んだ。そして、凛の隣にいた娘である日和の方を向く。「日和、お父さんが呼んでいたわ」「え?あっ、うん!」日和はすぐに察したようで、何度も頷いた。「うん、わかった!」そして、凛に別れを告げる。「凛さん、また!お兄ちゃん、凛さんのことよろしくね!」日和の態度の変わりようは、とても早かった。海斗にとってはよくあることだったが、やはり凛の手前、少し恥ずかしいのか妹を鋭く睨みつける。凛は、鬼と恐れられる竹内グループの社長が、家ではこんなふうに扱われているとは思いもしなかった。驚きで、目をぱちくりさせる。「竹内社長」「ん?」海斗はここで初めて凛をじっくりと観察した。美しいアーチを描いた眉と紅潮した頬。そして薄く引かれた口紅が、柔らかい唇を一層引き立てている。特に透き通った肌の白さはとても繊細で、身につけている真珠のネックレスでさえ、彼女の肌を傷つけてしまうのではないかと思わせるほどだった。海斗は見とれてしまった。凛は自分の体に何かついているのかと、そっと目線を下に向ける。はっとした海斗は凛に聞いた。「こんな着飾って、誰と来たんだ?」凛は、海斗に聞かれた時用の返しを用意していた。「谷口社長と来ました」そう言い終わるや否や、かすかな笑い声が聞こえた。凛は顔を上げる。しかし、海斗は相変わらずの真顔で、「離婚するつもりじゃなかったのか?なのに、なぜ彼と一緒に?」と聞いてきた。その声はとても淡々としている。「まだ離婚届にはサインしてもらっていないので」凛はそう答え、もうこの話を続けたくなかったので、理由を探してこの場から離れようとした。「向こうで何か食べてきますね」しかし、「待て」と、海斗に腕をつかまれた。
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第75話

「智也!」凛は智也の手を離そうとしたが、智也が掴む力は強く、指先まで腕に食い込んでいた。智也は凛を離そうとしない。これ以上ケガをしたくなかった凛は、意を決してもう片方のヒールも脱ぎ捨てた。地面に落ちた二つのヒールを、海斗は屈んで拾い上げる。片方のヒールにはわずかに血がついており、海斗は小さく眉をひそめた。海斗はヒールを片手で持つと、もう片方の手でスマホを取り出し電話をかけた。「ここ二日で、『谷口凛』という女性から、離婚についての問い合わせはあったか?」電話の相手の男はしばらく考えたあと答えた。「ここ二日間はありませんが、数日前ならありましたよ。確か、離婚協議書の相談でした」海斗は電話を切った。凛がなぜ頑なに『4年と115日』と答えていたのか、今やっとその理由が分かった。4年と115日の日に、彼女はすでに離婚協議書へのサインを済ませていたからなのだろう。凛は智也との離婚手続きをとっくに始めていたのだ。海斗は静かに口角を上げた。……智也に引っ張られ、人気のない角へ連れていかれた凛。ようやく手が離された。綺麗なドレスをまとい、メイクもしている凛は、智也の知る凛とはまるで別人だった。そしてこれらはすべて、海斗が用意したもの。海斗がいったいどんな目的を持って、秘書を着飾らせているか、同じ男である自分にはすぐに分かった。「なんだその格好は?なぜ竹内社長なんかと一緒にパーティーに来てるんだ?」凛はため息をついた。この男はあの女を探すべきだろうに、なぜ今ここで自分を責めているのだろうか。「この場に合う服を選んだまでだから」智也も凛が美しいことは知っていた。結婚式の日に凛の華やかな姿を見て、見惚れたことも一度や二度ではない。しかし時が経つにつれ、キッチンでエプロンを着たやつれた姿しか目にしなくなっていたため、凛がか美しかったことなど忘れていたのだ。凛が最後に着飾ったのは、智也に嫁ぐとき。しかし、今回は上司の同伴として参加しているだけなのに、こんなにも着飾っている。説明しがたい嫉妬に駆られた智也は、凛のヘアアクセサリーを強引に摘み取り、手袋を脱がしたが何の効果もなかった。誰かによって磨き上げられ、美しくなった凛は、もうかつてのように自分の所有物ではなくなっていた。また手を伸ば
