◇ 表の通りに出ると、漆黒の流線型をした超高級車がアイドリング状態で停まっていた。 黎は後部座席のドアを開け、私をまるで壊れ物でも扱うかのように、慎重に、だが強引にシートの奥へと押し込んだ。 「あ……」 極上のレザーシートが、冷え切った身体を柔らかく受け止める。 黎はジュラルミンケースを助手席に放り投げると、運転席に巨体を滑り込ませた。ドアが閉まり、外の喧騒が完全に遮断される。防音の効いた車内は、彼から放たれる獣のウールと雨の匂い、そして強烈な熱気で一瞬にして満たされた。 エンジンが低く唸りを上げ、車が滑るように走り出す。 私は後部座席で身体を丸め、膝を抱え込んだ。 暖房が最大まで上げられているのか、吹き出し口から熱風が音を立てて流れ込んできている。冷え切っていた手足の指先にようやく血が巡り始め、チクチクとした痛みが走り始めていた。 「……どこへ、行くんですか」 震える声で、運転席の広い背中へ向かって尋ねる。 ルームミラー越しに、鋭い黄金の瞳がチラリとこちらを見た。 「お前を飼うための鳥籠だ」 短い返答。それ以上、説明する気はないらしかった。 窓の外では、東京の夜景が流線型の光となって後ろへ後ろへと飛び去っていく。深夜だというのに、街は眩いほどのネオンの光と、目まぐるしく変わる巨大なデジタルサイネージの色彩に溢れていた。 有栖川家の敷地からほとんど出たことのなかった私にとって、それは別世界のように鮮烈で、そしてひどく目がチカチカする光景だった。 きゅるるぅぅ……。 突然、静かな車内に、間の抜けた音が響き渡った。 私の胃袋が、限界を超えた空腹を訴えて鳴らした音だった。 数日間、水の一滴すらまともに与えられていなかったのだから当然の生理現象なのだが、この張り詰めた空気の中ではあまりにも場違いで、私は顔から火が出るほど羞恥に染まった。 「あ、あの……ごめんなさい、違くて……」 両手でお腹を押さえ、必死に誤魔化そうとする。 運転席の黎が、短く息を吐き出す音が聞こえた。怒られる、と思った。こんなみすぼらしくて品の
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