All Chapters of 冷徹CEOとの離婚後、私は夫の忠実な部下と恋に落ちた: Chapter 201 - Chapter 210

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隣にいる理由

警察へ行く約束の日。高倉は約束の時間より十分ほど早く、唯の事務所を訪れていた。チャイムを鳴らすと、すぐにドアが開く。「おはようございます」「おはようございます」唯は少し緊張したように笑った。「お待たせしてしまいましたか」「いいえ。私が早く来ただけです」高倉は穏やかに答えた。「準備はできていますか」「はい」唯は鞄を手に取る。事務所の電気を消し、鍵を掛けると、二人は並んで歩き始めた。駅へ向かう道は、いつもと変わらない。けれど唯は、どこか落ち着かない気持ちでいた。「緊張されていますか」高倉が静かに尋ねる。「少しだけ」唯は苦笑する。「警察のお世話になることなんて、今までなかったので」「そうですね」高倉も小さく頷いた。「ですが、普段どおりお話しいただければ大丈夫です」「はい」短く返事をしながらも、唯は少し肩に力が入っている。そんな様子に気づいた高倉は、歩調を少しだけ緩めた。「唯さん」「はい」「一つだけ、お伝えしたいことがあります」唯は顔を上げる。「何でしょう」「今日お話しされる内容は、思い出せる範囲で十分です」高倉は穏やかな口調で続けた。「思い出せないことまで無理に話そうとなさらなくて構いません」唯は少し驚いたように目を瞬かせた。「つい、ちゃんと話さなきゃって思ってしまっていました」「お気持ちは分かります」高倉は微笑む。「ですが、事実だけをお話しくだされば、それで十分です」その言葉に、唯の表情から少しずつ緊張がほどけていく。「ありがとうございます」「少しは楽になりましたか」「はい」唯は素直に頷い
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予定どおりにはいかない

警察へ相談してから数日。唯のもとには、新しい郵便物もメールも届いていなかった。無言電話もない。まるで、あの日を境に何事もなかったかのようだった。「少し落ち着いてきましたね」昼休み。高倉から届いたメッセージを見て、唯は小さく微笑む。『はい。仕事にも集中できています』送信すると、すぐに返信が届く。『それが一番です』短いやり取り。それだけなのに、唯の表情は自然と柔らかくなる。一方、高倉もスマートフォンをしまい、小さく息をついた。警察から新たな連絡はない。それでも、状況が落ち着いているのなら、それに越したことはない。そう思っていた。その頃。人気のない公園のベンチに、一人の人物が座っていた。手元には、何度も見覚えのある茶封筒。しかし、その封は閉じられていない。人物は封筒を見つめたまま、小さく息を吐く。「……どうしてでしょう」予定では、とっくに唯は一人で動くはずだった。写真を送れば、不安になる。手紙を送れば、気になって確かめに来る。そう考えていた。ところが現実は違う。唯は一人で動かなかった。何かあるたび、高倉へ相談している。「全部、あの人のせいですね」低い声が漏れる。高倉がいる限り、このままでは何も変わらない。人物はスマートフォンを取り出した。画面には、高倉の名前が表示されているわけでも、唯の写真が映っているわけでもない。ただ、何かを確認するように数秒見つめると、静かに画面を閉じた。「仕方ありません」そう呟く。「順番を変えましょう」茶封筒は、そのまま近くのごみ箱へ捨てられた。もう、手紙では届かない。送り主は、次の行動
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望んでいたもの

