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All Chapters of 魔女ドーラの孫(仮): Chapter 161 - Chapter 170

184 Chapters

イティーア男爵

「オルティだってお婆様と離れ離れになるのに、私だけ安穏と守られるわけに行かないわ」「いや、だって……それはっ……」 ずっと離れて暮らしてきた自分とは違い、幼少の頃から育ての親として傍にいたウケイと離れるのだ。 新しい事業に携わるのは王妃にとってリスクが大きい様な気がしてならない。「聞いて、オルティ」「……はい」「昨日は恥ずかしい所を見せたわ。でも、それが理由ではないの。私も、親離れする頃だと思うのよ」「先生は納得されているんですか……?」「いづれこうなる事はウケイも私も分かっていた事。だから、心配いらないわ。ねぇ、ウケイ?」 そう振られたウケイは、また皮肉の一つでも口走るのかと思いきや、思わぬ言葉を口にした。「御幼少の頃より多くの不敬をお許し下さい。立派に王妃となられたラチア様の今後のご活躍を、遠き北の地からお祈りしております」 そう言って侍従らしく深々と頭を下げたウケイを見て、手を離す事にしたのだとオルタナは妙に納得した。 「ウケイ。人生の多くを犠牲にし、私の為に良く働いてくれました。これからは自分の人生を謳歌して、王国の礎となって。約束も忘れないでね」「御意」 長年連れ添ったウケイと王妃の間には切っても切れない縁がある。 それは物理的な距離とは関係なく、きっとこれからも繋がっているものなのだろう。「それにオルティ、一生会えないわけではないでしょ? 約束したじゃない。一緒にモリガンへ行こうって。私はオルティにもウケイにも会いに行くわ」「うん、僕も……あ、いや私も……」 王妃様に会いに、と
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もう一本の懐刀

「少々宜しいでしょうか? オルタナ様」「はっ、はいっ……」 凛とした背の高い彼は、短く切った灰色髪が良く似合う。 軍人の様な威圧感もなければ、どちらかと言えば童顔で親しみやすそうな男だ。「初めまして、アエラス・サリバンと申します。サリバン家の不詳の四男にございます」「あっ! は、初めましてっ……オルタナと申します」「兄上が運命の番を迎えられるとは聞いていたのですが、ご挨拶が遅くなってしまい申し訳ありません」「いえっ、そんなっ……」「早くお会いしたいと思っていたのですが、兄上がオブライアンまで駆り出すと言うので、こちらは寝る間もないほど仕事に追われる羽目になりまして……ねぇ? あ、に、う、え!」 そう言ったアエラスはオルタナの隣にいた公爵を不躾に睨む。「……そう怒るな、ラス。緊急事態だったのだ」「だからって僕に全部押し付けて行く事は無いでしょうっ⁉ この一ヶ月、家に帰る暇もなかったのですよっ!」「すまん、すまん。今度、いい酒でも届けさせよう」「酒で釣ろうったって、そうは行きませんからね! ったく、自由な兄が三人もいると、番と食事をする時間も取れやしません」「番……?」 そう聞いたオルタナに、アエラスは嬉しそうに答える。「あ、はい。私には番がおりまして、名をリーリオンと言います。オルタナ様と同じ男のΩですよ」「男のΩ……」「えぇ、今度是非ルルディの屋敷に遊びに来て下さいね。リィも会いたがっていますから」「アエラスさんはルルディにお住まいなんですか?」「えぇ、ルルディの別宅を兄上に頂戴致しまして
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託された課題

