陽葵にそう焚きつけられ、辰生もここぞとばかりに仕事を持ち出して寧音を言いくるめようとした。「寧音、お前ももういい歳だ。キャリアだってとっくに頭打ちだろ。俺の元を離れて、一体誰がお前を雇うっていうんだ?今すぐ陽葵に謝って、おとなしく会社に戻るなら、今回の退職承認はなかったことにしてやってもいい。そうしないなら、後で本当に仕事が見つからなくて泣きついてきても、俺は知らないからな!」口を開く前に、傍らの親友が見かねて前に出た。「寧音に仕事がないって?あんたたち知らないの?寧音はもう海外の超大手から引き抜きのオファーを受けてて、今日の午後には出発するのよ!今日はその壮行会だったってのに、あんたたちみたいな疫病神に出くわすなんて、本当についてないわ!」親友は辰生を冷ややかに一瞥し、鼻で笑って続けた。「それにね、澤村。あんた知らないでしょ?海外の大手が提示した給与と待遇、あんたの会社なんか比べ物にならないくらい破格なの。あんたから離れれば、寧音はもっと高く遠くまで羽ばたける。あんたのそばにいたこと自体が、寧音にとっては不幸だったのよ!」親友の言葉を聞いて、辰生は呆然とその場に立ち尽くした。心の中で、どうしようもない皮肉を感じていた。自分は十年間、辰生のために馬車馬のように働いてきた。けれど昇給はたったの一度きりで、その額もわずか一万円。昇給後でさえ、基本給は入ったばかりのインターンより二千円高いだけなのに、仕事量は十倍も抱えていたのだ。以前から辰生は、そんな自分に絵空事を並べては宥めすかしてきた。「そんな小さなことを気にするな。結婚すれば会社も資産も全部お前のものになる。その時には欲しいものは何でも手に入るんだから」と。しかし、十年も待った。引き出しに用意していた引き出物のお菓子はドロドロに溶け、招待状もすっかり色褪せたというのに、彼との結婚式は一向に訪れなかった。代わりに訪れたのは、彼の露骨な依怙贔屓と裏切り。彼と陽葵の入籍。そして、二人の婚礼写真だった。一方、自分がこれから入社する海外の大手企業は、試用期間の給与だけでも辰生が払っていた額の三倍以上。本採用になれば五倍どころではない。あの頃の自分は、本当にどうかしていた。こんなにも輝かしい将来を捨てて、偽りの愛を選んでしまうなんて……結局、すべてを失い、
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