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All Chapters of 魔女ドーラの孫(仮): Chapter 171 - Chapter 180

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仲良くしてね

 祖母の暴言によりウケイが自分の父親だと暴露された後、ウケイは観念したように「すまない」と謝り続けた。 何に対して謝っているのか分からなかった。  だが、知らずにずっと父親と一緒に行動していたのかと思うと不思議な感じがして、オルタナはジッとその珍しく不思議な父親と言う存在を観察してしまった。 禿頭で細身で年齢不詳のその“父親”は、確かに運命の番を探しているのだと言っていたし、アウルム修道院の遺体にエヴレカと言う名を付けたのも彼だった。 母と自分の容姿が似ていると言う事は、随分前から向こうは息子だと知っていた事になる。 王陛下から「父親捜しを手伝ったらどうだ?」と言われていたが、後から聞けば周りも皆周知の事実であれは揶揄われていたらしい。「何故……?」 そう短く問うオルタナに、ウケイは「資格がない」と答えた。 自分の子供がいる事を知らずに、母国の立て直しと王妃の教育に時間を費やして、唯一無二の番を死なせてしまった事。 息子に過酷な子供時代を送らせる事になってしまった事についても、自分を許せずにいるとその父親は項垂れた。「でも、先生が居なかったらサンノ国の人達ももっと大変だったかもしれないし、ラティだって……」「一番大事な家族を守れなかった事に、自分が納得出来ずにいるのです」「母さんはどうだったか分からないけど……と、父さんが生きていて僕は嬉しい……よ?」 父さん――気恥ずかしくもそう呼んでみて、初めてこの人が父なのだと自覚した気がした。 気が済むまで謝り倒したウケイが遠慮がちに抱擁を求める。  その姿は、何だか可哀想なくらい落ち込んでいて、オルタナは子供の様にその胸に飛び込んで細い腕でウケイの背中をギュッと抱きしめた。 初めて知る父の匂い。  父の体温。  それは公爵がくれる温かさとは全く別物で、祖母に似た匂いがしたのを覚えている。「こっちで一緒に暮らそうって言ったんだけどね……」
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再生の地

 支度を終えて待っていたスーランを伴い、赤鹿の引く馬車で旧軍の宿舎だった建物まで急ぐ。 そこの内装を改装して仮の医薬院にする予定なのだ。 区内よりも遠方から来る貴族の子息令嬢の方が多いと予想される。  その為、この寒い北の地で不自由なく勉強しながら、生活出来る場所が必要だった。 ウケイが作った試験を突破した者だけが入れる狭き門で、ある程度の学力がないと医や薬の事を学ぶには難しい面もある。 だから最初は基礎教育を受けた貴族の子供らが主になるだろう。 ウケイは家督相続出来ない第二子以下の就業率にも、貢献出来るのではないかと言っていた。 文官になるにはそれなりに伝手や後ろ盾が必要だ。  誰でもなれる訳ではないのだ。  だから誰でも入れる国軍に在籍する者は多い。 だが剣技に向いていない者が軍に放り込まれて無駄に剣を振り回すより、向いている事に従事出来れば怪我人が減る、という事らしい。 それに最初はウケイとオルタナが教える事になる為、一期生は三十名程の予定となっていた。「おはよう、父さん」「あぁ、おはよう、オルタナ。スーランも、おはよう」「おはようございます、ウケイ様」「今日も雪が凄いな……」 南国出身のウケイは、厚手の毛皮を着て埋もれる様にフードを被って尚、寒そうだ。 北の時計塔に連なる様にして建っているその宿舎は、石塀に囲われた殺風景な三階建ての建物で、結構な広さがある。 エヴレカ区では雪が融ける春にならないと新築の建物に着手出来ない。  なので、この建物を仮の医薬院としてスタートさせるのだ。「まぁ、まだ序の口だけどね。もう一月もすれば膝まで埋もれるよ」「そうか……かなり古そうだが、ここは本当に使えるのか?」「建物自体は頑強だけど、軍の兵士達が使ってた宿舎だからね。子供には少し怖いかも……暖炉とか寝台はちゃんとあるけど、どの程度手入れされているかも分からないし……」
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親子の話