「う、うん。そうだね」 ネロ区の水脈を調べていた王妃とは、水害の酷いアステール河の今後の対策を練っていた。 オミクレーで臥せっていた間に、スーランを連れてネロ区を調べ回っていたそうだ。 孤児院や治療院を建設運営した所で、雨期に水害で流されては元の木阿弥。 まずは安全に暮らせるようにする事が最優先。  それが王妃に託された課題だった。「調べた限りで言えば、水害は殆どケルメスが作った溜め池開放による作為的なものだったのだけど……」 アステール河の氾濫は、ケルメスがあの大聖堂の裏山にある滝壺を堰き止める大掛かりな仕掛けを作り、溜め池状態にしてあった事が主な原因だった。 大聖堂からスーランと馬で駆け降りる際に見た跳ね橋の様な物が、その水を堰き止める。 橋の様に見えたそれは、ただ分厚い壁の縁に過ぎず、上へと跳ね上がるのではなく開閉扉の様に左右へと開くそうだ。 それを雨期になると解放し、人為的に水害を起こす。 それを事前にネロ区の住民に知らせ、自分の采配次第で水害を起こし、予言だと信じ込ませていたらしい。「ただ、被害が一番酷い地域の土壌を調べてみたのだけど、異常に柔らかくて今後も被害を受けないとは言えないわ」「あのU字曲線の所だね」「そうなの、自然な雨期だとしてもあのU字曲線の所は、水の勢いに耐え兼ねて濁流が溢れてしまう」 王妃はそう言って自作の地図を睨んだまま考え込んでしまった。 灌漑工事をするには資金と人手が必要で、完成までに何年もの時間を要するだろう。 兎に角、来年の雨期を迎えるまでに被害を最小限に抑える策が必要だ。  王妃はそれを“最低限の資金で”と考えている様だった。 ドーン王国は別に金に困っているわけでもないし、何なら頼めば大公妃の資金援助も期待できる。 それでも、王妃曰く「これからの為に無駄遣いは出来ない」のだそうだ。「なら、ラティ。このU字曲線
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魔物の舌

 大きな炭鉱が潰れ、職を失った炭鉱夫達が犯罪に手を染めるケースも多い。  奔放なラカンの民が子を産み続ける事で、増加する人口に対し失業率も上がっているらしい。「じゃあ、その失業者をこちらに、という話かしら?」「えぇ、でもそれだけではただの慈善事業。その失業者の受け入れを条件に、ラカンでは硬すぎて加工出来ないと言われているハーツ石を仕入れるのはどうでしょうか?」「ハーツ石って……あの、宝石として何の価値もない石の事?」 そう聞いたオルタナに、スーランはコクリと頷く。「一人に対してハーツ石を1キーロ持参させる。失業者に仕事を与えて貰える上、屑石まで引き取って貰える。持参させれば運搬費はかかりませんし、ハーツ石はラカンでは価値のない物ですから、交渉はスムーズに行くはずです」「その屑石を仕入れてどうするの? 加工出来ないんでしょう?」「えぇ、ですが王妃様達は色々と加工する技術をお持ちですよね。ハーツ石を加工出来れば、強固な武器や研究機材が作れるのでは?」 そう言ったスーランを見て、オルタナと王妃はパチパチと瞼を瞬かせた。 確かにサンノ国のガラスや鉱石の加工技術は他国にも有名で、研究機材などを作る緻密な技法も王妃がサンノ国からドーン王国へと齎した技術の一つだ。 でもだからと言ってハーツ石が加工出来ると決まったわけではない。  けれど、もし出来たら大きな利益を生む事になる。 だってタダ同然で仕入れた物から、今までにない強固な武器や機材が生まれて来るのだ。「勿論、ハーツ石が加工出来るかどうかは賭けですが、もし出来なかった場合はそのハーツ石を使ってアステール河の河縁の補強に使えば良いかと」「凄い……スーラン、凄いね! 1キーロなら子供でも持てる重さだ」 オルタナはそう言ってスーランの肩をバシッと叩くと、スーランは驚いた様に言い訳する。「え、いや……お、いや、私は……」「流石は元商人でいらっしゃる
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緊急連絡

