All Chapters of 元夫の目は節穴?名門令嬢が電撃再婚!: Chapter 151 - Chapter 160

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第151話

絃葉は、あまりにも率直で、それでいてどこか甘い響きを帯びた彼の言葉に頬を赤らめ、軽く咳払いをすると、思わず視線を逸らした。「ごめんなさい。まだ......心の準備ができてないかも......」男は素直に頷き、おとなしく元の席へと腰を下ろした。「分かった、君のペースに合わせるよ。でも、これからはもっと君と一緒に過ごす時間を増やしたい」絃葉は静かに頷いたものの、胸の内はすっかりかき乱されていた。彼にまったく好意がないわけではない。ただ、あまりにも急な変化だったせいで、心が追いつかず、もう少し時間をかけて慣れていく必要があると感じていた。男が帰ったあと、絃葉は重だるい頭を揉みながら、疲れ切ったようにベッドへ倒れ込んだ。眠気はあるのに、次々と考えが浮かび、とても眠れそうになかった。幸い「佳樹」は、彼女を追い詰めるようなことはしなかった。それからの日々も、彼は強引に距離を縮めようとはせず、以前より少しだけ連絡の回数が増えただけだった。やり取りの内容もごく穏やかで、「ご飯は食べた?」「ちゃんと眠れた?」と気遣ったり、「おはよう」「おやすみ」と挨拶を交わしたりする程度だった。最初こそ絃葉は少し落ち着かなかったが、日が経つにつれて、その気持ちも自然と穏やかになっていった。一週間後、青波はグループチャットを作り、絃葉、悠、「佳樹」、ギャラリーのディレクター・木島未佳(きじま みか)、それに数名のスタッフを招待した。話し合いの末、絃葉の個展は今月末に開催することが決まり、準備期間はあと20日ほどとなった。日程が決まると同時に、個展の宣伝も一気に始まった。青波と悠は幅広い人脈を持っており、海城の上流社会にはほぼ全員に招待状が届けられた。ただ一人、凪杜だけを除いて。絃葉が別荘を出てからというもの、凪杜は屋敷がどこかがらんとしてしまい、以前のような品格や洗練がすっかり失われたように感じていた。野々花が那乃葉を連れて住み始めると、かつて芸術的な雰囲気に満ちていた別荘は、一気に生活感にあふれる空間へと変わってしまった。リビングからはセンスの良いアートオブジェが姿を消し、その代わりに那乃葉が散らかしたおもちゃやお菓子があちこちに転がっていた。玄関には、絃葉が絵画を持ち去ったあと、野々花が自分の大胆なポートレート写真を飾
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第152話

千晶は不思議そうに彼を見た。「海城中で個展の宣伝が流れてるのに、知らなかったのか?お前んとこのサイトのトップページにも個展の広告が出てるだろ」凪杜は表情をこわばらせた。「冗談はよせ。あれは有名画家の『ヨル』だ。絃葉は絃葉だろ。同一人物なわけがない」千晶はそのままスマホを取り出し、絃葉が個展のために撮影した宣材写真を表示した。「よく見ろ。『ヨル』と絃葉は同じ人物だ」凪杜はスマホをひったくるように受け取ると、画面を食い入るように見つめた。数秒間固まったあと、思わず目をこすり、もう一度じっくり見直す。画面の中の絃葉は、芸術作品のような美しさをまとっていた。アーティスティックなロングドレスを身にまとい、逆光の中を歩いてくる姿は優雅で、洗練されたメイクが女王のような風格を際立たせている。本当にあの、毎日自分のそばで料理を作り、身の回りの世話をしてくれていた絃葉なのか。凪杜は本能的に否定したくなった。だが、その時、写真の右目尻にある泣きぼくろが目に入った。その位置は絃葉とまったく同じだった。顔立ちも酷似している。彼女でなければ、一体誰だというのか。凪杜の身体は小さく震え、呆然と呟いた。「絃葉が、本当に......」信じられないという思いが滲む声だった。「彼女が、数々の賞を総なめにしてきたあの画家・ヨルだったなんて......どうして俺は今まで何も知らなかったんだ......」千晶は頬杖をつき、絃葉の姿を思い浮かべながら感慨深げに言った。「だからか。この数年、絃葉にはどこか人を惹きつける不思議な雰囲気があるってずっと思ってたんだ......残念だったよ、凪杜。お前は宝物を手元に置きながら、その価値をまるで分かってなかった」凪杜は力なくソファへ腰を落とした。そして何かを思い出したように慌ててスマホを取り出し、「ヨル」に関する情報を次々と検索し始めた。しばらくすると、その顔色は見る見る青ざめ、まるで思い切り平手打ちを食らったかのようだった。「だから家のインテリアも、絃葉が少し手を加えるだけで、あんなに洗練されて見えたのか......彼女はあれほど絵を描くのが好きで、家には絵でいっぱいの部屋まであったのに......俺は一度も中を見ようとしなかった。こんなにも気高い芸術家だったのに、毎晩
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第153話