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第76話

海斗が凛を覗き込むように見る。「大丈夫か?」凛は首を横に振った。ようやく足元が安定したかと思いきや、再び智也に手首を引っ張られ、彼のそばへ立たされた。海斗は凛を取り戻そうと、反射的に手を伸ばしかける。「竹内社長、凛は私の妻なんですよ?」智也は凛の肩を抱き寄せ、所有権を誇示するように言った。凛の足元が汚れているのに気づいた海斗は、眉をひそめて智也に言った。「あなたの妻だというなら、なぜ彼女を物扱いして、人前で引きずり回したりするんですか?」その言葉で初めて智也は、凛の足から血が流れ、汚れていることに気づいた。床もこんなに冷たいのに、裸足だ。「靴はどうしたんだ?秘書に買わせに行かせるから待ってろ。そもそも、ヒールが履けないなら履くなよ。かっこつけたって、怪我するだけなんだから、見苦しいぞ」見下すような言い方に、凛の心の中で怒りの炎が燃え上がる。「谷口社長には、関係ないことなので」「凛、なんでそんな態度を取るんだよ?竹内社長がいるからか?」智也は海斗を睨みつけながら言った。凛は言い返す。「竹内社長は関係ないから。余計な人を巻き込まないでくれる?」智也は問い詰めた。「だったら、どうして竹内社長と来てるんだよ!」そこで、海斗はふっと笑った。「秘書が社長に同伴することの何が悪いんですか?」海斗が否定しなかったことに、凛は驚いた。「谷口社長、ここで凛さんの責任を追及するより、お連れの方に状況を説明する方が先かと思いますけどね?」海斗が少し体をずらすと、そこには目を潤ませた柚葉が立っていた。智也は慌てて凛の手を離し、眉を顰めた。この男のやることは、相変わらず陰湿だ。わざと凛を連れてきて、どうせ自分の評価を下げてやろうという魂胆なのだろう。ホシゾラ・テクノロジーに圧力をかけたいがために、自分までも追い詰めるつもりか。しかしそう簡単にやられるつもりはない。智也は深く息を吐き、「秘書を同伴したって何も問題もありませんよ。だったら、私が友人を同伴してきたって別にいいですよね?」と返す。「凛、お前も知ってるように、柚葉はただの友達なんだから」海斗は興味深そうに、凛がどう返すかを見守っていた。凛は口元を歪めて言った。「知ってるよ」少し離れたところでこの会話を聞いていた柚葉は、さらに目元を赤くしたが、ヒス
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第77話

「履け」海斗は彼女のそばに立ち、凛に視線を向けないまま言った。凛は差し出された綺麗な靴と、汚れてしまった自分の足を交互に見た。鞄の中からティッシュを探そうとしたが、手元にはスマホしかなかった。ポン。目の前にティッシュが落ちてきた。膝の上にそれは乗っかる。ポン。目の前に靴下も落ちてきた。今度は靴の上に乗っかった。ポン。最後に、絆創膏の箱が落ちてきた。社長は四次元ポケットでも持っているのか?凛は不思議に思い、顔を上げる。しかし、海斗は片手をポケットに突っ込み、悠々とその場を離れていくところだった。海斗は数歩進んでから、足を止め、ちらりと凛の方へ目をやった。すると凛が腰を屈めて足を拭き、靴下を履こうと必死になっている様子が見えた。凛は靴下を履く際、かかとの傷に当たって絆創膏が必要だったことを思い出し、再び靴下を脱ぐハメになった。「あほだ」海斗は低く吐き捨てた。……柚葉は智也に連絡を送った後、入り口付近でじっと待っていた。自分を探しにきた智也の姿を確認すると、再び歩き出す。その背中はひどく寂しげだった。「柚葉」智也は人混みをかき分け、まっすぐ彼女のもとへ歩み寄る。会場内は人が多く、絵になる二人の姿は自然と周囲の視線を集めた。智也が柚葉の手首を掴んだ。しかし、柚葉はその手を振り払うと、目を潤ませて言った。「こんなことしないで。凛に見られたら大変でしょ?」智也は「あいつなら向こうに置いてきたから大丈夫だ」と言い返す。柚葉はそんな答えを求めていたのではない。