All Chapters of 社長、離婚した奥様が世界的トップモデルになっています!: Chapter 31 - Chapter 40

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第31話 未来のために

翌日。家まで迎えに来た彼は、どこに行くかを告げないまま車をどこかへ走らせていた。そのあと、彼に連れてこられた場所を見て「何なのここ……」と、思わずボソッと呟いた。高くそびえ立つ高級感を感じるそのビルを見上げながら、唖然としている私を置いて彼はその建物の中へと入っていく。私はそんな彼を追いかけ、一緒にその建物に足を踏み入れると、そこは別世界だった。ゴージャスなエントランスはどれくらいの広さかわからないほどの解放的な空間で、建物は大理石で覆われ、煌びやかなシャンデリアが共に光り輝く。ラウンジにはお洒落な高級ソファーとテーブル。一面の窓からは鮮やかな緑を感じられる樹木や花々を眺められる癒しの空間が広がる。私はその景色をキョロキョロしながらあとについていき、エレベーターホールで上層階へと上がっていく。目的の部屋に着き、彼が鍵を開け扉を開きながら、ようやく私の方へと振り向いた。そして衝撃な言葉を彼は私に告げた。「ここがこれからお前の住む家だ」「えっ!? どういうこと!?」「そのままの意味だ。今日からここに引っ越してこい」「えっ!? ちょっと待って。急展開すぎて頭がついていかないわ」「お前も今住んでる家は気に入ってそうしてるわけじゃないと言ってただろうが」「それは、そうだけど……。でも急にこんなところに住むなんて」「お前はモデルという仕事をそんな簡単なことだと考えてるのか。ちょっと意識が低すぎるんじゃないのか」「そんなことないわ! 私は真剣にモデルとしてやっていきたいと思ってる!」「なら今の生活をすべて変えろ」「変えるって……?」「華やかなトップモデルになろうって人間が、あんな貧相なアパート暮らしをしてそこを目指せると思ってるのか」「それは……。少し落ち着いたら……」「落ち着いてから?  はっ。ふざけてるのか。そんないつかもわからない未来までお前は指をくわえて、あんな屈辱的な生活を我慢するというのか」「そんな言い方……!」「仮にもお前は桐生の人間だったんだぞ。そんな人間が、たとえ一時的でもあんな場所で生活していくなんて俺が許さない」「またあなたの体裁の話……?  もう私とあなたは離婚していて他人なのよ。なのにあなたのそんな勝手でとやかく言われる筋合いないわ」「は……? 今は俺の話じゃない、お前の話をしているんだ」「わかっ
last updateLast Updated : 2026-04-28
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第32話 一流の環境

「ふっ……。よし。それでいい」すると彼がふっと笑って告げる。「え…?」「中に入れ」私はそんな彼に何も言葉をかけられないまま、結局中へと足を踏み入れる。「すごっ……」その広さと豪華さに思わず玄関から圧倒される。そして中に入ると、そこにはすでにしっかりと家具もインテリアも準備されてあり今すぐにでも住める仕様になっていた。「ここ。誰か住んでるの……?」「ふっ……」私がそう尋ねると、彼はなぜか顔を横に向け吹き出すように笑う。「ちょっ、何よ──!」「誰か住んでるわけないだろ。お前のために用意したんだ」「私のためにって……。えっ? この家具も全部?」「そうだ。そうじゃなきゃ今すぐ住めないだろ」「そうだけど……。そんなすぐに?」「当たり前だろ。すぐにあんなボロアパートから出ろ。一日でも早く意識を高めた方が上質な自分に早く近づける」「だとしても……、これを私のために……?」「お前がこんなの用意出来るわけないだろ」「それはわかってるけど……。そうじゃなくて……」どうして私なんかのためにそこまで……?その言葉を彼に伝えようとしたけれど、彼から返ってくる言葉はなんとなく予想は出来た。だから私はあえて、その言葉を伝えず──。「甘えていいの……?」「甘えるか……。確かにそう言われたら悪い気はしないな」えっ!?  私言葉の選択間違った!?どうしてこの人は少し嬉しそうな顔をしているの?「いや、違う……! そうじゃなくて、あなたがそこまで言うなら、しょうがないから使ってあげるわ」これが正解なのかもわからないけれど、私はなんだか彼に見透かされてる感じがするのが嫌で、つい意地を張った言い方をしてしまう。「あぁ。ここを無駄にされても困る。遠慮なく使え」この人の世話になるのは悔しいけれど、これはビジネスパートナーの助けだと思えば──。私も彼を利用するつもりで使わせてもらうわ。「奥の部屋も見てみろ」「奥の部屋?」「あぁ」彼に言われその指定された部屋へと足を進める。その扉を開けると、部屋一面がウォークインクローゼットになっていて、高級服やバッグに靴にアクセサリー、あらゆる高級な物が並んでいた。「えっ! 何これ!?」「それも全部お前のための物だ」「えっ!?」彼の行動があまりにもすごすぎて、私はただ驚くしか出来ない。「正直俺はお前
last updateLast Updated : 2026-04-29
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第33話 接近 

