All Chapters of 冷徹CEOとの離婚後、私は夫の忠実な部下と恋に落ちた: Chapter 181 - Chapter 190

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送り主の目的

電話を切ると、高倉はすぐに立ち上がった。「社長」執務室へ顔を出す。涼は書類から目を上げた。「どうした」「唯さんの事務所へ、差出人不明の郵便物が届いたそうです」高倉は手短に説明した。送り主は不明。中には唯と自分が写った写真。そして、一枚の紙。『まだ気づいていないのですか。』涼の表情が険しくなる。「週刊誌か」「分かりません」高倉は首を横に振った。「少なくとも、断定はできません」もし週刊誌なら、記事を書くための材料として保管する方が自然だ。わざわざ本人へ送りつける理由が見当たらない。「法務には」「これから連絡します」「分かった」涼は短く頷いた。「唯を頼む」「承知しました」高倉は一礼すると、すぐに部屋を出た。唯は机の上へ写真を並べたまま、じっと見つめていた。文具店。取引先のビル。どちらも仕事中の写真だった。だからこそ、不気味だった。仕事をしている姿を、誰かがずっと見ていた。その事実だけが、胸を締めつける。ほどなくして、事務所のチャイムが鳴った。唯は立ち上がり、ドアを開ける。「失礼します」高倉だった。いつもどおり落ち着いた表情だったが、その足取りは普段よりわずかに速い。「ありがとうございます……」唯は安堵したように息をつく。高倉は軽く頷くと、すぐ机の上へ視線を向けた。「こちらですね」写真には手を触れず、封筒の宛名や消印を順番に確認していく。「封筒は開封されたままですか」「はい」「ほかに入っていたものは」唯は印字された紙を差し出した。
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見落としていたもの

高倉は机の上に並べられた写真を、もう一度ゆっくりと見渡した。文具店の前。取引先のビル。どちらも遠くから撮影されている。望遠レンズを使ったのだろう。人物だけを切り取るような構図だった。「唯さん」「はい」「この封筒は、今日届いたものですね」「はい。午前中に郵便受けを見たときには入っていなかったので、多分、お昼頃だと思います」高倉は静かに頷く。「ほかに、変わったことはありませんでしたか」唯は記憶をたどるように視線を落とした。「変わったこと……」しばらく考え込んだあと、小さく首を横へ振る。「思い当たることはありません」「そうですか」高倉は封筒を手に取ることなく、差出人や消印を確認する。差出人の記載はない。消印も、都内の集配局ということしか分からなかった。送り主を特定できるような情報は、意図的に消されているように思えた。「ずいぶん慎重ですね」唯がぽつりと漏らす。「ええ」高倉も同意した。「少なくとも、衝動的に送ったものではなさそうです」あらかじめ写真を用意し、印字した紙を入れ、匿名で投函する。そこまでして伝えたかったものは何なのか。高倉はもう一度、紙へ目を向けた。『まだ気づいていないのですか。』たった一行。だが、その一文が引っ掛かっていた。「気づいていない……」高倉は小さく呟く。唯が不安そうな表情で見上げた。「何か分かったんですか」「いえ」高倉はゆっくり首を振る。「ただ、この文章には違和感があります」「違和感?」「もし脅すことが目的なら、もっと直接的な表現を選ぶはずです」『次はもっとひどいことになる』『誰にも言うな』そういった文面の方が、恐怖を与えやすい。しかし、この送り主は違った。「『まだ気づいていないのですか』という書き方は……」高倉は言葉を選ぶ。「何かに気づくことを期待しているようにも読めます」唯は写真へ視線を落とした。「でも、何に……?」答えは出ない。写真を見ても、仕事中の場面しか写っていない。高倉も腕を組んだ。「現時点では分かりません」そう答えるしかなかった。そのときだった。唯のスマートフォンが小さく震える。画面には、美咲の名前が表示されていた。「美咲だ」唯は高倉へ一度視線を向ける。高倉が静かに頷いた。「出てください」唯は通話ボタンを押した。
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できること