凛のことなんかどうでもよく、自分こそが大切だと言ってほしかったのだ。「凛をパーティーに連れてくるなら言ってくれればよかったのに。そうすれば私も誰か他の人を探して、あなたを一人で待つ必要もなかった……」彼女はわざと智也を刺激するように言う。思惑通り、智也がすぐに言い返してきた。「そんなのは駄目だ」「どうして?」柚葉はわざとらしくすねた。智也は黙り込んだあと、ボソリとつぶやいた。「嫉妬する」柚葉は心の中でほくそ笑みながも、悲しげな表情を作る。「私だって、あなたと凛さんの姿を見たら嫉妬するんだよ?」「勘違いなんだ。凛は俺と来たんじゃない」と智也は否定した。「あいつは竹内社長と一緒に来たんだ」そのことを思い出すと、智也はどうして
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第78話

恵はスマホに映る、少しぼやけた二人の影を見て、複雑な表情を浮かべていた。通りかかった拓海が声をかける。「どうかした?」「これ、谷口社長の浮気の証拠。映像は荒いんだけど、音声は結構クリアなの……」そう言って、恵は言葉を詰まらせた。「でも、これ……どうやって凛さんに伝えたらいいかな?」拓海は答える。「悪役は竹内社長に任せたら?」恵は顔を引きつらせた。「そんなの無理だって!」「社長なら、喜んでやるかもしれないぞ?」拓海は目を細めて笑った。その言葉を反芻しながら、恵は拓海に詰め寄る。「森田さん、長年一緒に働いてきた仲だよね?だからさ、本当の所どうなの?竹内社長と凛さんの関係って……」しかし、拓海はただ微笑んだだけだった。恵はスマホを手に取った。「それなら、理央から聞かせるからね?いいの?」理央に付きまとわれることだけは、拓海としても避けたいところだ。「とりあえず竹内社長に渡してみろ。それで、怒られるか、褒められるかでわかるんじゃないか?」「そうする!」そう言った恵がスマホを握りしめ海斗のところへ向かう途中、瑶子と日和に出くわした。挨拶もそこそこに、瑶子が唐突に尋ねてきた。「海斗が新しく雇った秘書の凛さんとは、うまくやれてる?」瑶子が凛の名前を出したということは、もうすでに会ったことはあるのだろう。それが日和か、海斗か定かではないが。いずれにせよ、瑶子としては凛の人となりを知って、ひいては自分の息子とどんな関係なのかを探るのが本音のようだった。「谷口は口数の多い方ではありませんが、能力は非常に高いです。前回のプロジェクトでも、データーの欠陥を見抜いたのは彼女ですから」瑶子は驚いたが、二宮教授の教え子だと考えれば納得した。「口数が少ないってことなら、うちの息子と同じね」それは全く違う、と恵は心の中で思った。すると日和が言った。「そんなことないよ!お兄さちゃん、凛さんと一緒にいるときは結構話すんだから」「確かに、そうですね。谷口が大人しい分、社長の方がどうしても言葉を増やすことになるんです」恵は簡潔にまとめた。瑶子は一瞬きょとんとした後、楽しげに笑った。「それは面白いわね」恵は瑶子の反応に微かな違和感を覚えた。瑶子は再び日和に向かって尋ねた。「海斗って、凛さんに腹を立てたことってあるのかし
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第79話

でも、さすが先輩だ。どこにいても常に最高の仕事をするらしい。梓の凛に対する尊敬がさらに深いものとなった。海斗は探ることをやめ、そのまま動画に目を通した。海斗の表情が少しずつ表情を凍りついていく。克哉は気になったが、ぐっと堪えた。海斗は動画をそのまま保存し、恵にボーナスを出すと、今夜のパーティーの進行を急ぐよう命じた。その後、主催者である海斗は全体の前で挨拶を終えると、「本日はホシゾラ・テクノロジーの谷口社長もお招きしております」と、一言添えた。恵が照明係に指示を出して、智也を照らす。智也の隣には柚葉が立っていた。全ての人の視線が二人に集まる。梓が感嘆の声を上げた。「小林さんと谷口社長、本当にお似合い」克哉はうかない顔で、梓に聞く。