静代はぴたりと足を止め、勢いよく振り返って景を見つめた。その目には、隠しきれないほど深い失望が浮かんでいる。「私に何か?」まだ怒りが収まらず、声は硬く張り詰めていた。「仕事のことは分からないし、興味もない。でも、私にも一つだけ譲れないことがあるわ。あなたが誰と結婚しようと構わない。でも、西尾絃葉だけは絶対に認めないから!」景は暗く深い目で母親を見つめた。「理由は?」「理由を私に聞く必要があるの?」静代は信じられないというように目を見開いた。「5年前、私たちが誠意を尽くして結婚を申し込んだのに、あの女があなたと築山家の面目をどれほど傷つけたか、もう忘れたというの?他の男に傷つき、何もかも嫌になったから、今さら景のもとへ戻り、家同士の結婚を利用しようとしているに決まっているわ!」景を見る静代の眼差しには、失望が満ちていた。「普段はあれほど頭が切れるのに、どうして自分の結婚となると、そこまで判断を誤るの?」景は母親をしばらく見つめたあと、ソファに腰を下ろした。その口調は穏やかだった。「母さん、父さんとの結婚生活を、これまで本当に幸せだと思ったことがあるか?」珍しく落ち着いた声で尋ねられ、静代は一瞬、言葉に詰まった。景の向かいに座ったものの、その視線はわずかに揺れている。「名家同士の政略結婚なんて、どこも似たようなものよ。幸せかどうかは、二の次」景は静かに首を横に振った。「本当にそう思っているのなら、京城の屋敷に、初恋の人と交わした手紙や一緒に撮った写真を、今も大切に保管しているはずがない」一度言葉を切った。「わざと詮索したわけではない。偶然知っただけだ。でも、それこそ母さんが心の底では、愛情のない結婚を一度も受け入れられなかった証拠でしょう」景の声は低く、揺るぎなかった。「俺が望んでいるのは、二つの家が利益を交換するための結婚ではない。二人の人間が、互いの心を選ぶ結婚だ。5年前のことには、表面からは分からない事情があった。そして今、自分の本当の気持ちに気づいた以上、誰であろうと、何があろうと、俺たちの障害にはさせない」静代は勢いよく立ち上がった。顔は怒りで青ざめている。「これだけ長々と話したのは、結局、西尾絃葉以外とは結婚しないと私に言いたいだけでしょう?」「は
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