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ผู้เขียน: 北川とも
last update วันที่เผยแพร่: 2026-06-26 07:00:09

 それに気づいた係員が声をかけようとして、すかさず博人が、しばらく自由に見させてやってほしいと声をかけた。

 啓太郎はなんとなく、博人と並んで裕貴の姿を目で追いかける。

「――裕貴から聞きましたか、家のリフォームのこと」

 急に博人に話しかけられ、内心身構えながらも啓太郎は頷く。

「ええ。言い出した本人である親父さんは、もう日本にいないと」

「旅先で父親と話していたら、人が住んでいなかったせいか、実家が荒れてきていると言い始めたんですよ。それはわたしも感じていたので、床と壁を張り替えて、ついでに水廻りも裕貴が使いやすいようにしてやろうということになったんです。どうせ料理は、裕貴しかしませんし」

「けど、リフォームしたって、誰も住まないのに」

 そう言ったのは、収納の扉を開けていた裕貴だ。挑むような強い眼差しを博人に向けると、当の博人は軽く肩をすくめる。

「そうは言うが、またお前が住むかもしれないだろ。父さんだって、お前の好きなようにリフォームしろと言ってくれたんだ。この機会に手を入れるのが一番いい」

「……金だけ出して、面倒なことはみんなおれと兄さんに押し付けるんだから、父さ
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     車に戻ると、裕貴はぐったりしてシートに体を預け、目を閉じていた。運転席に乗り込んだ啓太郎は、裕貴の髪を掻き上げてやりながら声をかける。「おい、大丈夫か」 「……人に酔ったのかな。頭痛い……」 買ったパンを後部座席に置いてから、啓太郎はすぐに車を出す。青い顔をしている裕貴には申し訳ないが、小さくこう洩らしていた。「お前は本当に――」 「手がかかる、って言いたい?」 啓太郎の言葉を引き継ぐように、裕貴が力ない声で言う。頭が痛いというわりには、減らず口は健在だ。啓太郎は唇を綻ばせる。「繊細だな、と言おうとした」 横目でうかがうと、裕貴は照れたような表情となり、たまらず啓太郎は裕貴の片手をきつく握り締めてやった。「そんなふうに言うの、啓太郎ぐらいだよ」 「博人さんも言いそうじゃないか。可愛い弟に、欠点なんてないって顔して、お前のことを見ている。今日だって、お前と一緒に過ごせて嬉しそうだった」 再び裕貴の表情が曇り、反対に啓太郎の手を握り返してきた。「啓太郎がついてきてくれなかったら、行かないつもりだったんだ……」 どうして、と気軽に聞けない雰囲気だった。裕貴はすぐに手から力を抜き、シートを倒すと、目を閉じてしまう。  そんな裕貴が儚く見え、啓太郎はむしょうに抱き締めたい衝動に駆られる。別に今の裕貴の姿だけに刺激されたわけではなく、博人の存在も関係あった。 おそらく博人は、裕貴の側にいる啓太郎をよくは思ってないだろう。一方で啓太郎も、裕貴に過保護な博人に対して、どうしても身構えてしまう。  今の生活を脅かそうとしている侵入者、と捉えているのかもしれない。 ようやくマンションに着いた頃には、外は薄暗くなっていた。車のエンジンを切って裕貴に声をかけようとすると、実は目を閉じていただけだったのか、すでに裕貴は体を起こし、シートを戻そうとしているところだった。  さすがの啓太郎も多少の疲れを感じながら、マンションに入る。「……頭が痛いなら、もうお前の部屋に寄るのはやめておこうか? すぐに横になりたいだろ」 エレベーターの中で啓太郎が言うと、甘えてくるように裕貴が腕を掴んできた。まだ夕方なので、さすがに人目に気をつけるべきなのだろうが、絡みついてくる裕貴の腕を振り解くことなど、啓太郎にはできなかった。「お茶ぐらい飲んでいきなよ。……誰もいな

