All Chapters of 社長、離婚した奥様が世界的トップモデルになっています! : Chapter 21 - Chapter 30

35 Chapters

第21話 予期せぬ反応

「わかった。なら、この仕事が終わったあと二人で話そう」「……えっ?」また予想もしない言葉が出てくる。どうしてこの人とはこんなに話が噛み合わないの?いや、こんなに話が噛み合わないということも、実際今初めて知ったようなものだ。「とにかく君は仕事が終わっても帰るな。ここで待ってろ。いいな」相変わらずの命令口調。「もう私は、あなたの妻じゃない。私の仕事も、私の生活も、全部あなたには関係ない。今さら親切ぶる必要なんてないし、私はそんなもの、いらないわ」彼は黙った。しばらくしてから、ようやく口を開く。「……言いたいことは、それで全部か?」「ええ、全部よ」「なら、来い」私は思わず目を見開いた。――この人、私の話、ちゃんと聞いてたの?「だから、必要ないって――」「お前に決める権利はない」彼は背を向けたまま、「モデルになりたいなら、俺が段取りをつける。自分の力でやりたいっていうなら、それでもいい」そこで一度、彼は私を振り返った。視線が、容赦なく私を射抜く。「だが今のお前に、何ができる?」私は息を呑んだ。唇を開いても、何ひとつ言い返せなかった。「杏華。帰るぞ」仕事が終わると、宣言した通り私の名を呼んできた彼に、私は一瞬戸惑った。昔、こんな場面があったことを思い出したからだ。二人でどこかへ出かけ、彼の後ろについていく。私はそれだけで幸せだった。そこに彼の愛はなくても、その時間だけでも、私はただ一緒にいられるだけで満たされていた。どうして今更そんなことを思い出してしまうのだろう。それこそ私にとっても、そして彼にとっても無意味なことなのに……。彼に言われるがまま、そのあとについていく。そう今は他人。何の意味もない。私は私に言い聞かせる。「乗れ」そこには懐かしい彼が所有している車。彼に言われ助手席に座る。あぁ、ダメだ。また思い出してしまう。ハンドルを握る横顔が好きだった。すらりと伸びた指先も、伏せた時に影を落とす長い睫毛も。この狭い車内にいる時だけ、私はほんの少しだけ――彼を独り占めできた気がした。溢れそうになる感情を、必死に押し殺す。もう、彼は他人だ。あの頃の私は、ただ彼が体裁を整えるために隣に置いていた“飾り”にすぎなかった。……きっと、今も同じ。私は頭を無にするため、彼にその気持ちを想い出
last updateLast Updated : 2026-04-18
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第22話 君を知りたい

えっ……?  笑った……?でもどうしてそれをこの人が知っているの……?そんなことも知らないくらい、この人はあの頃私に一ミリも興味がなかった。なのに、どうして……?「私のこと……、何も知らないくせに……」私は思わず意地悪く言ってしまう。「……そうだな。三年も一緒にいたのに、俺は多分、お前のことをあまり知らない」喉の奥が、きゅっと詰まる。――やっぱり、知っていたんだ。なのに私は、あなたのことなら何でも知っている。きっと、あなた自身さえ忘れているようなそんな些細なことまで。「だから……。これから、知りたいと思ってる……」彼が小さく呟く。「えっ?」「それは……どういう……意味なの……?」思わず私はそう口にしていた。「……はっ!?  特に意味なんかない!  勘違いするな。お前がどうこうっていうわけじゃないからな!別に、ほら、あれだ。仕事の面倒を見る立場として、そういう意味で知っておきたいだけだ」だけど、彼は私が尋ねた瞬間、ハッと気づいたような表情をして、言い訳するかのように饒舌にそんな言葉を勢いよく並べる。でも、そうだ。確かに今一緒にいるのはモデル事務所の話に関してだった……よね?そっか。彼にとっては、仕事相手ってことか……。それに気付いて、私はなぜだか少しガッカリしていた。「今これはどこに向かっているの……?」「お前は黙ってついてこればいい。お前にとって悪い話ではないから安心しろ」それからしばらくしてある建物の前に着き、中に入るよう促される。そこはオフィスのような洗練された空間。辺り一面見渡しても何をする場所かよくわからなかった。「ここは?」「オレがマネジメントをするモデル事務所だ」「えっ?」財閥の人間である彼がいくつもの会社や仕事を受け持っていることはなんとなく知っている。きっとそんな中でこの事務所も綾乃のために作ったのだろう。結局、私は最後まで綾乃を引き立てるための存在でしかないの?「お前をモデルとしてここで面倒見る」あぁ……、やっぱりそうなのね。「嫌です……」「……はっ?」「私はこの事務所には来たくはありません」「どういうことだ」「あなたが私より綾乃を大切に思っているのはわかってます。だからここでは私は無理なんです。私は誰に隠れることもなく、私自身をちゃんと見てくれる私という人間にちゃんと
last updateLast Updated : 2026-04-19
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第23話 私だけの特別

