بيت / ファンタジー / イルン幻想譚 / Chapter 31 -الفصل 40

جميع فصول : الفصل -الفصل 40

41 فصول

1:失業した男【2】

「モンスター……じゃなさそうだな……」 向かった先には、複数の生き物の気配がする。 わざわざ術を使って探るまでもなく、樹木の合間からうじゃうじゃとした獣の姿が見て取れた。 群れが意識を向けている方を伺うと、人影がある。 革鎧と剣身が長めのバスタードソードといった身なりから察するに、戦士だ。(かなりデッカい群れだが……。集団で動く四足の獣なら、頭目をツブせば崩れる……、はず) 声には出さずクロスは思考する。 統率の取れた集団らしく、嗅覚に優れているであろう獣達なのに、近づいたクロスに気を散らしもしない。「こりゃあ、ヒョロガリもやしとナメられたか……?」 やはり声には出さずに思考し、クロスは自分が有利に術を使える場所に移動しようとした。「…………あっ!」 二匹の若い獣が、フェディンに向かって飛び掛かっていく。 自分が足場を固める余裕ぐらいあるだろうと高を括っていたクロスは、急な展開に狼狽えたが。 身を翻したフェディンは初手に踊りかかった一匹を薙ぎ払い、続いた二匹目も一閃のもとに切り捨てる。 的確で力強い見事な剣さばきにクロスは思わず足を止め、感嘆と安堵の吐息をもらした。 しかし群れなした獣たちは次々と、間を置かずにフェディンに攻撃を掛けていく。 応戦しているフェディンの剣技は目覚ましいものだったが、なにしろ獣の数が多過ぎる。 このままでは、一人きりのフェディンが窮するのは、考えるまでもないだろう。 クロスは素早く空に陣を描き出した。 セイドラーが術を行使するには、呪文にガルドルを込める必要がある。 方法は、声にガルドルを乗せて唱えるチャント、指先にガルドルを集めて空に描くサークル、特殊な道具を用いてガルドルを描写する印の三種だ。 一つのスペルを直接的に発動させる場合は、チャントの方が圧倒的に早いが、複数のスペルを組み合わせる場合は、セイドラーの技量や性格によって、チャントかサークルのどちらかを選択することになる。 そしてセイドラーとしての技量は、誰にも引けを取らないと自負しているクロスは、誰よりも素早くサークルを構築し、最速で発動させられる自信があった。「ファイアとトラッキング……、着弾した時の爆発は狭い範囲で、威力は最大に……と……」 顕現した炎は、即座に鳥の姿を模
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1:失業した男【3】

「助かった」 ハッとして顔を上げると、煙の向こう側からフェディンが現れる。「あの……キミ、怪我は?」「ああ、うん。結構やられたが、深く噛まれる前に術が炸裂してくれたおかげで、ありがたいことにかすり傷ばかりだ」 確かに、肌が露わになっている部分に引っかき傷や噛み傷があるが、それも少々血が滲んでいる程度で、さほどの流血すらしていない。 彼の額にぼんやりと痣のようなものが見えた気がしたが、よくみれば黒煙で少し汚れているだけのようだ。 服や鎧に少々の焦げはあるし、焼け焦げたボスや周囲の樹木にも炎の痕跡はあるが、フェディンの肌に火傷は見受けられなかった。 炎は運良く、彼の肌まで届かなかったのだろうか?「俺、ヒールは苦手なんで。これ、よかったら使って」「やあ、済まないありがとう」 クロスが合切袋から傷に効く軟膏を取り出すと、フェディンは礼を言ってそれを受け取る。 少々の疑問は残るが、とにかくフェディンが無事だったのならば結果オーライだったと、クロスは胸をなでおろした。 傍に立ったフェディンは、落ち着いた物腰だが、クロスより一回りほど若い。 革鎧に見えたのは、彼の引き締まった体が汗に濡れ、黒っぽいシャツがピッタリと張り付いた筋肉の所為で、実際の防具は革製の肩当てとナックルガードのみだ。 日に焼けた健康的な肌色に、くっきりした目鼻立ちをしたかなりの美男子である。 身につけている物も決して粗末な品でなく、シンプルな装備だが手入れも行き届いていて、なんとなくだが金に困っていない印象だ。 出で立ちも顔面も見劣りする自分とは雲泥の差で、ついまじまじと上から下まで観察してしまったが、こちらのそんな視線を、好男子の余裕なのかまるで気にする風でもない。「この軟膏は、すごいな。塗ると血止めをするのは見かけるが、痛みまでひくのは初めてだ。便利だな、どこで買ったんだ?」「行商人からだよ。"隠者の秘薬〟って言うんだけど、入手の難しい妙薬なんだ」「なかなかいいな、助かった。……あ、そうだ!」 フェディンは、軟膏をクロスに返したところで、ハッと思い出したように背後の木立に振り返った。「おーい、もう大丈夫だ、出ておいで」「お連れさんが?」「いや、俺の連れじゃない」 いくら呼んでも誰も姿を現さないので、フェディンは樹木の向こうに回った。 木立の向こうから、フェ
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2:適材適所【1】

