清水奈々の匕首を持つ手が震え続け、その曇った瞳はかつてないほどに冴え渡っていた。彼女は斜め後ろにいる入江孝介と綾香を一瞥し、次に自分の隣に立つ蓮智明を見た。そして、微かに首を振った。 「できないわ。私には無理」 「なら、俺が手伝おうか?」蓮智明の声が耳元に届き、清水奈々は半身が痺れるような感覚に襲われた。 「どうして? どうしてここまでしなきゃいけないの? 私たち、ただ逃げればいいじゃない。あなたはまだ私たちの未来を計画してたんでしょ? 人を殺してしまったら、どうなるの? 簡単に逃げられると思うの? 蓮、ちゃんと考えて!」清水奈々の声は懇願に変わっていた。 「おそらく、もう逃げられないんだ……」蓮智明は自分に言い聞かせるように呟いたが、すぐに首を振った。 「もう恨んでいないのか? 一人は無知で愚かで、奈々の想いを無駄にした。もう一人は正義面をしながら、奈々の最愛の人を奪った。奈々はそれでも、ただ見過ごすつもりか?」 清水奈々は向かい合う二人を見つめた。かつてなら嫉妬で燃え上がったであろう光景も、今はもう彼女の心を揺さぶらなかった。彼女はただ、平穏な生活を望んでいた。かつての入江孝介を巡る華やかで無意味な日々は、もう何の価値もなかった。彼女は生涯をかけて、ただ一人の特別な愛を追い求め続けた。しかし、最初からそれはすでに手元にあったのだ。ただ、彼女はそれに気づかず、自分にはないものを奪い取ろうとしていただけだった。虚構と嘘の上に築かれたすべてが、砂の城のように短い時間で崩れ去り、清水奈々はなおも掴めるものを掴もうとしていた。 「ええ、諦めるわ。行きましょう。この人たちはもう放っておいて」 「そうか。そうか、そうだったのか……」蓮智明は苦しそうに頭を抱え、二度ほど揺れたかと思うと、地面に倒れ込み、一通の電話をかけた。 「もういい。あの資料を彼に送ってください。」 綾香と入江孝介はその会話を静かに聞いていた。蓮智明はどうやら彼らをそれほど気にしていないようで、最初から綾香に所持品検査もしていなかった。今や綾香は入江孝介の縄を解き、彼をゆっくりと支えながら壁際に寄りかからせていた。清水奈々の言葉を聞いて、入江孝介と綾香は目を合わせ、まだ時間を稼ぎながら、次の機会をうかがうことにした。 電話を終えた蓮智明の目が、一瞬だけ正気を取り戻したように見えた。彼
Read more