警察へ行く約束の日。高倉は約束の時間より十分ほど早く、唯の事務所を訪れていた。チャイムを鳴らすと、すぐにドアが開く。「おはようございます」「おはようございます」唯は少し緊張したように笑った。「お待たせしてしまいましたか」「いいえ。私が早く来ただけです」高倉は穏やかに答えた。「準備はできていますか」「はい」唯は鞄を手に取る。事務所の電気を消し、鍵を掛けると、二人は並んで歩き始めた。駅へ向かう道は、いつもと変わらない。けれど唯は、どこか落ち着かない気持ちでいた。「緊張されていますか」高倉が静かに尋ねる。「少しだけ」唯は苦笑する。「警察のお世話になることなんて、今までなかったので」「そうですね」高倉も小さく頷いた。「ですが、普段どおりお話しいただければ大丈夫です」「はい」短く返事をしながらも、唯は少し肩に力が入っている。そんな様子に気づいた高倉は、歩調を少しだけ緩めた。「唯さん」「はい」「一つだけ、お伝えしたいことがあります」唯は顔を上げる。「何でしょう」「今日お話しされる内容は、思い出せる範囲で十分です」高倉は穏やかな口調で続けた。「思い出せないことまで無理に話そうとなさらなくて構いません」唯は少し驚いたように目を瞬かせた。「つい、ちゃんと話さなきゃって思ってしまっていました」「お気持ちは分かります」高倉は微笑む。「ですが、事実だけをお話しくだされば、それで十分です」その言葉に、唯の表情から少しずつ緊張がほどけていく。「ありがとうございます」「少しは楽になりましたか」「はい」唯は素直に頷い
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