 歩き出したところで、フェディンが言った。「そういえば、まだ名乗ってなかったな。俺はマハト。ローメン・ラットに憧れて、剣豪を目指している。今は修行中の剣客だ」 ローメン・ラットは、ダインスの祖と呼ばれる伝説の人物である。 圧政で民衆を苦しめた王を討ち取った英雄と伝えられており、レイフはラットが名乗った職と言われている。 とはいえ、どちらもアドベンチャーギルドでは認定されていない、いわゆる〝自称〟の職だ。 一般的に、フェディンは粗暴な性質な者が多いが、ダインスやレイフを名乗るものは、アドベンチャーギルドから追放されたゴロツキである可能性の方が高い。 だが先程のマハトの剣技やこの折り目正しい態度からすると、珍しく〝真っ当な〟レイフなのだろう。「俺はクロス。セイドラーのアドベンチャーで……」 そう言ってしまってからクロスはハッとした。 慌てて胸元に下げている身分証を、相手に見えるようにグッと差し出す。「コ……コレ、セイドラーズギルドの身分証!」 この身分証を持っていない魔力持ちは、セイドラーと認めてもらえず、モグリや野良を疑われて、場合によってはとんでもない目に遭わせられる可能性がある。 セイドラー特有の、相手に言葉を挟ませない早口になりながら、クロスは喋り続けた。「あ、あのあの、俺、護衛の仕事を済ませた帰りでねっ。それで、あのあの、ち、近道しようと思って森に入ったら、なんか道に迷っちゃってっ!」「そうか、それは災難だったな」「そ……その腕前なら、もうダインスを名乗ってもおかしくなさそうだよね」 とにかく相手を持ち上げて、この場をやり過ごそうと、クロスはやたらと相手を褒めそやした。「いや、まだまだ修行中だ。ローメン・ラットは、中級ファンタズマのクラーケンを一撃で倒したなんて話もあるからなぁ」「中級なんて、手練れのセイドラーがいるアドベンチャーパーティーとか、50人規模の小隊とかが、よっぽどちゃんと下準備して、ようやく退けるのが関の山でしょ? リオンが一人で立ち向かえるかなぁ?」「伝説は……、まま誇張されている部分があるだろうから、どこまで本当かわからんが……。せめて下級のファンタズマを、一人で撃退出来るぐらいじゃなければ、ダインスを名乗るのはおこがましいと思ってるんだ」「下級っつって
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2:適材適所【2】