「父さん、あんまり覗くと煤で汚れちゃうよ。この部屋なら二十人くらいは入りそうかな?」「あぁ、まぁ小さい子らはそんなに人数居ないだろうけれど」「ねぇ……本当に僕が小さい子を教えるの?」「古代語の基礎を教えられるのはお前しかいないだろう? それに、お前だけじゃなくミレー中尉にもお願いしている事がある」「ミレーに?」「あぁ。ミレー中尉の母君は王宮勤めの侍女達に講師をしているだろう? だから退団すると聞いた時、幼い子らにマナーの講師をやって貰えないかと頼んでおいた」「マナー?」「貴族の子息令嬢は幼い頃からマナーレッスンを受けるものだが、医薬院に入る子の中には不十分な子もいるだろうからね。出自に関係なく生徒を募るつもりだから、知識だけあって教養がなく仕事にならないなんて事になるのは本末転倒だろう?」「あぁ、そっか……だからミレーは実家に帰ってたの?」「母君にもう一度再教育して貰うと言っていたよ」 貴族と言うのは作法や教養のない者を相手にしない。 もし平民から学徒を募って優秀な子がいたとしても、平民と言うだけで貴族達は相手にしないだろう。「お前の側付きをしながらだから、週一回くらいの少ない授業になるだろうけど、手紙の書き方やダンスの基礎、お茶の淹れ方なんかも知っていて損はないからね」「確かに……でも、ミレー先生は厳しいからなぁ。ちっちゃい子が泣かないと良いけど」 オルタナがそう言って笑うとウケイは「それは困るな」と眉尻を下げて困った様に笑った。「父さんだってラティに厳しかったじゃない」「……あの子はちょっと特殊だからな」 そんな話をしながら二階への階段を上がり、個室を一つ一つ覗いて行く。「特殊って?」「物の覚えが異常に早くて、悪知恵が働く。三歳にして気に入らない大人を川に落として笑っていた時には、悪魔の子かと思ったくらいだ」「えっ……⁉」「ラティ様
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飴の男

 今は亡き母の話を聞く度に、ウケイの顔が見た事ない程柔和になるのを見るのが好きだ。 母は愛されていたのだと知る事が出来る。 父がどれほど母を愛しているのかも。 その二人の間に生まれたと言う事実が、昔“出来損ないΩ”と周りから揶揄された半端者の自分を少し好きにさせてくれるのだ。 それと同時にあの寂しかった十年を思う。 両親がいてくれたら、なんて詮無い事を思うのは無意味だと分かっている。 侘しく暗い宿舎の中から見る雪原の眩しさの様に、その妄想の日々は戻らない。  手に入らないのに美しく煌めいて見えるのだから、仕方ない。 (仮)でも魔女ドーラの孫でなければ、出来損ないΩでなければ、サリバン公爵に出会い運命の番になるなんて未来はなかったかもしれないのだ。 そんな感傷的な思いに引き摺られているのか。  オルタナは文机と寝台以外何にもないまるで独房の様な部屋に、子供達が帰りたくなるのではないかと一抹の不安を覚えた。 ただでさえ寒くて外に出るのが困難なこの場所では、心を平穏に保てずに塞ぎ込む者もいる。 祖母は寒い所にはよくある事だと言っていた。  けれど、親元を離れて暮らす子供達にそんな日々を過ごさせる訳にも行かない。「何か……この部屋の寂しい感じ、どうにかならないかなぁ……」「まぁ、確かに。大人でも気が滅入りそうな場所ではあるな」「あ、そうだ。街のご婦人達にお願いしてモリガン織を作って貰うのはどうかな? 冬の間のいい仕事になると思う」「モリガン織……と言うのは、あの壁に掛けたりする絨毯の様な物か? お前達が住んでいた家にもあるな……」「そうそう。あれは壁からの冷気を防ぐ為にあるこの地の名産品なんだ。子供が喜びそうな図案を織って貰ったら部屋の雰囲気も明るくなりそうだけど」「お前の家にあるのは何だか不気味な感じだったが……」「あ、あれは婆ちゃんが古代語の基礎を織って壁に張ったんだよ。早く覚えられる様にって……だから何か怪しい呪
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オルタナ・ブルー

