All Chapters of 元夫の目は節穴?名門令嬢が電撃再婚!: Chapter 141 - Chapter 150

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第141話

オークションパーティーは、優雅な音楽に包まれながら幕を開けた。絃葉と悠は会場の隅に置かれた革張りのソファに腰掛け、グラスを交わす人々を眺めながら、ひときわ注目を集める凪杜と野々花へ視線を向けた。「見てよ、あの得意げな顔」悠は声を潜め、忌々しそうに言った。「本気で成功者気取りね。あの女を連れ回して見せびらかして、自分がどれだけ羽振りがいいか知らしめたいんでしょ」絃葉はグラスを軽く揺らしながら、穏やかな口調で答えた。「もともと見栄っ張りな人だから。今はきっと、みんなにもてはやされる気分を満喫してるんでしょう」「細谷にたった一か月で重要顧客を3社も奪われたのに、まだこんなに派手に振る舞えるなんて。危機感ゼロじゃない」悠は首をかしげた。絃葉は目を伏せ、静かに言った。「澤木グループはこの2年で急拡大したの。インターネット事業だけでも十分な利益を上げているし、それに......」そこで言葉を切り、グラスの縁を指先でなぞる。「彼が育て上げた中核技術チームは、みんな彼に忠誠を誓っている人たちだから」悠は鼻で笑った。「だから気前よく6億円をあなたに渡したかと思えば、その足で野々花に市内中心部のマンションを買ってあげられるのね。見てよ、あのドレスだけでも1600万円はするわ」絃葉は薄く笑みを浮かべた。「前は彼の資産なんて気にしたこともなかった。でも細谷グループで働き始めて、ネット業界の利益がどれほど大きいか初めて知ったの」「でも残念ね」悠は冷ややかに言った。「どれだけ金があっても、人間性だけは買えない」絃葉はグラスを回しながら、淡々と口を開いた。「もうどうでもいいわ。私と彼はとっくに......終わってるもの」「どうでもよくなんかない!」悠は声を潜めたまま悔しそうに言った。「まだ別れてくれないんでしょう?だったらこの機会に慰謝料でも何でも、もっとたくさん取るべきよ!少なくともこの4年間を無駄にした分くらいは」絃葉は思わず笑った。「西尾グループそのものが私のものなのに、彼のお金なんて必要かしら?」悠は彼女のおでこを軽く弾いた。「お金はいくらあっても困らないでしょ。いらないなら寄付したっていいし、それでも余るなら私に使わせて。あの二人の懐に入るよりずっとマシよ」絃葉は口元をほ
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第142話

だが今夜になってようやく、あの頃の自分の思いやりと優しさが、どれほど愚かだったのかを思い知った。絃葉はまつ毛を伏せ、静かに言った。「納得できなくても、納得しかないの」「そんなわけないでしょ!」悠は焦れたように足を踏み鳴らした。「西尾の力があれば、あんな男なんて簡単に潰せるじゃない。家の力を借りないとしても、自分のものは自分で取り返さなきゃ!」興奮した様子でさらに続ける。「今になってようやく分かったわ。あの女が愛人の立場で満足してた理由が。家も車もお金も子どもも、現実的な利益は全部あの女が手に入れて、あんたには中身のない結婚という肩書きしか残ってなかったのよ!絃葉、このまま何もしないでいたらダメよ!このままじゃ凪杜の財産は全部あの女に持っていかれて、あんたの5年間が無駄になってしまうわ!」絃葉は氷水の入ったグラスを差し出し、穏やかに微笑んだ。「大丈夫。ちゃんと考えはあるから」悠は一気に水を飲み干し、疑わしげに彼女を見つめた。「本当に?また我慢するつもりじゃないでしょうね?」「本当本当。信じて」そのとき、競売人がクローバーネックレスの競売開始を告げた。開始価格6000万円――その声が響くや否や、野々花は待っていたかのようにパドルを掲げた。「1億!」絃葉は落ち着いて手を挙げる。「2億」悠は息を呑み、慌てて彼女の腕をつかんだ。「ちょっと、正気!?あのネックレス、市場価格でも1億6000万円がせいぜいなのよ?」絃葉は軽く笑った。「さっき我慢しないでって言ったじゃない。そこで見てて」その一言で、会場中の視線が一斉に目立たないその一角へ集まり、スポットライトも彼女へ向けられた。そこに座る絃葉は、まるでひっそりと咲く純白の白木蓮のようだった。穏やかな笑みを浮かべ、少しも動じる気配がない。しかし、最前列中央の特等席に座っていた凪杜だけは違った。勢いよく立ち上がり、信じられないという表情で彼女を見つめる。一方、主役気分に酔いしれていた野々花は、相手が誰かも確認せず叫んだ。「2億4000万!」「3億」絃葉は瞬き一つせず、さらりと値を上げる。野々花が再びパドルを上げようとした瞬間、凪杜がその手を押さえた。「もうやめろ。相手は絃葉だ!」そこでようやく相手
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第143話