 クロスは、神経質で引っ込み思案のセイドラーが苦手だ。 もっとも自分自身もまた、神経質で引っ込み思案のセイドラーだが。 言ってしまえばセイドラーなんて、能力が秀でていればいるほど、体格は貧相で人格にも難ありと相場が決まっているから、そんな者同士でスムーズな人間関係を築けるはずも無く、群れるのが得意な者などいない。 問題は、アドベンチャーギルドに登録して、そこから仕事を請け負っている限り、どれほどの人見知りであったとしても他人と合わせていかねばならない……と言う点だ。 ソロで活動している限り、他人とのコミュニケーションは自分で行わなければならない。 それはつまり、セイズに偏見を持った雇用主や、同僚となる粗暴なフェディン、それら〝実力者〟の腰巾着たち全部のことだ。 だがマハトは、そんな偏見に満ち溢れている者たちとは違っていた。 そもそもマハトの言葉遣いは、一般的なアドベンチャーのフェディンと違って、横暴さを感じない。 特別丁寧という訳でもないが、それはむしろ旅暮らしで〝あまり丁寧な言葉使いをするとナメられる〟ことを学び、わざとくだけた口調にしているような印象すら感じる。 そう思う理由は、彼の態度だ。 少年の手を取り、歩調を合わせてゆっくりと歩く様子は好ましく、そこには物理攻撃が得意な者特有の無神経で乱暴な印象はまるでない。 本人曰く「自分は気の回らない性格」らしいが、きちんと躾をされた礼儀正しさが漂い、それはまるでどこかの御曹司のような印象すらあった。 町までの道程で、ポツポツと聞いたところによると、マハトはダインスの修行のためにアドベンチャーに力を貸すことはあっても、自身がアドベンチャーギルドから仕事を請け負ったことはないという。 つまりマハトはアドベンチャーではなく、言葉通りレイフの旅人……ということだ。 町を囲んだ防護壁に設けられた門は、穏やかな夕暮れに守備兵もあくびを噛み殺していて、クロスとマハトがそれぞれに身分証を提示すると、子供には特に注意も払わず通してくれた。 門を抜けたところで、マハトは歩みを止めた。「クロスさん、これからの予定は?」「あー……今ンとこナイよ。てか、その子のコトが気になるな……」「酒はイケますか?」「え? なんで酒?」「俺は、まったく飲めないんです。でもこの子の身許を当たるなら、人の出入りが多い酒
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2:適材適所【3】

 あれから、数時間後…………。 宿の部屋でマハトが休んでいると、扉に何かがぶつかったような物音がしたので、開いてみるとそこにはフラフラのクロスが立っていた。「マハしゃんゴメ~。身許、わきゃらなきゃったよぉ~」「うわ。クロスさん、大丈夫か?」「でぇじょぉぶ。ちょと……ホントにちょとだけ……ね。飲み過ぎちゃっ……てぇ」 情報を得るために、やってきたアドベンチャーや商人に酒を奢ってまわったら、気を良くした商人に返盃された。 マハトに言った通り、酒は決して嫌いではないが、特に強くもない。 結果、引っ込み思案のクロスは、グイグイくる商人からの返盃を断れず、量を過ごしてしまった。「子供を探している人はいなかったのか?」「とりあえずぅ〜、子連れのチャラバンなんて、ここ最近は見たことにゃいってぇ…………」 マハトに、なんとか仕入れた情報を伝えようと、呂律が回らず噛みまくりながらも、クロスは仕入れた情報を伝えた。 この辺りは、非常に濃い魔素が滞っていて、不毛の砂漠となっていること。 そのため、普通の砂漠以上に通過が困難で、しっかりと前準備をせずに横断しようとすれば、ガルドリングしかねないこと。 当たり前のことながら、途中に補給ポイントは一切なく、あるのは廃墟と化した遺跡だけであること。 この町は砂漠を渡るための、最後の補給ポイントであり、向こうから来た者たちの最初のオアシスであること。 最近、町の近くでサンドウォームの目撃情報があり、砂漠を渡る者に注意の勧告がされていること……などだった。「しょもしょも、しゃばくを子連れで渡るなんて、しょーきの沙汰じゃにゃいって話らった…………よ……」 そこまで話したところで、クロスはベッドにばったりと倒れ込む。「酒は毒だと教えられたが、あながち嘘でも無いのかもな……」 マハトはクロスに毛布を掛けてやりながら、呟いた。
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3:透けた美少女