「じゃあ、君の先輩はどうなんだ?」「先輩と谷口社長?何言ってるんですか、佐野先生。谷口社長はもちろん素敵だけど、先輩にはもっといい人がいるはずですから!まあ、先輩はもう結婚してるんですけどね」克哉の心はいくらかましになった。「行こうか」「どこへいくんですか?もうすぐダンスタイムですよ」克哉は言った。「誰と踊るんだ?」梓は黙って彼についていくことにした。「今から、茅野先生に会わせてやる」「本当ですか!」梓は興奮した。「噂の茅野先生に会えるなんて!」「君は凛さんのアシスタントなんだから、会えないわけがないだろ?」と克哉は言う。「凛さんにとって、茅野先生はもう一人の師のような方だからね」「どういう意味ですか?」「昔、二宮教授と茅野先生は凛さんを取り合ったんだよ。でも、茅野先生は凛さんと研究分野が違うから負けちゃったんだけど、その後も諦めずに、何度も彼女をスカウトしようとしてたのさ」梓の凛への尊敬がさらに深まる。「佐野先生、先輩の旦那さんはどれだけ凄い人なんでしょうか。先輩を射止めるなんて」克哉は冷たく言った。「凛さんの頭は、研究のことしかないんだ」二人はその場を離れた。柚葉は上機嫌で智也の手を引き、人が多い中心エリアへ行き音楽に合わせて踊り出す。しかし、智也が表情を曇らせ、時折周囲に視線を走らせていることに気づいた。凛を探し、また凛に見られることを心配しているのだろう。しかし、そんなことは柚葉にとってどうでもよかった。世間は智也が結婚してい
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第80話

いつもは不機嫌で冷たい男が、急に優しい紳士になった。凛は確信した。気まぐれなのは女より男の方だと……特に智也はそうだった。つい先ほどまで柚葉に笑いかけていた男の瞳は、今ではナイフのように鋭く、獲物を引き裂かんばかりの鋭さを携えている。智也が凛に向かって歩き出したとき、柚葉は「あっ」と声を上げて、足を捻ったふりをした。智也はすぐにかがみ込んで確認すると、足が赤くなっているのを見て、そのまま柚葉をお姫様抱っこで連れ出す。先ほどまで、妻の凛に対してはひどい態度を取っていたというのに。凛はふと微笑んだ。その目元には、自嘲の色が浮かぶ。凛は軽く顎を上げ、海斗に手を差し伸べた。手袋はさっき智也に外されて捨てられてしまった。肌があらわになった彼女の腕は、ずっとグローブをつけていたせいか、驚くほど白く柔らかい。しかし、手だけは違っていた。出かける前にメイクさんがハンドクリームを念入りに塗ってくれたとはいえ、家事を長年一人でこなしてきた痕跡はどうしても隠せなかった。指先は荒れ、所々に小さなマメができている。男である海斗の手の方が、ずっと滑らかだった。凛は自分の手を眺めて、少しぼうっとしてしまった。すると、その掌を不意にぎゅっと握られる。そして、海斗はもう片方の手を、彼女の腰に軽く添えた。普段とは別人のような紳士ぶりだ。凛は顔を上げ、訝しげに海斗を見つめ返す。その時、柚葉を椅子に座らせた智也がちょうど振り返り、二人が見つめ合っている光景を目の当たりにした。智也の手が、わずかに握りしめられた。190センチ近い海斗を見上げる凛は、168センチだった。すらりと伸びた首筋が美しいラインを描き、綺麗な顎のラインを際立たせている。伸ばした腕のラインには強さが宿り、気高い雰囲気を纏うその女性は、決してか弱くはなかった。海斗も驚いた様子で、彼女の耳元で尋ねた。「鍛えてるのか?」「仕事と家事を運動とするなら……そうかもしれないです」と凛は彼のステップと音楽に合わせ、優雅に体を揺らす。踊り慣れているわけではないけれど、皆が見惚れるほど凛は美しかった。両拳を固く握りしめた智也には、今の凛が自分が知っている凛と同じ人物だとは到底信じられなかった。本当に凛なのか?こんなにも魅力的一面があったとは……それに、ダンスも踊
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