「離婚して半年以上経ってから妊娠したんです。社長の子ではありません」「なら、誰の子だ」由樹はそう問いかけてから、自分の問いが筋違いだと気づいた。それでも、三久の返答を静かに待った。胸の奥に、鈍器で殴られたような鈍い痛みが走る。それでも諦めきれず、もう一度問いを重ねた。「……社長には関係のないことです」三久はそう言い終えると、扉を押し開けて外へ歩き出した。数歩も進まないうちに、手首をぐいと強く掴まれた。由樹だった。追いかけてきたのだ。「何を怖がってる」「何をするんですか」三久は平静を装いながら、壁と由樹の胸の間に閉じ込められたまま、問い返した。由樹の薄い唇が、まっすぐに引き結ばれる。――俺は一体何をしているのか。元妻であり、部下でもある相手に、誰の子を身ごもったのかと問い詰めているなんて。「お前は神崎と裏でコソコソつながっている。あいつは俺の宿敵で、お前は俺の部下だ。この子が誰の子か、俺には問い詰める権利があるはずだ」由樹は堂々と言い切ったが、その言葉は冷たく、皮肉めいていた。三久は顔を上げ、澄んだ瞳で、詰め寄る由樹の姿を見つめた。思わず目の縁が赤くなる。胸の奥がぎゅっと締めつけられるように痛んだ。三久は、少なくとも由樹だけは自分を分かってくれていると信じていた。たとえ自分にどれだけ分別がなかったとしても、洲人などと関わり合いになるはずがないと。だが――「三久さん」不意に、少し離れたところから声がした。三久が声のするほうを見る。研がカバンを手にして立っていた。ちょうど仕事帰りといった様子だ。彼はどこか気まずそうな顔をしながらも、意を決して二人のほうへ歩いてきた。今、廊下にいるのは三人だけだった。由樹も顔を上げ、細めた切れ長の瞳で、近づいてくる研を見据えた。「酒井社長」研は由樹に軽く頭を下げた。「またお会いしましたね。あの……私の婚約者から手を放していただけますか」三久は息を呑んだ。由樹の瞳が、一段と深くなる。「すみません。彼女とはまだ籍を入れていないので、妊娠のことは一時的に伏せていました。母の体調が思わしくなく、すぐに結婚式を挙げるのが難しくて。彼女に迷惑がかかるのを恐れていました。酒井社長にはご理解いただけますと幸いです」研は
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