「じゃあそろそろ行くぞ」「えっ? 行くって?」「お前の引っ越しだ」「引っ越し!?  私手続きも手配も何もしてないわよ!?」「全部俺が済ませてある」「済ませてあるって?」「大家にもお前が今日出ていくことは了承済だ。引っ越し業者も、もう少ししたら向こうに行くように手配してある」「えっ!?  もう!? そんなの私何も準備してないのに!」「あのスペースでそこまで手がかかる準備なんて何もないだろう」「そうだけど──!」「だから今から帰って軽く準備すればいい。業者にすべて任せれば全部やってもらえる」すべてが強引な彼に私はまた唖然とする。結局私は言われるがまま彼とアパートに戻り、子供のために準備している物や自分の身の回りの物をまとめる。気づけばあっという間に引っ越しも終わり、またこのマンションへと戻ってきた。「今日は、ありがとう」すべてが片付くまで彼はこの部屋で見届けていた。「あぁ。今日は疲れただろうからゆっくり休め」「え、えぇ……」こんな気遣いが出来る人だったのね。他人になって初めて知ることばかりだわ……。「あなたもこんな時間まで付き合わせてごめんなさい。すっかり時間遅くなったわね。今からあの家に帰るのは、少し距離あるわよね。あなたも気を付けて帰ってください」他人になると私もこんなにも自然と気にかけることが出来る。この人とはやっぱり近い距離じゃない方がいいのだとよくわかるわ。「あぁ。問題ない。今日はあの家には戻らない」「え?  戻らないって? まだ仕事なの?」「いや。仕事はない」「なら……」綾乃のところに今から行くの……?二人でいた時間があまりにも早すぎて、そんなこともすっかり忘れていた。この人のそばにはいつも綾乃がいることを……。なんでもないことは言い合えるようになったのに、綾乃のことになると、やっぱり私はつい躊躇して何も言えなくなってしまう。本当はそれが一番彼に問いただしたいことかもしれないのに……。「戻るのはすぐそこだ」「すぐそこ?」意味がわからなくて私は怪訝な表情で彼に尋ねる。「すぐ隣に帰るだけだ」「隣って?」「隣の部屋だ。俺もそこに住むことにした」「──えっ!?」あぁ、またこの人はどこまで暴走していくの。まったく理解出来ないわ。お金ある人ってこんなに自由で暴走しまくるの!?「住むって
last updateLast Updated : 2026-04-30
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第34話 海外撮影

