凛子の反応は、明らかにどこかおかしかった。 普段は何があっても動じない彼女が、こんなふうに取り乱した表情を見せることなど滅多にない。紗月は心配そうに眉を寄せ、そっと手を伸ばして凛子の手に触れた。 そのまま優しく包み込むように握り、小さく微笑む。「凛子。私たち、友達でしょう? 凛子が私を心配してくれるように、もし何かあったなら、私にもちゃんと話してほしい」 紗月が思いのほか真剣な表情をしていたからだろう。 凛子は一瞬、きょとんとしたように目を瞬かせた。 思いがけない言葉だったのだろう。 すぐに大げさなくらい明るい笑みを浮かべると、今度は自分から紗月の手を握り返した。 温かな掌が紗月の手を包み込み、ほんの一瞬だけ、ぎゅっと力がこもる。 その温もりはすぐに離れ、凛子は照れ隠しをするように笑った。「大丈夫。さっき父からメッセージが来ただけなの。だから、ちょっと驚いちゃって……ごめんね、心配させちゃった。知ってるでしょう? 私、お父さんとはちょっと複雑だから」 困ったように肩をすくめ、小さく息をつく。 凛子の父親は、数年前に会社を上場させた経営者だった。 上場を果たしてからというもの、会社を背負う責任や重圧が一気に増したせいなのか、以前よりも短気で独善的な性格になり、家族との関係も少しずつ変わってしまったらしい。 紗月もこれまで、凛子から家のことを少しずつ聞かされてきた。 母親もまた経営者で、幼い頃から夫婦そろって家を空ける日が多く、凛子は両親と一緒に過ごす時間がほとんどなかったという。 家族で食卓を囲むことも少なく、忙しい両親に代わって、幼い凛子の成長を一番近くで見守ってきたのは、いつも家の使用人たちだった。 そんな家庭で育ったからだろうか。 優介が自分に優しくしてくれる紗月へ、人一倍懐いている理由も、少しだけ分かる気がした。「何でもないならよかった……でも、さっきの凛子、本当にすごく怖い顔をしてたよ」 紗月がそう言うと、凛子は照れ隠しをするように肩をすくめ、小さく笑った。「ごめん、ごめん。さっちゃんも知ってるでしょう? お父さんから連絡が来る時って、大体ろくな話じゃないのよ。何年か前なんて、お見合いしろって言われたこともあったんだから。あの時はちょうど海外留学が決まって、そのまま逃げちゃったけど……まさか今さらまた――」「
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