千晶は急に真顔になった。「もう何度忠告したことか......今ならまだ間に合う。このまま絃葉があの築山と――」凪杜は拳を握り締め、指の関節が白くなる。「築山景は......本当にずっと絃葉に片思いしてたのか?」「知らなかったのか?」千晶は身を乗り出した。「あの頃、築山は名門大学への進学を蹴ってまで、わざわざうちの大学に来たんだ。誰も理由なんて分からなかった。だけど、お前と絃葉の交際が公になったあと、あいつは酒を浴びるように飲んで、アルコール中毒で病院送りになった......」凪杜は驚愕した。「そんな話、どうして今まで一度も教えなかったんだ」「てっきり知ってるものだと」千晶は肩をすくめた。「大学時代の絃葉は、男子学生の憧れの的だったからな。凛とした雰囲気に、穏やかな性格、それに芸術家らしい空気をまとった人。好きにならない奴なんていなかった」そう言って酒を一口飲み、グラスを静かに置いた。「でも、お前と付き合い始めてからの絃葉は、見るからにやつれていった。絵を描くための大事な手は毎日洗剤に浸かりっぱなし。髪は適当にまとめ、油染みのついたエプロン姿でお前のために料理を作ってた。ある日お前の家へ行ったら、絃葉はキッチンでしゃがみ込んでコンロを磨いてたよ。その腕には、排卵誘発注射を打ったあとを押さえる止血用のガーゼまで貼ってあったぞ」千晶は指でグラスを軽く叩いた。「彼女はあんなに子どもを望んでいたのに、お前は中絶させた。凪杜、お前には本当に心ってものがあるのか?」酒が凪杜の顎を伝って滴り落ちる。昔も千晶は何度となく絃葉の味方をした。だが、その言葉は一つとして彼の耳には入らなかった。凪杜はいつも傲慢に思っていた。――ゼロから成功して億万長者になった自分と結婚できたのだから、彼女は感謝すべきだ。恵まれた暮らしも、体面のある立場も、すべて自分が与えたものだった。こんな幸運を手にできる女が、世の中に何人いるというのか。自分の妻になれたのだから、それだけで十分満足し、感謝すべきなのだ。彼女が自分のために尽くしたことなど、女なら当然やるべきことではないか。そうでなければ、何のために結婚したというのだ。家に飾る置物が欲しかったわけではない。「俺は最高の生活を与えてやったんだ」凪杜は
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第154話

