翌朝。唯は出勤すると、昨日届いたメールをもう一度開いた。『どうして、一人で確認しないのですか。』たった一文。送り主の名前もない。送信元も、見慣れないフリーメールのアドレスだった。高倉からは、「そのまま残しておいてください」と言われている。唯は画面を閉じると、小さく息をついた。怖くないわけではない。それでも、不思議と昨日ほどの恐怖はなかった。一人ではない。そう思えるだけで、心の持ちようが違っていた。その頃、高倉は法務担当から返却された資料に目を通していた。メールの内容。これまで届いた封筒の文面。時系列に並べると、一つだけ共通点が見えてくる。『まだ気づいていないのですか。』『次は、間に合いません。』『どうして、一人で確認しないのですか。』高倉は腕を組んだ。どの文章も、「何かをさせたい」という意思が感じられる。恐怖を与えること自体が目的ではない。送り主は、唯にある行動を取らせようとしている。そこへ、涼が執務室へ入ってきた。「考え込んでいるな」「少し気になることがありまして」高倉は机の上のメモを見せた。涼は文面を順に読み、静かに頷く。「脅迫というより、誘導だな」「私もそう思います」高倉は答えた。「唯さんを怖がらせたいだけなら、もっと直接的な言葉を使うはずです」だが、送り主は違う。まるで唯が、自分一人で何かを確かめに動くことを期待しているようだった。「だとすれば」涼が静かに言う。「唯は相手の思惑どおりには動いていないということか」「はい」高倉は迷いなく頷いた。「唯さんは、その都度私へ連絡してくださいました」そのたびに、送り主の狙いは外れている
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