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約束

「鹿笛って人間には聞こえないらしいんだけど、俺、聞こえちゃうんだよね」「スーラン、耳良いもんね」「まぁ普通じゃないらしいけど、他人に聞こえないなら都合が良いからさ。親父から大聖堂へ行けって連絡があって……」 向かっている途中に王妃を乗せた馬車と遭遇したスーランは、護衛を全員気絶させ、王妃特製の睡眠薬で眠らせる事にした。 その護衛達を見つからない様に叢へと隠して、王妃からある程度の事情を聞いて護衛の衣服と祈りの間の鍵を追剝し、大聖堂の裏山へと来たらしい。 そこでオルタナが落とした公爵家の家紋の入ったハンカチを見付けたのだと、ハンカチを抓んで振って見せる。「ラティとダリスは?」「見つからない様に隠れて貰ってる」「オーリィ、どっか痛い? 何か動きが変」「……大丈夫」 本当はさっきから背中が疼いて痛い。 でもそれより、とオルタナはスーランの顔色を診て、確かめる。 僅かな間でもあの蒸気の中にいたスーランの状態も気になっていたからだ。「スーランは体、変じゃない? 大丈夫?」「うん。俺、親父と一緒で鼻がバカだからさ。フェロモンとか効かねぇの」「そうだったんだ……」 スーランは戦争孤児で幼い頃親父さんに拾われた子供だ。 血が繋がっていないのに、似ているなんて不思議だ。「凭れかかってて良いよ」「あ、ありがと……」 スーランが乗って来た馬の前側に座らされて腰を抱かれるのが、少し居心地悪い気がした。 兄弟の様に育って来た隣の肉屋の息子は、いつの間にこんなに手が大きくなったんだろうか。 二つ年上だし、αだから昔から体格差はあった。 けれど、
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物言わぬ獅子

 巨木の木陰に隠れる様にして馬を繋ぎ、下馬したオルタナとスーランは鉢合わせた馬車から当人達が出て来るのを盗み見ていた。 先に出て来たのはケルメスで、遅れて大公妃が降りて来る。 少し離れた場所から見ているオルタナには話し声までは聞こえていないが、スーランにはその会話は丸聞こえの様だった。「行ってくる」「うん。気を付けて!」 スーランは腰に付けた剣を抜き、背後からケルメスに忍び寄る。 大公妃からは丸見えだが、それに気付いても大公妃は眉一つ動かす気配はなかった。 スーランが何をしようとしているのかをまるで分っているみたいに、ケルメスの気を惹き足止めしている。「動くな」 そう言ってケルメスの首元にスーランが剣を突きつける。 大公妃はそれを見て、満足そうに笑った。 この人はケルメスの悪事を知っている。 その顔を見てオルタナは大公妃はこちら側なのだと確信出来た。 そう思った瞬間、ケルメスの馬車からもう一人降りて来る――。「スーランッ! 後ろぉっ――――!!」 スーランの背後に降り立った剣を振りかざしている護衛の姿に、オルタナは思わず駆け出していた。 だが、その刹那。 大公妃が右手で何かを投げると、背後に現れた護衛は絶叫しながらしゃがみ込む。「ぎゃぁぁああっ!!」 顔を押さえたその護衛は悶絶し、手の隙間から血を流している様に見えた。 何かが顔に刺さっているらしい。 隠れていろと言われたのに飛び出してしまったオルタナは、その状況に驚き、ふいにこちらへと襲い掛かって来る護衛に後れを取る。 顔から血を流し興奮しているその護衛に掴まれ、オルタナはその力の強さに振り払う事も出来ず羽交い絞めにされてしまった。「オーリィッ!」「うぐっ……
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金の君 銀の君