「もし俺がお前だったら、絃葉のことを命を懸けて大切にする。浮気なんて絶対にしないし、不倫で何度も彼女を傷つけたりもしない」千晶は凪杜の顔へ身を寄せた。「絃葉が本当にお前と円藤のことを知らないと思ってるのか?あれだけ賢い人なんだ。とっくの昔に気づいてたに決まってる!それでも何も言わなかったのは、彼女が優しい人だからだよ!」そう言うと千晶は、瓶ビールを一本丸ごと一気に飲み干した。本当は、これらの言葉を胸の内にずっと抱え込んでいた。何度も口にしかけては、そのたびに飲み込んできた。所詮は他人の家庭の問題だ。友人として、あまり踏み込むべきではないと思っていたからだ。だが今は違う。絃葉とはすでに別れ、埃をかぶっていた真珠が再び本来の輝きを取り戻したように、彼女は生き生きと光り始めている。千晶は心から彼女のことを喜び、だからこそ胸に溜め込んできた思いを、すべて吐き出した。凪杜の目は一瞬で真っ赤になり、千晶の襟首を強くつかんだ。「そんなことを知っていたなら、どうしてもっと早く言わなかった!なんで今になって......!」「言ったところで、お前が耳を貸すと思うのか?」千晶は吐き捨てるように言った。「お前の心は全部あの円藤野々花に向いてた。二人のことを話すたびに、お前は絃葉を貶して、あの女を持ち上げることしかしなかった。あちこちの社交の場へ連れて歩き、会社でも彼女が社長夫人みたいな存在になるのを黙認してただろ。そんな状況で、俺がお前に絃葉の味方をしろなんて言えたと思うか?!正直、俺たちで何度も話したことがある。円藤野々花のどこがそんなにいいのか、誰にも分からなかった。顔立ちも品がなく、身なりも俗っぽい。教養も品格もないし、下品な下ネタを冗談で話し始めるたびに、こっちまで気まずくなった。でも、お前はそんな彼女を色気があると言い、絃葉のことは味気ない女だと言ってた。俺たちにどうしろって言うんだ!結局、お前の目には、絃葉の油絵より黒いストッキングのほうが魅力的だったってことだ」......千晶は破裂するような勢いで、この数年間胸に溜め込んできた思いを一気に吐き出した。凪杜は拳で自分のこめかみを殴りつけた。唇を何度か震わせたものの、何を言えばいいのか分からなかった。千晶もかなり酒が回り、ぐったりとソファにも
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第155話

深夜12時過ぎ、千晶から電話がかかってきた。これまでこの時間に千晶から電話が来る時は、決まって凪杜が飲みすぎて迎えに来てほしいという用件だった。今回も同じだろうと思い、絃葉はそのまま着信を切った。それも3度続けて。仕方なく千晶は、酔いつぶれた凪杜を動画で撮影し、そのまま絃葉へ送った。絃葉は眉をひそめながら動画を開く。画面には、顔を真っ赤にしてソファにぐったりと倒れ込み、意識を失っている凪杜の姿が映っていた。【今夜俺はあいつを思いきり叱った。罪悪感で酒を浴びるように飲んで、自分が間違っていたこともちゃんと分かったみたい】絃葉は返事をしなかった。しばらくすると、千晶から再びメッセージが届く。【凪杜は本当に反省してるんだ。一度だけでも会いに来てくれ。このまま飲み続けたら、本当にアルコール中毒になってしまう】写真の中の凪杜は、まるで血の気が失せた紙のように青白く、本当に命が危ないようにも見えた。だが絃葉は、こう返信した。【あなた自身がお医者さんなのに?】千晶はすぐに返してきた。【俺が言っても、あいつは聞かないんだ】その一言で、絃葉の怒りが一気に込み上げた。【風間さん、今の私と彼は赤の他人よ。もう彼のことで連絡してこないで。これ以上送るなら、あなたまでブロックするから】さすがに千晶もそれ以上は何も送ってこなかった。絃葉はスマホを置き、静かにベッドへ横になると、ほどなくして眠りについた。30分待っても凪杜の様子は悪くなる一方で、絃葉が迎えに来ることはないと悟った千晶は、仕方なく野々花へ電話をかけた。20分後、野々花が慌ただしくバーへ駆けつけ、泥のようにソファへ倒れ込む凪杜を起こそうとした。千晶も手を貸し、二人でようやく凪杜を車まで運ぶ。その間じゅう、千晶の眉間には深いしわが寄っていた。野々花は駆けつけるのこそ早かったものの、凪杜を見る目には終始うんざりした色しかなかった。凪杜はソファから起き上がることもできず、彼女一人では持ち上げられない。すると野々花は苛立ったように、彼の腰を思いきり蹴飛ばした。車まで支えながら運ぶ間も、彼女はずっと悪態をつき続け、口汚い罵声が絶えなかった。ようやく車へ乗せると、凪杜が吐きそうになったため、野々花はビニール袋を彼の頭からすっぽりとかぶせ、その
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第156話

