なぜそこまでして、三久の腹の子が誰の子かを突き止めなければならないのか。「消えろ」由樹の薄い唇から、その一言だけが冷酷に漏れた。哲朗は一瞬たじろいだが、その場に留まり問い返した。「会社を辞めろということですか、それともこの部屋から出ていけということですか」「さっさと消えて、本人から聞き出してこいと言っているんだ」由樹の瞳には冷たい光が宿り、表情には隠しきれない怒気がにじんでいた。哲朗は踵を返して部屋を出た。由樹の執務室を離れるとすぐ、スマホを取り出し、洲人に【OK】とだけ返信した。なぜ洲人が、自分たちが三久の妊娠を調べていることを知っているのか、哲朗には分からなかった。だが由樹の執務室に入る直前、洲人から突然メッセージが届いていたのだ。三久の腹の子は、やはり由樹の子だったと。この事実が明るみに出れば、到底収拾のつかない事態になる。洲人は自分の立場も顧みず、あらゆる手を尽くして、これが由樹に知られればどれほど厄介な事態になるかを、哲朗に説得したのだ。情に訴え、道理を説き、哲朗自身の身を守るためでもあると。権力者の側に仕えるということは、猛獣の檻の中にいるようなものだ。由樹の機嫌ひとつが、自分の運命を容易に左右する。とりあえず、今は様子を見ながら慎重に進めるしかない。洲人に返信した後、哲朗は三久に電話をかけたが、数コール鳴っただけで切られてしまった。再度かけ直したが、結果は同じだった。すると直後に、三久からメッセージが返ってきた。【すみません、今立て込んでいて。ご用件はメッセージでお願いします】――出勤していないというのに、いったい何でそこまで立て込んでいるのか?哲朗は人を使って調べさせ、裏で進められていた一連の詐欺を、すべて洗い出した。あれこれ考えた末、哲朗はもう一度由樹の執務室へ向かった。「今、早坂さんと鈴木さんが施設長と、お金のことでひどく揉めているようです」由樹はペンを握る手の甲に青筋を浮かべ、表情をますます陰らせた。「こんなくだらない揉め事の処理まで、いちいち俺の指示を仰ぐつもりか?」哲朗は少し躊躇したが、それ以上何も言わず、恭しく踵を返して出ていった。由樹の真意を察したつもりだった。だが五分後、由樹が哲朗の車の後部座席に乗り込み、一緒に施設へ行くと言い出し
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