All Chapters of 冷徹CEOとの離婚後、私は夫の忠実な部下と恋に落ちた: Chapter 171 - Chapter 180

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少しだけ近い距離

昼食を終えた唯と美咲は、店を出て駅まで並んで歩いていた。夏の日差しは強かったが、風が吹くたびに少しだけ暑さが和らぐ。「今日はありがとう」「こっちこそ」美咲は笑いながらペットボトルのお茶を口にした。「たまにはこういう時間も必要だよ」「そうだね」唯も微笑む。ここ最近は仕事ばかりだった。週刊プライムのこともあり、美咲とゆっくり食事をする時間すら減っていた。「じゃあ、私はこっちだから」駅前で足を止め、美咲が手を振る。「また連絡するね」「うん、気をつけて」美咲の背中を見送りながら、唯は小さく息を吐いた。少し気分が軽くなった気がする。やはり、一人で抱え込むより誰かと話す方が楽だった。そのまま事務所へ戻ろうと歩き出した、そのときだった。スマートフォンが震える。画面を見ると、高倉からだった。唯は少しだけ目を丸くする。『先日お約束した追加資料について、一点だけ補足がございます。お手すきの際にご確認いただけますでしょうか。』仕事の連絡だった。唯は歩きながら画面を開く。添付された資料には、補足説明が丁寧に書き込まれている。ほんの数行の説明だったが、疑問に思っていた点がすぐに理解できた。「さすが……」思わず笑みがこぼれる。仕事になると、高倉はいつも先回りして準備をしてくれる。返信を打つ。『ありがとうございます。ちょうど確認していたところでした。助かります。』送信すると、すぐにスマートフォンを鞄へしまった。仕事のやり取り。それだけなのに、不思議と心が落ち着いた。事務所へ戻ると、そのまま資料へ赤字を入れていく。高倉が補足してくれた部分のおかげで、作業は思っていたより早く進んだ。
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突然の依頼

翌朝。唯が事務所へ着くと、デスクの上には一冊のファイルが置かれていた。「これ……」担当者から預かった案件資料だった。付箋には、『急ぎで確認をお願いします』とだけ書かれている。唯は鞄を置き、すぐに資料へ目を通した。思っていた以上に急を要する案件らしい。先方から修正依頼が入り、できるだけ早く打ち合わせをしたいと連絡があったようだ。「今日中か……」スケジュール帳を開く。午後なら時間は取れそうだった。そのとき、事務所の電話が鳴る。「はい」受話器を取ると、相手は高倉の会社だった。担当者から用件を聞き、唯はメモを取る。「はい、承知しました」電話を切ると、小さく息を吐いた。急な仕様変更が入り、高倉たちも対応に追われているらしい。できれば今日中に一度、内容を整理したいという話だった。「そういうことか」先ほどの資料と話がつながる。唯はすぐに担当者へ連絡を取り、午後の打ち合わせを了承した。今回は急な案件だ。高倉が来るのか、それとも別の担当者なのかは分からない。それでも仕事である以上、やるべきことは変わらない。唯は必要な資料を机いっぱいに広げ、確認を始めた。 ◇◆◇ 同じ頃。高倉も社内の会議室で資料を読み返していた。「急な変更になりましたね」部下の一人が声を掛ける。「ええ」高倉は頷く。「先方にもご負担をお掛けしてしまいます」「午後の打ち合わせですが」部下が予定表を確認する。「専務がご出席されますか」高倉は少し考えた。本来なら部下へ任せてもいい内容だった。だが、今回
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仕事の延長線