絃葉はその聞き覚えのある声を耳にした瞬間、雷に打たれたように体が硬直した。思わず声のした方へ視線を向ける。だが二人の距離は遠く、しかも男は仮面を着けているため、その顔はまったく見えなかった。それでも、あの声には聞き覚えがある。直感が目の前の人物の正体を告げていた。彼女はすぐにスマホを取り出し、「佳樹」へメッセージを送る。【オークションに来てるの?】送信すると、その男から目を離さず見つめ続けた。すると案の定、男は視線を落としてスマホを確認し、ほどなく返信が届く。【ああ。欲しいものがあれば遠慮なく競って。俺がいるから】絃葉の口元は思わずほころび、その方向へ優しい眼差しを向けた。ちょうどそのとき男も顔を上げた。表情は見えない。それでも彼が自分へ穏やかに微笑みかけているような気がして、胸の鼓動が思わず速くなる。会場中の視線は、ネックレスへ集中していた。男は「青天井入札」で堂々とそのネックレスを競り落とすと、優雅な足取りで絃葉の前まで歩み寄り、軽く身をかがめて、そっと彼女の首元へネックレスを着けた。その瞬間、会場はどよめきに包まれる。悠は興奮のあまり首が折れそうな勢いで振り返り、目を丸くして叫びそうになった。「誰、あの人!?どこかの名門一族の跡取り?」「オークションで青天井入札までしてネックレスをプレゼントするなんて、豪快すぎる!羨ましいよ!」「仮面を着けてても隠しきれない品格だ。絶対にどこかの御曹司だろ」「澤木家の奥さんの注目、あっという間に奪われちゃったね」少し離れた席にいた野々花は、たちまち顔色を青ざめさせた。怒りのまま凪杜の腕をつかみ、甲高い声を上げる。「全部あの女に持っていかれたじゃない!だから言ったでしょう。あの女、絶対外で男を作ってるって。ねえ、凪杜!何とかしてよ!」だが凪杜は、まるで彼女の声など聞こえていなかった。鋭い視線を絃葉へ向けたまま、まるで彼女を見透かそうとするかのように見つめ続ける。男が席へ戻ると、ようやく我に返った。凪杜の目には、あの男の立ち居振る舞いも体格も醸し出す雰囲気も、すべて築山景と重なって見えた。その疑念は頭の中で膨らみ続け、考えれば考えるほど怒りが込み上げる。彼は勢いよく立ち上がり、大股で絃葉のもとへ向かった。その
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第144話