その時、不意に足音が聞こえ、野々花の声がはっきりと響いた。彼女はかすかに凪杜が誰かの名前を呼ぶのを耳にしたが、それは明らかに自分ではなかった。「何でもない」凪杜の表情は一瞬で冷え切り、鈍く痛む胸を押さえながら言った。「喉が渇いた。水が飲みたい」野々花は昨夜の残りご飯で作ったチャーハンを持ってきた。パサパサに乾いていて、とても食欲をそそる代物ではない。「これからはあんなに飲まないでよ。泥みたいに潰れちゃって、運ぶのも一苦労だったんだから」チャーハンをテーブルに置くと、彼女は不満そうにこぼした。凪杜はかすれた声で力なく答える。「今は気分が悪くて、こんなパサパサのチャーハンは食べたくない。雑炊とかはあるか」以前は二日酔いで目覚めるたび、絃葉が香り高い雑炊を炊いてくれた。しかも毎回、滋養をつけるために梅干しを一本添えてくれていた。野々花のように酒を飲みすぎたと責めることなど一度もなく、誰よりも彼の体を気遣ってくれた。どれほど泥酔しても、その後は食事で体調を整えようと、あれこれ工夫してくれていたのだ。「ごめん。昨夜の残りご飯しかなかったからチャーハンにしたの。適当に食べて」野々花は不機嫌そうに眉をひそめ、チャーハンを彼の前へ押しやる。それでも顔色の悪さを見ると、水を一杯注いでテーブルへ置いた。凪杜は喉がからからで、コップをつかんで一気に口をつけた。だが中身は熱湯で、舌が痺れるほど熱かった。その瞬間、怒りが一気に込み上げる。「熱っ。少し冷ましてから持って来るくらいできないのか!」苛立ちながらソファから立ち上がると、真っ黒に炒められたチャーハンを見てもまったく食欲が湧かない。そのままふらつきながら2階へ向かい、着替えて家を出るつもりだった。後ろから野々花が追いかけて叫ぶ。「ひどい......私だって毎日那乃葉の世話をして、洗濯も料理もして、疲れてるの!伊藤は全然協力してくれないし、辞めさせて別の人に替えようと言ってもあなたは反対する。じゃあ私はどうすればいいというの!?」凪杜は怒ったまま階段を上り続けた。「そんな話は聞きたくない。絃葉は昔これだけのことを全部やっても、一度だって愚痴なんか言わなかった。お前が仕事で忙しかった頃は、那乃葉の面倒だってほとんど全部彼女に任せていたのに、一
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第157話

野々花は凪杜が自分たちを買い物へ連れて行き、服まで買ってくれると聞くや否や、さっきまでの取り乱した様子が嘘のように消え去り、顔いっぱいに笑みを咲かせた。「ほんと?じゃあ、すぐ着替えてくる!」そう言うと、急いで部屋へ駆け戻っていった。凪杜に抱かれた那乃葉は嬉しそうに手を叩き、幼い声ではしゃぐ。「パパが那乃葉とお洋服買いに行ってくれるー!」無邪気にはしゃぐ娘を見つめていると、不思議なことに凪杜の脳裏にはまた絃葉の顔が浮かんだ。結婚して5年――そういえば、自分は一度だって絃葉と街へ買い物に出かけたことも、自分から服を買ってやったこともなかった。その事実に気づいた瞬間、胸が見えない手でそっと締めつけられたような痛みを覚えた。しばらくして、念入りに身支度を整えた野々花が優雅に部屋から姿を現した。高価なワンピースを身にまとい、隙のないメイクで艶やかな魅力を振りまく彼女は、親しげに凪杜の腕へ絡みつく。「行きましょう、あなた」三人は市内でもっとも賑わうショッピングモールへ向かった。凪杜は那乃葉を抱いて先を歩き、野々花がその後ろをついていく。道中、野々花は絶え間なく話しかけていたが、凪杜は上の空で相づちを打つだけだった。頭の中には、何度も絃葉の姿が浮かんでは消える。今頃、彼女は何をしているのだろう。誰と一緒にいるのだろう。こんな寒い日だ。寒がりだった彼女は、ちゃんと暖かい服を着ているだろうか。もう自分がそばにいない日々を、少しは寂しく思ってくれているだろうか。気づけば何度もスマホを取り出し、絃葉から何か連絡が来ていないか確認してしまう。だが画面は静まり返ったまま、通知は一件もなかった。まず三人は子ども服売り場へ入った。那乃葉は躍り上がるようにはしゃぎ回り、自分の気に入った服を一着ずつ楽しそうに選んでいく。凪杜も付き添いながら、一枚ずつ丁寧に見て回り、試着まで手伝っていた。その横で野々花はスマホを片手に写真を撮り続け、一気に三、四件もSNSへ投稿して自慢する。しかも公開範囲は、わざわざ絃葉にも見えるよう設定していた。子ども服を買い終えると、今度は婦人服売り場へ向かう。野々花は凪杜の腕を引いて高級ブティックへ入り、自分の服を選び始めた。何着も試着しては鏡の前でポーズを取り、その
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第158話

