「手抜きだ、不調だと言っても、美味いぞ、このお好み焼き」 事実、お好み焼きは美味いのだが、気をつかって啓太郎が言うと、裕貴は実に憎たらしい返答をした。「啓太郎って、なんでも美味そうに食うから、楽でいいよ。食わせるほうとしては」 「……可愛くない」 ぼそりと啓太郎が洩らすと、ふふ、と声を洩らして裕貴は笑う。「冗談だよ。おれがいままでメシを作って食わせたのは、父さんと兄さんと、啓太郎だけだけど、啓太郎が一番美味そうに食ってくれる」 そんなふうに言われると、急に食べにくくなる。が、嬉しそうに見つめてくる裕貴の眼差しに応えないわけにはいかない。 啓太郎はガツガツとお好み焼きを掻き込み、マリネにも手を伸ばす。いつの間にか置かれていたお茶を飲み干し終えたところで、裕貴が土産の日本酒の瓶を取り上げた。「飲む?」 「お前は日本酒飲めるのか」 「少しだけなら……」 「なら、先に風呂だ」 もらった入浴剤の一つを取り上げて啓太郎が言うと、意味をわかりかねたように裕貴は首を傾げる。「えっと……、おれの部屋の風呂に入るわけ?」 「俺の部屋の風呂でもいいぞ。どうせ広さは一緒だし、手間も一緒だ。俺の部屋に来るなら、お前、パジャマも持ってこいよ」 ここでやっと、裕貴は驚いたように目を丸くした。「もしかして、おれも一緒に入るわけっ?」 「俺に温泉気分を味わってほしいんだろ」 「一人でいいじゃん」 「温泉は、誰かと一緒に入ると楽しいもんだぞ」 激しく拒絶するかと思った裕貴だが、理由にもなっていない啓太郎の言葉を聞くと、数回まばたきを繰り返してから、立ち上がって食器を片付け始める。「裕貴?」 「おれが片付けている間に、啓太郎は風呂に湯を張って、自分の部屋から着替え持ってきなよ。あっ、おれ、お湯は温めね」 はい、と反射的に返事をした啓太郎は、キッチンに立って洗い物を始めた裕貴の後ろ姿をちらりと見て、唇を綻ばせる。 啓太郎はすぐに裕貴の部屋のバスルームに行くと、バスタブに湯を溜め始める。その間に自分の部屋に戻ると、スーツからスウェットの上下に着替え、また裕貴の部屋へと戻る。 すでに洗い物を終えたらしい裕貴は、バスタブの縁に腕をかけ、湯を掻き混ぜているところだった。すでに入浴剤を入れたらしく、湯は白く濁っている。「あー、さすがに温泉らしい匂いがするな」
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