All Chapters of 冷徹CEOとの離婚後、私は夫の忠実な部下と恋に落ちた: Chapter 191 - Chapter 200

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狙われていたもの

翌朝。唯は出勤すると、昨日届いたメールをもう一度開いた。『どうして、一人で確認しないのですか。』たった一文。送り主の名前もない。送信元も、見慣れないフリーメールのアドレスだった。高倉からは、「そのまま残しておいてください」と言われている。唯は画面を閉じると、小さく息をついた。怖くないわけではない。それでも、不思議と昨日ほどの恐怖はなかった。一人ではない。そう思えるだけで、心の持ちようが違っていた。その頃、高倉は法務担当から返却された資料に目を通していた。メールの内容。これまで届いた封筒の文面。時系列に並べると、一つだけ共通点が見えてくる。『まだ気づいていないのですか。』『次は、間に合いません。』『どうして、一人で確認しないのですか。』高倉は腕を組んだ。どの文章も、「何かをさせたい」という意思が感じられる。恐怖を与えること自体が目的ではない。送り主は、唯にある行動を取らせようとしている。そこへ、涼が執務室へ入ってきた。「考え込んでいるな」「少し気になることがありまして」高倉は机の上のメモを見せた。涼は文面を順に読み、静かに頷く。「脅迫というより、誘導だな」「私もそう思います」高倉は答えた。「唯さんを怖がらせたいだけなら、もっと直接的な言葉を使うはずです」だが、送り主は違う。まるで唯が、自分一人で何かを確かめに動くことを期待しているようだった。「だとすれば」涼が静かに言う。「唯は相手の思惑どおりには動いていないということか」「はい」高倉は迷いなく頷いた。「唯さんは、その都度私へ連絡してくださいました」そのたびに、送り主の狙いは外れている
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予定外の行動

翌日。高倉は朝一番で唯へ電話を掛けた。「おはようございます」『おはようございます』唯の声は、昨日よりも落ち着いて聞こえた。「昨夜は何もありませんでしたか」『はい。郵便物もメールも届いていません』「そうですか」高倉は静かに頷いた。「本日も何かございましたら、ご連絡ください」『分かりました』短い会話を終え、電話を切る。高倉はスマートフォンを机へ置くと、小さく息をついた。相手は動きを止めたのか。それとも、次の機会をうかがっているだけなのか。まだ判断はできなかった。その頃、唯は事務所へ向かっていた。駅前を歩いていると、ふと違和感を覚える。視線ではない。誰かが近づいてくる気配だった。「桜井さん、ですよね」背後から男性の声が掛かる。唯は足を止めて振り返った。見覚えのない男だった。三十代半ばくらいだろうか。落ち着いた服装で、手には茶封筒を持っている。「はい……」唯が警戒しながら答えると、男は封筒を差し出した。「これを、お渡しするよう頼まれまして」「頼まれた……?」「ええ」男は少し困ったように笑った。「駅前で声を掛けられて、『急いでいるので代わりに渡してほしい』と言われまして」唯の表情が強張る。「その人は」「帽子をかぶっていて、よく覚えていません」男は申し訳なさそうに首を振った。「では、私はこれで」封筒だけを渡すと、そのまま足早に去っていく。唯は慌てて呼び止めようとした。「すみません!」しかし男は人混みへ消え、見失ってしまった。唯は手元の封筒を見つめる。
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誘い

