Beranda / BL / No rush / 【2】

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【2】

Penulis: 七賀ごふん
last update Tanggal publikasi: 2026-03-08 07:36:57

週明けの前夜、飯を食い終わった後ベッドに転がってBL漫画を読んでいた。最近人気の作家の本で、濡れ場は少ないけどストーリーに定評がある。

演出や設定、展開や世界観は読む度に違う。けどどれも共通しているのは、主人公がピンチの時に必ず助けてくれるヒーローがいること。商業はハピエン至上主義。それがつまらない。

先が読めてしまうからだ。主人公が窮地に立たされた時、誰かに襲われた時、察してしまう。「あぁ~ハイハイ、ここでスパダリが現れるんですね」と。

おまけに最近はタイトルを読めばオチがわかる。やっぱフィクションはどこまでいってもフィクションなんだって思ってしまう。

現実はそうじゃない。だから現代人は、ハッピーエンドの虚構を求めるのか。

「理貴……」

こんなしょうもないことでグルグル悩んでんのは俺だけだろう。正直に言って、自分でも何が不満なのか分からない。

ただ理貴がいつも上の空で、心ここにあらず、という状態が嫌なのだ。とうしたって昔の理貴と重ね、比較しえしまう。

あの頃の快活だった彼はどこへ行ってしまったのか。軽く抜け殻だし、どこか俺に対して遠慮して……距離を感じる。

気まずさ、のようなものに近い。信頼してるけど、完全に寄りかかれず、足踏みしている感じ。

四冊目の漫画を重ねて両手を放り出した。その間も謎のため息が止まらない。

スパダリを求めてるわけじゃない。せめて、もっと人並みに反応してほしい。理貴は何を言ってもワンテンポ遅れて返ってくる。ナマケモノを引っ張ってる気分だ。

それも贅沢な悩みだろうか? 世の中には心ない言葉を平気で言ったり、手を出す奴もいるから。

……とか色々考えていたら、一睡もしないで朝を迎えた。

ただでさえ憂鬱な月曜日、重たい足取りで学校へ向かう。目の下のクマがすごいせいか、いつにも増して周囲の目には怯えの色が混じっていた。

普通に歩いていても皆端に寄って道をあける。

そこまでしなくても別に何もしませんが……。

「……理貴。もうチャイム鳴るぞ、起きろ」

さあ、また一日が始まる。

学校の校門をくぐって、教室へ向かう。ことができればいいんだけど、結局中庭に立ち寄って“彼”を起こしてしまう。

「ううん……」

一昨日とはまるで違う、眠そうにベンチに寝ている理貴。夜のドSっぷりからどうしてこうなるのか、本当に謎だ。

めんどくさいけど彼の手を引いて、強引に校内へ連れて行った。

「ちゃんと歩けよ。俺は三年の教室までは行かないからな」

「ん~……うん」

繋いでいた手を離し、瞼を擦ってる理貴を追い越して先を歩いた。くそ、何でこういう時に限って織部先輩は居ないんだ。

上へ続く階段に差し掛かり、理貴より先にのぼった。いつも以上に一段一段が高く感じる。

俺も眠くて仕方ない。気を抜いたら今にも意識飛びそうで……。

フラフラしながら、次の段差の為に片足を上げる。そのときにボーッとして、重心が後ろへ傾いてしまった。

足が段差から離れる。

───あ。

「真陽っ!!」

うわ、と思った。

でも正直、気持ち悪い浮遊感に襲われたことより、背後に掛かった強い声の方がびっくりした。もっともその直後には全て忘れるぐらいの痛みに呻いたけど。

「いってぇ……っ」

せいぜい五、六段だけどアホみたいに落ちてしまった。尻もちをついた腰も超絶痛いけど、左足がズキズキする。

「真陽、大丈夫か!?」

床に座り込む俺に、理貴は血相を変えて叫んだ。こんな表情の彼を見るのは初めて。

……いや、違うな。二回目だ。前も何かあった気がするけど、何だっけ。

すごく昔の話だ。でも頭が回らない。

「大丈夫だけど、ちょっと捻ったっぽい。少しじっとしてるから、先に教室行って」

