بيت / ファンタジー / イルン幻想譚 / Chapter 11 -الفصل 20

جميع فصول : الفصل -الفصل 20

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5:アークの憂鬱【4】

 ドラゴンが島に巣食った直後は、湖はそれほど危険な場所では無かった。 しかし大きなガルドルは、それを持つ者が周辺への影響をコントロールせずにおくと、ガルドリングを起こす。 強大な存在であるドラゴンは当然のようにガルドルも大きいのだが、ファンタズマは敢えて周辺をガルドリングさせ、妖魔化した生き物を自身の傘下へと引き込む本能を持つ。 その結果、湖はモンスターの巣窟へと変貌した。 そんな場所にある麓の町がガルドリングされていないのは、町に降りた時に相談を持ちかけられたので、アークがガルドリングを防ぐ印を主要な場所に刻みつけたからだ。 それは町の人々を守ってやりたいと思ったからではなく、ただアークが人恋しい時に人の気配を感じるために、麓の町が無くなっては不便だと思ったからだった。 アークの実力を持ってすれば、ガルドリングを完全に防ぐ…どころか、指先一つでドラゴンを島に封じ込めることすら可能だったが、それはしなかった。 なぜ、あえて手間と面倒が掛かり、更に効能が頼りない方法を選んだのかと言うと、アークはドラゴンに対して、個人的に全くなんの関心も無かったのが大きな理由だった。 こちらから一方的に、ドラゴンに喧嘩を仕掛けるような〝面倒〟に巻き込まれることを避けた…と言ったほうがいいかもしれない。 更に、町のリオン達にアークの能力を推し量られたくなかった。 故に、わざと〝頼りない〟風を装って、町に居る人々がギリギリでガルドリングしない、必要最低限の防壁を作ってやった。 だが湖を渡るとなれば、ガルドリングを防ぐだけでは済まない。 ドラゴンの傘下となったモンスターが、行く手を阻んでくるからだ。 元々湖に生息していた魚類が妖魔化したモンスターは、水中行動が得意である。 ドラゴンが棲まう以前、島からの産出物を利便良く運ぶために、岸と島とを繋ぐ橋があったがモンスターの巣窟となった時にその橋は失われてしまった。 いくら街道を整備しようと、標高の高いこの町に軍艦を運び込むのは至難の業であり、モンスターの巣食う湖畔に造船所を作ることも出来ない。 湖を渡る術を持つのは、山の上の〝隠者のビショップ〟だけだ。 となれば、リオン達は必ずアークの助力を請うてくる。 そうして申し出て
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6:課せられた王命【1】

 翌日ファルサーが目覚めた時、テーブルの上には昨晩と同じパンとスープが用意されていたが、室内にアークの姿は無かった。  少なくともファルサーは、部屋に誰かが出入りをすれば、目が覚める程度に気配を察知できる自信があった。  不思議なほど気配のない人物だ。  とはいえ、用意された食事はアークの厚意だと思っていたから、ファルサーは礼を言ってから食事に手を付けた。  相変わらず石のように堅いパンと塩気の足りない味の薄いスープだったが、どちらも冷めていない。  まだ熱いと思えるスープを啜りながら、ファルサーは再び同じことを考える。  料理がこんなに温かいということは、これらはテーブルに運ばれまだ間もない証拠だろう。  アーク自身が運んだにしろ、それ以外の方法にしろ、ファルサーに配膳の気配を全く気付かせずに運んできた、それはアークの能力が非常に高い証明のひとつになる。  食事を済ませたファルサーは、昨日の作業の続きに取り掛かった。  できることならば、この家の主人を討伐に同行させたい。  だが昨夜の様子では、それはまったく無理な願いだ。  そしてアークが同行してくれなくとも、自分は湖の向こうに渡り、科せられた使命を果たさなければならない。  だとしたら、自分は昨日の約束を果たすことで、湖を渡してもらわねばならない。  昨日作業した様子から、アークの言う通り、この仕事はまだ数日掛かりそうだった。 日が暮れる頃に戻ると、テーブルの上には食事の用意があり、使えと言わんばかりに風呂への扉が開け放たれていた。  それらが全て、適宜なタイミングで用意されている様は、まるで奇術のようだ。  こうして食事と居場所を与えられているということは、どうやら追い返す気もないらしい。  ファルサーはそれらのものをありがたく使わせてもらった。  だが、三日経っても、四日経っても、アークは全く姿を現さない。  会う度に懇願されてはたまらないと思い、避けているのだとしたら、それも仕方がないと思う。  ただ、そうした〝接待〟をされているのに、誰の気配も感じないのが、一抹の寂しさを感じさせた。 ファルサーは自分にできること、つまり報酬として要求された労働作業を黙々と続けて、五日目にリストに書かれた全ての収集を達成した。「リストの項目は全て満たした。約束を果た
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6:課せられた王命【2】

