すぐそばまで綾乃が近づいていたことにも気付かなくて、綾乃を見た瞬間ハッとする。 あの家にいた頃に向けられた冷静な表情と視線。 この綾乃が次に何をするかを私は知っている……。 「私がお仕事している最中に二人で何してるのー?」 すると、さっきの態度からまた打って変わって、可愛らしくわざとらしく尋ねてくる綾乃。 「あっ、いや、なんでもない……」 その綾乃を見た一弥さんは、そう言いなが私の腕を掴んでいた手をスッと放す。 あぁ、やっぱりそういうことか……。 綾乃の前では、私と会話している姿も見られたくないんだ。 「なんでもないわ」 「えっ? 何、その言い方」 綾乃が急に不機嫌になる。 「“なんでもないです”でしょ? あなたは今は私のアシスタント。私はあなたの雇い主。そうよね?」 そう言ってニコッと笑う綾乃。 「あっ……。はい。そうです……」 「だよねー! フフッ。ビックリしちゃた~。いくら実際はお姉ちゃんでも、今は私はお姉ちゃんに高いお金払ってるんだから、そこはちゃんとしておかなきゃな~って。ほら、お姉ちゃんも他のモデル仲間さんに嫌な感じに思われちゃったら私が悲しいから~」 「はい。その通りです……」 私はそれ以上何も言えず、ただ俯いてそう答えるだけしか出来ない。 「あっ、ねぇ。一弥お兄ちゃん!」 綾乃が私の背後にいる一弥さんに声をかけようとした瞬間。 「キャー!」 「えっ……」 綾乃が私と正面からぶつかり、持っていたグラスに入ったドリンクが、私の白い服全面に飛び散る。 「え~やだ! ごめんなさい! 急にお姉ちゃんがぶつかってくるから、避けられなくて。お姉ちゃんの服こんなに真っ赤に染まっちゃってどうしよう~」 そう言われて自分の服を見ると、綾乃の持っていたブラッドオレンジジュースが、一面に真っ赤に染まっていた。 あまりのいきなりの出来事で私も何が起こったのかがわからなくて呆然と佇む。 だけど、確実に言えることは、私からぶつかったのではなく、綾乃から私にぶつかってきたということだ。 そんな醜い私の姿を見てそこにいる人々はざわつき始めクスクスと笑う声がまた聞こえる。 「大丈夫か!?」 「一弥お兄ちゃ~ん。私本当にわざとじゃなくて」 「綾乃は大丈夫か? 今から撮影だろ」 「うん。私は大丈夫」 「そうか。ここはもういいか
Last Updated : 2026-04-08 Read more