「アガぺは百年に一度しか花を咲かせないの。百年後の両国が、共に開花を喜べる間柄であれば良いと思って。素敵でしょ?」「うん。凄く良いと思う」 王陛下や公爵達が成し得た隣国との和平を、百年後、ここにいる誰も見る事は出来ない。 けれど、綺麗な花が咲いてくれたら良い。 そんな素敵な話をしているのに空はゴロゴロと唸り始め、怒った様に激しい雨が降り出してしまった。 そこに仕事を終えた公爵が迎えに来た。「話は終わられましたか? 義姉上」「えぇ、有意義な時間だったわ」「それは良かった。リィは今日からだったか」「はい。閣下に推挙して頂いたお陰で、また騎士としてお仕え出来ます」「アエラスには文句言われたがな」「申し訳ありません」「謝る事はない。ラスも君の望みは分かっているだろう。じゃなきゃ、屋敷から出して貰えなかったと思うぞ」 オルタナはそう言った公爵に、無意識に呆れた様な視線を向けた。 あんなに溌溂として普通に見えたアエラスでさえ、そうなのか。 やっぱりサリバン家の息子達はちょっとヤバいのだろうか、と。「オーリィ、帰るぞ」「あ、うん。ラティ、また明日ね」「えぇ、また明日」 王妃の研究室を出て長い廊下を渡り、公爵邸の馬車が見える頃、後ろから駆けて来る足音に、公爵もオルタナも黙ったまま振り返る。 一歩後ろから付いて来ていたスーランは、だいぶ前から足音に気付いていた様で「やっぱりノエル少佐か」と呟いた。 深刻な形相のノエルが息を切らして公爵を探し回っていた様だ。「団長ッ! はぁ……良かった、まだ居て下さって!!」「どうした? ノエル」「今し方、ネロ区の調査班から緊急連絡がっ……」「何があった?」「大聖堂の石床が崩落したと」「崩落だと? 被害は?」
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泥の河

「オルタナ、私を見て。ゆっくり息をしなさい」「せんっ……せぇ……」「ドーラがここに居たら、何と言いますか? 自分を助けに来いと言うでしょうか?」 そう言われて、オルタナは唇を噛み締め力なく左右に首を小さく振った。「前に、教えましたね。出来ない事は出来る者に任せなさいと。お前が崩落の現場に行って、瓦礫を持ち上げ人を引きずり出す事が出来ますか?」「でき……ません……」「今、ここにお前に出来る事は一つもないのですか? 何故、ここに来たのです」 そう言われて、オルタナは唇を震わせ「だって……」と零す。「オルタナ、ドーラの事はアラベルや私に任せなさい。ドーラが無事に戻ったら……」「……?」「いえ今は、お前に出来る事をやりなさい。公爵を困らせる為だけに、ここへ来たのではないでしょう?」 そう言ったウケイは泣きそうな、優しい顔で僅かに口角を上げた。 オルタナはボタボタと零れる涙もそのままに、ただコクリと頷いて見せた。「オーリィ、俺に救護は出来ない。部下を助けてくれ」「うん……叩いてごめん、ヴィー様……」「良いさ。気にするな」 公爵に頭をクシャリと撫でられて、オルタナは自分が子供の様に駄々を捏ねたのだと今更ながら気付いた。 頬を伝う不安の雫をグッと片腕で拭い、息を飲んで瞼を閉じる。 ここに祖母が居たら、きっとこう言うだろう。 何してんだい、早く助けに行くんだよ! グズグズするんじゃない! と。「ミレー、スーラン、行こう!」「分かった。指示してちょうだい、オルタナ」「俺は何をすれば良い? オーリィ……って、ちょっと待って」 会話を遮る様にして片手を差し出したスーランは、ジッと耳を澄まして何かを聞き取ろうとしている様だった。「スー
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救世主