 普段穏やかな人が怒ると怖い――。 まさにそれを体現しているかのような、静かな怒りの中に震える程の畏怖を感じられる。  オブライアンには王妃とダリスを迎えに行って貰い、残ったメンバーでケルメスとその護衛の身柄を拘束し、大公家の馬車で護送する。 拘束されていると言っても狭い車中に膝を突き合わせて乗るのが嫌で、オルタナはスーランが手綱を引く御者台の隣に乗せて貰う。 ガラガラと坂を下る立派な馬車の騒音に紛れて、スーランが呟く。 ――来た。「何か言った? スーラン」「いんや、何でもない」「そう?」 確かに何か呟いたように聞こえたのに、とオルタナは首を傾げた。 だが聞き間違いかと思い、深くは問い質さなかった。「さっきは助けてくれてありがとうね、スーラン」「滅相もございません、オルタナ様」「ちょ、止めてってば!」「ははっ」「師匠……オブライアンさん、厳しいの?」「うーん……厳しいって言うか、凄い圧? があるって言うか……」「あぁ……何となく分かるかも」「ド正論で隅から隅まで詰められて逃げ場が無くなる……みたいな。すげぇ小言言うし、物言わぬ獅子とか絶対嘘じゃんって思ってた」「あははっ、スーランの苦手なタイプだ」「ちょっとドーラに似てんだよな」「婆ちゃんに?」「絶対許してくれないし、ノルマ熟さないと寝かしてもくれないんだけど、ちゃんとやると褒めてくれんだ」「確かに、婆ちゃんもそういうトコあるね」「最初はうるせぇおっさんだって思ってたけどさ。でも、師匠のお陰でオーリィ―の傍にいられる。感謝してるよ」 そう言ったスーランにオルタナは、公爵がもしスーランをナタリスに預けていたら……。 そんな余計な妄想をしてしまい、身震いした。 アステール河の袂まで戻って来た。 オルタナ達一行を待っていたのは、真白い海軍の軍服を着た金髪の男と、本物の大公妃だった。「エヴレカの子!」 大公妃はそう言ってオルタナを抱きしめ、隣に立っていた白い軍服の美丈夫はお茶目にウインクして見せた。「本当にエヴィにそっくりだね」「あ、あの……」「私は大公の金の君と呼ばれているカロス・キャンベルだ」「は、初めまして……オルタナと申します」 抱きしめたまま放してくれない大公妃に、どうしていいか分からないオルタナは、カロスに助けを求める様に眉尻を下げた。「
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封鎖

 ドドドドドドと言う大群が押し寄せる様な地響きが聞こえた。  ふいに身を竦め、視線の先にはためく国軍の軍旗を見付けて目を見開いた。 黒い軍服を着たサリバン公爵が先頭になって、その両脇にはノエルとミレーの姿もある。 その後ろに数百名の兵士が列をなしていた。「ヴィー様……」 モリガンにいるはずでは? モリガンはどうなったの? でも、公爵がここにいると言う事はモリガンはきっと無事のはずだ。「これよりネロ区全域を封鎖! 抵抗する者にだけ攻撃を許可する。それ以外の者には一切危害を加えるな!」 その公爵の号令を皮切りに、国軍はネロ区の全域へと小隊ごとに分かれて行く。 オブライアンが迎えに行った王妃とダリスが遅れて到着し、公爵の姿を見て「レイは?」と泣きそうな顔で呟いた。「ラティ、きっと大丈夫だよ」「レイ……ここには来てないの?」「ラティ、落ち着いて」「レイに防衛戦の指揮なんて無理よ。何でヴィンスが行かないの? 何でヴィンスがこんな所にっ……」 そう言った王妃を宥める様に口を開いたのは、本物の大公妃だった。「ラチア王妃、陛下はモリガンで和平交渉に尽力されています。大丈夫ですよ、戦争ではないのです」「戦争ではない……? 本当ですか? マダムキャンベル」 そう言いながら、よく似た偽大公妃に気付いて王妃は目を瞬かせた。「え? どういう事?」「王妃様、あの偽物は私が許可したサリバン公爵の工作員です」「工作員……え? ずっと⁉」「アラベルと申します。恐れながら夜会から潜入させて頂いておりました」「……オルティは知ってたの?」「いや、僕もさっき知った所で……」「またヴィンスに騙されたって事⁉」「そう、だね……ははっ」「それにマ
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呼ぶ声