「麓の町に来るまでに、僕の足で二週間掛かった。この辺りとは、統治者が違う国から来た。僕の父親は、その国の剣闘士だった」 「それはフェディンとどう違うのかね?」 「フェディンでもありますが、剣闘士は奴隷です。観客の前で闘いをショーとして見せ、王に命を買われている…」 「剣を持った奴隷とは、私の持つ〝奴隷〟の概念を覆すような話だ」 「王は民衆に娯楽を提供するコトで、人気を集めるんです。剣闘士は〝王のため、民衆のため、帝国のため、死を賭して闘う〟ことを旨として、獣やモンスター、時には同僚である剣闘士と戦うんです」 「疑問に思ったので聞きたいのだが、あの島のドラゴンは、ここしばらくは巣穴から出た記憶が無い。また、私が気付かぬ間にアレが出掛けたことがあったとして、国がドラゴンの脅威に晒されているのに、国民はそのような娯楽に興じていて、大丈夫なものなのかね?」 今までの冷淡な態度からは想像出来ない、むしろ嬉々としているように見えるアークの様子は、ある意味、幼子が新しい知識を前に次々に湧き出す疑問の答えを求める姿にも似ていた。「直接、ドラゴンの被害が出たコトはありません。それに現在の帝国は、近隣の小国を属国化して税収も多く、市民一人に奴隷が一人付いているのが普通だと聞いています」 「ますます理解に苦しむ話だな。君はドラゴンのような上級ファンタズマを、リオンが狩れると思っているのか?」 「王は僕に、何らかの策を講じなければ、ノーマルなんて傍にも寄れないと言いました」 「ふむ、その辺りは解っているのか…」 アークは頷き、話の先を促してくる。「奴隷である剣闘士の息子は、当然生まれながらの奴隷で剣闘士です。僕は歩く前から剣を持たされ、構え方から言動まで、いかに民衆を虜にできるかを徹底的に教育されました。おかげでデビュー戦からかなりの功績も上がったし、一躍人気の闘士になれた。…でもある日、後宮から呼び出されて、僕の人生が一変した」 「後宮とは?」 「王の正妻や愛人が住んでいる宮殿です。少し人気が出始めた頃は、王も僕の闘いぶりが気に入ったと言って、褒めてくれた。けれど、王のお気に入りの公妾に呼び出されて、褒美の酒と言
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7:湖の攻防【1】

