理紗はハッとして姿勢を正した。「あ、忘れてました!今はもう早坂本部長でしたね!」「ついてきて」三久は短く告げ、足早に部屋へ向かった。後を追った理紗がドアを閉める。「さっき、人事部の中野部長から、転属の手続きに来るようにと連絡がありまして……ずいぶん待たせてるんですけど、今から行きますか?」三久はカバンを置いて椅子に腰を下ろし、向かいの席を目で促した。理紗もつられるように座る。「行かなくていいわ。あなたの雇用契約は本社にあるから、支社には移管しない」ここでようやく、理紗は微かな空気の変化を察知し、表情を引き締めた。「どうしてですか?まさか、このまま本社に送り返されるとか?」「ここは事情が複雑なの。とにかく、覚えておいて。私からの指示だけに従っていればいいから。誰に何を頼まれても、全部私のせいにして構わない」理紗の顔が途端に強張った。「な、何かあったんですか?内通者とか……?」「内通者じゃないわ。よくある社内の権力争いよ」怯えたような理紗を見ていると、三久まで落ち着かない気分になってくる。それでも彼女を安心させるように言葉を継いだ。「大丈夫。社長が何とかしてくれる。私たちは自分の仕事さえきちんとこなしていればいいのよ」理紗にしてみれば、ここへ来たら三久に張りついて、のんびり秘書業をこなす腹づもりだった。毎日適度に手を抜きつつ、雑用をこなす日々。そのはずだったのに、まさかこんな事態に巻き込まれるとは思ってもみなかったのだ。「今さら後悔しても、もう遅いですよね?」三久は困ったような、それでいてどこか楽しげな苦笑をこぼした。「遅いわよ。私たちは一蓮托生。この支社で頼れるのは、もう私たち二人きりみたいなものなんだから」理紗の顔から、さっと血の気が引いた。三久がさらに言葉を続けようとしたところで、ドアをノックする音が響いた。「本部長」敬太の声だった。「どうぞ」三久は理紗を安心させるような視線を送ってから、ドアへと目を向けた。敬太が扉を開け、大股で踏み込んできた。「本部長、すみません、五分ほど遅れました。昨夜はさすがに飲みすぎまして」そう言いながら、席にいる理紗へと一瞬だけ視線を走らせる。訝しげな色を浮かべたものの、それ以上は何も詮索しなかった。「昨夜はお疲れさま。今回の遅刻は不問にするわ」三久
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