「私がネロ区へ行きたいなんて言ったから……?」「ラティ、僕はラティが来てくれて心強かったし、一緒にお出かけ出来るの嬉しかったよ」「オルティ……」 涙をこらえる様にして唇を震わせた王妃を、オルタナはぎゅっと抱きしめる。 頑張ったのにアラベルの要らん一言で、また傷ついてしまった。 一緒に行きたかった王陛下を放って、王妃が我儘を貫き通したみたいになったじゃないか!「あ、あの……すまねぇ、オル坊」「親父さん、最低だよ」「すまねぇ……」「そんなんだから、婆ちゃんに嫌われるんだ」「ひどっ、酷くねぇか? オル坊……」「親父は天才だよな……。普段怒らないオーリィを怒らせるんだから」 いや、ちょっと前までスーランも大差なかったけどね?「スーラン、お前まで!」「先の不要な発言は私の顔に免じて許してやって貰えませんか? 王妃様」「マダム……」「王陛下が連れて行きたかった気持ちも本当でしょうが、私達がいる事も含めて一番遠いネロ区にいて欲しかったのも嘘ではないのです。ケルメスと言う不穏分子が居たとしても、もし和平交渉が決裂した場合、悪党一人とは秤にかけられない程の危険がありますから」「そうですわね……では、マダムに免じて今回だけ許すわ。アラベル」「あ、有難き幸せっ」 大げさにそう言って頭を下げたアラベルに、やっと王妃は花のような笑顔を見せた。 ラカンからの情報提供もあり、子供の密輸や種芥子の栽培に関するケルメスの関与の証拠が示され、拘束されたケルメスは両膝をつく格好で馬上から見下ろす公爵の前に座らされていた。 オルタナ達の所からは声も聞こえない程の距離がある。  だが、後ろ手に縛られているケルメスの姿を見るだけでも、大きな仕事が一つ終わったのだと肩の荷が下りる。 大聖堂のあの特別な祈りの間の鍵もこちらにあるし、真実は後で
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窮地

 振り返ったオルタナの肩に、強い衝撃と共に一矢刺さる。 その衝撃に横へと倒れ込み、刺さった矢の痛みを覚えたのはその後だった。「うぐっ……」 声にならない。  焼けつくような痛みが左肩に熱を持って広がって行く。 駆け寄って来た公爵が馬から飛び降りて来る。「オーリィッ! オーリィッ! しっかりしろ、大丈夫か?」「うっ……」「待て、今抜いてやる」「公爵様ダメだっ! 矢を抜くなっ!」「アラベル? どういう事だ?」「その矢は鏃が抜ける様細工してある。そのまま抜けば、鏃が残って取れなくなるっ!」「クソッ! じゃあ、どうすればいいっ⁉」 息が上がり呼吸すら危うく意識が朦朧として行く。  その中で、オルタナはこの矢には何かしら毒を盛られているのだと悟る。 ヒュッヒュッと短い呼吸を繰り返しながら、痺れ始めた指先すら動かす事が出来なくなって行く。 眼前が涙で滲んでもう公爵の顔すら見えない。  公爵が何か叫んでいる。  けれど水の中にいる時の様なくぐもったその声が、何を伝えようとしているのか分からない。「……ヴィー……さ、ま」「オーリィッ! 目を閉じるなっ! こっちを見ろ!」「見、えない……よ……」 真白く煙った視界に、オルタナはそう呟いた。◇◇◇ ノエルは全軍の指揮を終え、負傷したオルタナを休ませる為、運び込まれたオミクレーの拠点まで戻って来た。 この拠点は前王妃の生家で、晩年、療養中だった前王妃様が息を引き取られた場所でもある。 その後他家に売られたものの、公爵が買い戻し所有している。 母君の最期に立ち会えなかった息子は、生前の母の思い出の詰まった誰も住んでいないこの家を大事にしていた。「ミレー、オルタナの容
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側近達の密談