高倉が駅へ着いたとき、唯は約束どおり改札の近くで待っていた。高倉の姿を見つけると、唯はほっとしたように表情を緩める。「お待たせしました」「いいえ」唯は鞄から茶封筒を取り出した。「これです」高倉は封筒を受け取る。前回までと同じように、差出人の記載はない。封はまだ閉じられたままだった。「開けます」「はい」高倉は慎重に封を開いた。中には、一枚の紙だけが入っていた。写真はない。高倉は紙を取り出し、印字された文字へ目を落とす。『話がしたいだけです。次は、一人で来てください。』唯も隣から文面を見つめる。「一人で……」思わず声が漏れた。高倉は静かに紙を封筒へ戻した。「やはり」「何か分かったんですか」「送り主の目的です」高倉は唯へ向き直る。「これまでの手紙やメールも含めて考えると、一貫しています」『まだ気づいていないのですか。』『どうして、一人で確認しないのですか。』『次は、一人で来てください。』「送り主は、唯さんを一人で動かそうとしています」唯も小さく頷いた。言われてみれば、そのとおりだった。脅しているようでいて、本当に望んでいるのはそこではない。「でも、どうして……」「分かりません」高倉は首を横に振る。「ただ、一つだけはっきりしています」その表情は穏やかだったが、口調には迷いがなかった。「この指示に従う必要はありません」唯は高倉を見つめる。「もちろんです」もう、一人で抱え込むつもりはなかった。高倉は小さく頷く。「この封筒も、これまでのものと一
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目的は私ではない

翌朝。高倉は出社すると、これまで届いた封筒を机の上へ並べた。写真。手紙。メールを印刷したもの。そして、昨日受け取った封筒。一つひとつを見返しながら、小さく息をつく。そこへ、涼が執務室へ入ってきた。「昨日はどうだった」「新しい手紙が届きました」高倉は文面を見せる。涼は目を通し、静かに眉を寄せた。「『一人で来てください』か」「はい」「唯は」「もちろん従いません」高倉は迷いなく答える。「私へ連絡をくださいました」涼は安心したように頷く。「それでいい」高倉は机の上の封筒へ視線を戻した。「社長」「何だ」「一つ、気になっていることがあります」涼は椅子へ腰掛ける。高倉は封筒を順番に並べ替えた。「最初の写真は唯さんへ送られました」「そうだな」「次は会社へ」「……ああ」「そして昨日は、唯さんへ直接手渡そうとしています」涼は黙って続きを待つ。「送り先も方法も変えていますが、一つだけ変わらないものがあります」高倉は静かに言った。「送り主は、一度も私へ直接接触していません」その言葉に、涼も小さく目を細めた。「確かに」「もし私へ何か伝えたいなら、会社へ送れば済む話です」しかし、送り主はそうしなかった。唯へ送る。唯を一人にしようとする。唯へ直接届けようとする。すべて唯を中心に動いている。高倉はゆっくりと言葉を続けた。「私は邪魔なだけです」「つまり」「送り主の目的は、私ではありません」高倉は断言した。「唯さん
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譲れないもの

唯は受話器をゆっくりと戻した。静まり返った事務所に、自分の呼吸だけが響く。「……何だったの」思わず呟く。営業の間違い電話ではない。誰かが確かにこちらへ電話を掛け、何も話さずに切った。その事実だけが、不気味だった。唯は一瞬だけ迷う。けれど、すぐにスマートフォンを手に取った。もう一人で抱え込まない。それは高倉との約束だった。電話はすぐにつながる。「高倉です」「唯です」唯は無言電話があったことを落ち着いて説明した。相手は何も話さなかったこと。受話器の向こうから息遣いだけが聞こえたこと。高倉は最後まで口を挟まず、静かに耳を傾けていた。「唯さん」「はい」「今日は予定を変更してください」穏やかな口調だった。だが、その声には迷いがない。「急ぎでないお仕事は、明日に回しましょう」「でも……」「今日は十分です」高倉は静かに言った。「私がお迎えに伺います」唯は息をのんだ。「高倉さん、お仕事が」「もう終わります」短い返事だった。「今日は譲れません」その一言に、唯はそれ以上何も言えなくなる。「……分かりました」「三十分ほどで伺います。それまで事務所でお待ちください」「はい」電話を切ると、唯は静かにスマートフォンを胸へ抱いた。怖い。それでも、不思議と心は落ち着いていた。一人ではない。その安心感が、不安を少しずつ押し返してくれていた。一方、高倉は受話器を置くと、すぐに立ち上がった。「社長」執務室をノックする。
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ドアの向こう