「えっ……?」すると、彼が口を開いて、こう告げたのだ。「この事務所はお前のためだけに作ったものだ」その言葉はまた思いもしない言葉だった。「何を言っているの……?  意味がわからないわ……」「何って、その言葉通りだ。お前がモデルとして世間で注目され始めてからすぐに行動したんだ。あのときの写真を見て、業界ではお前を自分の事務所に入れたいと興奮しまくってた人間ばかりだったからな」「だったとしても、どうしてあなたが私のために……?」「お前のことはオレが一番よくわかっている。他の奴がお前をどうこうしようとしたところで、お前のその魅力を活かせる男は俺以外他にいるはずない」「えっ? 私の魅力……? そんなふうに思ってくれてるの……?」「──はっ? なんのことだ」「なんのことって……。今”私の魅力を活かせる”って、あなたが今そう言ったじゃない」「いや、そんなこと俺は言ってない」「言ってたわよ」「そんなこと俺が言うはずないだろ」何このやり取り。間違いなくそう言ったのに、どうしてこの人はこんな頑なに認めないのか。でもこのことに関してはもういいわ。どうせ彼が認めるはずないんだから。だけど無意識だとしても、彼がそんなことを言ったという事実に、私は驚いたと同時に少し嬉しくも感じていた。「とにかくお前を他の奴に渡すのは気に食わない」なんの戸惑いもなく私を見ながらそう伝える彼に私は一瞬ドキッとする。その言葉に深い意味がないのはわかってる。あぁ、これが結婚していたときに彼に言ってもらえてたのなら、どんなにも幸せなことだっただろう。なのに離婚してからこんな形で、それも特に深い意味もないその言葉を、今聞くことになるなんて……、なんて皮肉な現実なのかしら……。「だからお前はなんの心配もしなくてもいい」「えっ……?」「この事務所はお前のためにお前だけが所属する事務所だ。綾乃はこの事務所には入れない」まさか――彼がどういう気持ちで私にそこまでしてくれるのかはわからない。この人とはきっとこんな曖昧な関係の方がいいのかもしれない。確かにまったく他人とこの先その道を歩んで行くより、少しでも知っているこの人と一緒に歩んで行くほうが今の私には正しいのかもしれない。そして一つ気になっていることを私は彼に尋ねた。「じゃあ綾乃は……?」私だけの事務所なら綾
last updateLast Updated : 2026-04-20
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第24話 新しい関係

