凪杜は、まるで見えない力にその場へ縫い止められたかのように立ち尽くした。胸の奥に、苦いものが一気に込み上げてくる。反射的に抱いていた那乃葉から手を離すと、何かに取り憑かれたように絃葉と景のほうへ駆け出した。だが、絃葉と景が通ったのはVIP専用のレッドカーペットだった。両脇には警備員がずらりと並んでいる。二人はあっという間に高級車へ乗り込み、凪杜がようやく近くまで駆けつけた頃には、車はすでに走り去っていた。凪杜は苛立ちのあまり、ネクタイを乱暴に引っ張った。胸の中の苛立ちは、黒い雲のようにどんどん膨れ上がっていく。そこへ、那乃葉を抱いた野々花が追いかけてきた。頬には、いかにも痛々しげな涙が伝っている。凪杜はますます気が滅入り、振り返ることもなくその場を立ち去った。そのまま車に乗り込み、すぐに姿を消した。三日間にわたって開催された個展は、無事に幕を閉じた。売れた作品は全部で10点、総売上はなんと10億円にも達した。予想をはるかに上回る結果に、企画チーム全体が喜びに沸き返り、絃葉も同じように胸を躍らせていた。凪杜と過ごした5年間を振り返り、絃葉は、すべてが無駄だったわけではないと思った。少なくとも、あれほど身を切るように苦しんだ日々は、彼女の筆によって形ある価値へと生まれ変わった。今回の個展をきっかけに、彼女のアーティストとしての評価は大きく上がり、これから発表する作品の価値も計り知れないものになっていくだろう。それが、あの恋が彼女に残してくれた、たった一つの贈り物なのかもしれない。そんな楽しい空気の中、絃葉のもとに親子鑑定機関から電話がかかってきた。「西尾さん、鑑定結果が出ました。『生物学的な親子関係は認められない』との結果が出ました。後ほどファイルをお送りします」まさに、嬉しい知らせが重なった。やはり、すべて絃葉の予想どおりだった。那乃葉は凪杜の実の子ではなかったのだ。どうやら野々花は、彼女が考えていたとおり、凪杜にいろいろなことを隠しているらしい。絃葉はためらうことなく、親子鑑定報告書をそのまま悠へ送った。【円藤野々花が萬城にいた頃のことを徹底的に調べてくれる?できるだけ細かくお願い】悠からはすぐに、驚きが滲んだ返信が返ってきた。【え!?ここまで調べてきて、那乃葉が澤木の実の子じゃ
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