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没落した薔薇は、碧夜の星になる のすべてのチャプター: チャプター 61 - チャプター 69

69 チャプター

偽物

「……ジェイド」「そうだ、ラヴィ。聞いてくれ」 そう切り出したジェイドはバロー領で集めた証拠や、地下にいる人達を解放する算段などを話してくれる。 ジェイドが願っていた彼らの解放が、目の前まで迫っていた。 それを実現する為には、ジェイドの傍を離れると、自分で伝えなければならない。「それからこれを」 ジェイドが懐から布に巻かれた本のようなものを取り出す。「何……?」「日記の偽造品だ」「偽造品……?」 布を開こうとした手を握られ、ラヴェルはジェイドを見た。「夜会で必要になる。殿下に渡してくれ」「う、うん……」 ラヴェルがそれを受け取ると、今度はジェイドに抱きしめられる。「ラヴィ……」 痛いくらいに抱きしめられて、絞り出されるようにラヴェルの眦から贖罪の雫が流れ落ちた。 愛されている。 なのに、この人をこれから傷つける。 でもそれが、彼を守る唯一の方法だ。 生きていて欲しい。 例え、傍にいられなくても。 自分さえ傍にいなければ、彼は自分の領地で民と財と、そしてこれからの明るい未来が待っている。「ジェイド……聞いて……」「どうした?」「私……」 ジェイドの視線に狼狽えて、ラヴェルは息を飲んだ。 犯罪に手を染めてまで、ラヴェル・ローゼンを世界から消して、ベル・デルメールとして生かす為、彼は多くの時間を犠牲にして来た。 このままどこかに二人で逃げられたら―― そんな馬鹿げた事まで浮かんで、ラヴェルは涙を流したまま、震える唇を開く。「私……ファルマ様の婚約者になるわ」 時間が止まったような、長い沈黙が
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切り札

 ジェイドと入れ替わりに部屋の扉から戻って来たのは、セルジオだった。 ラヴェルは慌てて涙を拭い、呼吸を整えようと深く息を吸った。 ジェイドが持って来た偽造品の日記をしっかりと抱きしめる。「おやまぁ、綺麗なお顔が台無しですよ」「構わないでちょうだい。でも、流行のお菓子を届けてくれた事、感謝するわ」「泣くほどおいしいとは、罪なお菓子もあったものです」 そう飄々と返して来たセルジオは、ジッとこちらを見ている。「私を泣かしているのは貴方達よ」 苦し紛れにそう言い返すとセルジオは眉尻を下げ、後頭部を掻いた。「参ったなぁ……」 そうボヤくように零したセルジオは、傍にあったソファへと腰を下ろす。 俯くようにして何か考えている様にも見えた。「俺はね、ベル嬢。デルメール男爵の手腕は買ってるんですよ」 そう切り出したセルジオは、似合わない真剣な顔でこちらを見る。 デルメール領でジェイドを数年に渡って見て来た事。 そして彼の手腕がこれからの国に無くてはならない事を確信した、と言う。「俺は最後まで信用しては貰えませんでしたがね。男爵を引き込むには、貴女を使うしかなかった」「それは謝罪のつもりなの?」 ラヴェルはそう語気を強め、一蹴する。 どんな理由があっても、ジェイドを裏切らなければならない事態に陥ったのは彼らの策のせい。 それを今更弁解された所で、許せる話でもない。「許して貰おうなんて思ってはいません、レディ……ただ、少し気が変わりました」「気が変わった?」「ベル嬢に一つ、切り札を差し上げます」 そう言ったセルジオは、その切り札とやらを話し終えると「使うかどうかはベル嬢にお任せしますよ」といつものように飄々とした態度
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真偽

