週末の六本木。けやき坂の通りには、初夏を思わせる強い日差しが暴力的なまでに照りつけていた。 路面に落ちた街路樹の濃い影の境界線を、高級車のタイヤが滑るように通り過ぎていく。排気ガスの微かな匂いと、行き交う人々の熱気、それに混じって漂う様々な香水や化粧品の甘ったるい匂いが、重く淀んだ空気の層を作ってアスファルトの上にべったりと滞留している。 獅子王理恩は、交差点の角にある高級ブティックのガラスショーウィンドウを背にして立ち、右手の指先で眉間を強く揉みほぐしていた。 ズキリ、ズキリと、こめかみの奥で鈍い痛みが脈打っている。 昨夜から続く、原因不明の頭痛だった。いや、頭痛だけではない。首の付け根から両肩にかけて、まるで水分をたっぷりと吸い込んだ重い粘土を乗せられているような、酷い肩こりと倦怠感が張り付いている。 獅子王グループの次期トップとして、連日深夜まで続く役員会議や、海外の取引先との折衝をこなしている。ただの過労と睡眠不足からくる自律神経の乱れだろうと、理恩は自分を納得させていた。 だが、それにしても今日の体調の悪さは異常だった。 普段なら気にも留めない人混みのざわめきが、ひどく耳障りなノイズとなって鼓膜を引っ掻き回す。すれ違う見知らぬ人々の発する体温や息遣いすらもが、不快な湿気となって肌にまとわりつくようだった。 軽く息を吐き出し、オーダーメイドの薄手のネイビースーツの首元を少しだけ緩めようとした時だ。 「理恩様!」 人混みのざわめきを切り裂くような、甲高くよく通る声が鼓膜を鋭く叩いた。 頭痛の芯がビクッと跳ねるのを堪えながら顔を上げると、通りのはす向かいから、大げさなほど手を振りながらこちらへ小走りで近づいてくる女の姿があった。 有栖川麻里亜。 数日前に新たな婚約者として正式に迎え入れたばかりの、華やかで美しい令嬢。 今日の彼女は、鮮やかなマゼンタピンクのタイトなノースリーブワンピースに身を包み、足元には凶器のように細いピンヒールを履いている。綺麗に巻かれた明るいブラウンの髪が、歩くたびにふわりと揺れ、周囲の通行人の視線を否応なしに引きつけていた。 「ごめんなさい、お待たせしちゃい
Read more