「バカ言うな。保健室行くぞ」

は? と思ったのも束の間、視界は急上昇した。理貴の胸に顔が当たり、足がブラブラして浮いている。なんとお姫様抱っこされていた。

「ちょっと、理貴! 大丈夫だから下ろしてって……!」

「歩けないんだろ。大人しくしてろ」

非現実的な光景に狼狽えるも、有無を言わさない様子で先へと進む。でもこんなところを誰かに見られたら耐えられない。ヒヤヒヤしながら彼の袖を握った。

強く言い返そうにも、今の理貴は何か怖い。これ以上抵抗したら後で何をされるか分からない。

仕方ない。我慢しよう。

早く保健室に着いてくれ、と神に縋る想いで願う。

そういや抱っこされるのも初めてじゃないような気がする。何だろうな……。

さっきから幼い頃の記憶がチリチリと光る。窓の外の空に同化する。空の青……いや、あれは。あの青は確か、

「あら! ちょっとちょっと、何よあなた達」

その思考を遮ったのは甲高い女性の声。見れば保健室の若い先生だった。

「まーた廊下で遊んで。絶対落とさないようにね。怪我したら大変よ」

「先生、こいつ足踏み外して階段から落ちたんですよ。診てやってくれません?」

「やだ、ほんと!? 今鍵開けるから、ちょっと待ってね!」

先生はとても良いリアクションで保健室の扉を開けた。俺はそのまま中へ連れて行かれ、あれよあれよという間に応急処置を受けた。耐えられない痛みじゃないし、軽い捻挫らしい。ただしばらく安静にしてるよう言われた。

「真陽、ごめんな」

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  • No rush   #2

    理貴は懐かしそうに目を細める。多分笑いたいんだろうけど、俺に遠慮して真剣に考えてるような表情を浮かべた。「何だっけな。いじめっ子にゲームを隠されたんだったかな。それも、オバケが出るって言われてた寺の墓地に。ゲームが大事だったにしても今思うとよくあんなところに一人で行ったよ。正直驚いた」「あー……何か思い出してきた」ぶっちゃけ嫌な思い出だ。いじめられた、という過去も腹立たしいし、鬱蒼とした墓場はそれだけで不気味だし、実際はゲームなんて置いてなくて、俺の家の玄関前に返されていたなんて。そりゃもう全てが黒歴史だ。怖かったと思う。帰りたくてもゲームは見つからない。親に言ったらもう何も買ってもらえないかもしれない。今なら笑っちゃうほどちっぽけな恐れだけど、子どもなんて感情だけで生きてる生き物だ。当時のダメージはでかかった。色んな恐怖が極限まで高まって泣き出した時、その声に気付いた理貴が大慌てでやって来てくれた。俺が墓地へ行くことを公園で聞いていた子が、幼馴染みの理貴に教えてくれたらしい。あれは本当に感謝した。でもゲームが見つからないからしばらくその場でぐずって、窘められながら山を下りたんだ。結局、理貴に手を引かれながら家まで送ってもらった。「あの時のゲームどうした?」「そりゃあ……バッテリー悪くなって捨てた」「だよな」あの頃は何よりも大事だった最新のゲームも、時と共に廃れていった。古い記憶と一緒に手放してしまった。劣化したものをバカスカ捨てて、新品ばかり求める人間になった。これはちょっと悲しい。「今まで捨てたゲーム何個あるだろ。俺って物大事にしなさ過ぎてバチ当たるかな……」「ゲームも言っちゃえば消耗品だからな。いつか絶対壊れるんだし、仕方ないだろ」壊れなかったら消耗品じゃない。その言葉の意味は分かるけど、心が痛むのは何故なのか。その理由を、記憶を手繰り寄せる。いっときでも毎日遊んで、自分を楽しませてくれた。無機物に対して抱く感情としては微妙だけど、お世話になったような感謝の気持ちがある。だから悲しい。手放すだけじゃなく、廃棄することは恩を仇で返すような後ろめたさがあるんだ。物に対してこんなことをちまちま考えてる自分はやばいかもしれない。理貴に言ったら「想像力豊か」の一言で一蹴されそうだ。でも、使い捨てって何か寂しい言葉じゃないかな。物で