 オルタナが困った様に眉尻を下げると、ウケイはふっと笑って頭を撫でる。「まぁ、半年は長すぎるが」「でしょ⁉ ちょっとしつこぃ……」「ははっ、お前の母親とも似たような事で良く喧嘩した。警戒心が強い癖に、一度懐に入れると無防備になって誰からも愛されてしまう。本人は無意識だから気をつけようがないらしいが、こっちからすればどっかに閉じ込めてやりたいくらいだったさ」 オルタナは王妃が言った「監禁されちゃうから」と言う言葉をふと思い出していた。 もしかして王妃はウケイに監禁された事があるのだろうか。 母でなくともこの人は大事なものを閉じ込める癖があるのだろうか、と。「ふっ……その喧嘩、どっちが勝つの?」「そりゃお前、惚れた私が負けるに決まっている」「あははっ、母さん強いんだね」「そうやって臍を曲げている時間があるなら、愛さなくて良いのか? 時間が勿体ないぞ、と脅しをかける様なヤツだ。怒っているのが馬鹿らしくなる」「ふはっ、どう言う脅しなの」「愛して欲しいと強請られて怒り続けられるαはいない。エヴィは確信的にそう言う技を使って私を転がしていたぞ」「あははははっ……父さんは知ってて転がされてたの?」「愛しくてなぁ……」 そう言ったウケイの声が愛おしさと寂しさを綯交ぜにした様な聞いた事のない声色で、オルタナは一瞬、泣いているのかと思った。 窓辺に立って外を見るウケイは、凍ったスコス湖に反射する陽の光に眸を細める。「一緒にこの景色を見たかったなぁ……お前と、三人で」「父さん……」「来春はあの森に夜葡萄の種を蒔いて、ここにも子供達の声が響くだろう」 ウケイが指さしたのはラカンとの国境がある森だ。  夜葡萄の再生はエヴレカ区でも一番雪深い森で行われる事が決まっている。 ラカンとの和平交渉の際、不可侵条約が結ばれたとは言え金になる夜葡萄を国境近くで栽培
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邂逅

 馬車を走らせ到着したのは旧モリガン邸だった。  ここはモリガン伯爵が爵位を剥奪された後、和平交渉が行われた場所でもある。  その為、国外の要人やゲストを招く為の迎賓館として使用される事になっている。 歴史的にも古いモリガン邸は、建築物としても価値があるのだそうだ。「お待ちしておりました、オルタナ様。ウケイ様も」「今日は世話になる、オブライアン」「オブライアンさん、ごめんね。言い出したのは僕なのに、任せっきりになっちゃって……」「いえ、準備は滞りなく。オルタナ様もお召し変えを。旦那様もじき到着なさる頃ですので」「うん」「スーラン、私がオルタナ様のお傍にいる間に、お前も着替えて来なさい」「はい、師匠」 今日はミレーが王都からエヴレカ区へ来る。  なので、ミレー達の婚約のお祝いをしてあげたいと公爵に願い出て、オブライアンにも協力して貰っていた。 ノエルは次男で大々的に婚約発表をする必要はないと考えているらしく、公爵はそれを少し気にしていたのだ。 あの二人の事だから、このまま何もせずに結婚してしまいそうだ、と。「ミレーはまだ?」「今さっきノエル少佐がお迎えに出られた所ですよ」 オブライアンに着替えを手伝って貰いながら、オルタナはふと首を傾げる。 何だか衣装が華やかだ。「何か……服が豪華過ぎる気がする……」「旦那様がご用意為されました。久しぶりだから着飾らせようと仰って」「っとに、もう……。主役は僕じゃないって言うのに」「それでもオルタナ様はサリバン公爵の正式な婚約者でいらっしゃいますから、サリバン家の威光も背負って頂かねばなりません」「そう言うものですか……?」「そう言うものです」 支度を終え、ウケイを待たせている応接間へと向かう途中、正面玄関から誰か来るのが見えた。「……え? ラティ? と、王陛下……?」「オルティッ!」 驚いたオルタナに、王妃は無防備に飛び込んでくる。「わっ! ちょっ……え? 何でっ?」「ヴィンスが連絡してくれたのよ。こう言うのは人数が多い方が良いでしょ?」「いやでもっ……王陛下まで……」 オルタナはハッと気付いて、片膝を付き首を垂れた。 御前で挨拶もせず、不敬にも程がある。「申し訳ありません。王国の昴レイモンド王にご挨拶申し上げます」「久しぶりだな、オルティ。そ
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邂逅 Ⅱ

