だが、実際の理由は違う。征二郎が、不甲斐ない息子たちと顔を合わせるたびに苛立ちを募らせていたからだ。おまけに、二人の嫁もタダ者ではない。「黒田家の莫大な財産をどうやって自分たちのものにするか」と、顔にデカデカと書いてあるような強欲な女たちだった。過去には、晩餐の席で嫁同士が遺産や見栄を巡って、派手な取っ組み合いの喧嘩を始めたことすらある。その際、息子たちは妻を止めるでもなく、ただ黙ってオロオロしているだけだった。これに激怒した征二郎が、「用もないのに本邸へ顔を出すな」と両家に言い渡したのだ。次回の定例の食事会までは、まだ二週間も先である。それなのに、突然本邸に呼び出された理由がわからず、親族たちは皆、薄気味悪さを感じていた。「ねえ、もしかしてお義父様、いよいよ後継者の話をするつもりじゃないの?」本邸へ向かう高級車の後部座席で、次男の妻である瑠美(るみ)が、隣に座る夫の正一の脇腹を小突いた。「最近、沙耶がどこかの美術賞を獲ったとかで、あの子の母親、鼻をへし折ってやりたいくらい調子に乗ってるじゃない。お義父様は昔から沙耶を贔屓してるし、まさかボケて、あんな小娘に家督を譲るとか言い出さないでしょうね?」正一は眉間に皺を寄せ、黙々とネクタイの結び目を直すばかりで口を開かない。夫の煮え切らない態度に、瑠美はヒートアップしていく。「うちには大貴っていう立派な内孫の跡取りがいるっていうのに、あのお爺さん、一体何を出し惜しみしてるのよ!もう半分棺桶に片足を突っ込んでるような年だってのに……昔からそうよ。あんたたちっていうれっきとした息子が二人もいるのに、娘の由紀子ばっかり溺愛してさ。あの女が勝手に家を出ていってくれなかったら、今頃……」「おい、いい加減にしろ!」妻の口から、黒田家における絶対的なタブーである『由紀子』の名前が出た瞬間。正一は血相を変え、冷ややかな声で遮った。瑠美はビクッと肩を揺らして慌てて口をつぐんだが、数秒後にはまた我慢しきれずにボヤき始めた。「……大貴のやつ、まさか今日も遅刻したりしないでしょうね。毎日フラフラ遊び歩いてばっかりなんだから。あれじゃ、お義父様に呆れられても仕方ないわよ」一方、長男・正治の家庭でも、当主である征二郎の意図を測りかねていた。だが、彼らは次男の家庭とは違い、ひど
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