チャイムが、もう一度鳴る。唯はドアの前で足を止めた。約束の時間にはまだ早い。高倉が来るには、あと二十分ほどあるはずだった。――もしかして。胸の奥に嫌な予感が走る。唯はすぐにドアを開けようとはせず、インターホンのモニターを確認した。画面には、宅配業者の制服を着た男性が映っている。「お届け物です」スピーカー越しに声が聞こえた。唯は小さく息をつく。「どちらからでしょうか」「差出人のお名前がありませんので、直接お渡しをお願いしております」その一言で、唯の表情が強張った。差出人がない。昨日までの封筒と同じだった。唯はドアノブへ伸ばしかけた手を止める。高倉の言葉が頭をよぎる。――一人で判断なさらないでください。唯はスマートフォンを取り出した。高倉へ電話を掛ける。呼び出し音は一度で切れた。「唯さん」「高倉さん……」唯は小声で状況を説明する。宅配業者が来ていること。差出人のない荷物だと言われたこと。高倉はすぐに答えた。「ドアは開けないでください」その声は落ち着いていた。「私はもう近くまで来ています」「でも、本当に宅配業者さんだったら……」「構いません」高倉は迷いなく言う。「不在票を入れていただけば済む話です」唯は静かに頷いた。「分かりました」電話を切らず、そのまま耳へ当てる。外では、もう一度チャイムが鳴った。「お届け物です」唯は返事をしない。数十秒の沈黙。やがて、足音が遠ざかっていく。「……行ったでしょうか」
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越えてはならない一線

高倉は不在票を手に取ったまま、しばらく動かなかった。紙質は粗いコピー用紙だった。配送会社のロゴらしきものは印刷されているが、滲んでいて輪郭も不鮮明だ。伝票番号も、担当営業所の記載もない。「偽物ですね」静かな声だった。唯は息をのむ。「やっぱり……」高倉は小さく頷いた。「本物の不在票ではありません」唯はドアへ目を向けた。もし何も考えずに開けていたら。そう思うだけで、背筋が冷たくなる。「唯さん」高倉が穏やかに声を掛ける。「開けなくて、本当によかった」その一言で、唯の肩から少しだけ力が抜けた。「高倉さんが、開けないでくださいって言ってくれたからです」「いいえ」高倉は静かに首を振る。「唯さんが約束を守ってくださったからです」唯は小さく微笑んだ。ほんの少し前までなら、不安のあまり自分で判断してしまっていたかもしれない。けれど今回は違った。一人で抱え込まない。その約束を守ることができた。高倉は不在票を封筒へ入れると、スマートフォンを取り出した。「警察へ連絡します」「はい」唯も迷わず頷く。写真や手紙とは違う。今回は、事務所のドアを開けさせようとした。高倉は、その違いを重く受け止めていた。警察へ事情を説明すると、以前対応した生活安全課の担当者が事務所へ来てくれることになった。三十分ほどして担当者が到着し、不在票を確認する。「前回ご相談いただいた件から状況が進んでいますね」担当者は慎重に不在票を封筒へ戻した。「こちらはお預かりします」「お願いします」高倉はこれまで届いた写真や手紙、メールを印刷したものも提出した。担当者は一つ
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小さな違和感

翌朝。唯は事務所の鍵を開けると、真っ先に郵便受けを確認した。中には請求書や取引先からの封書が数通入っているだけだった。差出人のない封筒はない。唯は小さく息を吐く。「よかった……」事務所へ入り、パソコンの電源を入れる。メールを確認し、取引先への返信を済ませる。仕事を始めると、不思議と昨日までの不安は少しずつ薄れていった。   その頃。高倉は出社するとすぐ、生活安全課の担当者へ連絡を入れた。「高倉です。昨日はありがとうございました」『こちらこそ、ご協力ありがとうございました』担当者は落ち着いた口調で答える。『現在、お預かりした資料を確認しながら調べています』高倉は静かに耳を傾けた。『現時点でお伝えできることは多くありませんが、進展がありましたら、こちらからご連絡します』「承知しました」『それまでは、桜井さんにも身辺には十分お気を付けいただくよう、お伝えください』「分かりました」『また、新たな郵便物や電話などがありましたら、小さなことでも構いませんので、ご連絡ください』「ありがとうございます。よろしくお願いいたします」電話を切ると、高倉は静かにスマートフォンを机へ置いた。警察も動いている。だからといって、すぐに状況が変わるわけではない。今、自分にできることは限られている。唯の安全を見守ること。そして、新しい動きがあれば、すぐに対応することだった。昼休みが近づいた頃、高倉は唯へ短いメッセージを送った。『お疲れさまです。その後、お変わりありませんか』数分後、返信が届く。『今日は何もありません。仕事も順調です』その一文を見て、高倉は自然と表情を和らげた。
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気のせいでも

