触れるだけだったはずのキスは、すぐに深くなる。凛は次第についていけなくなった。家の中ならともかく、ここは屋外のサーキットだ。さすがに落ち着かない。海斗の胸へ手を当て、少し押し返す。「……新しい車に乗るんじゃなかったの?」凛が息を整えながら言うと、海斗はようやく離れた。凛の手を取り、その掌へ軽く口づける。「そうだな」二人は車から降りた。冷たい風に吹かれて少し冷静さを取り戻した海斗は、凛の手首を優しく引くと、自分専用のガレージへと向かった。そして、マットなカバーが掛けられた車の一台の前で足を止める。海斗が合図すると、サーキットのスタッフが二人歩み寄り、カバーを外した。そこから現れたのはマクラーレン750S。深みのあるマットブラックのボディは極限まで低く構え、流れるような輪郭の中にも鋭さがある。余計な派手さはないが、それでも、ひと目でただものではないとわかる迫力があった。やがてエンジンの爆音が低く鳴り響き、冷たい風を切り裂くように、車体がコースへ滑り出した。そして一気に加速した瞬間、凛の背中が反射的に強張る。だが、横目に海斗の姿を見た途端、不思議と力が抜けていった。いつもより目元が柔らかく、口元には隠す気もない笑みが浮かび、黒い瞳には熱を帯びた光が宿っている。会社も責任も肩書きも、そんなものを、今だけ全部置いてきたような顔で、そこにいるのは、ただ好きなことに夢中になっている一人の青年だった。「どう?」いつもの低く冷静な声とは違い、どこか軽やかで、楽しそうだった。まるで褒めてほしい子供のようでもある。凛は初めて見る海斗の表情に、思わず見入ってしまった。仕事では何手も先を読み、誰より冷静に物事を動かすそんな海斗とはまるで違う。ただ風を追いかけることを楽しむ、自由な青年の顔だった。海斗って、車に乗るとこんな顔するんだ。そして、ふと疑問が浮かぶ。海斗はレースと天文ならどちらが好きなのだろう?「凛」海斗が横目で凛を見る。ハンドルを切る動きには一切の迷いがない。「前、見て」凛に見つめられるのは好きだったけれど、今だけは同じ方向を見てほしかった。一緒に前だけを向いて、この速度を味わいたい。「うん」凛も視線を正面へ戻した。速度そのものが身体を揺さぶり、全身に一気にアドレナリンが巡る。カーブへ入る緊張や、抜け切った瞬間
อ่านเพิ่มเติม