「あぁ、約束する。」そう言ったあと、彼はおもむろに「フッ……」と笑う。「どうしたの……?」「なんでもない。ただ、お前が別人になったみたいだと思っただけだ」「え……?」「強くなったな」そう言った彼は少し微笑んでいるようにも見えた。私にこんな穏やかな表情を向けたのは初めてだった。「お前にこんな一面があるなんてな。知れてよかったよ」そんな初めて見せる意外な表情や言葉に、また少し胸の奥で反応した感情。私はそれに気づかないフリをする。「ちなみに今、お前はどこに住んでいるんだ」すると、彼がいきなりそんなことを聞いてきた。 「えっ!?  なんなのいきなり」「いや、モデルの道に進むということは今の仕事を辞めてもらうことになる」「あっ、そっか……。でもそんなすぐに私への仕事なんてまだないでしょ?」「お前への話はもう来ている」「え!?」「だからどこに住んでいるのか聞いてるんだ」本能的に断ろうとした。でも、彼はもう車を駐車場から出していた。「ここまで来たら、もう断る理由もないだろ。それに――これからは、もう俺に隠し事はしないでほしい」「どうして……?」「ビジネスパートナーとして、お前のことは全部把握しておく必要がある」「……ビジネスパートナーだからって、何もかも知らなきゃいけないわけじゃないと思うけど……」「何言ってる。ビジネスパートナーに一番大事なのは、信頼と信用だ。情報を共有するのは当然だろ」マンションの前に着いたとき、彼の表情がわずかに変わった。築年数の古い六階建て。外壁はところどころ色褪せ、共用廊下の照明も半分ほど切れている。私の部屋は最上階。もちろん、エレベーターなんてない。彼は無言のまま、私の後ろについて階段を上ってきた。鍵を開ける直前、私は少しだけためらった。部屋は狭い。二十平米ほどしかない。ベッドが一つ、クローゼットが一つ、折りたたみ式のテーブルが一つ。それだけで、ほとんどいっぱいだった。カーテンは何度も洗って色が抜け、壁紙は端がめくれていて、私はそこをテープで留めていた。「……ここに住んでるのか?」玄関先に立ったまま、彼は感情の読めない声でそう言った。「一人で暮らすには、十分よ」彼の視線が部屋をひととおりなぞり、ふいに、ある一点で止まった。私はその先を追う。――クローゼットの端から、ピン
last updateLast Updated : 2026-04-21
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第25話 謝罪

私は俯き、彼と目を合わせようとしなかった。「あまり、長くはなかった」「……そう」彼は小さな声でつぶやく。まるで、自分に言い聞かせるみたいに。私は背を向け、その黒く沈んだ建物の中へ歩を進めた。振り返ることはなかった。でも、わかっていた――彼の車のライトは、ずっと点いたまま。私が階段を上り、扉を開けて部屋に入るまで、静かに、その場に灯りを落としていた。そして、ゆっくりと走り去っていった。* * *翌日。彼が自宅に迎えに来た。これから職場へ彼と退職の意向を伝えに行く。「お前はあれで耐えられるのか?」車の中でいきなり彼がそんな言葉を伝えてきた。「はっ?  なんの話?」最近の彼は唐突に意味のわからない言葉を伝えることが多い。「昨日送り届けたときにも思ったが、今住んでいるあのアパートやらは、あんな狭くてまともに生活出来るのか?」──!!!いきなり失礼すぎる!  この男!そりゃあなたは財閥の御曹司で常に広すぎる家で暮らしているでしょうけど、私は離婚してこの生活を否応なしに余儀なくされたのよ!なんて……、そんなことを彼に言えるはずもなく。私は黙ってその言葉を飲み込む。そしてその気持ちをグッと抑えて「狭くても一人だから問題ないわ。それに今の私のお給料じゃ贅沢なんて出来ないの。住めるところがあれば十分よ」私は正当な返答で本音を隠し彼に伝える。「そうか……。別に今の生活を気に入ってそうしているわけじゃないんだな?」「当たり前でしょ──!」平然と尋ねる彼に、あたしは思わず興奮してしまいそうになる。「ならいい」何がいいのよ……!相変わらず言葉足らずでよくわからない人なんだから!「まぁお前にとってもそんな息苦しい生活も今日で終わるから安心しろ」これは慰めてる……のかしら?いづても上から目線の言い方だから、よくわからないわ。そしてこのあとまさか彼があんな突拍子もない驚く行動をするだなんて、私は思いもしなかった──。そんな彼の突拍子もない行動に驚く数時間前。職場の会社に着き、会議室で上司が来るのを彼と共に待っていた。「お待たせしました。すいません。遅くなりまして」随分私たちを待たせたその上司は、その言葉のような態度は見せず、軽い口調で返す。「御社は……、いえ、おたくの会社は、いつも退職する人間にはそんな失礼な
last updateLast Updated : 2026-04-22
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第26話 反撃

