بيت / ファンタジー / イルン幻想譚 / Chapter 21 -الفصل 30

جميع فصول : الفصل -الفصل 30

41 فصول

10:森の黄昏【2】

「ヴァリアントは、種族の名称では無いよ」 感心したようなファルサーに、アークは簡素な訂正をする。「そうなんですか?」「ヴァリアントとは、リオンより優れた〝なにか〟の能力を持っている者を総じて呼ぶ、呼称なのだそうだ」「それじゃあまるで、リオン以外のリオンみたいな者が、たくさんいるみたいに聞こえます」「そう、言ったよ」「そうなんですか?!」 ファルサーの反応を予想していたらしいアークは、その驚きをさほど気にも止めずに話を続ける。「リオンの〝常識〟では、リオンこそが生物のヒエラルキーの頂点に立つ存在とされている。そこに君の身の上を加えると、国の王とは生き物の王を統べる王、即ち神の如き存在…になるんだろう」「でも、あなたのような存在を知ってしまうと、リオンが生き物の王とは、とても思えません」「うむ。そもそも、先程言った通り、世界にヒトガタをしている種族は、多様に存在しているのだよ。だが、そのことを知らないリオンは、それらの種族をまとめてヴァリアントと称しているのだ」「リオン以外のヒトガタをした種族…なんて、信じがたいなぁ…。あなたの存在を知ったあとでも、やっぱりなんだか…夢みたいです」「私もセリアンスロウの旅芸人に出会わなければ、知ることは無かったから、君がそう感じるのは当然だと思うよ」「僕からすると、あなたの存在は〝神にも等しい〟って思えますけど」「…だとしたら、神とは無力な存在だな…」 アークの表情にはほとんど変化が無く、ファルサーにはその言葉の真意は解らなかった。「なぜ、傍に誰も置かないんですか? あんな場所に独りでいたら、僕なら寂しいと感じます」「考え方の相違だろう。傍に誰かを置いて、常にその誰かを見送ってばかりいるほうが、私は気分が滅入る」 返された答えの意味を理解するまでに、数秒掛かった。 だが〝見送る〟と言う言葉が、相手との死別であることに気付いた瞬間、ファルサーは想像を絶する恐怖を感じた。 同時に、先程の言葉の意味や、無表情に見えるアークの顔は、複雑な感情が入り混じった憂いの現れなのだろうか? と思う。「申し訳ない質問をしてしまいました」「君の常識が、全ての常識では無いと言っただろう」 相変わらずアークは仏頂面で、声音もまたぶっきらぼうだった。 しかしその時、不意にファルサーは気付いてしま
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10:森の黄昏【3】

 奇妙な頭痛や動悸は、自分の本能が本当の名は口に出すべきでは無いと、教えていたような気がする。 しかしそんな本能の警告は、ファルサーの顔を見た瞬間にどうでもいいと思ってしまった。「ディザート」「可愛い名前だ」 穏やかに微笑み掛けられて、ひどくこそばゆくなり、アークは目線を逸らす。「先程、君が言ったことに賛同する」「なんのコトでしょう?」「君の見識が無いと言う発言だ」「褒めたのに」「残念だが、それを褒め言葉と受け取るのは不可能だ」 ファルサーとの会話で感じている奇妙な居心地の悪さと、固い樹木に寄りかかっている座り心地の悪さが相まって、アークは幾度か身体を動かした。「寒いんですか?」「いや、別に…」 ファルサーは自分の荷物の中から、質素だが柔らかな毛布を取り出した。「これを」 広げて肩に掛けると、アークは黙って毛布に包まれた。 つと顔を上げると、間近にアークの顔がある。 アークの姿は、色素の薄さやその佇まいの美しさを除けば、自分となんら変わりのないものに見える。 だが例えば、この窪地での野営のための準備の手際や、決して狭いとは言えぬ湖面を瞬時に凍りつかせたガルドルなど、折々にアークが見せる特出した能力は、アークが言葉通りの存在であることがあきらかだ。 リオンから見たら、永遠とも不滅とも思えるような時間を生きている。 百年生きることすら難しいリオンからすれば、それは羨ましいと思えるような能力だろう。 しかしその永遠にも等しい時間を〝独りで〟生きているとなれば、話は全く違う。 もっと無機質で感情の無い存在ならば、ただ意のままに生きていればそれでいいだろう。 はっきりと感情を持ち孤独を感じる生き物が、必ず独りで取り残されることばかりを繰り返して生きていくなんて、恐怖と思わずにいられない。 色の薄い瞳は視線が合っても逸れることなく、静かにファルサーを見ている。 まるで一種の催眠術のように、緩慢に瞬きを繰り返すアークの瞳から、ファルサーも視線を外せなくなっていた。 白く美しい端正な顔からは、年齢を推し量ることが出来ない。 命令口調で指示を出す時は、経験と歳を経た自信に裏付けされた、まるで軍の司令官のような顔になる。 でもこんな無防備なまま見つめ合ってしまうと、むしろその性別が判らない童顔故に、少女のような儚さしか感じなくな
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10:森の黄昏【4】