凪杜は振り返ることもなく、そのまま前へ歩きながら言った。「だからこそ、何があったのか確かめないと。きっと悠が悪影響を与えたんだ!絃葉はあんなに真面目な女性なのに、こんなものを買うはずがない!」凪杜は一言も野々花を責めてはいなかった。だが彼女には、まるで思い切り平手打ちを食らったように感じられた。絃葉がこういう下着を買うことにはあれほど嫌悪感を示すくせに、自分には会員カードへチャージまでして好きなだけ買わせていた。彼の中で、自分はいったいどんな存在なのだろう。野々花は怒りのあまり、その場で凪杜を引き止めて問い詰めたかったが、彼はすでに足早に店へ向かい、そのまま中へ入ってしまった。その日はちょうど土曜日で、寒波が押し寄せていた。絃葉と悠は連れ立ってショッピングモールへ服を買いに来ていた。最近の悠はバーで知り合ったイケメンの男性医師と急接近し、まさに熱愛中だった。買い物の最中も、彼女は終始その医師とのベッドでの出来事を楽しそうに語り続けていた。このランジェリーショップを見つけるや否や、悠は有無を言わせず絃葉を引っ張って店内へ入り、「いい人が現れた時のために何着か買っておきなさい。そうすればすぐ楽しめるし、女としての喜びも味わえるわよ」と熱心に勧めた。絃葉は眉をひそめ、店内に並ぶ布地の少ないランジェリーを見つめながら、居心地悪そうに身を縮める。一方の悠は、黒いバニーガール風のランジェリーを手に取り、絃葉の体に当てながら言った。「小柄で細身、それに肌も白いんだから、絶対似合うって。これ一着買いなさい!」続いて深紅のレースタイプも手に取り、「これも似合いそう。一緒に買っちゃおう!」絃葉は慌てて手を振った。「いいよ、悠......!こんなの一度も着たことないから......」悠がさらに試着を勧めようとした、その時だった。背後から低く怒気を含んだ男の声が響く。「やっぱりお前だったのか、細谷悠!あんなに純粋な彼女に、こんなものを買わせるなんて!」顔色を青くした凪杜が二人の前に立っていた。その大きな怒声に、絃葉も悠も思わず驚く。悠は凪杜だと分かると、とっさに両腕を広げて絃葉の前へ立ちはだかり、大声で言い返した。「絃葉が何を買おうと、あんたには関係ないでしょ!あっちへ行って!」しかし凪
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第159話