モデルの仕事にまだ慣れないまま、私は今、一弥さんの指示の元、新たな大きな海外撮影の仕事に参加している。話によるとこれはファッション業界を盛り上げるために、デザイナーやモデルなどが一堂に集まりそれぞれの魅力を発信するという大型イベントだそうだ。新進気鋭の新人から有名な人物まで、実力も経歴も問わない、いわばこのイベントに参加出来れば誰にでもチャンスがある仕組みになっている。どれだけ今いるポジションで有名になれるか、このイベントでこれからの将来が決まるとまで言われているほどだ。けれど、それはいわばサバイバルゲームのようなもの。このイベントで自分の実力や魅力を活かし、どれだけ大きな影響力ある仕事を生み出し、そのあとの大きな可能性に繋げられるか。裏テーマとしては、そんな弱肉強食の意味合いも含まれている。特にモデルの世界では大きな仕事に繋げることというのは簡単ではなく、実力はもちろんチャンスもどれだけ手に出来るかも大きな要因になってくる。たくさんのモデルが参加する中、もちろん綾乃もこれに参加している。「あれ? お姉ちゃん。まだ撮影に一度も参加してないの?」綾乃は初日早々明るく華やかな自分の魅力を周りにアピールし、そういうイメージを求めているブランドの数人のモデルの中に選ばれていた。「海外まで来て何も出来ないなんて辛いよね。でも私の仕事を譲るわけにはいかないし、華やかな雰囲気はお姉ちゃんには到底無理だもんね。こんなところで実力の差が出ちゃうなんて、お姉ちゃんには不利になっちゃうね」綾乃にそこまで言われても、自分の魅せ方などをまだ何も知らない私は、ただその一部始終を見ているしか出来なかった。「焦らなくていい」すると撮影に同行している一弥さんが、その綾乃の撮影を見ている私にそっと声をかける。「綾乃は何年も前から留学してまでモデルをやっているんだ。同じ土台に立とうと思うな」その言葉は励ましてくれているのか、それとも……。「このイベントでお前は選ばれなくても仕方がない」「え……?」「何の経験も実力もないお前が、今回大きな仕事を手に出来るとは思ってはいない」彼のその言葉で期待してくれてるわけじゃないのだと、少し落ち込む自分がいる。「急に飛び込んだ世界だ。これがいい機会だと思って、綾乃や他のモデルを見て勉強しろ」けれど、それは最もなことだと納得し
last updateLast Updated : 2026-05-01
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第35話 モデル界のカリスマ

私は近くにいるモデルの女性に初めて聞くその名前を尋ねる。 「え? お姉ちゃん知らないの?」 すると近くにいた綾乃がすばやくそれを聞きつけ反応する。 「AKIはすっごく有名なカリスマフォトグラファーで、モデル業界ではその名を知らないほど有名な人よ? 」 「そうなんだ……」 「彼に撮られたいモデルは山ほどいるのに、滅多にその仕事を受けない。大きなコレクションや決まった有名ブランドの撮影でないとお目にかかれないの」 「そんなにすごい人なんだ……」 「彼が撮影するとどんなモデルでも成功すると言われてるわ。その人の魅力をすべて映し出し美しさの限界まで引き出してもらえるって有名で、すごいフォトグラファーよ。有名モデルも口を揃えてまた撮ってもらいたいってアピールしてる」 モデルの世界のことを知らない私は、その人物の存在も初めて聞いた話だった。 「そんなAKIが今回この撮影に参加だなんて、運命感じちゃう! モデル始めた頃から、AKIに撮られることが本当に夢だったの……! ようやく今日その夢が叶うなんて、もう私興奮と嬉しさでどうなかなっちゃいそう!」 綾乃がテンション高く興奮しながらAKIの話を嬉しそうに話す。 「私も! こんなチャンス私に巡ってくるなんて思ってもみなかった!」 「このために私もモデルの世界で頑張ってきたの!」 綾乃だけじゃなく、周りにいるモデルたちが次々にAKIへの熱い思いを語り始める。 そんなすごいチャンス私も手に出来る資格があるのだろうか……。 「誰でもそのチャンスってあるんですよね……?」 私は隣の女性に尋ねる。 「もちろん。ここでは誰でも平等に勝負出来る場所よ。私もまだモデル始めたてでこんなチャンスに遭遇しただけで夢みたいだわ」 そう私に教えてくれた瞬間。 「フッ。まさかそんなこと本気で思ってるの?」 「えっ……?」 またもや綾乃が反応してくる。 「所詮この世界は実力勝負よ。どれだけその力を魅せられるかアピール出来るかで仕事にどう繋げられるか変わってくる。その実力を手にするために、どれだけ苦労してきたか……。モデルを最近始めたあんたたちが簡単に手に出来るほど、この世界は甘くないわ」 さっきは一弥さんが近くにいたから私に気遣うフリをしていた綾乃が、今はモデルしかいないこの空間で、早々に本性を見せる。 「そうよ
last updateLast Updated : 2026-05-02
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第36話 ダイヤモンドの原石