高倉は封筒を丁寧に鞄へしまうと、唯へ向き直った。「唯さん。この写真と封筒は、私がお預かりしてもよろしいでしょうか」「はい。お願いします」唯は迷うことなく頷いた。「もし今後も同じようなものが届いたら、すぐにご連絡ください」「分かりました」「時間は気になさらなくて結構です。夜でも構いません」その言葉に、唯の表情が少しだけ和らぐ。「ありがとうございます」高倉は穏やかに微笑んだ。「唯さんをお守りするのも、私の役目ですから」唯は思わず目を伏せる。胸の奥がじんわりと熱を帯びた。何か言葉を返したかった。けれど、その気持ちをどう表現すればいいのか分からない。「それでは、今日は失礼いたします」高倉は軽く一礼すると、静かに事務所を後にした。会社へ戻った高倉は、その足で法務担当を訪ねた。「失礼します」「どうぞ」法務担当へ事情を説明すると、茶封筒を机の上へ置く。「取引先の担当者の事務所へ、このような郵便物が届きました」法務担当は封筒の中身を一通り確認した。写真。印字された紙。そして封筒。「差出人はありませんね」「はい」「送り主も分かっていません」法務担当は写真を封筒へ戻し、高倉へ返した。「現時点では、これだけで送り主を特定することはできません」「そうですね」「写真と封筒は、このまま保管してください」高倉は頷く。「もし同じような郵便物が続くようであれば、顧問弁護士への相談や警察への届け出も検討しましょう」「分かりました」「届いた日時や内容も、記録に残しておいてください」「承知しました」それだけだった。法務担当にも、それ以上できることはない。高倉は封筒を受け取
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静かな不安

翌朝。唯はいつもより少し早く事務所へ着いた。シャッターを開け、郵便受けを確認する。自然と手に力が入っていることに、自分でも気づいていた。――また届いていたらどうしよう。そんな不安が頭をよぎる。恐る恐る中を覗くと、入っていたのは仕事関係の封筒が数通だけだった。唯は胸をなで下ろす。「よかった……」鍵を閉め、事務所へ入る。昨日、高倉が持ち帰った写真のことを思い出す。『一人で抱え込まないでください』その言葉が、何度も頭の中でよみがえった。「大丈夫」自分に言い聞かせるように呟き、仕事の準備を始める。怖がっていても、仕事は待ってくれない。パソコンを立ち上げ、メールを確認する。新しい依頼が一件。取引先からの問い合わせが二件。いつもと変わらない朝だった。その頃、高倉は社長室で涼とその日の予定を確認していた。「午前中は社内会議、午後は取引先との打ち合わせです」「分かった」涼は予定表を閉じる。「唯からは、その後連絡はあったか」「いいえ」高倉は静かに答えた。「何もないなら、それが一番です」涼も頷く。送り主の目的は分からない。だからこそ、これ以上何も起こらないことを願うしかなかった。昼過ぎ。唯は近くのカフェで昼食を済ませ、事務所へ戻る途中だった。交差点の信号が赤に変わる。立ち止まり、何気なく道路の向こうへ目を向けた。スーツ姿の男性が一人、こちらを見ている。目が合った気がした。次の瞬間、その男性はスマートフォンへ視線を落とし、人混みへ紛れていく。唯はしばらくその場に立ち尽くした。気のせいかもしれない。昨日の出来事があったから、そう
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話してよかった

「実は……」唯は少しだけ声を落とした。「さっき、お昼を食べて事務所へ戻る途中で」電話の向こうは静かだった。高倉は急かすことなく、唯の言葉を待っている。「誰かに見られているような気がしたんです」「見られている、ですか」「はい。でも、本当にそうだったのかは分かりません」唯は苦笑する。「昨日のことがあったから、私が気にしすぎているだけかもしれなくて」高倉はすぐには答えなかった。数秒の沈黙のあと、穏やかな声が返ってくる。「気にしすぎだとは思いません」その一言に、唯は目を閉じた。否定されなかった。それだけで、胸につかえていたものが少し軽くなる。「どのような方でしたか」唯は思い出せる範囲で話した。スーツ姿だったこと。道路の向こうに立っていたこと。目が合ったように感じたこと。そして、すぐに人混みへ紛れてしまったこと。高倉は一つひとつ確認しながら聞いていた。「分かりました」話を聞き終えると、高倉は静かに言う。「現時点では、その方が送り主だとは言えません」「はい」「ですが、唯さんが不安を感じたのであれば、それは大切な情報です」唯は受話器を握りしめる。「話してよかったんでしょうか」「もちろんです」高倉は迷いなく答えた。「昨日も申し上げましたが、一人で判断なさらないでください」その言葉が、心に染みる。「ありがとうございます」唯は小さく笑った。「少し安心しました」「それならよかったです」高倉も柔らかく笑った気配がした。「今日は予定どおりお仕事を続けてください」「はい」「もし何かありましたら、すぐにご連絡ください」「分かりまし
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守るための判断