高倉が唯からのメッセージを確認したのは、退社の準備を始めた頃だった。『今日は特に変わったことはありません』その一文を読み、胸をなで下ろす。だが、続く文章に目を止めた。『ただ、気のせいかもしれませんが、ドアマットの向きが少し変わっていたような気がしました。昨日は警察の方も来ていたので、そのせいかもしれません』高倉はゆっくりと読み返した。すぐに返信を打つ。『ご連絡ありがとうございます』送信したあと、少し考え、さらに文章を続けた。『警察の方が出入りされた際に動いた可能性もあると思います』そこで一度、指が止まる。そして、もう一文加えた。『ですが、気のせいかもしれないことでも、お知らせいただけると安心できます』送信ボタンを押す。ほどなくして唯から返信が届いた。『分かりました。これからも気になったことは、お伝えします』高倉は自然と笑みを浮かべた。それでいい。確かな証拠でなくても構わない。唯が一人で悩まず、自分へ話してくれることが何より大切だった。スマートフォンをしまうと、高倉は帰り支度を始めた。その頃、唯も駅へ向かって歩いていた。高倉から届いた返信を読み返し、小さく笑う。否定されなかった。「そんなこと気にしなくていい」とも言われなかった。"教えてくれてありがとう"その気持ちが伝わってきて、胸が温かくなる。以前なら、迷惑を掛けてしまうかもしれないと考えていた。でも今は違う。些細なことでも話していい。そう思える相手がいる。駅へ着き、電車へ乗り込む。窓の外を眺めながら、唯は静かに息を吐いた。今日は、何事もなく終わりそうだ。そう思った、そのときだった。スマートフォンが震える。高倉からではない。見覚え
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警察からの連絡

翌日の午後。唯は取引先との電話を終え、机の上の資料を整理していた。そのとき、スマートフォンが鳴る。見覚えのない番号だった。一瞬だけ指が止まる。昨日の着信が頭をよぎったからだ。けれど今回は、すぐに電話へ出た。「はい、桜井です」『○○警察署生活安全課の△△と申します』落ち着いた男性の声だった。唯は思わず姿勢を正す。『先日ご相談いただいた件ですが、お時間をいただけますでしょうか』「はい」『改めてお話を伺いたいことがございます』「何か進展があったんでしょうか」唯は思わず尋ねる。担当者は少し間を置いて答えた。『申し訳ありません。電話では詳しくお話しできません』「そうですか……」『日程につきましては、ご都合を伺ったうえで調整させていただきます』唯は手帳を開きながら予定を確認する。担当者と日時を決め、電話を切った。スマートフォンを机へ置くと、小さく息を吐く。警察から直接連絡が来る。それだけで胸が少しざわついた。けれど今回は、一人で抱え込むつもりはない。唯はすぐに高倉へ電話を掛けた。「唯です」『唯さん』高倉はすぐに電話へ出た。「今、お時間よろしいでしょうか」『もちろんです』「警察から連絡がありました」その一言で、高倉の表情が引き締まる。「改めて話を聞きたいそうです」『そうですか』高倉は落ち着いた声で答えた。「来週、お伺いすることになりました」『承知しました』一拍置いて、高倉は続ける。『私もご一緒します』唯は思わず微笑む。「ありがとうございます」『こちらから申し出ますので、ご
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