モデルかと思うようなシャープな顔立ちに印象的な切れ長の目元。黒シャツとダークトーンの服装で自らを覆い、その洗練されたファッションセンスは、スラリと伸びた長い脚や長身のスタイルの良さを更に際立たせる。少し顔にかかる髪も落とす視線も彼が放つ色気とクールな雰囲気が相まって、思わず目を追ってしまうほどの不思議な魅力として醸し出される。この人がフォトグラファー……?モデルだといってもおかしくないほどのその美しさに、モデルたちも騒ぎ始める。こんな美しい人に撮影されるなんて、緊張しちゃうだろうな……。確かに経験ある有名モデルじゃないと、なかなかそれを活かすことが出来ないのかもと一瞬怯んでしまう。彼が佇むその姿から、口を開くその瞬間まで、彼の視線・声・すべてに私たちモデルは一斉に集中し緊張が走る。その彼の視線はモデル全員へと視線が移っていく。彼は鋭い視線で、たくさんのモデルを一人ずつチェックし、自らの望む被写体を探していく。すると、ある場所でその視線がピタリと止まる。鋭かった視線は、じっとそこを見つめ、一瞬何かを見抜いたかのように彼の表情も変わる。明らかに空気が変わったその瞬間、その視線と共に一人の人物を彼が指した。「君」その視線と指が示した先にいたのは──。綾乃……?「えっ !嘘っ!? 私!?  どうしよう! 夢みたい!」私の前にいた綾乃が、指名されて大きな声で嬉しそうに興奮し騒ぎ始める。「RURIやっぱりすごい!」「絶対選ばれると思ってた!」綾乃の周りのモデルたちも綾乃をその気にさせ持ち上げる。そっか……。綾乃が、選ばれたんだ……。やっぱりずっとモデルの世界で経験を積んでるから、こんなチャンスも手に出来るってことなんだな……。騒いでいる綾乃の方に、彼が近づいてくる。──かと、思ったら、綾乃の横をスッと通り過ぎる。「え……?」綾乃から思わず漏れる声。そして、後ろにいた私の目の前になぜか彼が立ち……「君だ」その言葉は私に告げられ、目の前の彼は私だけをまっすぐ見つめ捉えていた。そのありえない状況に、周りもどんどん、ざわつき始める。「私……?」「そうだ」彼はそう一言だけ返す。「あの! その子はまだモデルを始めて全然経験がなくて、正直AKIさんが満足する仕事はとてもじゃないけど無理……」「──経験なんてどうでもいい」
last updateLast Updated : 2026-05-03
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第37話 心のままに

それから後は、ただ心のままに動いた。シャッター音が私を追いかけてくる。"どうポーズを取ればいいか" なんて考えなくなった。頭で考えるより先に身体が動いていた。「そう。その目だ」彼の声がレンズの向こうから聞こえてくる。それが私への褒め言葉なのか、それともあの瞬間への賛辞なのかはわからない。でも、もうどうでもよかった。彼に見られているからこそ、むしろ本当の自分でいたくなる。この瞳に、今の私を焼き付けてほしい。そのあと出来上がった写真をブランドサイドの人間や、その場にいるスタッフたちが興味本心で確認し始める。すると、その写真を見ている関係者たちの反応が不自然なことに気づく。どうしてその写真を見て皆何も言わないのだろう。唖然とするほど、そこにいる私は滑稽だったのだろうか……。「あの……。私やっぱりイメージとは合いませんでしたか……?」あまりの静けさに、私は少し不安になって、声をかける。すると……。「──素晴らしい!」ブランドの関係者が、急に華やかな表情に変わり、私に告げた。「もうあまりの美しさに言葉が出ませんでした……!」「え……?」「イメージ以上に素敵すぎて、ちょっと感動してしまいました」「それは……私ですか?」「もちろんです! AKIさんの素晴らしいカメラの腕前と、あなたのこの美しさ。二人で創り出したこの世界観と演出で、うちのブランドがこんなにも華やいで輝いて見える。最高に素敵な作品です」そう言われ、出来上がった作品を見ると……。うわぁ……。写真の中の私は、自分自身が一度も見たことのない姿だった。風が髪をなびかせるその弧、鎖骨に落ちる光の形、指先がわずかに開かれた仕草——その一つひとつが、まるで緻密に計算されたかのようでありながら、完全な偶然のようにも見えた。「自分じゃないみたい……」「これは紛れもない君だ。君の美しさはこんなもんじゃない。君は多くの人を夢中にさせる素晴らしい魅力を持っている」AKIさんが伝えてくれるその言葉は、私にとってどれほど価値のある言葉だろうか。こんなことを私が言ってもらえる存在になるだなんて……。嬉しい……。それに彼が伝えてくれる言葉は、どうしてだか不思議と素直に受け入れられてしまう。そんな気持ちになるのもまた初めてだった。一弥さんには感じたことのないこの気持ち。無意識
last updateLast Updated : 2026-05-04
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第38話 言葉に出来ない感情