凪杜はなおも絃葉の隣に座ったままで、立ち去る気配はなかった。一方、野々花は最前列に一人取り残され、何度も後ろを振り返っては、怒りと悔しさを滲ませた視線を送っていた。実のところ、この腕時計は彼女も以前から狙っており、落札して凪杜に贈るつもりだった。絃葉も同じ考えなのだろうと思い、凪杜が結局どちらの味方をするのか見届けようとしていた。野々花は歯を食いしばり、高らかに叫ぶ。「1億6000万!」絃葉は間髪入れずに応じた。「1億8000万」野々花は一瞬ためらった。予算を思えば迷いもあったが、絃葉の「絶対に譲らない」という表情を見ると、再び歯を食いしばって言った。「2億2000万!」絃葉はしばらく黙っていたが、それ以上は競り上げなかった。司会者がカウントダウンを始める。「2億2000万、一回目。2億2000万、二回目......」ようやくこの腕時計を手に入れられる――そう思った野々花の口元に得意げな笑みが浮かんだ。だが、司会者が「三回目」と告げようとした、その瞬間。凪杜が突然立ち上がり、大きな声で告げた。「青天井入札だ!」野々花は愕然と凪杜を見つめた。まさか凪杜が、絃葉のために自分の面子を潰すとは夢にも思わなかった。会場は再びざわめき始める。「どういうこと?澤木社長って奥さんをすごく大事にしてたんじゃなかったっけ?なんで急に他の女性を庇ってるの?」「分かってないな。いつも澤木社長と一緒に表に出てるのは愛人で、本宅にはちゃんと本妻がいるって聞いたぞ」「えっ!?じゃあ、あの女性が本妻?でも、さっき別の人が彼女のために『青天井入札』したよね?お金持ちの世界って複雑すぎて全然分からない......」「分からなくて当然さ。結局、男にとって愛人は、本妻の足元にも及ばないってことだろ」野々花の顔は一瞬で真っ青になった。爪が掌に食い込むほど強く握り締めても、その痛みすら感じない。頭の中では轟音が鳴り響き、今すぐ駆け寄って凪杜に問い詰めたかった。――こんなことをして、自分の立場はどうなるのか、と。だが彼女は凪杜の性格を誰より理解していた。大人しく従っている限り、欲しいものは何でも与えてくれる。しかし絃葉の前で騒ぎ立てれば、凪杜は容赦なく自分を切り捨てる。野々花は胸の
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第145話

会場は一時騒然となった。野々花は医療スタッフに慌ただしく運び出されたが、凪杜はその場から動かず、視線だけは終始絃葉を追っていた。絃葉は手にしたアクセサリーの数々を見下ろし、心の底からうんざりした。どれも野々花が欲しがっていたものばかりだ。それを自分に押しつけられても、欲しいはずがない。彼女はためらうことなくすべて凪杜の腕へ押し返し、冷たく言い放つ。「悠、もう行きましょう」凪杜にはもう一瞥もくれず、悠の手を引いてそのまま立ち去った。凪杜が追いかけようとしたその時、慌てて駆け寄ってきたスタッフに呼び止められる。「澤木様、奥様がお目覚めになりました。病院へ搬送するかどうか、ご判断をお願いします」「そっちで適当にやってくれ」苛立ったように相手を振り払おうとし、再び追いかけようとする。「それでは困ります。ご家族の署名が必要なんです!」スタッフは食い下がり、半ば引きずるように彼を休憩室へ連れて行った。絃葉と悠はオークション会場を後にする。出口には、銀色の仮面をつけた男が静かに立っていた。黒いスーツに包まれた長身は気品に満ち、彫刻のように鋭い顎のラインがひときわ目を引く。まるで誰かを待っているようだった。絃葉は口元に笑みを浮かべ、彼のもとへ歩み寄る。「佳樹さん、誰を待ってるの?」男は低く笑い、落ち着いた声で答えた。「分かっていて聞くのか」悠は意味ありげに目をぱちりとさせる。「絃葉を待ってるって素直に言えばいいのに。じゃあ、私は退散するね」そう言って空気を読んでその場を離れ、近くにいた数人の令嬢たちの輪へ向かった。彼女たちは以前から絃葉と謎の男性の正体が気になっていたらしく、悠が近づくや否や一斉に囲んできた。「悠、その親友って何者なの?あの謎のお金持ちはいったい誰?」悠は笑顔で紹介する。「彼女は西尾絃葉。多磨城の西尾家のお嬢様よ」令嬢たちはたちまち羨望の表情を浮かべた。「西尾家のお嬢様だったの!?どうりであんなに品があるわけね」「しかも美術大学の優等生で、油絵の巨匠・松生楓士先生の愛弟子。もうすぐ個展も開くから、その時はみんなぜひ来てね」悠はわざと含みを持たせながら絃葉の宣伝をし、「佳樹」の素性については一切触れなかった。――一方その頃。凪杜はスタ
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第146話