凪杜は慌てて手を振った。「違う、これは誤解だ!絃葉、君なら俺のことは分かってるだろ?俺にはそんな体力なんてないよ」絃葉は冷笑すると、その場にいる全員の前で、落ち着いた口調ながら矢のように鋭く言い放った。「そうね。いつも腰が痛いって言ってたし、そういうことにも興味がないって言ってたもの。たしかに、その力はなさそうね」野々花は思わず口を開いた。「嘘よ、彼はちゃんと――」しかし凪杜は慌てて遮り、彼女を睨みつけた。「黙れ、野々花!これは俺と絃葉二人の問題だ。お前が口を挟むことじゃない!」絃葉は必死に平静を装う凪杜をまっすぐ見つめた。本当は思い切り平手打ちしたい衝動をこらえながら、今度は野々花へ視線を移し、話題を変える。「円藤さん。さっき、自分はスタイルがいいから、この手のランジェリーは自分にしか着こなせないって言ってたわよね?」野々花は少し驚いたものの、すぐに顎を上げた。「ええ、そうよ。絃葉さんみたいな清楚な顔立ちじゃ、こういうランジェリーの色気は出せないわ。信じないなら――」「だったら試してみましょう」絃葉は冷たい笑みを浮かべ、店の入口に飾られた大きなポスターを指差した。「見える?来月開催のアマチュア向けのランジェリーモデルコンテスト。勝負してみる?」その一言に、店内は一斉に息をのんだ。悠は驚いて飛び上がりそうになり、慌てて絃葉の袖をつかむ。「ちょっと、本気なの?」凪杜は雷に打たれたように目を見開き、声を張り上げた。「正気か!?そんな大会に出るなんて......絃葉、大勢の前で自分の体をさらすなんて絶対に許さないぞ!」絃葉は口元に笑みを浮かべたが、その笑みには決意が宿っていた。凪杜を見つめ、一語ずつはっきりと言う。「やっと分かった。きっと私はあまりにも退屈な女だったから、あなたには魅力が感じられなくなって、腰が痛いだの興味がないだのって言うようになったんでしょう。この5年間は全部、私のせいだったのね。だから今日から変わるわ。いろんなスタイルの服にも挑戦してみるから」凪杜は胸が締めつけられ、慌てて彼女の手を取ろうとした。「俺のために変わろうとしてくれるなんて、本当に嬉しいよ。でも変わるなら俺の前だけで十分だ。こんな大会に出る必要なんて――」絃葉は素早く身をかわし、二歩後ろ
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第160話

野々花が凪杜の腕を激しく揺すると、ようやく彼は我に返った。彼は野々花を一瞥し、淡々と言った。「あ、ああ......スタイルだけで言えば、彼女のほうが君より上だ」店内のマネキンが身に着けたバニーガール風のランジェリーに視線が止まる。その瞬間、絃葉がそれをまとった姿が脳裏に浮かび、下腹部に熱いものが込み上げる。まるで何かに取り憑かれたように、彼は口を開いた。「俺が彼女に興味がなかったと思ってるのか?違う。彼女は体が弱かったから、無理をさせたくなかっただけだ」そう言い終えると、凪杜は野々花の腕から那乃葉を抱き上げ、そのまま大股で店を後にした。野々花はその場に立ち尽くし、顔色を失う。しばらくしてようやく我に返った。これまで凪杜が絃葉とあまり深く触れ合わなかったのは、絃葉に魅力がなかったからではなく、彼女を気遣っていたからだった。では、自分は......?この5年間、オフィスでも、バルコニーでも、ソファでも、トイレでも、キッチンでも、果ては那乃葉のベビールームでさえ、凪杜は疲れを知らない獣のように、機会さえあれば彼女を求め続けていた。彼女はずっと、自分のほうが絃葉より魅力的だから、凪杜が夢中になるのだと思っていた。だが今、凪杜の言葉は鋭い刃となって胸を突き刺し、息苦しさに襲われ、一言も返せなくなった。その時、店員がスマホのアプリ画面を差し出した。「円藤様。先ほど口論になっていた西尾様は、すでにコンテストへのエントリーを済まされました。円藤様はいかがなさいますか?」野々花は息をのみ、驚愕の表情を浮かべた。「本当に出るつもり......?」下唇を強く噛み締め、爪が掌に食い込む。「いいわ!あの女にランウェイへ立つ度胸があるなら、私にだって......!今すぐ申し込むわ!」そう言うと、その場でアプリのエントリーフォームを入力し、絃葉との勝負に全力を懸ける決意を固めた。一方その頃、凪杜にはもう野々花や那乃葉と買い物を続ける気力など残っていなかった。帰り道の車中でも、絃葉があのランジェリーをまとい、ランウェイで妖艶にその美しい身体を披露する姿ばかりが頭に浮かぶ。心は完全に乱れていた。彼女を誰にも見せたくないという強烈な独占欲が湧き上がり、今すぐ絃葉を見つけて部屋へ閉じ込め、その美しさを自分
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