高倉は紙を見つめたまま、しばらく動かなかった。『次は、間に合いません。』唯に届いたものとは違う。送り主は、自分たちが動き始めたことを知っている。そう考えるのが自然だった。「社長」高倉は紙を封筒へ戻した。「同じ人物だと思います」涼も静かに頷く。「私もそう思う」短い沈黙が流れた。「法務には共有したのか」「唯さんへ写真が届いた件は報告済みです。こちらも、すぐに共有します」「それと」涼は高倉を真っ直ぐ見た。「もう警察へ相談してもいい頃じゃないか」高倉も同じことを考えていた。一度目は写真。二度目は会社への匿名の郵便物。どちらも直接危害を加えるものではない。しかし、相手は明らかにこちらの動きを把握している。これ以上様子を見るだけでは、唯を守れないかもしれない。「私も、その方がよいと思います」涼は静かに立ち上がった。「会社として協力できることがあれば言ってくれ」「ありがとうございます」高倉は一礼し、執務室を後にした。その日の夕方。高倉は唯へ電話を掛けた。呼び出し音が二度鳴ったところで、唯が出る。「もしもし」「お疲れさまです」高倉は穏やかな声で切り出した。「お仕事中ではありませんでしたか」「ちょうど終わったところです」唯の声を聞き、高倉は少しだけ安心する。「今日は変わったことはありませんでしたか」「大丈夫です」唯は静かに答えた。「郵便も届いていませんし、誰かに見られている感じもしませんでした」「そうですか」その言葉に、高倉は胸をなで下ろす。だが、安心はできない。「唯さん」「はい」
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残された記録

翌日の午後。高倉は唯と待ち合わせをし、最寄りの警察署へ向かった。受付を済ませると、生活安全課の担当者が応接スペースへ案内してくれる。高倉はこれまでの経緯を、時系列に沿って説明した。文具店で撮影された写真。差出人不明の郵便物。そして会社へ届いた二通目の封筒。担当者は途中で口を挟むことなく、最後まで耳を傾けていた。「なるほど」話を聞き終えると、担当者はゆっくり頷いた。「現時点では脅迫や恐喝と断定するのは難しいですね」唯は膝の上で手を握り締める。予想していた答えだった。「ただ」担当者は続けた。「不審な郵便物が続いていることは事実です。今回は相談記録として残しておきます」高倉は静かに頷いた。「ありがとうございます」「今後も同じような郵便物が届いたり、尾行されていると感じたりした場合は、すぐにご連絡ください」「分かりました」「封筒や手紙も、そのまま保管してください。処分はなさらないようお願いします」唯も小さく頭を下げた。「はい」相談は三十分ほどで終わった。警察署を出ると、午後の日差しが歩道を照らしている。唯は小さく息を吐いた。「少し安心しました」高倉は隣を歩きながら微笑む。「相談したこと自体に意味があります」「そうですね」唯も頷いた。一人で抱え込んでいた昨日とは違う。誰かに話し、記録として残した。それだけでも、不安は少し軽くなっていた。駅へ向かって歩いていると、高倉が足を止めた。「唯さん」「はい?」「少しだけ、お時間をいただいてもよろしいでしょうか」唯は不思議そうに首を傾げる。「もちろんです」「近くに喫茶店があります」高倉は穏
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変わり始めた距離