 敵国の兵士に子供が一人殺されただけで、戦争が始まる。  なんて馬鹿げた話かもしれないが、歴史的には珍しい事でも何でもない。 今回の件はタイミングとオルタナが未だ生きている事が救いと言える。 ラカンの矢で番を殺され、軍を動かす力を持った公爵が我を忘れてしまう。  こんな事があれば、ラカンと全面戦争の火蓋が切られる事にも成りかねない。「ケルメスの最後の悪足掻きだったのでしょうね」「どういう意味だ? ナタリー」「少し尋問しただけですが、あの射手は何かアクシデントが起きた際、オルタナ様を殺す様に命じられていたそうですから」 自分の思い通りにならないなら、戦火で国ごと焼いてしまおうと言うのか。 あの狸爺の思惑通りに事が運ぶ事は無かったが、その危険性は大いにあった。「だけど、オルタナ様はここで死ぬには惜しい方です。ナタリーがやけに執着しているから、どんな少年かと思っていましたが……流石、ヴィー兄様が選ばれただけの事はある」「お前が素直に人を褒めるなんて珍しいな、エル」「あの人嫌いのナタリーが目を掛けている時点で、普通じゃないと思ってはいましたからね。実際、一緒に行動してみて分かった。彼は経験が浅いだけで、一国の王にもなれる器です」 エルダーはそう言って道中に起きた事を話してくれた。 守られる側である自分を差し置いて、王妃だけではなく御者までもを助ける事に躊躇いなく行動し、その上で御者をこちら側に引き入れ事態を解決して見せたのだと。「御者の事を信用なんてしない、と言われた時、何を言っているのかと思いました。だけど、彼は知っていたのですよ」「何をだ?」「自分で選ばせる事に意味があると言う事をです。あれだけ人を惹きつけておいて、自分で選べと言うのですから、とんだ人誑しです」 裏切らない保証のない御者に「裏切っても良い、自分で選んで下さい」と言ったオルタナを見て、鳥肌が立ったとエルダーは言った。
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側近達の密談 Ⅱ

 オルタナの状況が心配じゃないわけではない。  だが、大勢の人間を連行したまま放置するわけにも行かない。 特警主導の下、速やかに今後の対策を始める必要がある。 だが、公爵のあの姿に不安が無いわけでもなく、副官であるノエルは頭を抱えていた。「私、ここに残っても良いの? ノエル」 心配そうにそう聞いたミレーに、ノエルはやんわりと笑って見せた。「あぁ、良いさ。その方がヴィーも安心だろう」「本当にっ⁉」 ノエルはパッと笑顔を見せたミレーをギュッと抱き寄せた。「ノ、ノエル……?」「ヴィーの説得は俺がしよう。お前はオルタナについててやってくれ」「……うん。ありがと、ノエル」「これから頑張る婚約者に、ご褒美くれないか?」「は、はしたなくないかしら……こんな……」 状況なのに。そう言いかけたミレーの口をノエルは口付けで塞いだ。 言いたかった事をエルダーに先を越され、少し焦りを覚えたのもあった。 それ以上に、ノエルは自覚している事がある。 口にするのが恥ずかしい程の幼稚なその感情を、顔を見られない様に抱きしめて初めて言葉にした。「オルタナに嫉妬してるって言ったら怒るか?」「な、何……それっ……」「俺達にはオルタナの変わりは務まらない。ヴィーにはオルタナが必要だし、エルダーが言った通り、彼はこの国のこれからに必要だ」「うん……」「その彼に俺の婚約者は夢中だ」「ちょっ……ちがっ……」「分かってるさ。それが恋情じゃない事くらいは。だけどな、傍に居たいと言われると羨ましくなる」 仕事柄、別行動するのは仕方のない事だし、これまではそれをどうとも感じた事は無かった。 だけど、自分達の輪の中にオルタナが現れてから、ミレーは主の宝物であるオルタナを人一倍気にかけ、率
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森の真珠