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    ** どこかで食事をしないかという博人の誘いを断った裕貴は、啓太郎とともに帰路につきはしたものの、車の中で口を開こうとはしなかった。何かを考え込むように唇を引き結び、じっと前を見据え続けていたのだ。 そんな裕貴は両腕で、大判の封筒をしっかり抱えている。ショウルームでもらったカタログに、作ってもらったプランの用紙が入っていた。見積りをしてもらう前に、変更したいことがあったらいつでも連絡してこいと言って、博人が渡したものだ。「裕貴、パン屋か弁当屋に寄って帰るか? お前も今日は疲れただろうから、買ったものを食って休めばいい」 「……啓太郎と兄さんて、考えること同じだよね。食い物でおれを釣ろうとする」 返ってきた言葉の内容云々より、裕貴が口を開いたことに啓太郎はほっとする。 信号待ちで車を停めると、片手を伸ばして裕貴の頭に触れる。「わからないからだろ。お前が本当は何が好きなのかとか、どんな言葉を言ってほしいのかとか。大人はズルイからな。手っ取り早い方法を取りたがるんだ」 「オヤジみたいな言い方……」 お前なあ、と苦々しく洩らした啓太郎だが、次の瞬間にはうろたえてしまう。頭にのせた啓太郎の手を取り、裕貴がしっかりと握り締めてきたからだ。「裕貴……」 「別に啓太郎に、気の利いた言葉なんて期待してないよ。啓太郎は、そこにいてくれたら、それだけで楽しいんだ」 「楽しい、か?」 素直に喜んでいいのだろうかと考えていると、スッと手が離される。前を見ると、車が進み始めているところだ。  再び車を走らせた啓太郎は、裕貴の機嫌が少しはマシになったのを感じ、思いきって気になっていることを尋ねてみた。「――お前、今日のことどう思った」 「今日の、こと?」 「お前の実家のリフォームのことだ。なんで今なのか、ってな」 裕貴は小さく声を洩らしてから、膝の上に置いた封筒に指先を這わせた。「よく、わからない。リフォームのことは、おれが寝ている間に決まったみたいなんだ。確かにおれも、疑問には感じるよ。兄さんが進めればいいのに、っていう意味で。別におれだけの実家じゃないんだから、兄さんが好きにしても文句なんて言うつもりはないんだ。ただ、あの女さえ家に入れなければ……」『あの女』とは、博人の妻である千沙子という女性のことだろう。裕貴の周囲には、それ以外に女性の存在はな

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     それに気づいた係員が声をかけようとして、すかさず博人が、しばらく自由に見させてやってほしいと声をかけた。  啓太郎はなんとなく、博人と並んで裕貴の姿を目で追いかける。「――裕貴から聞きましたか、家のリフォームのこと」 急に博人に話しかけられ、内心身構えながらも啓太郎は頷く。「ええ。言い出した本人である親父さんは、もう日本にいないと」 「旅先で父親と話していたら、人が住んでいなかったせいか、実家が荒れてきていると言い始めたんですよ。それはわたしも感じていたので、床と壁を張り替えて、ついでに水廻りも裕貴が使いやすいようにしてやろうということになったんです。どうせ料理は、裕貴しかしませんし」 「けど、リフォームしたって、誰も住まないのに」 そう言ったのは、収納の扉を開けていた裕貴だ。挑むような強い眼差しを博人に向けると、当の博人は軽く肩をすくめる。「そうは言うが、またお前が住むかもしれないだろ。父さんだって、お前の好きなようにリフォームしろと言ってくれたんだ。この機会に手を入れるのが一番いい」 「……金だけ出して、面倒なことはみんなおれと兄さんに押し付けるんだから、父さんはズルイよ」 「今に始まったことじゃない。それに父さんはズルイんじゃなくて、何もかも息子たちが処理して当然と思っているんだ。――諦めろ。それが俺たちの父さんだ」 やけに説得力のある口調で博人が言い、裕貴も本気で腹が立っているわけではないのか、今度は昇降フードの高さを確かめ始める。  その様子を見つめながら啓太郎は、寸前まで兄弟が交わしていた会話を頭の中で反芻していた。 誰も住まない家をリフォームするということは、よく考えてみれば奇妙だ。いくら父親が言い出したとはいえ、先延ばしにすることは可能だろう。裕貴が実家に戻ると言い出したときに取り掛かればいいことだ。 少なくとも裕貴は実家に戻る気はなさそうだが、博人のほうは――。 横目で博人を見ようとしたとき、スッと博人が足を踏み出し、裕貴に歩み寄る。「色は、白はありがちだから、パステル系のイエローとかブルーとかが明るくていいんじゃないか」 「男しかいない家なのに、パステルカラー?」 「なら、木目は」 「……黒もいいかなあ」 「向こうに色見本があるから見てこよう」 博人の手がさりげなく裕貴の肩にかかり、見ていた啓太郎のほ