 クロスは、奇妙な気配で目を覚ました。『このような者どもにうかうかと着いて来てしまいおって』「だってアイツ、かっこよかったぜ?」『馬鹿者! 見た目に惑わされてはいかんと、常々言い聞かせておるのを忘れたかっ! よいか? そんな甘ちゃんな考えは捨てて、夜明けとともに退散するのじゃ』「気付いて、すぐ追っかけてくるに決まってんじゃん。特にフェディンを振り切るの、めっちゃ大変っぽいもん」『たかがフォルクではないか、振り切れぬものでもあるまい』「無理。タクトを持って走るの、結構たいへんだしな」『おヌシはまたそういう、無精なことを言いおって』 気配は、部屋の奥である窓の方からしている。 寝返りを打つふりをして、そちらを観察しやすい姿勢をとり、そっと薄目を開けた。 今夜は月も無く、部屋の明かりは既に消されているが。 窓辺の少年の傍で、剣の柄に嵌め込まれた水晶が、仄かに光っており、更に薄っすらと光の膜をまとった美しい少女がいた。『貴様! いつから話を聴いておった!』「うひゃあっ!」 クロスの視線に気付いた透けた美少女が、ビシッとどやしつけてくる。「は……っ、話なんて、聴いてません! なんにも聞こえてないし、それになんにも視えてません! 茶髪のちっこい美少女のお化けなんて、絶ッ対に視えてないですぅぅぅぅ!」「クロスさん、どうした?」 少女にどやしつけられて慌てふためいたクロスは、ビョンと飛び上がってそのままベッドから落ちた。 その物音にマハトも目覚めて、クロスを覗き込んでくる。「マ……マ……マ……マハさん!」「具合でも悪いのか? なんだ、あの子も寝てないのか」 クロスを助け起こしたマハトは、そのまま窓辺の少年の元へ歩み寄った。「寝られなかったのか? でも子供はしっかり寝なきゃだめだぞ」『なんじゃこやつ、儂の気配すら感じておらぬのか? 見目麗しいのに、恐竜並みの無神経とは……、残念な奴だの』「あっ、あのあの、マハさんっ!」「なんだ、クロスさん。まさかまだ酔っているのか?」「マハさんには視えてないのっ!?」 クロスは透けてる人物に向かって叫んだのだが、マハトはそれを自分への問いかけと受け止めたようだ。「見える? なにが?」「え……、いや……、だから……、そこに立ってる、髪をこう、なんかムズカシイ形に結ってる、ちっこい美
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4:暗闇の襲撃【1】

「物理攻撃が全く通用しないアンデッドが存在するのは知っているが、理性を持って会話の成り立つ透けた存在なんて、初めてだ」 美少女の存在を伝えたところで、マハトはそう言った。『そこなヘタレっ! その鈍感なサウルスに、儂の居る正しい場所を教えてやれいっ!』 伽羅色の長い髪を古風に結って垂らしている、自称〝偉大なる存在〟である美少女は、その自称に見合った尊大な態度でそう言った。「えっ、俺の名前ヘタレに固定なの?」 思わずそう答えたクロスに、マハトは自分が全く見当違いな方向に話しかけていたことに気づく。「そっちにいるのか? と言うか、俺には全然見えないんだが、クロスさんには見えるのか?」「視える……と言うか…………」 件の人物は、なんらかの術を使った幻影を投影しているらしいのだが、実を言うと印象がはっきりしない。 最初に木陰から出てきた姿は12歳ぐらいの子供だったのに、今そこには17〜18歳ぐらいの人物が居るような気がするし、でも意識をしてジイっと観察をすると、やはり12歳ぐらいの子供のような気もするのだ。 だからといって、姿かたちが曖昧でぼんやりしている訳ではなく、透けていることを除けば、クロスの目にはその人物がちゃんとした輪郭を持ってそこに存在している。 しかも森の中で見かけた時はなんとも儚げな印象だったのに、本人を前にしたら〝儚げ〟なんて言葉とは真逆の、ものすごく攻撃的で気の強い印象だ。 翠玉のまるで猫のような瞳が、余計にその攻撃的な印象を強めていて、言葉通り〝射抜くような目線〟でこちらを睨みつけている。 だが、それをどう説明したものか……と、クロスは口ごもっていた。「視えないなら、コレに話しかけなよ」 少年が、持っている短剣をスッと差し出した。 大きな水晶が嵌め込まれている事に目を引くが、鍔にも柄にも凝った彫金やら装飾が施されている、とても綺羅びやかな物だ。「なんだ、ちゃんと話が出来るんじゃないか」「出来るさ。でも、タクトがフォルクと話をしちゃダメだって言うから」「ふぉるく?」「マハさん。フォルクはリオンのコトだよ」 理解の出来ない単語が並んで、マハトは少し戸惑っているようだった。 リオンの常識の範疇で暮らしているノーマルにとって、リオンをフォルクと呼ぶ……などと言われても、意味が判らないだろう。 だがマハトは
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4:暗闇の襲撃【2】

