現在、人手不足の支社は少なくない。由樹がいくつか候補地を絞り込み、三久はその中からいちばん遠い場所を選ぶだけでいいのだ。ともかく、今は西戸を離れることが最優先だった。「決まったら連絡する」由樹が冷ややかに告げた。三久はただ頷くしかなかった。「分かりました。よろしくお願いいたします」言い終えても由樹が沈黙したままだったため、三久はさらに一言添えた。「他にご用がなければ、失礼いたします」そもそも、由樹が三久を呼び出した本当の目的は、異動の件などではなかった。彼女の言う「他の用」を、由樹はまだ尋ねてすらいない。だが、その言葉は彼の喉の奥につかえたまま、どうしても声にならなかった。由樹は、三久が一歩、また一歩と遠ざかり、執務室から出ていくのを、ただ無言で見送ることしかできなかった。扉が閉まり、その姿が完全に視界から消える。由樹はタバコを口から外し、手のひらでぐしゃりと握りつぶした。ほぐれたタバコの葉が、ズボンの裾や靴の上にぱらぱらとこぼれ落ちる。しばらくして、由樹はその潰れたタバコを、激しい怒りを叩きつけるように、ゴミ箱へ投げ捨てた。一方、執務室を出た三久も、思わず振り返り、固く閉じられた扉をじっと見つめていた。由樹が追いかけてくるのではないか。そんな錯覚に陥ったのだ。これだけ長く由樹の下で働いてきたのだ。彼が何か重いものを心に抱えていることくらい、様子を見れば分かる。きっと異動のことに加えて、千歳との結婚も間近に迫り、公私ともに立て込んでいるのだろう。三久は少し立ち止まって気持ちを落ち着かせてから、忘れ物を取りに哲朗のオフィスへと向かった。扉をノックして中へ入ると、哲朗がびくっと肩を跳ねさせ、席から立ち上がるのが見えた。「は……早坂さん、お話は終わりましたか?」三久は部屋に入りながら尋ねた。「何の話ですか」――妊娠のことに決まってるだろ!哲朗はもう少しで口を滑らせるところだったが、三久の顔をよく見ると、そこには普段と変わらない平静さが保たれていた。自分の妊娠を上司に問いただされた直後のはずなのに、動揺の色など微塵も見当たらない。「社長が、さっき何か急ぎの用があって呼んだのかと……」哲朗は探りを入れるように言葉を濁した。三久は由樹とのやり取りを思い返した。異動の話をしたの
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