【一弥side】出来上がった写真を見て、言葉を失った。これは杏華……?プールに落ちたあの時も驚いた。でも、あれは「偶然」だった。今回は違う——あの男のレンズの前で、彼女はあんなにも自然に、あんなにも楽しそうに笑っている。そんな表情、見たことがなかった。彼女は俺の前でそんなふうに笑ったことがない。胸の奥で、言葉に出来ない何かが渦を巻いている。怒りでもない、嫉妬でもない。でも、その両方でもあるような。視線をそらすと、自分のこぶしが握りしめられているのに気づいた。そして何より悔しく感じるのは、きっとこの男がそんな杏華をここまで綺麗にさせたということじゃなく、俺が杏華の元々持っていたその美しさを、俺自身が見抜けなかったという、その事実だ……。モデルという杏華の新しい人生に、特に深い意味もなく力を貸し始めることになったが、今になって、それは果たして正解だったのか。なぜか今頃になって、その選択をしたことを、後悔してしまいそうな不安に襲われる。その理由はどうしてなのか、なぜそんな不安を感じてしまうのか、俺自身もよくわからないが……。杏華とはもう離婚して他人のはずなのに、それ以上にもっと遠くの存在に感じてしまいそうで……、知らない杏華になっていきそうで……。こんな不明確な理由も、どうしてそう感じしてしまうのかわからないこの不安も、自分にとっては初めての感情で、俺は一人言葉にすることもなく、ただ胸の中で渦巻くそんな感情に静かに動揺していた──。それになぜだかこのAKIとかいうカメラマンの杏華に対する視線や距離感もやけに気にかかってしまう。そんなことはないはずなのに、杏華にだけそれらが特別のような意味ありげな反応に思えて仕方がない。仕事とはいえ、この男に心を許し、そんな自然なありのままの姿を見せる杏華にも腹が立つ。綾乃に離婚前に吹き込まれた杏華の淫らな噂が、こんな時に頭によぎってしまい更に苛立ちを激しくさせる。お前はやっぱりそういう姿を他の男に今まで見せていたってことなのか……?俺以外の男に、お前はそんな愛想を振りまき、その気にさせるような、そんな姿を……。あぁ──! どうして今頃またそんなことを思い出してしまうんだ。どうしてかあの時からそんなあいつを想像するだけで、こんなに胸がかき乱されて感情がおかしくなる。あいつは、もう俺の妻じゃな
last updateLast Updated : 2026-05-05
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第39話 屈辱