「大丈夫か、クロスさん?」「ごめん、突然怒鳴られて驚いちゃって…………」「怒鳴ってきたのか? なんと言ってる?」「ああ、えーと……。俺達だけで会話は禁止……みたいな?」 再び叱られることを恐れて、クロスは更に声を潜ませ、口早に説明をしつつ、マハトにこれ以上の会話を辞めるように目で訴える。「タクトの言ってるコトのほーが勝手だし。マハトにはタクトの声が聞こえないんだ、話が進まないからしばらく黙ってろよ」『小僧は黙っておれっ! 儂がマンナズの儀を施すまで、ケルヴィンガーの言い付けは絶対じゃと、最初に言うたであろうがっ! このなんでも忘れるカボチャ頭め!』「だからちゃんと従ってるじゃんか! でもタクトが俺に〝免許皆伝〟をしないのは、俺が子供だからじゃないだろっ!」『だからマンナズの義を免許皆伝などと、適当な言葉に置き換えるでないっ! 貴様の方こそ黙っておれっ!』 タクトと少年の会話に出てきた単語が、引っかかる。 だが、何に引っかかりを覚えたのか、クロスが考える前に、不意に不穏な気配が迫ってくる感覚が一同を包んだ。 ハッとして身構えた時には、既に窓が破られて、灯してあったランプが壊され、室内の明かりは消えた。「こんばんわ~! ボクの大事なスイートキャンディーちゃ~ん、お迎えに来てあげたよ~!」 扉が乱暴に開かれ、奇襲の不穏さからは想像もつかぬ、明るく突き抜けた声が室内に響く。「うわあっ! タクトォ!」 ようやくランプの明かりに目が慣れた頃合いだったために、視覚は奪われ、物音だけが頼りだった。 その中に、少年の悲痛な叫びが響く。 だがそれも一瞬のことで、その声は直ぐにも遠のいた。 マハトは咄嗟に、声の去るほうを追って窓の外に飛び出して行く。 一方で、その急激な状況の変化に戸惑ったクロスは、ランプが消えたあとに起きた一連の事象を、その目で全て見ていた。 なぜ暗闇の屋内の様子を見ることが出来たのか? を考えるより先に、咄嗟に動いたマハトと、ただ呆然と眺めていることしか出来ない自分との落差に、クロスは気を取られてしまった。『ヘタレっ! 明かりを灯せい!』「あ! あああっ、えっと、えとえと……」『このたわけめ! ランプは壊れて、使い物にならん! 貴様の手元で明かりを灯せと言うておる!』「ああ! はいぃぃ!」 
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4:暗闇の襲撃【3】