「絃葉、今どこいるんだ。今夜のことを直接説明したい」凪杜は焦った声で言った。電話の向こうの声は一瞬で冷え切る。「必要ないわ」「聞いてくれ。俺と野々花は本当に何でもないんだ!」凪杜は語気を強めた。「彼女をオークションに連れて行ったのは、君へのサプライズで宝石を選ぶためだったんだ」「そう」「絃葉がそんな物を気にしないことは分かってる。大事にしてるのは俺の気持ちだけだってことも」凪杜は一拍置いて続けた。「俺の心にいるのは、最初から最後まで絃葉だけなんだ。信じてくれ!」絃葉は小さく笑う。「その台詞はもう聞き飽きたわ。また新しいのを考えたら?」凪杜はその皮肉に気づかない。「じゃあ会って話そう。今どこにいる?すぐ行く」隣にいた男は静かに絃葉を見つめていた。次第に冷え切っていく彼女の瞳も、かすかに震える身体も、そのすべてを見逃さない。突然、男は彼女の手からスマホを受け取り、口を開いた。「すみません、それは無理です。彼女は今、私と一緒にいるので」凪杜の頭の中で、何かが轟音とともに弾けた。その低く響く声は――間違いなく築山景だ。「つきやま――」怒りの咆哮を上げるより早く、通話は切られた。胸いっぱいの怒りは行き場を失い、手応えのない虚しさだけが残る。絃葉は呆然と男を見た。「佳樹さん......」男はそっと彼女の手首を包み込む。「俺と一緒にいる時くらい、今までの嫌なことは全部忘れよう。わかった?」車は静かに走り続け、街の灯りが男の端正な横顔を照らしては流れていく。彼は優しい眼差しで彼女を見つめ、その瞳の奥にはまるで満天の星空が広がっているようだった。絃葉の鼓動が速くなる。「ど......どうして?」男はさらに少しだけ距離を縮める。「君が俺と過ごす一分一秒を、全部幸せな時間にしたいから」ほのかなシダーウッドの香りに包まれ、絃葉の耳まで赤く染まる。彼女は慌てて男を元の席へ押し戻した。「そんなに近づかないで......緊張するから」「どうして?」男は口元をわずかに緩めた。絃葉は視線を逸らし、平静を装って彼の胸を軽く叩く。「私たちは友達なんだから......」「友達以外の関係でもいいと思わない?」「やめてよ。好きな人がいるくせに」
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第147話

絃葉はわずかに目を見開き、宇宙のように深く澄んだ男の黒い瞳と視線を交わした。驚きを隠せずに尋ねる。「どうして急にそんなことを......?」男は口元に柔らかな笑みを浮かべ、いたわるような口調で答えた。「君が泣きそうに見えたから」絃葉は無理に笑みを作り、何でもないように言う。「気のせいだよ。もう全部終わったことだし、とっくに気にしてない」だが男は容赦なくその強がりを見抜いた。「無理しなくていい。君の何十枚もの絵を見たけど、本当に幸せな感情が伝わってくる作品なんて、ごくわずかだった」絃葉は返す言葉を失う。しばらく迷った末、小さな声で尋ねた。「......肖像画、まだいる?」男は軽く唇を結び、気遣うように彼女を見つめる。「本当に大丈夫?」絃葉は静かに首を振った。「絵を描いていると心が落ち着くの。描いているうちに、いろんなことを少しずつ整理できるから」「分かった。じゃあ一度家に帰ってシャワーを浴びたら、君の家に行く。それでいい?」男の低く響く声が静かに流れる。絃葉はうなずき、淡く微笑んだ。「うん」やがて運転手が二人をマンションの駐車場まで送り届け、それぞれ自宅へ戻ってシャワーを浴びた。絃葉はクローゼットから比較的露出の少ない淡いピンク色のパジャマに着替え、髪をヘアクリップで無造作にまとめる。その時、ドアベルが鳴った。玄関を開けると、男が赤ワインを一本手に提げ、ドア枠にもたれて立っていた。ゆったりした白いコットンシャツに、袖は無造作にまくり上げられ、薄いグレーのカジュアルパンツを合わせている。風呂上がりでまだ少し濡れた髪からは数本の前髪が額に落ち、その端正な顔立ちに気だるく自然な色気を添えていた。男はワインを軽く掲げ、口元に笑みを浮かべる。「絵を描くなら、少しワインでも飲んだほうがインスピレーションが湧くんじゃない?」絃葉は胸が少しくすぐったくなり、期待を含んだ眼差しで答えた。「いいね。グラスを取ってくる」ワインセラーからグラスを二つ取り出した時、壁の時計を見るとちょうど午後10時だった。もうこんな時間......この時間に男性を家へ招き、一緒にワインまで飲むなんて、本来なら少し不用心かもしれない。それでも相手が佳樹だからか、不思議と安心できた。
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第148話