  • No rush   #1

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  • No rush   #4

    ────苦く懐かしい記憶がある。まだ小学生の頃の話。両親から誕生日プレゼントにもらったのは、当時流行っていた最新のゲーム機。発売してすぐに買ってもらった為、周りで持っているのは自分だけだった。だからだろう、クラスでリーダー格の男子にいびられる羽目になった。休日に近所の公園でゲームをしているところを運悪く見られてしまい、奪われたのだ。けど小学二年生のお小遣いで買える代物じゃないから、彼らも内心では扱いに困っていたようだ。ゲーム機を持った一人がどこかへ去り、しばらくして戻ってくると「寺の墓地に置いてきた」と言った。返せと言おうにも、本当に持ってないのでは仕方ない。彼らは笑いながら去って行った。その背中に蹴りを入れられるような性格じゃなかった当時の自分は、泣きそうになるのを堪えて地面を見つめた。どうしよう……。目の前が滲んでいたけど、やがて元の視界に戻っていった。陽が傾き、足元の影がだんだん伸びていく。夜が来てしまう前に、ゲーム機を探しに行かないと。「肝試し?」「うん。最近ウチの敷地でやる子どもが増えてるんだけど、山の中は危ないから困ってんだ」立っているだけで全身から汗が吹き出す、酷暑の夏。広大な庭の雑草取りはしんどかったけど、今年は特別感に溢れている。真陽は理貴に誘われ、彼の叔父と叔母の家に遊びに来ていた。彼らの家は海から程近いものの、裏には大きな山々がそびえ立っている。山と海に挟まれた長閑な田舎町。 ( 暑すぎて虫も鳴いてないな )真陽は貸してもらったタオルで汗を拭った。地元から電車で二時間ほど乗り継ぎ、昼過ぎに着いたばかり。辺りを軽く散策したあと家の手伝いをし、無心で雑草を抜いていた。それから叔父の軽トラに乗り、夕食の買い出しに付き合って帰ってきたところである。そこからの雑草取りは中々ハードだった。とは言え泊まらしてもらう予定なので、手伝えることは何でもやるつもりだ。仰け反り、青々とした空を見上げる。都会の喧騒から離れるのは大事なことだとしみじみ思った。灰色の建物ばかり見上げるより、何も無くとも緑に包まれた景色の方が良い。というか、眼に優しい。そう言うと縁側で寛いでいる理貴から「真陽の頭は金ピカで目が痛いけど」と言われた。でも確かに。黒とは言わずとも、そろそろ茶髪ぐらにいには戻しても良いかも。髪先をそっとつまみ上げて、差し出

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  • No rush   #2

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    「今日、家に誰もいないんだろ?」「ん? あ、そうそう」「じゃあお前ん家で食おう。飯は俺が作るから」え。こっちが何か返す前に、理貴はまた歩き出した。どうやら彼の中では決定事項らしい。立ち止まり、珍しく前を行く彼の後ろ姿を見つめた。びっくりだ。理貴が俺の家で夕飯を作ってくれる……とか。恋人の手料理を家でゆっくり食べられる。それはカラオケよりもずっと嬉しい予定だった。帰りは家の近くのスーパーに寄って、理貴と今夜使う食材を選んだ。ひとりだったら憂鬱なぐらいなのに、彼と一緒だと買い物かごを持つのも楽しい。大して興味のない野菜や魚も、彼が真剣に見てるからちょっと緊張した。値段を見て高っ

  • No rush   #4

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    無意識のうちに呟いてしまった。慌てて口を押さえたけど遅い。隣に佇む理貴の顔色が変わっていた。ただ今度は張り詰めたものではなく、……悲しそうな表情で。空気を変えなきゃ。「水。……水が飲みたいな。のど渇いちゃった」わざとらしいけど、最大限の笑顔をつくる。怖々反応を待つと、彼は腑に落ちた様子でちょっと待ってろ、と部屋を出て行った。とりあえず助かったと胸を撫で下ろすも、何を不安に感じていたのか。自分でもいまいち分からない。でも自分が川で溺れたことは、理貴にとっても嫌な記憶だ。わざわざ思い出さなくていい。あれは消し去っていい出来事なんだ。静かにため息をつく。部屋の扉が開いて、戻ってきた

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