「えぇ……結構です。実際彼女には今すぐ今の仕事を辞めてほしいとそう言いましたから」この上司は、間違いなく彼を煽るように、わざと酷い言い方をしているようにも見える。「だとしたらこちらもその迷惑かけられた損害賠償として請求するしかありませんね」「それは……! どうにか考え直していただけないでしょうか!? お給料もまだいただけてないうえに、そんなお金まで発生してしまうと、正直これから生きていけないんです……!」上司がそう判断を下した瞬間、私はすぐに今の自分の苦しい状況を必死で訴える。もうこうなればなりふり構ってなんかいられない。すると、彼の手がそっと私の背中に触れる。「大丈夫だ」と、静かに私に聞こえるくらいの声で優しくそう声をかけた。「その取引先の相手は、彼女を訴えると言ってるんですね」「はい。大きな契約を途中で破り多大な損失と迷惑をかけてるわけですから、向こうももちろんそれは納得いかないでしょうしね~。今のこの状況になってしまうと、正直今までのお給料を払うのも……ねぇ」「えっ!? 今までのも支払っていただけないということでしょうか!?」「仕方ないですが、そうせざるを得ませんね~」上司は軽く受け流すような口調で答える。「そんな!  困ります! せめて働いてた時のお給料だけでもなんとかいただけませんか!?」「そう言われてもね~。こちらも非常に困ってるんです。それじゃあ、相手に要求されている莫大な賠償金をあなたが支払ってくれるというんですか?」私は何も言い返すことが出来なかった。「それならあなたも誠意として、そのお給料を辞退するという気持ちにならないんですか? あなたがその責任を取れないなら、せめてその謝罪として、それを辞退するのが筋というものではありませんか? 少し厚かましいんじゃないですかね~。自分はお給料をちゃっかりもらって、だけど賠償金は払えないと言って逃げようとしている。そんなこと人として許されると思いますか?」その上司は容赦なく私に酷い言葉を浴びせ続ける。なんなんだろう。直属の上司でもなく、一度も顔を合わせたこともないのに、たとえ私が悪いとはいえ、こんなにも酷く非難する理由はあるのだろうか……。そのうえ、人としての人格まで否定される……。私は、その状況に、今まで綾乃や義母に受けてきた家での酷い仕打ちや言動を思い出して、
last updateLast Updated : 2026-04-23
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第27話 容赦ない仕打ち

「おかしいですね。私は彼女が辞めることについて一切抗議をしたつもりはありませんが?」「いや、あのですね……」「そちらはありもしないことを平気で真実とすり替えようとされる会社だということがよくわかりました。今回のことで信用も信頼も失ったそちらの会社とは、もうこれ以上お付き合い出来ません」「え……それは……!」「うちが関わってる関連会社すべての契約をすぐに打ち切らせていただきます」「え!  全部ですか!?」「えぇ。そういえば、こちらのこの物件もうちが関わってますよね?」「はい……。えっ!?」「まぁその点は、そちらの社長さんとお話させていただきます。あなたでは話にならない。あなたの処分も直に言い渡されることでしょう」「いや、それだけは勘弁してください!」「ふっ……。先程彼女も同じようにあなたにこうやって懇願していた。それでもあなたは聞く耳も持たず彼女を訴えようとした。なのにあなたは勘弁してほしいとは随分都合がいい話ですね」彼が容赦なくどんどん追いつめていき、上司は下を俯き何も言い返せなくなっている。冷静なこんな彼の視線や言葉は、今までは私に向けられていた。それが今は私のために、そんな彼になっていることに、私は言葉に出来ない気持ちになって、ただ彼を隣で見つめてしまう。「とにかく彼女は今日でここを辞めさせてもらいます。問題ないですね?」「はい……」彼の有無をも言わさない圧と空気感に、上司はただ黙ってそう頷くしかなかった。「行くぞ」彼はそれを確認すると同時に、席を立ち上がり私に声をかける。「はい……」私はそのあと黙ったまま彼のあとについて行き、また車に一緒に乗り込んだ。私のためにやってくれたことだけれど、彼のその冷たい空気感や言葉に、昔の彼を思い出した私は、車を走らせてからも上手く言葉が出てこなかった。しばらく沈黙が続いたあと、その沈黙を破ったのは彼からだった。「これでお前はモデルに専念出来るから安心すればいい」「……あり……がとう……」私は小さく呟くようにその言葉をようやく伝える。「あなたがあそこまでやるなんて思わなかった……」「あれでもまだ足りないくらいだ」「えっ……?」「お前がいたからあれだけで終わらせた。本来ならあんな非常識な人間には容赦ない」彼の言葉が車中に冷たく響く。「だけど、あなたの関連会社まで切るな
last updateLast Updated : 2026-04-24
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第28話 自分の価値

