その人は暗紫の天鵞絨の空に棚引く光の帯を指して、こちらに笑いかける。 何か物言いたげに見えるその人は、銀糸の髪を靡かせて白い息を吐いた。 踊り子のような青白い衣装を身に纏い、満天の星空の元立っている。 美しく幻想的なその様子をただ息を飲んで見ていたオルタナに、中性的で秀麗なその人は、碧い耳飾りを揺らしてこう言った。 起きなさい、オーリィ――――。「――――ッ!!」 ガラガラガラガラガラガラガラ…… けたたましい車輪の音にオルタナはハッと目を覚ました。 心臓が早鐘を打っている。 誰だ、今の。 何だか知っている人のような気がしたけれど、会った事無い人だ。 って言うか、今、どんな状況だ――――? アウルム修道院での植物対策が終わった後、熱を出して倒れた。 ウケイに処置室へと運ばれて看病して貰っていた所までは記憶がある。「今夜はゆっくり休みなさい。さっき飲ませた薬には解熱と眠くなる効果もありますから」「せんせ……ごめいわく……」「そんな事を気にする必要はありません」「すみませ……」 朦朧としていて、思考は停止寸前だった。 額に置かれたウケイの掌が冷たくて、ゆっくりと瞼を閉じた。「君が眠ったら、私はエヴレカの所に行って来ますね」 そう言ったウケイの言葉を最後に、記憶がない。 目が覚めたら荷馬車の荷台の上、だ。 腰だけ命綱の様に荷台の端に括りつけてあるが、これは走行中に荷台から転がり落ちないようにするための措置なのだろう。 オルタナは自分の状況を見て、手足の拘束がない事に安堵した。 荷馬車がスーランの物だと認識出来ただけで、少し冷静さを取り戻す。 まだ微熱が残っているらしく、身体は怠く無意味に視界が滲んだ。
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