応接室には、すでに関係者が集まっていた。唯は配られた資料へ目を通しながら、修正箇所へ付箋を貼っていく。ほどなくして、ドアが開いた。「お待たせいたしました」先頭に立つ涼が一礼する。「本日は急なお願いとなり、申し訳ありません」「いえ」担当者が笑顔で応じる。「こちらこそ、お忙しいところありがとうございます」高倉は涼の一歩後ろから会釈をすると、持参した資料を順番に配っていく。唯の前にも静かに一部置かれた。「ありがとうございます」「こちらこそ」交わした言葉は、それだけだった。会議が始まると、空気はすぐに仕事のものへ変わる。急な仕様変更について、涼が経緯を説明する。高倉は補足資料を示しながら、変更点を一つずつ整理していく。唯もメモを取りながら質問を重ねた。「こちらの修正ですが、納期への影響はありませんか」「その点は調整済みです」高倉が資料の一ページを開く。「こちらをご覧ください」唯は資料を受け取り、内容を確認する。「なるほど……」疑問が解けたように小さく頷いた。予定より三十分ほどで打ち合わせは終わる。「本日はありがとうございました」関係者が次々と席を立っていく。唯も資料をまとめていた、そのときだった。「あの」担当者が高倉を呼び止める。「追加資料ですが、データでいただけると助かります」「承知しました」高倉は頷く。「本日中にお送りします」唯も隣で頷いた。「こちらでも確認いたします」ほんの数十秒のやり取りだった。仕事として、ごく当たり前の確認。それだけである。「では、失礼いたします」唯が一礼すると、高倉も軽
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共有すべきこと

会社へ戻ると、高倉は会議資料を整理しながら、小さく息をついた。頭の中には、ビルの向かい側に立っていた男の姿が残っている。偶然とは思えなかった。文具店でも見かけた。先日も駅で視線を感じた。そして今日。同じように、少し離れた場所からこちらを見ていた。高倉は手帳を閉じると、涼の執務室をノックした。「失礼いたします」「どうした」涼は書類から顔を上げる。「少し、お時間をいただけますか」高倉の表情を見て、涼も仕事の話だと察したらしい。「座ってくれ」高倉は簡潔にここ数日の出来事を説明した。文具店で偶然会った日のこと。駅で感じた視線。そして今日、打ち合わせ先のビルで再び同じ男を見かけたこと。最後まで黙って聞いていた涼は、腕を組んだ。「同じ人物だと思うか」「断定はできません。ただ、可能性は高いかと」「週刊誌か」「おそらく」短い沈黙が流れる。やがて涼は静かに口を開いた。「会社として何か動く必要はあるか」高倉は首を横に振った。「現時点ではありません。相手は公共の場所から見ているだけです。法務とも共有していますが、今はこちらから動く段階ではないという判断です」涼は小さく頷いた。「わかった」それだけだった。感情的になることも、相手を非難することもない。ただ状況を整理し、必要になれば動く。それが二人の結論だった。「一つだけ」涼が高倉を見た。「唯には伝えたのか」「いえ」高倉は静かに答える。「今の段階でお伝えしても、不安にさせるだけです」涼は少し考え込み、やがて頷いた。「私も同意見だ」もし唯が知れば、自分を責めるだろう。
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別の角度

「これ以上は動きませんね」若い記者は手帳を閉じた。ここしばらく、高倉を追ってみたものの、目立った収穫はなかった。仕事で外出し、仕事を終えて会社へ戻る。例の女性と会うのも、取引先で顔を合わせる程度。写真を並べても、それ以上の関係を示す材料にはならない。石田はコーヒーを口に運びながら、小さく頷いた。「焦る必要はない」「ですが、このままだと記事には……」「書けない」石田はきっぱりと言った。「書けないものは書かない。それだけだ」若い記者は黙って頷く。その姿を見て、石田は続けた。「少し見方を変えてみよう」「見方、ですか」「高倉専務だけを見ても、何も出ない可能性がある」石田は机の上に広げられた資料へ視線を落とした。「仕事相手は一人じゃない」その一言で、若い記者も意図を理解する。「周辺を調べるということですか」「ああ」石田は資料を閉じた。「仕事の流れを知れば、見えてくるものもあるかもしれない」決して違法な手段ではない。公開されている情報や、正規の取材で確認できる範囲を積み重ねる。それが石田のやり方だった。「しばらくは、その方向で動こう」「わかりました」若い記者は新しいページを開き、取材メモを書き始めた。 ◇◆◇ 一方、唯は事務所で新しい案件の資料を読み込んでいた。「これ、思ったより大変かも……」ページをめくる手が止まる。内容は複雑だったが、やりがいもある。赤ペンで要点を書き込みながら、必要な確認事項を整理していく。気がつけば、窓の外は夕焼けに染まり始めていた。「もうこんな時間」
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もう一人の存在