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     先を歩く博人の背を見つめていると、軽く腕を引っ張られる。見ると裕貴が、らしくなく申し訳なさそうな顔をしていた。「……そんな顔するぐらいなら、最初から正直に言えばよかっただろう」 からかうように啓太郎が言うと、裕貴はぎこちなく笑う。「兄さんが待ってるって言ったら、啓太郎来てくれないかと思ったんだ」 「どうして」 「兄さんのこと、苦手だと思ってるだろ」 裕貴の鋭い指摘に、啓太郎はドキリとする。確かに、博人の怜悧な雰囲気は少し苦手だ。何より、裕貴に甘すぎるほど甘い兄に対して、啓太郎はどう接すればいいのかわからない。おそらくこの気持ちは、裕貴と関係を持っていることに対する罪悪感の現れだ。 他人の大事なものに、啓太郎は手を出している最中なのだ――。  こういう表現はまるで自分が泥棒になったようで嫌なのだが、博人の前に立つと、どうしてもそんな気持ちに陥ってしまう。  啓太郎のそんな気持ちを察したのか、手袋を外しながら裕貴はなんでもないことのように言った。「無理ないと思うよ。おれが絡むと、兄さんは誰に対してもあんな感じだから」 「あんな感じ?」 「なんか嫌な感じ」 裕貴の言い方に、思わず啓太郎は短く噴き出す。「お前、自分の兄さんだろ」 「弟だから、こうはっきり言ってあげるんだ。だけど、いくら言っても治らない。……多分、ずっとあのままなのかな」 裕貴の横顔が怖いほど真剣なものになり、博人の背を見つめている。啓太郎はそんな裕貴の横顔に見入ってしまう。啓太郎の視線に気づいたのか、すぐに裕貴は腕を取って引っ張ってくる。「ほら、行こう」 裕貴に引っ張られるまま、三人でまず向かったのは、地下一階にある内装材のコーナーだった。ダイニングの壁と床を張り替えるらしく、係員の案内の元、裕貴と博人は何か話し合っている。  啓太郎は数歩後ろに下がって見ていたが、裕貴は他人と話すのが嫌らしく、豊富な種類が並ぶ壁材の見本を見ては、手元のカタログを指差し、博人にだけ話しかける。すると博人が、まるで裕貴の言葉を翻訳するように係員に伝えていた。 この兄弟は、ずっとこんな形で他人と接してきたのかと思うと、疎外感よりも、二人が作り上げた世界を素直に羨ましいと感じる。他人である啓太郎では、どう逆立ちしても兄弟の世界に入り込むことは叶わない。 裕貴は、床や壁にはさほど興味がな

