うとうとと意識が遠のきかけていた、その時だった。隣の席のガテン系作業員が、一言も発せずぐったりしている沙耶を心配して顔を覗き込んできた。「ねーちゃん、大丈夫だか?どっか気分でもわりぃのか?」ドギツイ訛りに加えて、喉の奥に古い痰が絡んだようなガラガラ声。ゴホン、と耳元で咳払いされた瞬間、息が詰まるほどの強烈な口臭がダイレクトに沙耶の顔を直撃した。「オェエエエッ!」限界まで耐えていた胃袋がついに悲鳴を上げ、沙耶は派手に嘔吐した。「うわっ!」「おいおい、なんだよ。どこぞの温室育ちのお嬢ちゃんか知らないけど、泥臭い仕事もできないなら無理して来るなよな」周囲の乗客たちは一斉に鼻をつまみ、露骨に顔をしかめた。だが、隣の作業員だけは嫌な顔一つせず、「ほれ、これで拭きな」と、自分の首に巻いていた汗と泥まみれのタオルを差し出してきた。誰がそんな小汚い布を使うもんですか……っ!沙耶は鼻で鼻鳴らすと、差し出されたタオルを無視して、ウン十万円は下らないハイブランドのジャケットを脱ぎ捨て、それで口元と周囲の汚れを乱暴に拭き取った。なんで私が、こんな底辺の人間たちと一緒に……!今すぐ引き返したい。激しい後悔が波のように押し寄せてくる。だが、目的地にさえ着けば、嘉乃のコネで来た自分は確実にVIP待遇を受けられるはずだ。そう自分に言い聞かせるしかなかった。それに、出発前にわざわざSNSを更新してしまった手前、今更逃げ帰るわけにはいかないのだ。【二週間ほど姿を消します。私がどこで何をしてるか、当ててみてね♡】ボカしを入れた「特別プロジェクト・スタッフパス」の画像と共に投稿した匂わせポストには、フォロワーからの称賛や羨望のコメントが殺到していた。ネット上で築き上げた完璧な天才お嬢様のイメージを守るためにも、絶対に途中で投げ出すわけにはいかない。沙耶の瞳に、ギラギラとした執念の光が宿った。翌日。最悪な道中を乗り越え、ようやく発掘現場に到着した沙耶があてがわれたのは、実習生用の宿舎だった。宿舎といっても名ばかりで、金属板で適当に組まれた仮設のプレハブ小屋に、安っぽい二段ベッドがいくつか並べられているだけの極限環境だ。同室になったのは、名門・海央大学から来ているという学生たちだった。「皆様、初めまして。黒田沙耶と申します。今
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