「時間だ、起きたまえ!」 突然響いたアークの声に、床で寝ていたファルサーはビックリして飛び起きた。「え………ええっ?」「準備をしたまえ。食事はそこに用意してある。身支度が整ったら出発する」「あ、……はい!」 身支度だの出発だのと言っているが、アークの身なりも様子も昨晩と大差ない。 どういうつもりでそう言っているのかも分からないまま、ファルサーは用意されていた件のパンとスープを慌てて口に詰め込んだ。 もちろんアークは、特別何かを口にした様子もなく、ファルサーの身支度が整え終わるのを見届けもせずに、スタスタと扉の向こうに出て行ってしまう。「あの、戸締まりは?」「必要無い」「なぜ?」「君は本当に、質問の多い男だな。私が必要無いと言ったら、必要無い」「はあ…」 高圧的と言うか高飛車と言うか、とにかくアークの態度は一貫して権高く、取り付く島が無い。 岩肌が剥き出しの傾斜が厳しい山道を、アークはなんの苦もなくスタスタ歩いて下って行く。 剣闘士の質素な装備しか身に付けていないファルサーは、足元はサンダルを履いているが、悪路を上り下りするのに苦労している。 一方アークは、足全部を包むような黒い革製の靴を履いているようだが、それだとて特別登山に向いているとは言い難いだろう。 その様子から、アークの身体能力の優秀さを垣間見たような気がした。 麓の町には、まだ陽が昇り始める前の、薄っすらと朝もやの掛かった頃に到着した。 当然、町の者は皆まだ寝静まっていて、湖までの道のりで人に会うことも無い。 アークは黙々と町を突っ切り、湖畔の波打ち際まで真っ直ぐに突き進んだ。 そして波打ち際で立ち止まると、スッと屈んで水面の端に手を触れる。 パキパキと奇妙な音がすると思った時には、その音は大音響に変わっていて、湖面が見る間に銀盤へと変化した。「早くこちらに来たまえ」 驚いている暇もなく、ファルサーは慌ててアークの傍に駆け寄った。「これから、湖面を一気に駆け抜ける。君はせいぜい自分の命を守りたまえ」「どういう意味です?」「君は、此処にモンスターが棲んでいることを知らんのか?」「知りません。僕が湖を渡るために船を探していたら、町の人があなたの所に行くように教えてくれただけなので」「湖には、下等なモンスターが大
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7:湖の攻防【2】

 モンスターの間を縫い進むソリの動きは複雑だったが、進行方向を変える直前にアークが微かに身体を傾けていることに気付いたことも、理由の一つだった。 それが合図なのかクセなのかは判らなかったが、それに合わせて自分も重心を傾けることで、足場がかなり安定した。 右側から飛び出してきた大物を叩き損ね、右腕に装備している籠手で一撃をいなしてから、相手のさらけ出された胴体へとグラディウスを突き込みとどめを刺す。 一瞬、息をついた時に、背後でモンスターの悲鳴が上がった。 驚いて振り返ると、顔面に大きな傷を負って体液を溢れさせたモンスターが、それでもなおファルサーに襲いかかろうとして、ソリの縁にへばりついている。 ファルサーは剣の柄でモンスターの顔面を殴りつけ、相手を叩き落とした。 殴りつける直前に間近で見た、モンスターの顔面の切り傷。 薄く、鋭利で、しかし深く切り裂かれたその傷は、ファルサーではつけることが出来ない、明らかにガルズによる攻撃の痕だった。 だとすれば、この解りやすいほど必ず示されている、アークの背中の合図も…。「身を守るのも、走行中に振り落とされないように気を配るのも、全て自己責任だと言いませんでしたっ?!」「よく聞こえない! 緊急でないなら、あとにしろ!」 振り返りもせず、返事もまたひどく突き放したような口調だった。 しかしファルサーだけではどうしても手が回り切らない複数からの襲撃、一瞬の隙を突いてくる襲撃を、アークがガルズでカバーしてくれている。 アークのソリが湖面を渡り切るのに掛かった時間は、ファルサーが考えていたよりも遥かに短かかった。 岸に上がると、アークは砂地の上を大きくスピンさせてソリを止め、あとを追って岸に上がってきたモンスターに向かって、なにがしかのを放って蹴散らした。「走れ!」 モンスター達が怯んだ隙にソリを捨て、アークの指示に従ってファルサーは一目散に駆け出す。 浜から陸地の奥に向かって走ると、モンスター達は諦めたらしく湖に引いて行った。 ファルサーは立ち止まり、完全に凍りついている湖面を見渡して、溜息のような深呼吸をした。「どうした、疲れたのか?」「いえ、ただもう、本物ってものを初めて見たから、驚いているだけです」「セイドラーのを見たことが無いのかね?」「いいえ、ありますよ。で
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8:好奇心【1】

