慎一は眉をきつく寄せた。 紗月の言葉は予想していた。それでも、いざ本人の口から告げられると、どうしても受け止めることができず、しばらく黙り込んだあと、ぎこちなく話題を逸らす。「……紗月。目が覚めたばかりだし、先生を呼んでくる」 そう言うと、慎一はふらりと身体を揺らしながら立ち上がり、おぼつかない足取りのまま病室を後にした。 その足取りはどこか逃げるように慌ただしく、まるでこの場所にいることに耐えられないかのようだった。 紗月は病室の扉が静かに閉まるのを見届ける。慎一がいなくなっただけで、もともと広かった個室はさらに広く感じられ、静けさだけが痛いほど胸に染みた。 やがて、その静寂に包まれているうちに耳の奥では耳鳴りのような音まで響き始め、紗月は深く息を吐いてそっと目を閉じ、そのまま顔を布団へ埋めた。 その夜、慎一は付き添おうとしていた。 だが、紗月のあからさまな拒絶が浮かぶ表情を目にすると、これ以上彼女の心を乱したくはないと思ったのか、一度言葉を飲み込み、しばらく俯いた末、ようやく静かに口を開いた。「……また明日、来る」「離婚の話じゃないなら、もう来ないで」 もっと残酷な言葉をぶつけようとも思った。 もっと冷たく突き放し、二度と立ち直れないほど傷つけてしまいたいとさえ思った。 けれど、紗月にはもうそんな力すら残っていなかった。 その疲れは、慎一と結婚した日から少しずつ胸の奥へ積み重なり、気づけば息をすることさえ苦しくなるほど、自分を蝕んでいた。 あの日から今日まで、心から安らげた瞬間など一度もない。 ……いや、もしかすると。 母に見捨てられた、あの日からずっと。 誰かの顔色を窺い、嫌われることを恐れ、捨てられないよう必死に息を潜めて生きることが当たり前になっていた。 その張り詰めた緊張さえ、自分では気づかないうちに人生の一部となり、肩の力を抜いて生きる方法すら忘れてしまっていたのかもしれない。 だから今は、ただ眠りたかった。 何もかも忘れて。 誰のことも思い出さずに。 そうでもしなければ、一秒一秒があまりにも苦しく、このままでは本当に壊れてしまいそうだった。「……」 慎一は最後まで「離婚」という言葉を口にしようとはしなかった。 目を閉じたまま、自分を見ようともしない紗月をしばらく見つめ続け、やがてどうしようもない
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