 公爵は元々雪の様に白いオルタナの顔が、蒼白し生気を失っている様を見ていた。 寝台の横に腰かけ、冷たく小さい手を握って、ただ祈る事しか出来ない。 扉がノックされ、不意にそちらへと視線を遣るとドーラが入って来る。「公爵様、少し休まれては?」 しわがれた声でそう言ったドーラに、公爵は首を振って答える。「何にも出来ないから見ているくらいは許せ、と仰いますか?」「ドーラ殿……オーリィは助かるのか?」「Ωと言うのは生来弱く、今こうして呼吸している事でさえ不思議なくらいではあります」「そうか……」「しっかりなさいませ、孫の事はこの婆が何とかして見せましょう」「オルタナの役に立ちたいという気持ちを利用し、この様な事態になったのは私の落ち度だ。本来なら、危険のない所で穏やかに過ごす事だって出来た」「そんな帰らぬ後悔など吐いてどうします? 孫がやりたいと言ったのなら、それは公爵様のせいではないでしょう。それにこの子はエヴィ様の子だ」「……どういう意味だ?」「黙って待っている程、この子は大人しく育てちゃおりません。人を助け、人に助けて貰えるように生きろと教えて来た。それはこの子が人の上に立った時に、必ずこの子の糧になる。民が助けたいと思う主君である事、エヴィ様はまさにそう言う主君であられたのです」「そうか……立派な母君だったのだな」「エヴィ様と逸れた時の話をカタアシからお聞きになったのでしょう? 自分を攫おうと画策して追って来た者でさえ見捨てず助けて……自分が死んでりゃ世話ないって話ですがね」「ドーラ殿はアラベルを恨んでいるのか?」「はんっ、主人が命を懸けて助けた人間が死んでちゃ元も子もないでしょう。使えるだけ使ってやろうと思っただけですよ」「そうか……」「あの禿げた唐変木にも便りを出しました。もうそろそろ返事が来る頃……」 そうドーラが言った時、部屋の扉が二回ノックされ、ノエルとミレーが入っ
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森の真珠 Ⅱ

「ドーラ殿、その白い物は何だ?」「これは我々一族が“森の真珠”と呼ぶ木苺の一種ですよ。王国ではミルクベリーと言うそうで。モリガンの自宅に隠し持っていた物をあの唐変木に取りに行かせたのです」 サンノ国で国宝と言われた俊秀を唐変木扱いした上、使い走りにするとは。 だが、ウケイから発情に関する切り札として教えて貰ったのは、多分その“森の真珠”に関係している。 ドーラン一族には門外不出の妙薬がいくつか存在していて、王族に近しい者だけに全て口伝で伝えられるらしい。 なので流石のウケイも詳しい事は分からないが、ドーラン一族にはそう言った類の薬が存在し、それがこのミルクベリーではないかと疑念を持っていると言った。 だから秘密の花園でミルクベリーの代わりに雪山羊の菓子を用意したと。「あぁ……オーリィの好物の?」「好物? オーリィがこれを好物だと言ったんですか?」「あぁ、そう聞いているが……」「そうですか」 そう言ったドーラは、その木苺が特殊な薬効を持っており、幼い頃のオルタナの体調を戻す際に、よく食べさせていたと語った。「森の真珠は時戻しの実と呼ばれる。公には知られていませんがね、これは体の時を戻す効果があるのです」「時を戻す……?」「言葉通り、体の状態を若くする。失った手足が生えたり、大人が子供に若返るわけではありませんが、内臓を病む前の状態に戻す事が出来る。古代より乱獲を恐れて、我々一族に伝わる秘されて来た妙薬です」「では、それがあればオーリィは助かるのか?」「えぇ、ですが、公爵様には一つ話しておかねばならない事がございます」 そう言ったドーラは、ウケイからの手紙をもう一度チラリと見た。「これを使えば、オーリィの発情はまた先延ばしになる事でしょう」「先延ばし……と言うと?」「オーリィが発情しないのは、幼い頃にこれを時折食べていたせいだからですよ。まぁ、態と
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