呼吸が、うまくできない。 ヒューッ、ヒューッという、浅くて早い空気が喉の奥で鳴る。 手足の先がビリビリと痺れ始め、全身から冷や汗がどっと吹き出してきた。 視界の端が暗く狭まっていく。 埃っぽくて、カビの匂いが充満する地下室の冷たいコンクリートの感触が、幻覚となって肌に蘇ってくる。真っ暗な部屋で、お腹を空かせて、ただただ誰かがドアを開けてくれるのを待っていた惨めな時間。 また、あそこに連れ戻される。 誰の目にも留まらず、ただの便利な道具として雑用を押し付けられ、ゴミのように見下されるあの日々に。「いや……だ……」 喉から搾り出された声は、ひどく掠れて震えていた。 床に崩れ落ちた肩が、ガタガタと制御不能なほどの痙攣を起こしている。 モニターの前で、黎はピクリとも動かなかった。 ただ、広い背中の筋肉が、異様なほどの硬度で強張っているのがわかる。 ゆっくりと、モニターの下にある通話ボタンを、太い指で押し込んだ。「……失せろ」 マイクに向かって放たれたのは、たった一言。 怒鳴り声ではない。大声を張り上げたわけでもない。 しかし、その低く、重く、地獄の底から這い出てきたような絶対的な冷たさを孕んだ声は、壁や床を物理的に振動させるほどのすさまじい音圧を持っていた。 ガラスのコップが共鳴して微かに震え、耳の奥でキーンという耳鳴りが走る。 モニター越しの、分厚い防音ドアを隔てた外の廊下。 カメラに映る探偵の男の動きが、ピタリと止まった。 へらへらとした薄ら笑いが、まるで映像がフリーズしたかのように顔に張り付いたまま、眼球だけが異常な速度で痙攣し始める。「ここに貴様の探す人間はいない。……俺の領域に泥足を踏み入れたこと、後悔したくなければ二度と現れるな」 声のトーンが、さらに一段階下がる。 人間の出す声帯の振動を超えていた。本能の奥底に眠る、絶対的な捕食者に対する根源的な恐怖を強制的に引きずり出す
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