 ラヴェルを射抜く視線の先にいたのは、バロー伯爵に連れられているダフィーニアだった。 不義を働いたはずの女が、皇太子の腕を取ってエスコートされて来たのだ。 隣にいるバロー伯爵も眉を顰め、皇太子に物言いたげな顔をしている。「睨まれているな」 皇太子は少し楽しそうにそう零した。「歯噛みしてますわね」 ラヴェルは平然とそう返す。 ジェイドの姿を探すが、ラヴェルの視界にはその姿は見えなかった。 ほどなくして「ヴェルモナ国王陛下、ご出座――!」と声が響く。 会場にいた誰もが首を垂れ、玉座に王の姿が現れるのを待った。「ファルマ、デルメールへの遠征、ご苦労だった」「お言葉、痛み入ります。陛下」 親子とは思えぬ遠い会話が交わされ、王はすぐさまこう聞いた。「隣の者は?」「私が妃にと望む娘です」「ほう……どこの娘だ」 顔を上げろと言われていないラヴェルは、伏したままだ。 皇太子が「デルメール家です」と短く答えると、違う者が反応を見せた。「あぁ、あの時の怪我をしていたご令嬢だな」 その声はオルレインのものだ。「知っているのか? オルレイン」「陛下……」 オルレインは王に耳打ちする。 ラヴェル・ローゼンを疑っていたオルレインの事だ。 手に入れたい被検体が、皇太子の婚約者として姿を現し、この機を逃すはずはないだろう。「ほぅ……デルメールの娘、顔を上げよ」 ラヴェルはゆっくりと顔を上げ、ヴェルモナ王へと視線を向ける。 王もこちらを興味深く見て「なるほどな」と玉座へ座した。「陛下、お目通りが叶い光栄にございます。ベ
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返答

「王陛下が脱げと仰せなら、そのように致しましょう。ですが、一つお願いがございます」「何だ? 申してみよ」「バロー伯爵がダフィーニア様を殿下の婚約者に望んでおられるというのは、私の耳にも入っております。ですので、ダフィーニア様にも同じように脱いで頂ければ、と」 ラヴェルはそう言ってバロー伯爵の方へと振り返る。 その時初めて、その後方にジェイドの姿を見た。 夜を映したマデイラの海に似たシックな衣装を身に纏ったジェイドが、ただ射るようにこっちを見ている。 ラヴェルは意思を確かめるように、首につけた夜境石のネックレスに触れた。「なっ……何をバカな事をっ! 私の娘は穢れてなどおらぬ!」「得体が知れないのはお互い様でございましょう? 伯爵」「小娘がッ! 何と生意気なッ!」「ご自分の娘に出来ない事を、他人の娘には成せと仰るのですか?」「それはそなたが不義を働いた罪ゆえに申しておる事だ!」「ならば、こちらも証人を出しましょうか? そちらのご令嬢が、どのようにしてその噂を広めたのか」 一瞬、会場が騒然となった。 一歩も引かないラヴェルに、バロー伯爵は「証人……」と顔を引き攣らせる。「なっ、何かの間違いよ! ベル様っ……私はそんなっ……」「ダフィーニア様、恨むなら浅はかなご自分をお恨みになって下さいませ」「ベル様は私が殿下の婚約者候補だから、お邪魔なのねっ? そうでしょう? 私は……」「そんな事は望んでいないのに? ですか?」 ラヴェルはそう畳みかける。 ダフィーニアはそれに言葉を飲んだ。 望んでいないと言えば、王妃になる道は途絶えてしまう。「そもそも、私はダフィーニア・バローを婚約者に望んではいない」 そう言い切った皇太子の言葉に、バロー伯爵は分かりやすく唇を噛んで見せた。「
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沈黙の獣

