歴史的大発見に国中が沸いたものの、作業は完全に暗礁に乗り上げていた。集められた一流の修復家たちですら、この特殊な絵巻物を前にしてはお手上げだったのだ。彼らにできることといえば、ピンセットを使い、息を殺しながら数ミリずつ剥がしていくことだけ。そんな蟻の歩みのようなスピードでは、すべての修復を終えるのに何十年かかるか分からない。その上、少しでも手元が狂えば、国宝級の文化財が永遠に失われてしまう。先ほど実花がやってのけたような、あんなにも見事に、紙を一枚まるごと『層ごとに剥がす』という神業を持つ者など、この国には一人としていなかったのだ。「私で力になれるのなら、喜んで」事情を聞いた実花は、一切の躊躇なく頷いた。「実花さん、よく考えてちょうだい」嘉乃は、先ほどの興奮を抑え込み、あえて厳しい表情で問いかけた。「あなたも分かっていると思うけれど、これを受ければ、あなたのコンクールの時間は大幅に削られることになる。いくらあなたが国のために動いてくれるからといって、これが最後の個人戦である以上、あなた一人を特別扱いして締め切りを延ばすような真似は、絶対にできないのよ」実花は少し考え込んでから、尋ねた。「……私の制作が終了してからでは、遅いのですか?」「他のものは待てるわ。でも、一つだけ……私たちが拙劣な作業をしてしまったせいで、すでに外気に触れ、急速に劣化が進んでいるものがあるの。一刻の猶予もないわ」「分かりました。すぐに行きましょう」かくして、誰の目にも留まることなく、嘉乃と実花はひっそりとコンクール会場を後にした。再びネット上で実花のアトリエのライブカメラがオンになった時、部屋の中には誰の姿もなかった。だが、この程度の出来事で騒ぎ立てる者はいなかった。長丁場の制作だ、参加者が休憩や食事で部屋を空けることなど日常茶飯事である。しかし――審査員席に座る美由だけは、微かな違和感に冷や汗を流していた。彼女は沙耶からの指示を受け、実花のアトリエに用意された絵の具をすり替えた張本人だ。露骨にやりすぎて足がつくのを恐れ、主要な三色にだけ細工を施した。結果的に実花が優勝さえ逃せば、それで彼女の任務は完了なのだ。やましいことをしている自覚がある美由は、誰よりも実花のモニターを注視していた。だからこそ、嘉乃が突然椅子を蹴り倒してま
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