【綾乃side】AKIの視線がこっちを向いた瞬間、私は背筋を伸ばした。今日の自分は完璧だとわかっていた。メイク、表情、オーラ──そのすべてが申し分ない。この場にいる誰よりも、私があの男のレンズの前に立つ資格がある。彼は私を選ぶ。当然だ。彼の視線が一瞬止まった。心臓がひとつ大きく跳ねた──次の瞬間、その視線は私の肩の上を越えていった。私の後ろにいる、あの女に向かって。「君」彼は私を一目見ようともしなかった。指が指し示す先は、私じゃない。私はその場で硬直し、笑顔をしまい忘れた。……彼は、あの女を選んだの?どうして……どうしてまたあの女が、私の邪魔をするのよ!あんな素人同然の女を、どうしてAKIは選んだのかが理解出来ない!AKIに選ばれること──それは、私がモデルを志したあの日からずっと待ち続けてきた瞬間だった。でも彼は決して表に出てこない。調べても、探しても、まともな写真一枚見つからない。唯一の手がかりは、先輩の言葉だった。「一度彼に撮ってもらうと、また撮ってほしくて狂いそうになる」あの時は、さすがにそれは大げさだと思った。──彼が私の目の前に現れるまでは。初めて見る彼は、先輩が噂していたとおり、カメラマンとしてだけじゃなく、男としても今まで会ったことのないほど色気やフェロモン、美形の顔に出で立ち、すべてが完璧で、すべてが私好みの男性だった。こんな奇跡があるのね……。ずっと憧れてたカメラマンが、男としてもこんなに魅力的だなんて……。あぁ……、この男を私の物にしたい。一弥お兄ちゃんとはまた違う私の中の独占欲と、私だからこそ釣り合い、このハイクオリティーな男たちを手に出来る優越感。手に出来る男はすべて手に入れたい。ようやく巡って来たこのチャンスに私は舞い上がっていた。すると、彼は真っ先に私を見つけ、素早く指名してきた。──はずだったのに!!どうしてあの女なのよ!!  どうして私じゃないのよ!!今までと比べ物にならないほどの怒りと憎しみがあの女に沸いてきて、それを表に出さないよう必死に堪えた。そして私はただ黙ってAKIがあの女を撮影しているのを見るしかなかった。なんて屈辱……!モデルとしても女としても、あの女に負けるのは私の人生で一番あってはならないことなのに……!だけど、こんなことで諦めてたまるも
last updateLast Updated : 2026-05-06
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第40話 潰されるチャンス

撮影の翌日。今日はブランドの撮影ではなく、AKIさんの作品としての撮影。AKIさんが用意した衣装でAKIさんが見せたい演出、撮りたい世界観を創り出すという、昨日以上にAKIさんの魅力に関われる撮影だ。今回は一人だけじゃなく数人で魅せる演出。 次々と今日は実力あるモデルさんたちが彼に指名されていく。 やっぱりそうだよね。こういう人は見たらすぐわかるんだろな。AKIさんに撮影してもらえた昨日は一日気分が良く、モデルとして初めて満足した仕事が出来、そして自信がついた日だった。きっとあの時、たまたまAKIさんの目に私が映り、選んでもらえただけだったんだろうし、一回だけでもそんな経験が出来たことを幸せに思わなきゃ。 昨日は滅多にない幸せな機会を与えてもらったと思って今日は他のモデルさんの撮影を見て勉強する一日にしよう。一通りモデルさんが呼ばれ終わり、その場から立ち去ろうとすると……。 「ちょっと待って」 AKIさんになぜだか呼び止められた。 「えっ?」 「この資料の中に、君の写真がなかったんだけど」 「えっ? そうなんですか?」 「この名前は……君、だよね?」 「あっ、えっと、それちょっと見せてもらってもいいですか?」 そう言って彼からその資料を受け取って確認する。 「あっ、そうです。この”杏華”が私の名前です」 「これは、君の本名……?」「はい。そうです。私、この仕事最近始めたばかりで。まだこういう資料に使う写真も撮影出来てないまま、今回の撮影に参加することになったので、きっと資料に写真が載っていないんだと思います」「そういうことか……」 「この名前も、本当はこの仕事用に別の名前考えてもよかったんですけど、急に始めることになっちゃったんで、そのまま本名ですることになって」 「だから君だと気付けたんだ……」 「えっ?」 「いや、何でもない……」 「今回は残念でしたけど、昨日本当にすごくいい経験をさせてもらえて嬉しかったです。ありがとうございました。とてもいい勉強になりました。このあともまたぜひ勉強させていただきたいので見学させてください」「見学? いや、君もその撮影に参加してもらうつもりだけど」 「えっ!? だって……」 「ちょっとこれからのこともあるから君に名前を確認したかっただけだから」「そうだったんですね……」
last updateLast Updated : 2026-05-07
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