翌日の朝。唯はいつものように事務所の鍵を開けた。郵便受けを確認する。差出人のない封筒はない。スマートフォンにも不審なメールは届いていなかった。「今日は静かね」小さく呟き、仕事の準備を始める。数日前までの緊張が嘘のようだった。もちろん油断はしていない。それでも、少しだけ日常が戻ってきたように感じられる。昼休み。高倉から一通のメッセージが届く。『お疲れさまです。本日もお変わりありませんか』唯はすぐに返信した。『はい。今日は平和です』送信すると、高倉から笑顔のスタンプが返ってくる。それを見た唯は思わず吹き出した。「高倉さん、こんなスタンプ使うんだ」意外だった。真面目で堅い人だと思っていたのに、少しだけ親しみが湧く。自然と頬が緩んだ。その頃、高倉も唯からの返信を見て安心していた。少なくとも今日は何も起きていない。それだけで十分だった。「高倉」執務室から涼が顔を出す。「午後の予定だ」「承知しました」高倉はスマートフォンをしまい、いつもの表情へ戻る。仕事は仕事。しかし、唯のことが気にならない日は、もうなかった。   その頃。街の一角にある喫茶店。窓際の席へ、一人の人物が座っていた。テーブルには手つかずのコーヒー。視線は窓の外へ向けられている。しばらくすると、唯がビルから出てきた。以前なら一人で周囲を見回し、不安そうに歩いていた。けれど今は違う。スマートフォンを見て、小さく笑っている。その表情を見た人物は、静かに目を細めた。「そんな顔をするんですね&he
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計画の誤算

唯を見送った人物は、そのまま駅へは向かわなかった。人通りの少ない路地へ入り、足を止める。ポケットからスマートフォンを取り出した。画面には、途中まで作成したまま送信していないメールが表示されている。『お話ししたいことがあります。一人で来てください。』人物はしばらくその文章を見つめていたが、小さく首を振る。「もう……意味がありませんね」静かにつぶやく。これまで何度も、一人になるよう仕向けてきた。写真を送った。手紙も送った。メールも送った。それでも唯は、一人では動かなかった。何かあるたびに、高倉へ相談している。人物はメールを削除した。画面から文字が消えていく。「予定が狂いました」苦笑にも似た息が漏れる。「高倉さんさえ、いなければ……」その言葉だけが、静かな路地に残った。一方その頃。高倉は午後の打ち合わせを終え、デスクへ戻ってきた。書類を整理しながら、ふとスマートフォンへ目を向ける。唯から新しい連絡は来ていない。それだけで十分だった。何も起きない一日が、どれほどありがたいことか。以前は考えもしなかった。「高倉」涼が執務室から声を掛ける。「例の件は、その後どうだ」「新しい動きはありません」高倉は答えた。「警察からも、現時点では連絡はありません」「そうか」涼は短く頷く。「何もないのが一番だな」「はい」高倉も同意した。しかし胸の奥では、妙な引っ掛かりが消えていなかった。あれだけ執拗だった相手が、急に何もしなくなるとは考えにくい。静かな今だからこそ、かえって警戒が必要なのではないか。
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最後の誘い

仕事を終えた唯は、事務所の明かりを消した。鍵を掛け、エレベーターへ向かう。ここ数日は、不審な郵便物も届いていない。電話もない。少しずつ、日常が戻ってきたように思えた。エントランスへ降りると、スマートフォンが震える。知らない番号からのメッセージだった。『五分だけ、お話しできませんか。』唯は立ち止まる。続けて、もう一通。『もう迷惑は掛けません。これで最後にします。』唯は画面を見つめたまま、小さく息を吐いた。胸がざわつく。けれど、以前の自分なら迷っていたかもしれない。今は違う。唯はメッセージを閉じ、そのまま高倉へ電話を掛けた。「唯さん」「高倉さん、今、お時間よろしいですか」『もちろんです』唯は届いたメッセージをそのまま伝えた。高倉は最後まで黙って聞いていた。『返信はされていませんね』「はい」『そのままで結構です』落ち着いた声が返ってくる。『今どちらですか』「事務所を出たところです」『そこでお待ちください。私もすぐ向かいます』「分かりました」電話を切った唯は、建物の中へ戻った。一人では動かない。もう、それが当たり前になっていた。その頃。ビルの向かい側に停められた車の中で、一人の人物がスマートフォンを握り締めていた。画面には既読が付かない。電話も鳴らない。人物は小さく笑う。「やっぱり……」その笑みは、自嘲にも似ていた。「あなたは、一人では来ないんですね」その瞬間だった。車の窓を、コンコン、と誰かが叩いた。人物が顔を上げる。そこには制服姿の警察官が二人立っていた。
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待っていた人