「今…のは…?」 ハッと我に返ると、自分は変わらず窪地の焚き火の前に居て、そしてアークはなぜか疲労困憊したような様子でくったりとファルサーに寄り添っていた。「だ…大丈夫ですかっ?」「……ああ、大丈夫だ……」 戸惑った様子のファルサーに顔を覗き込まれて、アークは微かに頭を振った。 ファルサーにキスをされた時、それまで感じていた微妙な不快感が消えた。 唇にキスをされたのは、記憶にある自身の生の中で、初めてのような気がする。 まだ幼い頃、眠る前に養母が額にしてくれた以外に、他人の唇に触れられたことは無いように思うが、幼少期の記憶はあまりに遠くよく覚えていない。 キスされたかったのかと問われれば、たぶん否と答えるだろう。 だがあくまでもそれは〝たぶん〟であって、確信を持ってハッキリと拒絶したかったのかどうか、アーク本人にも判らなかった。 ただ、ファルサーの顔が迫ってきた時、先程感じた頭痛と動悸も感じたような気がした。 それを、本能が発する警告だとするなら、ファルサーの好意を拒絶するべきだったのだろう。 しかし…。 ファルサーの境遇に同情するのも、旅に同行するのも、本当の名を教えるのも、理性では間違った選択だと思っている。 間違っていると解っていても、自分はその選択を捨てることが出来なかった。 今も、なぜかファルサーを拒絶する気にはなれないまま、その行為を受け入れてしまった。 様々な才に恵まれながら、運には見放されているファルサー。 孤立してしまった彼の立場、追いやられるようにしてアークの住まいを訪れた経緯。 どんなに間違っていても、手を差し伸べずにいられなかった。 尊大な態度や突き放すような物言いで隠せたはずの小さな心遣いを、ファルサーには見透かされてしまった。 そして、ファルサーから返される好意が心地良かった。 どんなに本能と相反していたとしても、アーク自身にも止めようが無く、ここに至るまでファルサーと共にした道のりは、アークの想像を遥かに越えて充実していた。 この先の未来に訪れる後悔がどれほどのものか解っていても、他の選択肢を選ぶことなど出来なかった。 そうして、ファルサーの気持ちを受け入れると心に決めた瞬間に、本能からの警告のような頭痛と動悸が、綺麗さっぱり消え去ったのだ。 人を遠ざけるために、ア
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10:森の黄昏【5】