喫茶店は平日の午後ということもあり、店内は静かだった。窓際の席へ案内されると、二人は向かい合って腰を下ろす。注文を済ませても、しばらくはどちらも口を開かなかった。警察での出来事を、それぞれが思い返していた。やがてコーヒーが運ばれてくる。高倉はカップへ手を伸ばすと、小さく息をついた。「今日はお疲れさまでした」「高倉さんも」唯は柔らかく微笑む。「付き添っていただいて、ありがとうございました」「当然のことをしたまでです」高倉は静かに答えた。その言葉に、唯は少しだけ困ったように笑う。「高倉さんは、いつもそう言いますよね」「え?」「『当然です』とか、『仕事です』とか」唯はカップへ視線を落とした。「でも、私はそうは思っていません」高倉は黙って耳を傾ける。「今日だって、本当は一人で警察へ行くことだってできたはずなんです」唯は少し照れくさそうに笑った。「それでも、一緒にいてくださったから……心強かったです」その言葉に、高倉は一瞬だけ視線を伏せた。「ありがとうございます」短く礼を述べる。それ以上は続かなかった。以前の自分なら、それで話を終わらせていただろう。だが今日は違った。「実は」高倉はゆっくりと言葉を選ぶ。「少し、気になっていたことがあります」唯が顔を上げる。「何でしょう」「ここしばらく、私は唯さんと必要以上に距離を取っていました」唯は驚いたように目を見開いた。やはり気づいていたのだ。そう思うと同時に、高倉は苦笑する。「お気づきでしたか」「……少しだけ」唯は正直に頷いた。「何か失礼なことをし
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同じ差出人

「会社に……ですか」唯の表情が強張る。高倉は静かに頷いた。「法務から連絡がありました」「また、写真が?」「まだ詳しい内容までは聞いていません。ただ、前回と同じように差出人の記載がない郵便物だそうです」唯は思わずカップへ視線を落とした。自分の事務所。会社。次はどこへ届くのだろう。そんな考えが頭をよぎる。「申し訳ありません」高倉が静かに頭を下げる。「今日はここで失礼させてください」「そんな」唯は慌てて首を振る。「謝らないでください」むしろ、高倉は何も悪くない。それなのに、いつも自分のことを優先して動いてくれる。そのことが申し訳なかった。高倉は会計を済ませると、二人は店を出た。駅前まで並んで歩く。以前なら仕事の話をしながら歩いた道だった。今日は互いに言葉が少ない。別れ際、高倉は立ち止まった。「唯さん」「はい」「何かあれば、すぐご連絡ください」「はい」「遠慮はしないでください」その一言に、唯は小さく笑った。「もう遠慮しません」高倉も穏やかに微笑む。「それを聞いて安心しました」軽く会釈を交わし、それぞれ反対方向へ歩き出す。高倉は会社へ戻る足を速めた。法務担当の部屋へ入ると、机の上に一通の茶封筒が置かれていた。「こちらです」法務担当が封筒を示す。前回とほぼ同じ大きさ。差出人の記載はない。高倉は手袋を借りることもなく、そのまま封筒の外観だけを確認した。「中身は」「まだ開封していません」法務担当は首を横に振る。「高倉さんにも確認していただこう
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守られているということ

翌日。唯は仕事を終え、事務所の窓を閉めていた。時計を見ると、午後六時を回っている。鞄を手に取った、そのときだった。スマートフォンが鳴る。「もしもし」『お疲れさまです』高倉の声だった。「お疲れさまです」唯は自然と表情を和らげる。『お仕事は終わられましたか』「今ちょうど終わったところです」『そうですか』高倉は少し間を置いて続けた。『昨日の件ですが、お伝えしておきたいことがあります』唯は姿勢を正した。「何か分かったんですか」『いいえ。送り主の特定には至っていません』その言葉に、唯は少しだけ肩を落とす。『ただ』高倉の声は落ち着いていた。『現時点では、新たな動きはありません。会社へ届いた郵便物も顧問弁護士と共有し、今後も記録を残していく方針になりました』「そうですか……」少なくとも、きちんと対応は進んでいる。それだけでも安心できた。『それから』高倉が少しだけ声を和らげる。『今日も、お変わりはありませんでしたか』「はい」唯は窓の外へ目を向けた。「誰かに見られているような感じもしませんでした」『それはよかったです』高倉もほっとしたようだった。短い沈黙が流れる。以前なら、ここで仕事の話を終えて電話を切っていただろう。けれど今日は違った。「高倉さん」唯が静かに口を開く。『はい』「昨日、喫茶店で話してくださったこと……」高倉は黙って続きを待つ。「私、本当に嬉しかったんです」受話器を握る手に、少しだけ力が入る。「距離を置かれていた理由が分かって」
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