絃葉は近づくと、両手をそっと彼の体に添え、座る姿勢を一つひとつ直していった。「こっちの肩をもう少し下げて......そう。その手を貸して......」彼女との距離は近く、柔らかな吐息がそよ風のように彼の頬や体をかすめる。男は真剣な表情の彼女を瞬きもせず見つめ、その眼差しは次第に熱を帯びていく。喉仏が上下し、掠れた声で尋ねた。「これで......いい?」「だいたいはね。じゃあ、そのまま動かないで。描き始めるね」絃葉は制作に集中すると、目の前の作品以外は何も見えなくなる。彼女は筆を取り、キャンバスの上に静かに線を走らせながら、柔らかな声で言った。「目を描き終わったから、疲れたらまばたきしても大丈夫」「頭は描き終わったから、少しくらい首を動かしてもいいよ。次は体のほうを描くから......」筆の動きに合わせて視線を少しずつ下へ移しながら、彼女は独り言のように続ける。「骨格、本当にきれいだね。肌もすごくきめ細かいし、胸筋も腹筋もこんなにはっきりしてるなんて、普段から相当鍛えてるでしょう?スーツ姿だと威厳があって近寄りがたい感じだけど、今みたいなほうがずっと格好いい。その姿でホストクラブでも働いたら、きっとお金持ちのマダムたちが取り合いになるよ」男は思わず笑った。「それは......気に入ってくれたってこと?」絃葉は真剣な顔でうなずく。「うん。すごく気に入った。今まで描いてきたモデルの中で、一番理想的かも」男は頬杖をつき、微笑んだ。「嫌われてなくてよかった」「何言ってるの」絃葉も笑みを浮かべる。「こんな若くて格好いい人がモデルになってくれるのに、それで文句を言うなんて、どれだけ贅沢なの」褒められた男は少し照れくさそうに体をわずかに揺らした。絃葉は慌てて言う。「動かないで。さっきのポーズのまま!そう、そのまま!」その瞬間、まるで新たなひらめきを得たかのように、彼女は再び創作への情熱に没頭していった。男は気づく。彼女の瞳に映っているのは、創作への情熱だけで、それ以外の邪な思いは一切ない。むしろ翻弄されているのは自分のほうだった。彼女の何気ない言葉に心をかき乱され、体は熱くなっては冷え、冷えてはまた熱くなる。その繰り返しだった。やがて夜も更け――絃葉はついに作品を
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第149話