 心配げに覗き込むファルサーに、アークは何事もなかったような顔を向ける。「君こそ、大丈夫かね?」「え……、あ、はい、なんでもありません」 改めて問われて、ファルサーは首を振った。 たぶん、気の迷いのようなものだったのだろう。 虐げられるばかりだった自分が、なにもかもを肯定してくれるアークと過ごす時間の中で、そんな奇妙な幻覚を見てしまったのだ。「ねえ、ディザート。どうやったら僕の気持ちを、正確にあなたに伝えることができるんでしょう?」 アークを想う気持ちは、ファルサー自身でさえ極端に相反していると思ったし、それを言葉にして伝えることなど、到底不可能だ。 自分がどんなにアークを傷付けたくないと思っていても、必ず最後は裏切ることになる。 けれどこの止めようもない感情の迸りや、結果必ずアークの期待には応えられずに傷付けることになろうとも、自分の気持ちは変えられないことを、どうしても伝えたかった。 そんなファルサーの苦悩に、アークは簡潔な返事をした。「君の考えていることなんて、口に出さなくても私は知ってるよ」「本当に…?」「ああ、解ってる。君が私をどれほど大事に想ってくれているか、君を失ったあとの私の心情を慮って、どれほど苦悩しているかも」 やや酷薄にも思えるあの鋭い視線で、アークはファルサーの顔を見る。「ディザート……」「そんな顔をするな。これは私が自分で選択した結果でしかない。君が後ろめたさを感じる必要など無い」 アークの両手がファルサーの頬を包み、薄く柔らかい唇が、しっとりと触れてくる。 本当に全ての気持ちを読み取られていると、ファルサーは思った。 アークからキスをして欲しいと、思っていたからだ。 ファルサーがアークにキスを返すと、アークが言った。「そんなことをしたら、君は一生後悔するだけだ」「え…」 ファルサーの心を過ぎった気の迷いまでも、アークは見透かしていた。「君は今、君に与えられた使命を放棄してしまいたいと考えた。だが、それをしたら、君は必ず後悔を覚える」「しかし、明日の危険は回避出来ます」「それでどうするのかね? 時が経てば故郷に残してきた母親のことも気掛かりになるだろう。君の矜持も傷付くだろう。死が訪れた時に、君の手に残るのは後悔だけになる。私に、そんな姿を見届けろと、君は言うのか?」 アークの言葉の、
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11:ドラゴン【1】

 頼りにならない地図を頼りに、二人はようやくドラゴンの棲み家に繋がると思われる坑道の入り口を見つけた。 ファルサーは用意していた松明を灯し、坑道内に踏み込んだ。「わっ!」 だが、さほども進まない所で、足を滑らせる。 取り落とした松明は、少し先まで転がっていき、か細い煙を上げて消えた。「ひどく滑るな」 そう言いながら後ろから着いてきたアークが、ファルサーに手を差し出してくれている。「これは参ったな…」 片手を岩に付いて歩けば、それなりに安定もするが、もう片方の手には松明を持たねばならない。 つまり咄嗟の時にも、即座に剣が抜けなくなるということだ。 どうしたものかと思案するファルサーの目の前に、小さな灯りがフワフワと過ぎっていった。「これは…昨日の虫ですか?」「そうだ。松明ほど明るくは無いが、全部を放てば相手の顔ぐらいは見えるだろう」「ありがとうございます」 アークは〝相手の顔ぐらい〟と言ったが、虫達が先まで飛んでいるためか、数メートル先まで様子が判る。 松明のほうが明るいが、見通せる距離や手に持たずに済むことを考えると、こちらのほうが都合が良いぐらいだ。 更に虫達は、道が分かれるところでも、なぜか迷いなく進んでゆく。 足を止めて、頼りない地図を見るとさほど間違ってもいない。 それはまるで、ファルサーの道案内をしているかのようだった。「この虫は、なぜ行き先が判るんでしょう?」「ドラゴンのガルドレートを察して、誘われているのだろう。…たぶんだがな」「たぶんなんですか?」「研究というものは、望む結果と、望まざる結果と、予想外の結果が得られるものだ」 しばらく進んだところで、アークはファルサーの肩に手を掛けてきた。「なんですか?」「この先に、大きな気配がある」「ドラゴン…ですか?」「ああ。君に戦略はあるのかね?」「そうですね。ほとんど無いに等しいでしょう。どう仕掛けたところで、向こうのほうが圧倒的なチカラを持ってますから」 そう答えたあと、ファルサーはおもむろに深呼吸をしてから、目を閉じて口の中でぼそぼそと何か祈りのような言葉を呟いている。「それは、どういった儀式なのだろうか?」「儀式…と言うほどのものじゃありません。ジンクスですね」「なにに対する呪縛なのかね?」「試合をする前に、軍
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11:ドラゴン【2】