「この人は?」若い記者が一枚の写真を手に取った。そこには、美咲の姿が写っている。石田は写真へ目をやると、小さく頷いた。「例の女性の友人だ」若い記者は首を傾げた。「正直、ここまで追う理由がよく分からなくなってきました」「そう思うか」石田はコーヒーカップを置いた。「お前は、この取材がどう始まったか覚えているか」「匿名の情報提供、ですよね」「そうだ」石田は引き出しから一枚の紙を取り出した。コピーされたメールだった。差出人は分からない。送信元も海外のフリーメールで追跡はできなかった。そこには、こう書かれている。『高倉専務と桜井唯は、仕事以上の関係です。調べれば必ず証拠が出ます。』若い記者は黙って読み返した。「私は最初から、この内容を信じていたわけじゃない」石田は静かに続ける。「だが、具体的な名前まで挙がっていた。確認くらいはする価値があると判断した」「それで、高倉専務を……」「ああ」石田は頷く。「実際、何度か接点は確認できた」文具店での偶然。仕事での打ち合わせ。会議後の短い会話。どれも事実だった。「ですが」若い記者は写真へ目を落とす。「今のところ、仕事以上の証拠はありません」「そのとおりだ」石田は即座に答えた。「だから記事を書いていない」もし本当に匿名の情報が間違っているなら、それで構わない。確認した結果、何もなかった。それもまた取材の結論だった。「この友人も、もう追う必要はありませんか」石田は写真を封筒へ戻した。「必要以上には追わない」その口調は穏やかだった。「一
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見えない相手

翌朝。高倉はいつもどおり出社すると、社長室へ向かう前にその日の予定を確認していた。来客が二件。社内会議が一件。午後は取引先との打ち合わせ。特別な予定は何もない。スケジュール帳を閉じようとしたとき、法務担当から連絡が入った。「少しお時間をいただけますか」「わかりました」高倉は資料を手に、法務担当の部屋へ向かう。部屋へ入ると、法務担当は一枚の書類を差し出した。「その後、変わったことはありませんか」「今のところは」高倉は首を横に振る。「視線を感じることはありますが、それ以上の動きはありません」法務担当は静かに頷いた。「こちらでも状況を整理しました」机の上には、これまでの出来事が時系列でまとめられていた。美咲への接触。文具店での写真。仕事先での張り込み。どれも、それだけを見れば違法とは言い切れない。だからこそ対応が難しい。高倉は資料へ目を落としながら、ゆっくり口を開いた。「一つ、気になっていることがあります」「何でしょう」「もし週刊誌が私たちを追っているのだとすれば……」高倉は少し言葉を選んだ。「誰かが情報を流している可能性はありませんか」法務担当は表情を変えなかった。「可能性としては否定できません」「やはり」「ただし、それを裏づける材料はありません」高倉は静かに頷く。推測だけで結論を出すべきではない。それは自分が一番よく分かっていた。「現時点では、引き続き記録を残しましょう」「承知しました」話はそこで終わった。部屋を出た高倉は、廊下を歩きながら小さく息を吐く。誰かが意図的に情報を流している。もし
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予定外の電話