「少し、お話を伺ってもよろしいですか」警察官に声を掛けられた男は、ゆっくりと顔を上げた。「何かありましたか」落ち着いた口調だった。警察官は車内を一瞥すると、静かに続ける。「この付近で、不審な事案について確認をしております」男は小さく笑う。「私はただ休憩していただけですが」「そうですか」警察官は頷いた。「念のため、お名前を伺ってもよろしいでしょうか」男は一瞬だけ黙り込み、やがて運転免許証を差し出した。   その頃。唯はビルのエントランスで高倉を待っていた。数分後、高倉が足早に駆け寄ってくる。「お待たせしました」「高倉さん」唯はほっとしたように息をついた。「メッセージは、そのままですね」「はい。返信はしていません」高倉は画面を確認すると、小さく頷いた。「ありがとうございます。それで正解です」唯は少し迷ってから尋ねる。「このまま警察へ連絡した方がいいでしょうか」「もうしております」「え?」「唯さんからお電話をいただいたあと、私から生活安全課へ連絡しました」高倉は落ち着いた口調で説明する。「これまでの経緯がありますので、念のため付近を確認していただいています」唯は驚いたように高倉を見つめた。そこまで考えてくれていたのか。「ですから、今日はもうご安心ください」その言葉を聞いた瞬間、唯の肩から力が抜けた。「ありがとうございます」高倉は小さく微笑む。「帰りましょう」二人は並んで歩き始める。   その頃、警察官は免許証を返却しながら男へ言った
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届かない思い

警察官へ身分証を見せた男は、静かに車へ戻った。「ご協力ありがとうございました」その言葉を背に受けながら、エンジンを掛ける。ゆっくりと車を発進させると、バックミラーに唯の姿が映った。隣には高倉がいる。まただ。何かあるたびに、あの人がいる。男はハンドルを握る手へ力を込めた。「どうして……」思わず声が漏れる。「どうして、分かってくれないんですか」誰に向けた言葉なのか、自分でも分からなかった。自分は傷つけようとしたわけではない。話がしたかっただけだ。誤解を解きたかっただけだ。唯が一人で来てくれれば、それで終わるはずだった。それなのに。「また、あの人ですか……」高倉が現れるたび、唯は自分から離れていく。男には、そう見えていた。「あなたは、本当は困っているでしょう……?」その言葉を聞く者はいない。車は静かに夜の街へ走り去っていった。    一方、高倉は唯を自宅近くまで送り届けていた。「今日はありがとうございました」唯が頭を下げる。「お気になさらないでください」高倉は穏やかに微笑んだ。「ご自宅へ入られるまで、お見送りします」唯は少し照れたように笑う。「最近、高倉さんに守られてばかりですね」「そのようなお約束でしたから」高倉の返事に、唯は思わず笑みをこぼした。「そうでしたね」マンションの入口まで歩く。オートロックを開け、唯は振り返る。「今日は、本当にありがとうございました」「おやすみなさい」「お
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どうして分かってくれないのですか

翌日の夕方。唯は仕事を終え、机の上を片付けていた。ここ数日は高倉へ帰宅前の連絡を欠かしていない。今日も特に変わったことはなかった。そう伝えようとスマートフォンを手に取ったとき、事務所のチャイムが鳴った。唯の手が止まる。時計を見る。約束のない来客が訪ねてくるような時間ではない。すぐには返事をせず、インターホンの画面を確認した。ドアの前に、一人の男が立っている。宅配業者の制服ではない。三十代半ばほどだろうか。落ち着いた色のスーツを着た、ごく普通の会社員に見えた。けれど、唯には見覚えがない。「どちらさまですか」ドアを閉めたまま問い掛ける。画面の中の男は、ほっとしたように笑った。「ようやく話せますね、唯さん」呼ばれた名前に、唯の背筋が強張る。「どちらさまですか」もう一度、今度ははっきりと尋ねた。男は少し困ったように眉を下げた。「何度もお伝えしたじゃないですか」唯は息をのむ。写真。差出人のない手紙。メール。無言電話。目の前にいる男が、すべての送り主なのだろうか。唯は音を立てないよう一歩下がると、スマートフォンを手に取った。男の声が、インターホンから響く。「今日は本当に話をするだけです」「お帰りください」唯は震えそうになる声を抑えた。「あなたとお話しすることはありません」画面の中で、男の表情が変わった。怒ったというより、理解できないと言いたげな顔だった。「どうしてですか」ドアノブが小さく動いた。鍵が掛かっていることを確認するように、もう一度。唯は迷わず警察へ通報した。事務所の住所と、以前から相談している件であることを伝える。通話を終えると、続けて高倉へ電話を掛けた。「唯さん」声を聞いた瞬間、胸の奥の緊張がわずかにほどけた。「事務所の前に、男の人がいます」高倉の声が引き締まる。「警察には」「今、連絡しました」「よくできました。ドアは絶対に開けないでください」「はい」「私も向かいます」その間も、男はドアの向こうから話し続けていた。「唯さん、誤解しています」声を荒らげてはいない。むしろ、諭すような口調だった。「私はあなたを助けようとしているんです」唯はスマートフォンを耳へ当てたまま、ドアから距離を取った。「助けてほしいなんて、お願いしていません」「今はそう思っている
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伝わらなかった言葉