 黙れと言われていたので、ファルサーはアークが作業を終えるまで黙っていた。「なんだろう? 涼しくなった気がします」「君の額に、印を刻んだ」「刻んだ? 書いたんじゃないんですか?」「呪文は、音…つまり声で詠唱するか、空中にガルドルを込めた指先で陣を描くことによって、を顕現させるものだ。だが時間差を付けた発動や、しばらく維持したい場合など、物理的に描いたほうが都合が良い時には、特殊な道具を使って陣を描く。その特殊なペンで描かれた陣を印と呼び、本来は形の残らない状態で使われるものを敢えて形に残すので〝刻む〟と表現するのだ」「それって、ホントは書いてるだけのコトを、刻むと表現してるってコトですか?」「まぁ、そうだ」「僕はそもそも学が無い所為もあるんでしょうけど、ガルズって面倒くさいものですね」 ファルサーの答えに、アークは微妙な表情をしたが、今は〝それどころではない〟と判断して、気になったことを敢えて無視した。「神への祈りを聞き届け、君にドラゴンと対峙できるだけの奇跡を与えたと言ったほうが、君には理解がしやすいか?」「なるほど。本来なら、ドラゴンとは存在するだけで、リオンを殺すと言いますもんね」「剣を、こちらへ」 ファルサーがグラディウスを差し出すと、アークはそれにも手に持っている物で何かを描き付けている。「竜殺しの剣になりますか?」「それは、君次第だな」 一渡りの術式の記述が終わったところで、アークは改めた様子で顔を上げた。「さて。あのドラゴンは、言語は解さないが知能は非常に高い。見た目は少々厳つく巨大なトカゲのようだが、その姿に騙されるな。それと私は、趣味で術式の研究をしているが、実戦で使ったことは無い。一応、攻撃や防御をいくらか想定して術式を組んでいるが、君の戦いに適ったアシストは期待しないほうが良いと思う」「僕としては、ここまで着いて来てもらえただけで感謝のしようもありません」 ファルサーは、手を伸ばしてアークを抱き寄せようとした。 するとアークはファルサーの頬に手を当てて、そのまま互いに引き寄せ合うような形で、唇を重ね合わせる。「僕の気持ちを読み取って、僕に合わせてくれているだけ
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11:ドラゴン【3】

 四足で、ワニより胴回りが大きく、前脚の付け根にコウモリに似た大きな翼を持っている。 ファルサーの足音に目を開き、起き上がったドラゴンは、ファルサーに向かってブレスを吐いた。 少し温度の高い滝を浴びているような、強風の中に立たされているような、奇妙な感覚に全身が覆われる。 アークにを掛けてもらっていなければ、この一瞬で消し炭になったのかもしれない。 ブレスを吹きつけられると、押し戻されるような圧迫感があるが、それでもしっかり足を踏みしめると、前に進むことができる。 敵が息継ぎをしたところでファルサーは構えていたグラディウスを逆手に持ち替えて、振り上げた刃で一気にドラゴンの片目に剣を突き立てた。 ドラゴンのウロコは、物理攻撃はもちろんガルズも通さないと言われていて、王の鎧に使われていると聞いたことがある。 そんな物に全身を覆われていては、魔剣と呼ばれるような高名な魔道具でなければ、ダメージを与えられるものでは無い。 更に、もしそういった武器を持っていたとしても、こんな高ランクな生き物は、その生態によほど精通していなければ、急所を突くのは難しい。 だがどんな生き物でも大概は顔面、特に眼や耳といった場所はガードが緩くなる。 ファルサーは最初から、もしドラゴンに近付けるチャンスがあったならば、とにかく目玉を狙おうと決めていた。 会心の一撃にドラゴンが悲鳴を上げる前に、ファルサーは敵の顔に乱暴に足を掛けて、突き立てたグラディウスを引き抜いた。 暴れだし、尖った牙の生えた大きな口で噛みつかれる前に、俊敏な動きで相手から離れる。 最高に調子がノッていた試合の時よりも、身体が軽快に動く気がする。 これもアークの施してくれたのおかげだろうか? 片目を失ったドラゴンが怒り狂ってファルサーに突進してきた。 それこそ正に、思う壺だとファルサーは思った。 感情が高ぶって凶暴化すると、攻撃力は増すが、同時に隙も出来やすい。 アークのでほとんどブレスが効かないことが、ファルサーの有利に働いている。 四足動物としては考えられない速さで迫ってきたドラゴンを、頭でイメージした通りの動きで身軽に躱し、ファルサーはグラディウスの柄で、敵の頭部にかなり強烈な一撃を当てた。 出来ればもう片方の目も潰していきたいところだが、流石にそこまでの隙は見
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11:ドラゴン【4】

