その夜、絃葉はよく眠れなかった。長い間、夢など見ていなかったはずなのに、その夜にかぎって、長く鮮明な夢を見た。夢の中で彼女は、かつて暮らしていた古びた狭いアパートへ戻り、昔と同じように凪杜のために忙しく動き回っていた。ところが次の瞬間には窓辺に立ち、向かい側で凪杜と野々花が親密に絡み合っているのを、なすすべもなく見つめていた。野々花は、絃葉に向かって挑発的な笑みまで浮かべている。胸を引き裂かれるような激痛が走り、絃葉は勢いよく夢から目を覚ました。それからは、どうしても眠ることができなかった。彼女は静かに身を起こし、枕元のサイドテーブルに置かれたスマホを手に取った。画面をつけると、見覚えのない番号から届いたメッセージが目に入った。【ごめん】【ごめん】【ごめん......】延々と続く「ごめん」という言葉は、一つ一つが鋭い皮肉のように、心の奥深くに刻まれた傷を容赦なく暴いていく。絃葉は何の表情も浮かべないまま、指先で画面に触れ、メッセージを削除した。この世にあるすべての「ごめん」が、許してもらえるわけではない。彼女は足音を立てないよう窓辺へ歩み寄った。外を見ると、海城の空には珍しく雪が舞っていた。静かで幻想的な光景だった。絃葉は思わず、何年も前の吹雪の夜を思い出した。すべてを投げ出すようにして、自分を迎えに来てくれたあの人を。「起きてるのか」景は眠りから目を覚まし、彼女が窓辺に立っていることに気づいた。静かに歩み寄ると、背後から優しく抱き締める。床暖房の効いた室内は暖かく、彼の腕の中は春のようだった。窓の外に広がる凍てつく冬景色とは、あまりにも対照的だった。絃葉は窓を少しだけ開け、冷たい風の中へ手を伸ばし、舞い落ちる雪を受け止めようとした。「海城の冬が、こんなに寒くなるのは久しぶりね」「ああ。天気予報では、強い寒気の影響で、この2日間は海城でも珍しい吹雪になるそうだ」景は彼女の手を優しく引き戻した。「ほら、窓を閉めよう。風邪をひいたら困る」窓をしっかり閉め直すと、自分のバスローブで絃葉を包み込み、胸元へ強く抱き寄せた。絃葉が突然、小さくため息をついた。景は、その沈んだ様子にすぐ気づいた。「何かあったのか」彼女は振り返って景の目を見つめた。
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