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    **「――で、いい加減どこに行くのか、教えてくれないか」 車を走らせながら啓太郎が口を開くと、裕貴はメモ用紙を手渡してきた。ちらりと視線を落とす。何があるのか、ただ住所が書いてあった。「ここに行けばいいのか?」 「うん……」 この住所に何があるのか尋ねる前に、裕貴は憂鬱そうなため息をつく。車に乗ってから、こんなため息ばかりついている。よほど、行きたくないのだ。「――……この間まで、父さんが帰ってきてただろ?」 ようやく裕貴が話し始めたので、啓太郎は前を向いたまま頷く。「どうしてこんなことになったのか知らないけど、急に実家のリフォームをするって言い出したんだ」 「建て替えか?」 「そう大げさなことじゃなくて、内装を変えるみたい。あと、水廻りも」 「で、言い出した当人は、もう日本にいないと」 裕貴は大きく頷き、苛立ちを含んだため息をまた洩らす。こうやって、裕貴は父親に振り回されてきたのかと思うと、悪いと感じつつも笑ってしまいそうになる。「そりゃ大変だな。よりによってお前に任せるなんて」 「いや、任されたっていうか……」 珍しく裕貴が口ごもり、うかがうように啓太郎の顔を覗き込んできた。「どうした?」 「ううん。……これから行くところ、ショウルームなんだ。そこで、いろんなものを見られるみたいで、一度自分の目で見ておくほうがいいかなって」 「お前一人で選ぶのか? 責任重大だな」 何げなく言った啓太郎の言葉に、裕貴は返事をしなかった。 その理由を、大きなショウルームの一階に足を踏み入れて、やっと啓太郎は理解した。「――裕貴」 一階に置かれたソファに腰掛けていたスーツ姿の博人が、裕貴の姿を見るなり立ち上がる。そして、裕貴の背後にいる啓太郎の存在に気づき、驚いたように目を見開く。ただ、驚いたというなら啓太郎も同じだ。  博人の存在は、悪いが頭からストンと抜け落ちていた。だが冷静になって考えてみれば、いくら実家のこととはいえ、引きこもりの裕貴が自らの意思で精力的に動き回るはずがない。 自分の髪を掻き乱した啓太郎は、裕貴のため息の意味がやっとわかり、天を仰ぎ見る。  大手メーカーのショウルームは、大きいだけでなく、非常に明るくて客が多かった。裕貴にはさぞかし居心地が悪いだろう。ボディーガードを二人も必要とするほど。 視線を戻すと、

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    「何があった。言ってみろ?」 「なんでもない。ただ、これからちょっと、忙しくなるかもしれないと思ったら、憂鬱で」 体を起こした裕貴は、ホットカーペットの上にぺたりと座り直す。本当に憂鬱そうにため息をつき、くしゃくしゃと髪を掻き乱した。「何かあるのか?」 啓太郎の言葉にうな垂れるように頷いた裕貴に、いきなり腕を取られる。腕時計を見てから、裕貴が顔を上げた。「啓太郎、そろそろ出ないと遅刻するよ」 「あ、ああ……」 離れがたいという気持ちが表情に出たらしい。裕貴がイタズラっぽく笑いかけてきた。「そんな顔しないでよ。それに、何かあるときは遠慮なく啓太郎を頼るから。――すぐに、わかるよ。おれ、啓太郎を巻き込むって決めてるんだ」 「……何?」 「はい、会社に行って、行って。おれに貢ぐために、啓太郎にはいっぱい稼いできてもらわないといけないんだから」 半ば強引に部屋から追い出され、ダイニングへと戻った啓太郎はコートを着込む。「おい、お前のさっきの言葉はどういう意味だ」 アタッシェケースを手にしたところで、たまらず問いかけたが、裕貴は答える気はないらしく、芝居がかった仕種で手を振ってきた。「――いってらっしゃい、啓太郎」 裕貴に逆らえない啓太郎としては、この場は黙って出かけるしかなかった。** 裕貴が言っていた意味深な言葉の意味を、啓太郎は二日後には知ることになる。 前日、なんとか日付が変わる前に帰宅できた啓太郎は、貴重な日曜日の午前中を、睡眠に費やしていた。  しかし、その至福の時間は突然打ち破られることになる。 いきなりインターホンが連打され、寝ぼけた状態ながら条件反射で飛び起きた啓太郎は、ふらつく足取りでダイニングに行き、インターホンに出る。「どちら様――」 『啓太郎、おれ』 寝ぼけていても、裕貴の声はすぐに判断できる。こちらから誘わない限り、啓太郎の部屋に来ることのない裕貴がどうしたのかと思い、慌てて鍵を解いてドアを開ける。  部屋の前には、ダッフルコートをしっかり着込み、ニットキャップにマフラー、手袋をした裕貴が立っていた。「お前、その格好……」 「啓太郎、つき合って」 突然の言葉に面食らい、啓太郎は目を見開く。裕貴は不機嫌そうな表情のまま玄関に入ってきた。「これから出かけなきゃいけないんだ。だから啓太郎につき合