 浜から少し歩いたところに、廃墟があった。 ただ打ち捨てられたような感じは無く、明らかにドラゴンとの攻防が見て取れる、家屋や機材を打ち壊された跡が残っている。 だが、ファルサーはそれらを見ても怖じけること無く、どんどんと森へ向かう。 廃墟から森に続く道は、元は採掘坑から鉱石を運び出す時に使われていたものらしく、整地された形跡があった。 長年使われずに放置された道は、重い荷馬車に踏み固められた轍の跡を除けば殆どが雑草によって埋もれている。 更に進んで森に入ると、道はますます見分けが難しくなった。 そして湖と同様に、妖魔化した森の生き物にも警戒しなければならず、なかなか前には進めなかった。「暗いな…」 グラディウスで突き出ている枝を叩き折ったところで、ファルサーは独り言のように呟いた。「森に来たことは無いのかね?」「僕は、闘技場の外に出たコトが殆ど無いので、こういう場所は不慣れなんです」「君の言う闘技場という場所は、野外劇場のような物を想像していたんだが。そこに寝泊まりまでするのかね?」「ええっと…、すみません。僕は学が無くて…。ヤガイゲキジョウってなんですか?」「うむ。私も書籍に掲載されていた挿絵程度の知識しかないが、アリーナと呼ばれる平地を中心に、周囲を階段状の、集まった者が観覧しやすい構造にした、巨大な建物だそうだ。ルナテミスのある山の頂上付近に、似た形の遺跡があるが、そこは中央に非常に大きな平たい巨石を据えてあるので、違うかもしれない」「闘技場の試合を披露する場所は、そんな形ですね。ただ、近隣の宿舎や訓練場なども含めて、闘技場って呼んでいるんです」「なるほど、宿舎を置いて剣闘士の管理もしているのだね」「宿舎とは名ばかりの、監視の緩い獄舎のようなものですけどね。一部の者を除いて、ほとんどがそこで家族ともども暮らしてますよ」「その、除かれた一部の者とは?」「反抗的で逃亡の可能性がある者は、本当の獄舎に閉じ込められています。逆に功績を認められて准市民になったり、出資者が付いて私物の剣闘士になった者なんかは、宿舎を出て市内で部屋を与えられたり、出資者の屋敷で暮らしたりしてますね。僕はまだ駆け出しだから、そこそ
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8:好奇心【2】

「僕は駆け出しですけど、剣闘士に向いているんだと思います。デビュー戦から連戦連勝して、最近では僕が試合に出るコトで客を集められる程度に人気も上がり、"左利きの闘士〟なんて二つ名まで付けられてましたから。それで良くも悪くも人目を引き、剣闘士の試合なんかにさほどの興味を持っていないような後宮の愛妾まで、僕の顔と名前を知るようになったんです。でも逆に、そんな愛妾が僕に褒美をくれたことは、ゴシップとして民衆に知れ渡ってもいたので、王は自分の嫉妬心から僕を殺すワケにはいかなかったんです」「そうだな。そんなことをしたら、人気取りのための企画で人気が下がってしまうな。しかしだからといって、全く勝機の無いドラゴン討伐などに行かせたら、大差ないと思うが?」「そこは王も、ぬかりがありませんよ。僕は名誉を得るために、自主的に名乗りをあげたコトになっているんです」「そういうことを言い出すのが、普通なのかね?」「多くは無いけど、無いワケでもない。英雄行為で准市民に成り上がった剣闘士は、過去にちゃんと存在します。討伐を口実に、逃亡を画策する者もいたりしますけどね」「君は家族を質に取られているから、逃亡は出来ないと言っていたな」「母のコトもありますが…。逃亡すれば、必ず追手が掛かります」「手配書でも回るのかね?」 ファルサーは振り返ると、左肩の肩当てを持ち上げてみせた。 そこには肩から背中にかけて、焼きごてで付けられたらしき大きな焼き印がある。「帝国の所持品だと、一目瞭然でしょう? 通行手形に行くべき場所や、通るべきルートが記載されているので、そこから少しでも外れた場所に居たら、逃亡奴隷とみなされます。逃亡奴隷を訴えでれば、微々たるものですが報奨金も出ますし、著名な学者や、敵対している国で支持されている政治家などなら、亡命を手助けしてくれる支援者がいますが、奴隷の逃亡を手伝うバカはいません。あなたは麓の町は中立だと言ってましたが、協定があるならそこには逃亡奴隷や犯罪者の引き渡しなどの項目があるはずです。コレが付いている限り、結局どこに行っても奴隷扱いされます。逃げたところで、状況は変わらないどころか、むしろ悪くなる可能性のほうが大きい」「酷いことをするものだな」「これが僕の〝常識〟です」
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9:パンとワイン【1】

