「……切ったのか。あのうっとうしい髪に、慣れてきたところだったのに」 「ひどいなあ」 そう言って裕貴はちらりと笑うが、どこかぎこちない。啓太郎の腕を取ってイスに座るよう促すと、ダッフルコートを片付けてからキッチンに向かった。「ちょっと待ってね。準備するから」 食器を手に戻ってきた裕貴が、オードブルのいくつかの料理を皿に取り分けてレンジで温め始め、その傍らでスープも鍋に入れて火にかける。キッチンでよく動くほっそりとした後ろ姿を眺めながら、沈黙で間がもたなくなった啓太郎は再び口を開く。「メシ、みんなで食ったのか?」 「みんなと言っても、おれと父さんと……兄さんの三人だよ」 まっさきに啓太郎が疑問に思ったのは、博人は千沙子を伴ってこなかったのかということだった。ただ、裕貴が千沙子を嫌っていることを思い出し、遠慮してもらったのだと勝手に解釈した。イブは肉親と過ごして、クリスマス当日を夫婦で過ごすのだと考えれば、不思議ではない。「そういえば、親父さんが帰ってくるって、博人さんがこの間言ってたな」 「あの人はいつも突然なんだ。事前に連絡してくるなんて、珍しいんだよ。そして息子二人を振り回して、当たり前みたいに父親として振る舞うんだ。こっちはいい迷惑だよ。この髪だって……」 最後はぼやきに近い言葉を洩らして、裕貴が軽く頭を振る。啓太郎はぶっきらぼうに言った。「それはそれで、似合ってるぞ。落ち着かないなら、また伸ばせばいいだろ」 振り返った裕貴が目を丸くして見つめてくるので、居心地が悪くなった啓太郎は意味なくイスに座り直し、目を逸らす。すると遠慮がちに裕貴が呼びかけてきた。「……啓太郎」 「なんだ」 「もしかして、おれがいないときに部屋に来た?」 「ああ……」 「おれが出ないから、気になった?」 俺の分は悪くなるばかりだと思いながら、啓太郎は正直に答えた。「――当たり前だ。今度から……外に出るときは電気ぐらい消していけ。何事かと思うだろ」 「父さんが急かすから、消す暇がなかったんだよ」 わざと不機嫌な表情を作った啓太郎とは対照的に、裕貴ははにかんだように笑いかけてくる。 目に滲むようなその笑顔を見て、ここまで胸を塞いでいた重い感情の塊がスウッと溶けていくのが啓太郎にはわかった。「もしかして啓太郎、おれがわざと無視しているとか思った?
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