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    ** デパートで買った裕貴へのクリスマスプレゼントは、ある意味、ありふれたものだと言ってもいい。気が利いていないのは、よく自覚している。これではまるで、学生同士のプレゼントのやり取りではないか――いや、今の学生のほうが、もっとシャレたものを選ぶかもしれない。 啓太郎はブランドものにはまったく頓着しないし、興味もない。フロアをうろついていて、人の流れに乗るようにして入ったのが、有名なブランドのショップだったのだ。  楽しげなカップルたちに挟まれ肩身の狭い思いをして、場違いだと思ってショップを出ようとしたのだが、あるものに目が留まった。 裕貴の部屋の前で何度目かの深呼吸をして、啓太郎は

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    **** 息を呑んでモニターに見入っていた面々の口から、低い感嘆の声が洩れる。それは啓太郎も同じで、緊張のためさきほどから痛んでいた胃が、やっと苦しみから解放してくれた。「……問題なし、でいいよな?」 誰ともなく尋ねると、数人の男たちが揃って素直に頷く。啓太郎は深々と息を吐き出した。「検索プログラムのテストは、これで終了、と」 言い終わると同時に、拍手と雄叫びが上がる。年内いっぱいはかかるだろうと、絶望的観測がされていた検索プログラムのテストが、なんとクリスマス・イブの夕方に終わったのだ。しかも、無事に。  もちろん、すべての仕事がこれで終わったわけではない。カットオーバー

  • SWEET×SWEET   -97-

    「兄さん、か。お前もそう思っているか?」 啓太郎が怒っていると口調から感じたらしく、電話の向こうで必死な声で裕貴が言う。『兄さんみたいだとかそうじゃないとか、関係ないよっ。あの人の言葉なんて、啓太郎が気にする必要ない』 「でも、誰よりもお前を知っている人だ」 『それは、そうだけど……。兄さんと啓太郎は違うよ』 困惑したような裕貴の声に息苦しくなり、啓太郎は無意識のうちにネクタイの結び目に指をかけていた。会社でなければ緩めているところだ。「……それでお前、なんでメッセージを送ってきたんだ。俺が博人さんと会ってメシを食ったのは、聞いてわかったんだろ。いまさら俺に――」 『兄さん、啓

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    **** 博人と会って話した後、啓太郎は車を取りにマンションに戻りはしたが、結局、自分の部屋どころか、裕貴の部屋にすら立ち寄らなかった。  裕貴と顔を合わせづらかったためだが、その理由の一つとして、博人と話し込んでいたことを報告する気になれなかったというのがある。博人のことを切り出した途端、胸に抱えた嫉妬心を露わにしてしまいそうだった。 博人と話していて啓太郎の中に芽生えた感情は、嫉妬だけではない。一つの疑念がどんどん大きくなっているのだ。  その疑念とは、裕貴が抱えた寂しさを紛らわせるために、自分は利用されているのではないかということだ。 ずっと、兄に庇護されてきた裕貴が、

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