「やっぱりお前はわかりやすいな」「え……?」「そうやって俯いて黙ってしまうときは、大抵お前は何かを我慢してただろ」彼のその言葉にまた私は驚いて顔を上げた。「お前の性格じゃ、そんな場所で上手くやっていけないのは当然だ。そんな息苦しい場所で耐える必要はない」彼の遠回しなその言葉は嫌味なのか、それとも優しさなのか、今の私にはまだ判断出来なかった。「とにかくあの会社は調査に入って、元々制裁を与えるつもりだった。だからお前が心配する必要は何もない」「わかりました……」彼のその仕打ちと行動は、少し私でも怖く感じるほどだった。敵に回すと彼はそんな行動に出るのだと、そんな彼を知っているような知らないようなそんな不思議な感覚だった。だけど、正直この人に助けてもらったことは不本意だけど、それでも私のこれからの人生を考えると、この人に今再会したことは、私にとって不幸ではないと、少しそんなふうに思えた。「お前はあの自宅の生活だけじゃなく、職場でもそんな思いをしてきてたんだな……」「えっ……?」「いや。独り言だ」彼は誤魔化すように呟く。「もう大丈夫なのか……?」「え?  何が……?」「さっき過呼吸になってただろ」「あぁ……」「よくあるのか……?」「……たまにね。あなたは知らなかったでしょうけど」「無理するな」「え……?」私を心配してくれてるの……?私が風邪をひいたときも、調子が悪いときも、今までこの人は気にもかけてはくれなかったのに、今のこの状況で伝える彼のその言葉に、不覚にも胸が跳ねてしまった。「これからはお前は商品なんだ。自己管理はもちろん健康管理、生活環境すべてを一新し整えなければならない」そして彼のその言葉にまたガッカリしてしまう。「そうね……。私は商品だものね」その言葉を自分で口にすると、どうしてか少し虚しくなった。自分で持ちかけた”彼にとっての商品”という事実に、私は自分で自分の首を絞めるような、そんな感覚になってしまう。「これからはすべて俺に任せろ」「すべてって?」「お前は身一つで俺に委ねればいいということだ」「そんなの……今までと変わらないじゃない……」結局は私はこの人に頼る人生になるの……?せっかく私は自分の道を切り拓こうとしているのに……。だけど、前にこの人に言われた今の私じゃ何も出来ないということ
last updateLast Updated : 2026-04-25
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第29話 最初の洗礼