『これっ、ジェラートはどうしたのじゃ!?』 部屋に入ってきたマハトが、大きな黒いマントのような物を着た、背の高い人物を床に降ろしているところに、タクトが急いた調子で訊ねる。 が、マハトにはタクトの声は聞こえない。「マハさん、あの子は?」「羽ばたきと足音が聞こえたので、追える足音を追ったんだが。子供は一緒じゃなかった」『追う相手が間違っておるではないかっ! 役に立たない残念サウルス野郎め!』「いや、暗闇で飛んでる敵は追えないでしょ。片割れだけでも、捕まえられるのはすごいって」「クロスさん、タクトと言う人は、まだこの部屋に居るのか?」「うん。居るよ」「いろいろ聞きたいことがあるんだが、タクトは俺の質問に答えてくれるだろうか?」『おいヘタレ、そこなサウルスに短剣を渡すのじゃ!』「え、コレ?」『そうじゃ、早く渡せ!』 クロスは少年がソファに置いた短剣を手に取ると、マハトに差し出した。「なんか良くワカンナイけど、タクトさんが、コレをマハさんに持って貰えって」「俺に?」 訳が解らないながらも、マハトはクロスから短剣を受け取る。『どうじゃ聞こえるか! この残念サウルス!』「うわ、急に頭の中に声がしてきた……。クロスさん、タクトという人は本当に少女なのか? 声音があまり少女らしくないんだが?」『ヘタレと話しておるヒマなぞ、ないわっ! 無神経で残念なサウルス如きに、わざわざこうして話しかけてやっておるのじゃ。儂の声を聞けい!』「そんなに大声を出すな。うるさいばかりで、何を言ってるのかわからんぞ」 マハトの苦情に、タクトは『てっ!』と舌打ちのような音を返す。『本来なら、貴様らのような無知蒙昧の輩なぞと関わりになりたくないが。今は状況が切迫しておる。致し方ない。ブツブツ言っておらずに、儂に手を貸せっ!』「とても人に頼みことをしている者の態度とは思えない……」「マハさん、言いたいコトは解るケド、小さい子が攫われたんだし……。それにマハさんには視えてないだろうけど…………」 クロスはその先のセリフは、タクトに聞こえないようにマハトの耳にコソッと告げた。『コソコソ話すなと言っておるだろうが!』「なんだ、タクトは困って泣いてるのか……」『このヘタレ! ホラを吹くでないわ!』 タクトはクロスの尻のあたりを蹴っ飛ばすような仕草をした
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5:神にも等しい種族【1】

「アルバーラ? 知り合いか?」『このサウルスは、アルバーラを知らんのか!』「一体、誰だ?」『蒸しまんじゅうのようななりをした稀代の毒婦! 悪魔の如きセイドラーじゃ。儂とジェラートを、ずっと付け狙っておってな』「ジェラートというのがあの子供の名前なんだな」『ああ忌々しいっ! あんな詐欺師のような毒まんじゅうに追い回されなければ、こんなヘタレとサウルスに、我らの仮名を教える必要もなかったに!』「けにんぐ、とは、なんだ?」 マハトの問いに、クロスは突然〝そのこと〟に気付いて、ハッとした。 タクトの言った単語に感じた違和感と、そこに捕らえられている賊。 その引っ掛かりを、マハトが口にした疑問がきっかけとなって、全て解き明かされたような気分だ。「通名みたいな、もんだよ!」 クロスは、マハトにかなり適当な説明をした。 ケニングとは、決して変えることが出来ない真名の代わりに使う、表向きの名称であり、ケニングを名乗っていると言った時点で、自分はコニングを持つと、暗に示唆してしまっているということになる。 そして、コニングとは、祝福にも呪いにもなるために、その名を打ち明けるのはもちろん、持っていることを気軽に誰にも話して良いものではない。 とはいえ、タクトの場合は種族的な特徴故に、さほど気にもしてないのだろう。『なんじゃ、このサウルスはケニングも知らぬのか?』 と、サラッとその話を続けようとする。 クロスは狼狽えた。 元のタクトは強者で、コニング持ちであることをひけらかしたところで、通常ならばなんの問題もないのであろうが。 今のタクトは〝非常事態〟に陥っていて、容易く他者から害される危険が常に付きまとっている状況と言える。 そこでこんな危機感のない発言をするのは、あまりに軽率と考えたからだ。「そんなことはどうでもいいよっ! とにかくその賊から、ジェラートの行く先を聞き出さないと!」 一方で、マハトはクロスが話をはぐらかそうとしていることに気づき、その態度を訝しみはしたが、自分もそんな些末な話題よりもそちらの方が気になる話でもあった。「確かに、子供が攫われたなんて穏やかじゃないし、俺も救出に手を貸すのはやぶさかではないと思うが。しかし状況次第では、手伝いたくても手伝えないぞ」『なぜじゃ? なにが気に
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