「お陰様でね。もう杖も要らないくらいなんだが、雪で滑っちゃ元も子もないからね。カタアシを杖替わりにしてんだよ」「ははっ、婆ちゃん。親父さん、貴族になったのに杖替わりとか失礼だよ」「良いんだ、オル坊。俺はドーラの役に立てるのが嬉しいからな」「……相変わらず婆ちゃん好き過ぎだよ、親父さん」 いつもの様に悪態をついているが、元の姿に戻った祖母がアラベルの腕を取っている。  その姿は、それなりに見える。 もしかしたらこの二人が結ばれるなんて事もあるのだろうか……? そんな妄想をしていると、着飾った公爵が姿を見せた。 黒を基調にした衣装の中にスコス湖の様な美しいブルーの装飾品が映える。 壮麗なその姿は相変わらず、立っているだけで色香を振りまいている様だ。「こんな入り口で固まって、何事です? オーリィ、お客様を広間にご案内しないのか?」「あっ! そうですよね。すみません、こんな寒い所でっ……皆様、広間へ」 今回のこの祝いの席を設けたいと公爵に願い出た際に、貴族の女主人が行うお茶会や晩餐会の主催としても勉強するように言われていた。 自宅に招いてパーティなどを催す際、仕切るのは女主人の役目だ。 今回は身内だけだと思っていたオルタナからすれば、段取りさえ不備なく行えば及第点だろうと思っていたのに、ゲストが豪華過ぎてもう失敗した様な気になってしまう。「兄上も義姉上も、遠い所ようこそお越し下さいました」「いや、雪の降るエヴレカ区は久しぶりだからな。楽しみにして来たよ」「義姉上も、お身体の調子は大丈夫ですか?」「えぇ、南方から来たからとても寒いけれど、皆に会えてとても嬉しいわ。誘ってくれてありがとう、ヴィンス」「いえ、番の大事なご友人ですので」 オブライアンに用意して貰った料理が所狭しと並ぶ広間に陛下達を誘い、ノエルとミレーの到着を待っている間、それぞれが歓談し邂逅を喜んでいた。
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希望

 その隣にはいつの間にか着替えを終えて戻ったスーランが控えている。 開かれた扉の向こうにはノエルとミレーが腕を組んで立っているのが見え、二人共、夜会の時の様に着飾っていた。「ようやく主役の登場だな」 公爵のその言葉にノエルが「お待たせして申し訳ありません」と頭を下げる。 ノエルはいつもより少し緊張しているように見えた。「ミレー……久しぶり。待ってたよ」「オルタナ様、またお傍にお仕え出来て光栄です」「今日も素敵だね、青灰色のドレス、良く似合っているよ」「オルタナ様も素敵ですよ。まるで夜葡萄の様な美しい黒」「えっ? あ、そう……?」 お互いに褒め合って、見合って笑う。 久しぶりに会ったミレーは、騎士だった頃より少し女性らしく柔らかな印象を受けた。 公爵の挨拶で始まったノエルとミレーの婚約の祝いは、アットホームなパーティの様で、皆がそれぞれに自由に食事と会話を楽しむ。 ノエルは王陛下や公爵から冷やかされて対応に困っているし、ミレーはそそくさとその席から逃げてオルタナと王妃の傍で困っているノエルを見て笑っていた。「ノエルの事、助けなくて良いの? ミレー」「助けになんか行ったら巻き添えを食うじゃない。墓穴を掘りに行くくらいなら、ここで眺めてる方がマシよ」「でも、ノエル少佐にあの兄弟は手に余るんじゃない? ミレー中尉」「私が行っても火に油です、ラチア様。何なら玩具が一つ増えるだけですもの」 そう言ってミレーは、片手に持ったグラスに口を付けて笑った。 アルコールのせいなのか、ほんのりと頬が色付いていつもより隙がある。 美しく気品に溢れたミレーは、少し微笑んで真っすぐにこちらを見た。「オルタナ様とラチア様には、一つご報告しておきたい事があります」 急にそう言われて、オルタナは目を瞬かせた。
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狭間色