「ごっ、ご報告いたしますッ! 城門の外に民がっ……」「何事だ? 民がどうしたのだ?」 オルレインの問いかけに、衛兵は息を飲んで「押し寄せていますッ!」と端的に吐き出した。「何だと?」「どこの者か分かりませんが、ベル・デルメールを返せと、皆口々に叫んでおりますッ!」 衛兵の言葉を聞いて、ラヴェルはハッとジェイドを見る。 だが、ジェイドは素知らぬ顔で事態を眺めていた。「何をしている! 早く事態の収拾をっ……」「総出で押さえておりますが、彼らの目的はそこにいらっしゃるベル・デルメール様のようで……」 事態を把握しきれない王は、こちらへと声を張る。「どう言う事だ、ベル・デルメールよ」「存じ上げません。私には何の事か……」 その時、ラヴェルの脳裏に浮かんだのはバロー伯爵領の地下にいるアンドール達だ。 ジェイドはその者達を解放する為にバロー領へ行き、デルメール領で保護する事になっていた。 王家はエルメダの日記もアンドールも民に知られては困る。 それは皇太子も同じ事だった。「まさか地下の者達か……?」 隣で思案している様子の皇太子がそう零す。 闇に紛れているとは言え、リゼルのように一見しても人とそう違いない者もいれば、レヴィンのように人間離れした者もいるだろう。 バロー家で行われていたアンドール政策は、これで隠しきれるものではなくなった。「先導しているのは子供と化け物のようですッ!」 ラヴェルはそれを聞いてリゼルとレヴィンを思い出す。 これに失敗すれば、彼らは投獄。 処刑は免れないだろう。 後方で腕を組み、静観しているジェイドが何を考えているのか。 ラヴェルには全く分からなくなって来ていた。
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愛の為に

「ナハト! 城門を封鎖しろ! 指揮はお前に任せる!」「かしこまりました。一班、城門へ! 二班はこの大広間の外を固めろ! 賓客の方々を守れ!」 会場の隅で事の成り行きを見ていたセルジオの指示に従って、兵士達が動き出す。 皇太子は大広間から出る兵士達の背中に、声をかけた。「首謀者を捕らえたら連れて来い!」 それを聞いてラヴェルは、グッと奥歯を噛み締める。 途端、思い出した。 自分で決めろ――ジェイドの声が、耳を掠めて行く。 最後には「自分で選べ」と言われ続けていた。 今、ここで、その意図を理解するなんて――。 そう思ったラヴェルは、もう一度、夜境石のネックレスに触れた。「殿下……いえ、新王ファルマ陛下」「……何だ? ベル」「彼らの目的が私なら、私は喜んで彼らの元へ参りましょう」 ラヴェルはそう言って低く腰を折り、首を垂れて見せた。「何を言っている。彼らの要求に応じては……」「陛下、民なくして王は務まりません。私は、この国の為、この身を捧げて貴方様のお役に立ちたく思います」「ベル……」「愛すべきは私ではないのです。民を愛さない王は、嫌われますよ」 ラヴェルはそう言いながら、フォルツ少佐へと視線を遣る。 フォルツ少佐は動揺し、あからさまに視線を逸らした。 セルジオから貰った切り札の使いどころは、ここしかない。「何の、話を……している……?」 ファルマも同じように動揺を隠しきれず、言葉が途切れ、震えていた。「愛し合った者同士が、共にいられるわけではないと、ご自身がよくご存じのはずです。陛下」 ファルマが下位貴族であるフォルツ少佐を傍に置くと決めた時、かなり我を貫き通したらしい。 そこに疑問
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衝動

 片手を上げてジェイドを見た。「連れて行って、ジェイド」 その場にいた貴族達はデルメールという名のせいで、ジェイドとはせいぜい親戚くらいに思っている。「喜んで」 ラヴェルはジェイドに掴まれた手をしっかりと握り返した。 振り向く事無く会場を後にしたラヴェルは、人目のない柱の陰に着いた時、ジェイドを強く引き寄せる。 言葉は必要なかった。 見つめ合い、繋がれた手の温もりだけで、一度は離れる事を決意した心が溶ける。 抱きしめられ、ラヴェルもジェイドの背中に回した腕に力を込めた。 どうしてこの男と離れられると思ったのか。 今となっては分からない程に、ラヴェルの心中は彼の香りに包まれている。「ごめんなさい、ジェイド……」「何を謝っている?」「私、貴方を……」「私がお前を諦めると思ったか?」 そう問われて、ラヴェルは顔を上げ、ジェイドを見遣った。 城門の外で地下の者達が押し寄せてくれなければ、今頃――。 自分で決めた事とは言え、その先は孤独で寂しい日々が待っていた事だろう。「言っただろう? 誰が相手でも諦めるつもりはないと……」 未だに城門に集まった民の声は響いている。 その声を微かに聞きながら、ラヴェルはジェイドの唇に自らの唇を寄せた。 触れるだけの、柔らかな口付け。「私が貴方を選んだのよ。もうどこにも行かないわ」 自分を置いて行く――そう言っていたジェイドの顔が忘れられなかった。 首を絞められた時の息苦しさも、あの時の胸の痛みも、生涯忘れる事はないだろう。 あの時の喪失感。 それがあるからこそ、この男と共に生きようと思える。「皆の所へ行こう」
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渇望

