鐘ヶ江一夏(かねがえ いちか)は、伊礼凜(いれい りん)と共に北部の鉱山地帯から南の果ての熱帯地帯までを歩んできた。二人は互いの人生において、最も強く、揺るぎない支えだった。凜が家族に見捨てられた時、彼女はすべてを賭けて彼に寄り添った。彼が必ず勝つと信じて。一週間前、凜はついに勝利を掴んだ。伊礼家の当主が自ら彼を帝都へと迎え入れ、実権を握った彼の勢いは今や飛ぶ鳥を落とすほどだ。誰もが、泥沼から這い上がった二人の絆が、ようやく円満な結末を迎えるのだと考えていた。「一夏、おめでとう!」親友の小林千暁(こばやし ちあき)から届いたLINEのボイスメッセージは、震えるほど興奮していた。「一日も早く一夏を嫁にするために、伊礼さんは寝る間も惜しんで仕事を進めてたって、伊礼さんの友達が言ってたんだよ!」スマホを握る一夏の心に、温かな感情が広がっていく。彼女はふと、絆創膏が巻かれた自分の指先に目を落とした。それはここ数日、フラワーショップでラッピングの修行をしていた時にできた傷だった。今夜の祝勝会で、彼に手作りの花束を贈ろうと、一生懸命練習していたのだ。その時、半開きになった店のドアの向こうから、聞き慣れた愛しい声がした。凜だ。「一番新鮮なシャンパンローズをひと束」隙間から彼の声が聞こえてくる。「この指輪も、一緒に包んでくれ」一夏の鼓動が跳ね上がった。大きな幸福感と感動が彼女を包み込む。やはり彼も自分と同じように、今夜、相手を驚かせようと考えていたのだ。しかし次の瞬間、別の聞き覚えのある声が響いた。凜の幼馴染、庄野都木(しょうの とき)だった。「何年経っても、夢乃がシャンパンローズを好きだって覚えてるんだな」都木の声には感慨がこもっていた。「彼女もお前のために、わざわざ海外から駆けつけてくれたんだっけ。でも、今夜の祝勝会には鐘ヶ江も来るんだろ。夢乃にプロポーズして、あいつが騒ぎ出したらどうする?」外の空気が一瞬、凍りついたように静まった。やがて、一夏は凜の言葉を耳にする。それは彼女が一度も聞いたことのない、残酷なほど冷静なトーンだった。「知らせなければいい。適当な理由をつけて、来ないように言っておく」都木は数秒沈黙し、ため息をついた。「お前と3年間苦労を共
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