「半年前にドーラ殿から薬を貰った際に、こう言われたのです。騎士である事と命を授かる事、どちらが大事かよく考えてごらん、と。騎士を辞めて、子に恵まれれば悔いはありませんし、子が出来なかったとしても、オルタナ様のお傍にお仕えして、いづれご懐妊された時、一緒にお子を育てる事が出来たら幸せだな、と」「ミレー……」「ウケイ殿からも講師のお誘いがありましたし」「ホント、うちの家族がごめんなさい……自分勝手な人達ばっかりで」「ふふっ、いいえ。全てはオルタナ様と、ドーラ殿のお陰です」「僕は何もしてないよ……」「それでも、オルタナ様がヴィー様と出会いご縁が無ければ、きっと私がドーラ殿に出会うご縁もなかったでしょうから」「そうなの。オルティって不思議よね。縁を繋いでしまう力があるのよ」「んぇっ⁉ 何それ、ラティ……」「きっとエヴレカ様から授かった力なのだわ」「母さんから……?」「だって、ここにいる皆はエヴレカ様に呼ばれて集まった様なものだもの。オルティがそれを繋いでくれたから、こうして皆で笑い合っていられる」 王妃に母に呼ばれたのだと言われて、そうなのかもしれないと、思う。 母と得体の知れない植物がアウルムの修道院のあの冷たい無縁墓地の泥の中から見つかった。  あの事が無ければ、父が生きている事も知る事はなかったかもしれない。  王族に連なる方々とこうして肩を並べて同じ時間を過ごすなんて、夢でさえ見る事は無かっただろう。 何より祖母はまだ北の時計塔に捕らわれ、公爵が殺人犯だと触れ回ってあの家から連れ出してくれなければ、本当に罪人として裁かれていた可能性だって否めないのだ。「母さんに感謝しないと……」 そう呟いたオルタナに、王妃もミレーも言葉なく微笑みで返す。 ふっと視線を感じて顔を上げると、公爵と目が合った。 こちらへ来いと言われている様で、オルタナは王妃とミレーに断って素直に公爵の傍へと歩み寄る。
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導く者

 あの小さな家にウケイが引越してきた際に、オルタナも片付けの手伝いに行った。  その時、屋根裏部屋の物置から“母のショール”が出て来たのだ。 いわゆる夜の国で言う所の“嫁入り道具”である。  それは、番であるウケイや同族の皆が糸を染めて、侍女であった祖母が編んだものだった。「オピスに叱られながら私も編んだよ」 ウケイはそう言って懐かしそうにそのショールを広げて見せた。「父さんも編んだの?」「少しだけな。殆どはオピスが作ってくれた」「どうやって作るの?」「こうやって指で編むんだ」 少し太めの柔らかい毛糸を指で編むその技術は、寒い夜の国ならではの技法なのだとか。 道具が無くても作れる上に、指を動かしている事で指先が凍える事もない。 最初こそ教えて欲しいと頼んだのは、父親との時間を過ごす言い訳だったのかもしれない。  でもいつも公爵との事でお世話になったノエルとミレーに、何かしたかったのも嘘じゃなかった。「俺も糸を染めたのは初めてだった」 そう言った公爵に、ミレーが驚いた様に聞き返す。「ヴィー様もやって下さったのですか?」「お前達の縁者として、俺がやらないでどうする」「ちゃんと出来ました? 団長。染料とか扱った事無いでしょうに」「それはお前も人の事は言えんだろう? ノエル。案外面白かったぞ。兄上も義姉上と一緒にやってくれたんだぞ」「えっ⁉ 陛下までっ?」 驚いたノエルがそう言ってぎこちなく王陛下へと視線を寄こすと、王陛下はにっこりと笑って答える。「ラティに教えて貰ってな。なかなか楽しい作業だったぞ」「ありがとうございます! 皆様も、本当に……」 そう言って頭を下げる二人に、皆が温かい拍手を送る。 両陛下はその姿を見て「この場を借りて」
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