 深く口付け、必死に応えようとするラヴェルの顔を愛おしげに眺める。 性急に着衣を脱がし、コルセットの紐を解く。 ジェイドは自分には自制心があると自負していた。 だが、ラヴェルが皇太子の婚約者になると言い出したあの時、その理性はもう既に切れていたのかもしれない。 この美しい宝石を、他の男が抱くなどと許せる事では無かった。 だから、国がどうなろうと知った事ではないと、無謀な策に出た――。 内戦になって、血が流れた所でラヴェルがこの手に戻るならそれで良かったのだ。「ジェイドッ……待って……息が……」 そう言われてジェイドは一旦離れたが、言葉もなく彼の肌へと手を伸ばす。「あっ……」 小さく咲いた肉蕾を指先で転がし、首筋へと舌を這わせる。 甘美なラヴェルの吐息交じりの声が、ジェイドの欲を昂らせていく。「ラヴィ……」 耳元でそう囁くと、ラヴェルは肢体を撓らせ喘ぐ。 ジェイドはその呼名に、ラヴェルが特別に反応する事を知っている。 期待に屹立したラヴェルの息子は、熱を持って白い蜜が滲み出ていた。 その様子を見ながらも、ジェイドはその肉塊に触れることはせず、双果の陰で花開こうとしている場所へと指を宛がう。「んぅっ……」 指先が入っただけで、ラヴェルは息をつめ、腰を上げる。 久しぶりだからか、そこは狭く硬い蕾のように指を押し出してくる。「力を抜いて、ラヴィ」「あっ……」 指を推し進めると、熱いくらいの肉壁がうねる。 雨に濡れた様な蕾が少しずつ開き、水音が跳ねると、指先が奥へ奥へと誘われた。 指を増やし、中の蜜壺を擦り上げ、ラヴェルの声は次第に掠れて行く。 強すぎる快感に「待って」を連呼するラヴェル。 ジェイドはその
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小さな星

「少し休んだらどうだ? ベル」 書斎で契約書や決裁書類に目を通していたラヴェルの元に、ジェイドがお茶を持って現れる。「ここまでやっておきたくて」「じゃあ、それは私が後でやろう」 書類を手から取られて「あ」とラヴェルは不満そうに見た。「夫を構うのが妻の仕事だ」「仕事をしている時の夫は、妻を構わないのに?」「だからこうして今、構ってる」「勝手な人ね」 ラヴェルはそう言いつつも、ジェイドの持って来たお茶を手に取り、ほぅっと息を吐く。 確かに、こうやってお茶を飲んだのもいつ以来だろうか。 思い出せないほど、ここ最近は忙しかった。「散歩にでも行かないか? ベル」 そう言われて窓の外を見ると、一番暑い時間を通り越し、涼しい風が草花を揺らしている。「そうね……気持ちよさそうなお天気だわ」「君に見せたいものがある」 屋敷から連れ出されるのかと思ったら、ジェイドは件の洞窟へ続く道を降りて行く。「あの……ジェイド?」 こんな昼間から? そう問いかけようとしたラヴェルに、ジェイドは「この奥だ」といつもの洞窟を、もっと奥まで進む。 しっとりとしたあの甘い香りに包まれたそこは、岩肌が湿り、いつも湧いている“魔女の秘薬”のせいで汗ばむくらい温かい。 まだ陽の落ち切らない時間だというのに、ここは夜空を映したように薄暗く、碧い星が瞬く世界。 滑らないようにと手を取られ、ラヴェルも慎重に足元を見ながら進む。「奥に何かあるの?」 薄暗い洞窟に一筋の光が見え、向こう側に出口があるのだと気付いた。 人の足で踏み固められたような階段を上り、地上へと出る。 そこは、ジェイドが連行された時、リ
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