絃葉が反応する間もなく、男は彼女の腰を支えると、そのまま軽々と抱き上げ、素早くソファへ寝かせた。「頭、大丈夫?」「う、うん......」絃葉はソファに横になったまま、慌てて手を振ったが、顔は一気に真っ赤になっていた。二人の距離はあまりにも近い。男のシャツはまだ前が開いたままで、彼女の目に飛び込んでくるのは、広い胸板と、くっきりと浮かぶ胸筋や腹筋だった。居心地の悪さに視線を逸らそうとしたその瞬間、顔を上げると、彼の深くどこか熱を帯びた瞳と真正面からぶつかった。男は片手でなおも彼女の首筋を支え、ゆっくりと身をかがめる。整った端正な顔立ちが少しずつ近づき、頭上の照明を遮った。「よしよし」そう言うと、有無を言わせずもう片方の手を彼女の額に当てる。ひんやりとした指先が触れた瞬間、絃葉の頭の中は真っ白になった。一瞬、頭が爆発したようになり、とっさに俯こうとする。だが男は突然彼女の頬に手を添え、顔を正面へ向けると、見つめながら静かに口を開いた。「そういえばこの前、政略結婚を考えているって言っていただろう?どうせお互い利益のためなら......相手を俺にするっていうのは、どうかな?」絃葉は一気に呼吸が速くなる。「えっ......な、何?」男は穏やかに微笑んだ。「改めて自己紹介させてほしい。俺は30歳、独身未婚。身長186センチ、体重80キロ。これまで密かに想い続けた女性は一人だけで、恋愛経験はない。そこは欠点かもしれない。でも、落ち着いた性格で家庭を大切にするし、仕事にも自信がある。恋愛に対しては誠実で責任感もある。うちの一族には離婚歴がなく、一度結婚したら、離婚ではなく死別まで添い遂げるのが当たり前で......」「......???」絃葉の頭は再び真っ白になった。まったく心の準備ができていなかった。男はそのまま続ける。「俺が理想とするのは、お互いを支え合い、愛し合う結婚だ。相手の過去は気にしない。でも、これから先の未来には俺だけがいてほしい。もちろん男として、結婚後は自分自身をちゃんと律する。どこへ行くにも必ず連絡を入れるし、自分の財産も名誉もすべて妻と共有する。そして絶対に浮気をしないし、二股も論外だ」――これは......政略結婚の申し込み?絃葉は無意識にテーブルの上のカップ
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第150話

男は耳までたちまち赤く染まり、絃葉の頬も一気に紅潮した。「第二に、どんなに忙しくても、週に一度は二人きりでデートをすること。第三に、お試しの期間中は、お互いの仕事や生活に干渉しないこと。互いのプライバシーを尊重すること。第四に、お試しの期間中、少しでも不満や違和感があれば、一人で抱え込まず、きちんと話し合って解決すること」彼は少し考えてから続けた。「今のところ思いつくのはこれくらいかな。もし君のほうで付け加えたいことがあれば、一緒に話し合って決めていけばいい」「......」今日までの彼は、絃葉にとって、ただの友人だった。それなのに今、彼はこれほど真剣な表情で、一つひとつ条件を示しながら政略結婚について話している。彼に対する彼女の印象は、ずっと「友人」という立場で止まっていた。それが突然、こんな大きな転換を突きつけられ、頭の中はすっかり混乱してしまう。どう反応すればいいのか、まるで分からなかった。「ええっと、その......」彼女は何とか話を戻そうとした。「佳樹さんには何年も想い続けている人がいるし、私もようやく一つの結婚を終えたばかり、その......佳樹さんの言ってることはちゃんとわかるつもりだよ。でも私......こんなに早く次の結婚へ進む気にはなれない。たとえお試しだとしても」少し間を置いて、彼女は静かに続けた。「前に政略結婚を受け入れられなかったのも、結婚を利益のための取引にしたくなかったから。こんなふうに条件を並べて、段取りどおりに進める恋愛って、なんだか作られたものみたいで......」絃葉は彼の真摯で誠実な態度に心を動かされていた。けれど同時に、心の奥ではまだ拒絶感が消えなかった。一つは政略結婚そのものへの抵抗。もう一つは、彼自身への戸惑いだった。凪杜との結婚を経験した今、彼女は結婚というものに深い傷を負っている。それに、景の母親から遠回しに釘を刺されて以来、政略結婚という選択肢自体をひとまず諦めていた。彼が真剣に提示した条件を、一つずつ否定していくうちに、絃葉は自分が少し残酷なのではないかという気持ちにもなった。冷静に考えれば、もし本当に政略結婚を考えるなら、佳樹は間違いなく理想的な相手だ。男は少しも焦る様子を見せず、まるで彼女の反応を最初から予想し
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