唯は警察官から簡単な事情確認を受けていた。「先ほどの男性に、お心当たりはありますか」「ありません」唯は静かに首を横に振る。「仕事関係でも、取引先でもありません」警察官は手帳へ短く書き留める。「分かりました。本日の状況も含めて確認を進めます」説明はそれだけだった。必要以上のことは話さない。その姿勢に、唯もこれ以上は尋ねなかった。事情確認を終え、部屋を出ると、高倉が廊下で待っていた。「終わりましたか」「はい」唯は少し疲れたように笑う。「長く掛かるのかと思っていました」「今日は状況の確認が中心だったのでしょう」高倉は穏やかに答えた。そのとき、先ほど対応していた警察官が二人へ近づいてきた。「桜井さん」「はい」「本日の男性ですが、こちらで事情を伺っています」唯は思わず息をのむ。警察官は続けた。「現時点では詳しい内容はお伝えできません。ただ、本日の件も含めて適切に対応いたします」「……よろしくお願いいたします」唯は深く頭を下げた。警察官も一礼し、その場を離れていく。高倉は唯の表情を見つめた。「少し、お疲れになりましたね」「はい」唯は苦笑する。「怖かったんだなって、今になって実感しました」高倉はゆっくり頷いた。「よく、お一人で対応なさいませんでした」その一言に、唯は目を伏せる。「最初は、開けようか迷ったんです」高倉の表情がわずかに変わる。「でも、高倉さんとの約束を思い出しました」唯は顔を上げた。「一人で判断しないって」高倉は静かに微笑む。「約束を守ってくださって、本当にありがとうございます」
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ようやく終わった日

翌日の午後。唯は高倉とともに警察署を訪れていた。案内された部屋には、前日対応した警察官が待っていた。「お忙しいところありがとうございます」警察官は二人が席に着くのを確認してから口を開く。「昨日の男性についてですが、本人から事情を確認しました」唯は自然と背筋を伸ばく。「男性は、以前桜井さんを見かけたことをきっかけに、一方的な好意を抱くようになったと話しています」唯は思い当たる顔がなく、小さく首を振った。「男性は『自分は困っている桜井さんを助けようとしていた』『拒まれているのは周囲の人間の影響だと思っていた』と説明しています」昨日、ドア越しに聞いた言葉と同じだった。「高倉さんに惑わされている」その言葉が脳裏によみがえる。「本人は悪意を否定していますが、桜井さんが恐怖を感じていたことは伝えました。また、今後は一切接触しないよう強く指導しています」警察官は淡々と告げた。「現時点では、本人も接触しないと約束しています」唯は静かに息を吐いた。長く胸につかえていたものが、少しだけ軽くなる。「……分かりました」警察官は頷いた。「今後、もし少しでも同様のことがあれば、すぐにご連絡ください」「はい」それ以上、長い説明はなかった。必要な確認を終えると、二人は警察署を後にした。外へ出ると、夏の日差しがまぶしかった。唯は空を見上げ、小さく笑う。「終わったんですね」高倉も空を見上げる。「そう願いたいですね」少し間を置いて、唯が口を開く。「ずっと気を張っていたみたいです」「そうでしょう」「今になって、力が抜けちゃいました」高倉は優しく微笑む。「今日はお仕事を切り上げましょう」「え?」「無理をする必
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