「ファルサー!」 アークの声に、ハッとなる。 奇妙な現象に気を取られて、ドラゴンを不用意に近付けてしまった。 左右のどちらに避けることも出来ずに後退り、岩壁が背に当たる。 迫るドラゴンは、怒りの隻眼でファルサーを睨みつけてくる。 大きく開いたドラゴンの口を、咄嗟に両手で押さえ、取り落としたグラディウスが地面に当たる硬い音が響く。 後ろの壁で左足をしっかりと踏ん張り、両手に渾身の力を込めて右足を踏み出した。 ドラゴンがファルサーの力に押し負けて、ズルズルと後ろに下がっていく。 それもまた、あり得ないことだった。 自分の身になにが起きているのか、全く解らない。 身体を捻って、四足動物を転ばせる。 追い込まれた壁際から、走り出る。 慌てて走り出てしまって、グラディウスを拾い損ねたのが手痛い。 ドラゴンは予想よりも早く身を起こし、構えて口を開くと、ブレスを吐き付けてくる。 それを何度か躱し、ファルサーはなんとか回りこんで、グラディウスを取り戻そうと考えた。 攻撃的に前に出てくるかと思えば、何かを恐れているのか、後ろに下がる。 ドラゴンの行動は、最初に怒りで襲いかかってきたものとは、少し違っていた。 ようやくグラディウスを掴んだ時、ファルサーはドラゴンが恐れて下がったのでは無いことに気付く。 ブレスによって熔解した岩が、言葉通り溶岩の川を形成していた。 アークが言っていた「言語は解さないが、知能は高い」という言葉が、脳裏を過る。 尾っぽを地面に叩きつけ、勢いを付けてドラゴンは前脚を跳ね上げた。 その二足で立ち上がったような格好から、一気に身体を打ち下ろす。 おおぶりな攻撃なので命中率は低いが、破壊力は想像を絶する。 打ち下ろされた瞬間の衝撃は、咄嗟に動くこともままならぬ程に地面が振動する。 その一瞬の隙に、ドラゴンは素早く身を翻し、振り回した尾でファルサーの横っ腹を打った。 息も出来ない程の衝撃のあとに、身体が空に飛ばされる浮遊感。 肩から地面に落ちたが、落とされた先は溶岩の川だった。 落ちる直前、さすがにこれで一巻の終わりかと思ったが、想像と違って熱した泥に突き落とされたような、少しの息苦しさを感じただけだった。 どうやらアークのが、またしても身を守ってくれたらしい。 むしろ、硬い地面に叩きつけ
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12:残された者