「もう少し待ってて下さいね。今、傷口に当てた布は痛み止めが沁み込んだ布なので、少し痛みが和らぐはずです。大丈夫ですからね」 意識の朦朧としている者に通用する手ではない。  けれど、何もせずにいられるはずもないオルタナの言葉に兵士は「うぅっ……」と短く呻く。「ミレー、水が届いたらすぐに処置をするから、彼にずっと話し掛けててくれる? 意識が無くなると怖いから」「分かったわ」「その間に僕は他の人を見て来る」 兵士達は、泥だらけになりながらも怪我人を助けようと動き回っている。  だけど、誰も傷を診れる者が居ない為に統制が取れていない。 オルタナはその中でも一番声を張って指示している兵士に近づき、声を掛けた。「あの……」「何だっ? お前、誰だっ?」「オルタナと言います。魔女ドーラの孫、と言えばお判りでしょうか?」「あっ……団長の⁉ あ、はいっ、すみません。気が立っていて、つい……」「それは気にしてません。ですが、このままでは軽症の方も救えなくなってしまいます。僕の意見を聞いて貰えませんか?」「も、勿論です」 オルタナは動ける兵士を二人一組にして貰い、怪我人の状況に応じて孤児院へ連れて行くのか否かを見極めて欲しいと頼んだ。「動かせない人の所に優先的に僕が様子を見に行きます」「かしこまりました。おい、集合ッ! これより救護隊はオルタナ様の指示に従って動いて貰う!」「いや、あのっ……」 彼の声に集まって来た大柄で泥だらけの兵士達が整列し、一斉にこちらを見ている。 オルタナはゴクリと生唾を飲んで、口を開いた。「み、皆さんもお疲れだと思いますが、もう少し一緒に頑張って下さい。二人一組になって、怪我人の状況を確認して、動かせそうな軽症の方は一番近い孤児院へ連れて行って下さい。怪我が酷すぎて動かせそうにない方を見付けたら、僕が様子を見に行き
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蜜飴

 オルタナは服が汚れるのも手に血が付くのも憚らず、無心になって手当して周り、救護に当たっている兵士達には腰に付けた巾着に入れた蜜飴を配って回った。「全て終わったら沢山ご飯食べてゆっくり休めますから、今はこれで我慢して下さい。手が汚れているので、取って貰えますか? 周りの方にも配ってあげて下さい」「あ、飴……有難い! お気遣いありがとうございます! おい、皆っ! オルタナ様から飴を頂戴したぞ!」「ありがてぇ、腹減って死にそうだったんだ」「甘いもの食べると疲れが取れるんだと、うちのが言うとったわ」 オブライアンに頼んでいた大量の痺れ薬と傷薬で大方の兵達の処置が終わる頃――。「最後の班が戻って来たぞ!」 誰かがそう叫んで、皆が大聖堂の方へと意識を向ける。 大聖堂へ救助に向かっていた公爵を先頭にウケイやノエルと共に、複数の疲弊した兵士達と荷馬車が数台降りて来るのが見える。 最後尾にはアラベルの姿も見えた。 婆ちゃん――――……。 オルタナは足の骨が折れていそうな兵士の手当てをしながら、公爵達の所へ走って行きたい衝動を堪えた。 それに気付いたのはオルガノだった。「オルタナ様、ドーラ殿が心配なのでしょう? 行って下さい」「……いえ、大丈夫です」 本当は行きたい。 でもこの場を放り出せない。 そんな事したら祖母は怒るだろう。「では誰か走らせましょう」「え?」「おい、お前っ! 団長の所へ行って、ドーラ殿の状況を聞いて来い!」「はっ」 声を掛けられた若い兵士は、一瞬の迷いなく走り出そうとしたので、オルタナは慌てて引き留めた。「待って下さい! 向こうへ行かれるなら、ウケイ先生に伝言を……」 オルタナ
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夜を越える