そう言われ彼に連れて来られた場所は、綾乃がいる現場だった。彼はその現場にいる誰かに話があるからといって、車を停めて先にその場所へ向かった。そして私にはモデルの現場を見学するようにと彼から指示され、大勢いる賑やかな撮影現場へと、一足遅れて足を踏み入れる。美しく着飾り自らを魅力的に演出しているモデルの人たちに目が留まり、しばらく見入る。綾乃のアシスタントとして現場にいたときは、そんな意識をしていなかったから気づかなかったけれど、確かにモデル側としての意識をして見ていると、彼がさっき言ってた自分を高める意識というものが、なんとなくどういうものかわかりそうな気がしてくる。「ちょっと! 今まで何してたのよ」声をした方に振り返ると、それは綾乃だった。「え?」「なんで今日こんなに遅いのよ。おかげで全部私が自分でやらなきゃいけないこと多かったじゃない」綾乃のこの言い方を見ると、私がアシスタントを辞めたことをまだ知らないってこと……?周りに誰もいないのをいいことに、相変わらず綾乃は周りに気づかれないよう私に苛立ちをぶつける。「とりあえず買物行って来てくれない?」「……私はもう、アシスタントを辞めたから」「はっ?  辞めた?  勝手に辞めてもらったら困るんだけど。っていうかアシスタント辞めたって、あんたそれ以外仕事なんて何も出来ないじゃない」「一弥さんから、何も聞いてないの……?」「知らないわよ。っていうか、あんたこそ離婚したくせに、まだ一弥お兄ちゃんに執着してるの?」「違うわ……。私も……、私もこれからは、あなたと同じモデルの道に進むの」「えっ?  はっ?  何言ってんの。あんたがそんな簡単に出来るほど、モデルは甘い世界じゃないのよ」「わかってるわ」「それにあんたが私と同じような位置にいけると思ってたら大間違いよ。今も一弥お兄ちゃんが私の大きな仕事のために、偉いプロデューサーさんと話をしてくれてるの」「え……?」「もしかして、自分も……とか思ったりしてる? あんたじゃ無理よ。私だからその仕事が回ってきたの。ド素人が淡い夢なんて見ない方がいいわ」あぁ、そういうことか。一弥さんは綾乃のその仕事のために、わざわざ……。一弥さんは、私にこれを見せつけるために、ここに連れてきたの……?綾乃との差を実感させられるたびに、私はまた自信を失くしそうに
last updateLast Updated : 2026-04-26
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第30話 追いつめられる宿命

まだ何の経験もない私がどうして直接そんなすごい人にオファーされたのか不思議だった。彼についていき、そのプロデューサーさんに話を聞くと、その理由はまさかのあの日のプールでの写真だった。私にとって辛い出来事がまた大きな光に繋がる。この世界に飛び込んでから、私の知らないいろんな可能性の扉が一つ一つ開いていくそんな感覚だった。話が終わり、彼と車まで戻ると、そこにはまた綾乃の姿があった。「一弥お兄ちゃん! 」「綾乃。まだ仕事なんじゃないのか」「一弥お兄ちゃんと一緒に帰りたくて、急いで撮影終わらせて来たの」「そうか。なら二人とも送ってくから乗ってくれ」「ありがとう~! 一弥お兄ちゃん!」一弥さんにそう言われ、助手席に座ろうかとドアに手を伸ばしたら……。「そこ。私の席なんだけど」その手をバシッと掴まれ綾乃がキッと私を睨む。「彼がなんであんたをマネジメントしようと思ったのか知らないけど、ちょっと面倒見てもらえるからっていい気になんないでよね。彼が一番大事にしてるのは私よ。勘違いしないで」綾乃は私に言いたいことだけ言って、助手席に乗り込む。私はその手を引っ込め、仕方なく後ろの席に座った。「綾乃の家のが近いから、先に綾乃を送っていく」「あっ、一弥お兄ちゃん……!  私この前お兄ちゃんの家に忘れ物しちゃったみたいなの」「忘れ物?」「家に帰ったらピアスつけてなかったことに気づいて……。お気に入りのピアスだから、今から一緒に取りに行っていい?」「それなら次会うとき、持って行ってやるが」「お気に入りのピアスだから次のお仕事につけて行きたいの」「わかった。なら先に杏華の家から回るか」「ありがとう~!」一弥さんにそう告げたあと、運転席で前を向いている一弥さんに気づかれないように、綾乃は後ろに振り返り、私を盗み見る。そして私と目が合った途端、勝ち誇ったような顔をして意味ありげに笑った。その言葉の意味は、きっとその微笑みが答えなのだろう。それからも、助手席で綾乃がこれ見よがしに隣の一弥さんに寄り添い嬉しそうに会話をし彼を独占する。少し前まで、その彼の隣のその場所は私の特権だった。この密室でそれを見せつけられる苦痛は、彼と他人になった時点で受け入れていたはずなのに。虚しく後ろから見つめている私は、そんな二人を見ることでまだ胸の痛みが残っている
last updateLast Updated : 2026-04-27
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