 遠くで、誰かが叫んでいるのが聞こえる。 瞼が酷く重くて、なかなか目を開くことが出来なかった。 そんなことは今まで体験したことが無い。 アークは聞こえている音のほうに、ようやくの思いで顔を向けた。 叫んでいるのは、ファルサーだった。 彼は、ドラゴンの上顎を両手で掴み、下顎に右足を掛けている。 そのまま、少年が小動物を興味本位で引き裂くように、ファルサーはドラゴンの身体を引き裂いた。「君は、本当に神話の英雄のようだ」 自分に駆け寄ってくるファルサーに、アークはそう言葉を掛けた。 けれどその言葉は頭の中に響いただけで、声にはならなかった。 身体にほとんど感覚が無い。 駆け寄ってきたファルサーに抱き起こされた時、もしかしたら自分は下肢を欠損したのかもしれないと、ぼんやりと、しかし酷く冷静に考えていた。「ああ、君は酷い姿をしているな、全身がドラゴンの血まみれだ。早く此処を出て、身体を清めたまえ。嘆く必要は無い。君は凱旋し、再びルナテミスを訪れてくれるのだろう?」 手を伸ばしてファルサーの頬に触れながら、そう言った。 つもりだった。 だが、それを言葉に出来たのかどうか解らない。 スウッと意識が、遠のいていく。 それもやはり、今まで体験したことの無い感覚だった。 自分の体が、大きく開いた深淵の穴に落ちていくような気がした。     § 突然、アークは意識を取り戻した。 見慣れた床と、見慣れた家具、見慣れた部屋。 此処は長年自分が暮らしてきた、ルナテミスの中央にある〝中央居室〟の中だ。 身体を起こして辺りを見回す。 なぜか自分は素裸だった。 何の物音もしない。 アークは立ち上がると、奥の部屋へ行き、キャビネットを開いて、とりあえず着衣を整えた。 そしてもう一度キャビネットの中身を確かめて、ファルサーと共に出掛けた折に身につけた服が無いことを確認した。 ルナテミスの外に出る。 麓の町から湖とその中央にある島、更にその向こうに広がる山並みなどを一望して、アークは確信した。 今までの総てが、現実だったことを。 自分の身に何が起きたのか解らない。 だがファルサーがルナテミスを訪れてから、自分がドラゴンの一撃を受け止めて死に至るまでの事柄は、間違いなく現実に起こったことだ。 湖の島からは、ドラゴンの気配
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Episode 2:追われる少年・1:失業した男【1】

「クロスく〜ん。大人なんだからさぁ、わかるでしょ? キミだけ、なんだよねぇ〜。商隊と護衛隊、両方からクレームきてるヒトはさぁ……」 商隊のリーダーを務めている小太りの男は、じろりと視線をクロスに向け、これみよがしのため息をつき、実に面倒くさそうな顔をした。 これは要するに、解雇通知だ。 そしてクロスは、数日前にようやくの思いでありついた護衛の仕事を、あっさりとお払い箱にされた。「ああ、またか……」 もう、ため息も出ない。 いつものことだが、自己肯定感がダダ下がる。 魔導士としての技量は、誰にも引けは取らないし、それに関しては絶対の自信がある。 但し、それ以外のことに関しては、誰にも引けを取ってばかりだ。「どうすっかな……」 クロスは、一人で森の中の切り株に座り込んでいた。 商隊の護衛の仕事は、冒険者組合の斡旋だが、解雇の権限は商隊にある。 出先でクビを言い渡されるのは、クロスに取っては〝いつものこと〟であった。 魔力を持たない、いわゆる持たざる者達は、セイドラーを嫌う。 もっとも彼らにしてみれば、〝魔法〟などという、得体のしれないモノを使うセイドラーは、薄気味悪い嫌悪の対象なのだから、仕方がないのかもしれないが。 仕事の難易度に関係なく、基本は〝彼らをやり過ごす〟ことが出来れば、仕事の90%は成功したと言えるだろう。 雇用主がセイドラーを嫌悪していれば、くだらぬ口喧嘩程度のことがきっかけでも、これこのようにクビになるのだから。 そうして、今までにクビにされた履歴を細かく思い返して、余計に気分を落ち込ませて歩いていたら、いつのまにか方向を見失って、森の中にいた。 無闇に歩き回っても良いことはないだろう……と考え、とりあえず動くのをやめ、目についた切り株に座っている。「こういう場所って、レイスみたいな、実体のない変なものが出やすいんだよなぁ……」 そう呟いてから、思わずブルブルと頭を振る。「いかん、いかん! 弱気こそがヤツらを呼ぶんだ!」 己を鼓舞しようとしたクロスの耳に、ヒトの声が聞こえた。 こんな場所で? と言う疑問と、考えた途端に〝出た〟のか? と言う恐怖が同時に脳裏を掠めたが、それらを払拭する生気が漲った喊声が
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