 寝台には真っ赤な血を流して横たわっている重篤な兵士と、深刻な顔でその兵士の治療に当たるウケイがいた。「先生……」「来ましたね、オルタナ。手を貸して下さい」「は、はいっ」「傷口にかなりの細かい瓦礫が入っています。これを取り除かなければ縫合できません」 オルタナはまず寝台脇に置いてあった樽の水で自分の手を清め、ウケイが渡す小型の火ばさみの様なもので、見える瓦礫を抓んで除いて行った。「彼の名はラリー。つい最近子供が生まれたばかりの新兵です」「お知り合いなのですか?」「いいえ、先日新兵の訓練に呼ばれた際に少し話をしただけです」 そう言ったウケイは「名を呼び続けて」と付け加えた。「ラリーさん、もう少し頑張りましょうね」 オルタナは言われた通りに声を掛け続ける。  ウケイは何やら錠剤の様なものを取り出しラリーの体内に直接それを埋め込む様にして入れた。「先生、それは……?」「お前を救ったドーラン一族の妙薬には劣るでしょうが、私が作った自然治癒能力を爆発的に底上げしてくれる薬です。本来なら飲ませる薬ですが、直接入れます。まぁ、未承認の薬ですが」「でも先生が使うって事は、ご自身での治験もお済なのですよね?」「怪我をする事自体が少なくて十分とは言えませんが、命に関わる事は無いと思われます。ラリー、生きなければなりません。妻子が待っていますよ」 オルタナはウケイの縫合処置が終わるまでラリーの額に滲む汗を拭き、汚れた部分を綺麗にして行った。「ラリーさん、ここに先生が居た事は幸運です。助かりますよ。絶対に」 そう言ったオルタナにウケイは手を止めずに独り言の様に話し出した。「幸運ですか……確かにそうかも知れません。彼を助けると言う事は、彼に繋がる人を助ける事にも繋がっている。彼が生きる事で、幸福な時間を手
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唐変木

 あぁ、婆ちゃんか。 愚図とか鈍間とか、すぐ口の悪い事言うんだから。 でも良かった、喋る元気があるくらいなら大丈夫だ。 そう思いつつ、またすぐに意識がゆっくりと沈んで行く。「私には名乗り出る資格がない」「……あんたが探し出せなかったのも無理はないさ。私らは早い段階から追われていた。エヴィ様の妊娠が分かった時、その追手から逃げきれないと思って一時的に海を渡ったんだ」「あぁ、それでキャンベルに……?」「一年ちょっと居たかね。大公に事情を説明して、無事に出産を終えるまで匿って貰った」「そうだったのですね」「大公家には原初のΩが嫁いだという古い記録がある。行けば保護して貰える確証があった。だから滞在中は、存在を隠蔽して欲しいとお願いしてあった。いくらあんたでも探し出せなくて当然だ」「そうでしたか。では、オルタナはキャンベルで生まれたのですね」「あぁ。生れて半年でエヴィ様がどうしてもモリガンへ行くと言って聞かないもんだから、乳飲み子抱えて戻って来たのさ。あんたが先にモリガンに着いてるかもしれんと思っていたのかもね」「そう、ですか……そこでアラベル達に遭遇した……」「カタアシはグレンダラフ王から私らを逃がそうとしたんだ。だがそれがバレて同胞に足を撃たれた。エヴィ様は自分を助けようとした男を放って行ける方じゃあない」「そうですね……」「オーリィと夜葡萄の種を半分、預かった。容姿の違い過ぎる私じゃあ、囮にはならないと言い張って、暗い路地を走って行った後ろ姿は今でも忘れんよ。主を一人で行かせた。罪深い事だ……」「いいえ、オピス。そなたが居てくれなければオルタナはここまで育っていません」「それを言うなら種がなきゃこの子は産まれてないがね」「オピス……」「存在を知らなかった事を悔やむのは勝手だがね。知ってからも知らん顔するのは、あんたの都合じゃないのかね」「たった一人の最愛を守れなかった私が、今更どんな顔して父親だと名乗れば良いのか分からないのです」「だから唐変木だって言うんだよ! 天と地が引っ繰り返ろうが、空から神様が降って来ようが、オーリィの父親はあんたしかいないんだっ! これからの方が長いってのに、つべこべ言うくらいならさっさと言っちまいな!」 祖母の声に、オルタナは「婆ちゃん……うるさ……ぃよ」と寝惚け、声のする方へと寝返りを打った。
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