 ファルサーが見せた〝頼りにならない地図〟で見当をつけ、ドラゴンの棲む場所に繋がる廃坑の入り口を目指して二人は進んだ。 しかしアテにならない地図は、その名の通り不備が多く、廃坑の入り口らしき場所に行っても完全に潰れて入れなかったり、廃坑とは無関係な獣の住処であったりと、無駄足に終わることが度々続いた。 前を行くファルサーの背中を眺めながら、アークはぼんやりと、先ほど見せられた肩の焼き印のことを考えていた。 彼に同行して来たのは、良い選択だったとは思えない。 彼にすぐにも訪れるであろう死を、なんとかして退けようとしているが、それが正しい選択なのかどうかすら、迷っている。 この危機を脱することが出来れば。 運の悪さで招いてしまった彼のこの窮状に、少し手を貸してやれば。 そうすれば彼にも、平穏が戻るのではないかと思った。 だが此処に至るまでに聞いたファルサーの話から、それは到底不可能だと解った。 生きて戻ったところで、王は彼に次の試練を課すだけだろう。 詩人の歌う神の試練を受ける英雄譚よりも、酷い重荷を背負わせられている。 しかも彼の場合、神の寵愛を受けておらず、ただ運が悪いだけだ。「ファルサー」 少し開けた窪地に抜けた所で、アークは前に進もうとする背中に声を掛けた。「なんですか?」「もう、日が沈む。今日はこの辺りで夜を明かしたまえ」 アークの発言に、ファルサーは改めて辺りを見回し、息を一つ吐いてから頷いた。「そうですね」 ファルサーが休む気になったのを見てから、アークは窪地の真ん中に立って身を屈める。 薪を集めた訳でも無いのに、そこに赤々と炎が燃え始めた。 それからアークは窪地の中をグルリと見回してから、おもむろに右手を掲げた。 アークのから小さな灯りが、ふわふわと飛び立っていき、窪地の四方に散っていく。「それは、なんですか?」「昆虫だ」「虫…? なんのために?」「昆虫は、連れ歩くのに便利な生き物だ。ちょっと手を加えたり、交配を重ねるだけで、こちらの都合に適った変異をするのも面白い」「面白い…ですか? どうだろう? 僕は虫についてそこまで考えたコトはありません」「そうか、残念だな。昆虫の交配や草木の配合を試行錯誤して、期待以上の結果が出た時は爽快だ。つまりあれが、達成感というものだろう」「それなら、僕
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9:パンとワイン【2】