翌日の昼過ぎ。唯は机いっぱいに資料を広げ、赤字を入れていた。ようやく一段落したところで、デスクの電話が鳴る。「はい」受話器を取ると、聞き覚えのある声がした。「お疲れさまです、高倉です」唯は思わず姿勢を正す。「お疲れさまです」「今、お時間よろしいでしょうか」「はい、大丈夫です」高倉は要件を手短に説明した。先日打ち合わせを行った案件について、取引先から確認事項が一つ追加されたという。資料を送り直すほどではない。電話で済む程度の内容だった。唯はメモを取りながら頷く。「承知しました。こちらでも確認しておきます」「ありがとうございます」そこで会話は終わるはずだった。けれど、高倉は一瞬だけ言葉を切った。「……先日は、お疲れさまでした」仕事の打ち合わせのことを言っているのだろう。唯は自然と笑みを浮かべる。「こちらこそ、ありがとうございました」ほんの数秒の沈黙。それから高倉が穏やかな声で続けた。「急な予定変更で、ご負担をお掛けしてしまいました」「そんなことありません」唯は首を横に振る。「高倉さんのおかげで、確認もスムーズでした」電話の向こうで、小さく笑う気配がした。「そう言っていただけると助かります」その一言を最後に、電話は切れた。受話器を置いた唯は、小さく息を吐く。たった数分。仕事の電話だった。それでも、どこか胸が温かくなる。最近はメールばかりだったからだろうか。電話越しに聞いた高倉の声が、少しだけ懐かしく感じられた。「……頑張ろう」そう呟くと、唯は再び資料へ向き直った。 
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正規の取材

翌日。週刊プライム編集部では、若い記者が受話器を置いた。「断られました」石田はパソコンから目を離さずに尋ねる。「広報か」「はい。案件については回答できないとのことでした」企業としては当然の対応だった。進行中の案件について話せることはない。関係者の氏名や打ち合わせの内容も、公表できないという。「そうだろうな」石田は落ち着いた様子で頷いた。「では、次だ」「次、ですか」「取材は一つ断られたら終わりじゃない」石田はメモ帳を開く。「公開されている情報だけでも確認できることはある」若い記者は頷きながらメモを取る。「会社の発表資料、登記情報、過去のニュースリリース……」「そういう積み重ねだ」石田は静かに言った。「近道を探すな。遠回りでも事実を積み重ねろ」「はい」若い記者はもう一度匿名メールを見つめる。『調べれば必ず証拠が出ます。』その一文だけが、どこか引っ掛かっていた。本当に証拠があるのなら、送り主はなぜ自分で示さなかったのだろう。その疑問は、まだ答えの出ないままだった。同じ頃、高倉は社長室で涼と打ち合わせをしていた。予定の確認を終えたところで、秘書室の電話が鳴る。応対した社員が受話器を押さえ、高倉を見る。「専務、広報からです」高倉は受話器を受け取った。「高倉です」『先ほど週刊プライムから問い合わせがありました』その一言で、高倉の表情がわずかに引き締まる。『進行中の案件について確認したいとのことでしたので、お断りしております』「ありがとうございます」高倉は短く礼を述べた。『念のため、ご報告まで』電話が切れる。涼が顔を上
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差出人不明

数日後。唯は事務所で一人、書類の整理をしていた。午前中の打ち合わせを終え、ようやく一息ついたところだった。郵便受けを確認すると、一通の茶封筒が入っている。差出人の記載はない。「……?」仕事関係だろうか。そう思いながら封を開ける。中から数枚の写真が滑り落ちた。唯は思わず息をのむ。文具店の前で、高倉と立ち話をしている写真。取引先のビルから出てきた高倉と、自分が廊下で話している写真。どちらも、仕事中の一場面だった。それでも、遠くから切り取られた写真は、不思議なほど親しげに見える。最後に、一枚の紙が入っていた。そこにはパソコンで印字された一文だけが記されている。『まだ気づいていないのですか。』唯の背筋を冷たいものが走る。誰が送ってきたのか。何のために。何も分からない。ただ一つだけ分かることがあった。誰かが、自分たちを見ていた。唯は震える手でスマートフォンを手に取る。少し迷った末、高倉の番号を押した。呼び出し音は一度だけ鳴り、すぐにつながる。「高倉です」落ち着いた声が耳に届く。その声を聞いた途端、張り詰めていた糸が少しだけ緩んだ。「高倉さん……」自分でも驚くほど声が震えている。「どうされました」高倉の口調が変わる。唯は机の上の写真を見つめたまま、小さく息を吸った。「事務所に、写真が届いたんです」短い沈黙が流れる。「写真、ですか」「私と、高倉さんが写っていて……」そこまで言うと、言葉が詰まった。高倉は唯の様子を察したのだろう。静かな声で尋ねる。「
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