「うむ。結界はフォニルガルズなので、知識が無いのでは、更に解らんかもしれんな。簡単に言うなら、目に見えない壁を作るだ」「壁? じゃあ、ココから出入りが出来ないんですか?」「土壁のような物理的な制限ではなく、魔術的な方法なので、任意で出入りができる物を選り分ける。今は、身の安全を図れる場を維持するように指示を出した」「安全…なんですか?」「うむ。この窪地は昆虫達によって守られているのだよ」「虫が…ですか?」「うむ。あの昆虫達は未だ研究の途中なのだが、分泌物や羽音によって、モンスターや獣が嫌うニオイや音を出す。安心して休みたまえ」「どうしてそんなに僕に気を遣ってくれるんですか」「興味が湧いたからだ」 アークは窪地の中を見回し、炎が燃えている場所から適当な距離の場所に立ち、炎を作った時と同じように身を屈ませた。 植物もまた妖魔化されて禍々しく変質しており、微量だが毒性を持った雑草となって蔓延っている。 しかし、アークが身を屈ませて地に指先を触れさせた瞬間、柔らかな緑色のオーラが窪地の中に満ち溢れ、瑞々しいクローバーが生い茂る草地へと一変した。 倒木の中に隠れていた虫達は、まるで息が苦しくなったように窪地から逃げ出し、見ると湿っていた倒木が調子のいい背もたれに変貌している。 自身の身を置く場所を整えたアークは、当然といった様子でそこに腰を降ろし、目線だけでファルサーにも座るように促してきた。 なんとなく示されたアークの隣に、ファルサーも腰を降ろす。 そうしてファルサーが落ち着いたところを見計らって、アークが何かを寄越してきた。 何を渡されたのかと見ると、ここ数日食事として提供されていた、あの何とも言いかねるような硬くて味のないパンだった。「あなたは?」「必要無い」「僕のためにわざわざ持ってきてくれたんですか?」「君が食料を持っているようには見えなかったからだ」「いただきます」 パンの端を毟って、口に運ぶ。 今まではこのパンの他に、塩味がほとんど無いスープが添えられていた。 口にしていた時にはお湯なのかスープなのか分からないなどと思っていたが、パンだけが提供されて初めて、それでもあっただけマシだったのだと思った。「ファルサー」「
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10:森の黄昏【1】

 日暮れが夜に変わるのは、まさに釣瓶落としだった。 樹木に覆われた場所にいるからだろうと頭では解っていても、慣れない場所でこれからドラゴンに立ち向かうことを思うと、気が落ち着かない。「国が恋しいかね?」「どうでしょう…」「母親を質に取られているのだから、帰りたいだろうと思ったが?」「一人で国の外に出て、僕は今まで知らなかった世界を見聞しました。行く先々で虐げられもしましたけど、でも他人に指図をされない自由も知ってしまった。自分がどれほど狭い視野の、狭い世界に生きてきたのかも思い知った気分です」「うむ。その気持ちは、私にも理解できる。…君ほど、自由を制限されていたことは無いがな」 アークの答えに、ファルサーはちょっと意外な顔をした。 現状のアークしか知らないファルサーからしたら、一人で自由気ままに生きているような印象しかなかったからだ。「母のコトは、取り戻せれば…と思っています。王は僕に、生きて戻ったら准市民の資格を与えると言いましたが、全く信じられません。奇跡的にそれが叶ったとしても、僕は剣闘士以外の何にもなれはしませんし、旅の間のようになんでも自分で決められるような自由は与えられないでしょう。正直、あそこに帰りたいかと問われて、即座に〝はい〟と答えるコトは出来ませんね」「しかし、此処に討伐にやってきた者達は皆、最後は故郷に帰りたいと言っていた」「僕にとってあそこは、故郷じゃないんでしょう」「故郷とは、生まれ育った場所なのではないのかね?」「少なくとも、僕の還りたい場所じゃありません」「還りたい場所…か。そんな場所は、私にも無いな」「それは違うでしょう?」「どういう意味かね?」「あなたは、自分自身で己のいる場合を作ってあるじゃないですか。故郷では無いかもしれませんが、あなたの還る場所はルナテミスだと思います」「そんなことは、考えたことも無かったな」 指摘されたことをしみじみと感慨深げに思案するアークは、珍しく口元に微笑みを浮かべているように見えた。「あの…、とても不躾なコトを訊ねても良いですか?」「随分と謙虚じゃないか。最初は何の前触れもなく、私を質問攻めにしていたのに」「あなたが怒ったから、いきなり質問をぶつけられるのが、あなたには不愉快だと学んだだけです」「質問は構わな
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