三久は彼女を励ますように言った。「いいベビーシッターが見つかったら、一日休みを取って買い物に付き合うから。気分転換しましょう」その言葉を聞いて、梨々香はにわかに元気を取り戻した。「そういえば鳴海百貨店の本社、深川にあるって聞いたことある。今度そこ見に行かない?」「うん」三久の一言二言で、梨々香はすっかり元気を取り戻し、買い物の話に夢中になっていた。三十分後、ヴェリアという産後ケア施設に到着した。三久は車を降りて鍵をかけ、梨々香と一緒にベビーカーを押して中へ入った。紫色の制服を着た受付スタッフが、笑顔で出迎える。すぐに蒼汰のそばにしゃがみ込み、あやしながら二人に声をかけてきた。「お二人は施設の見学ですか、それともベビーシッターのご相談ですか?」「見学……」「ベビーシッターの相談で」三久が先に答え、梨々香の言葉を遮った。彼女はロビーをぐるりと見渡し、エレベーターから出てきた久留美と、二十代前半に見える女性の姿を目に留めた。その女性は大きなウェーブのかかった髪に短めのワンピース姿で、お腹が高く突き出ており、臨月に近いように見えた。高崎家の嫁だろう。「梨々香、先に見てて。知り合いに会ったから、ちょっと挨拶してくる」三久は梨々香に目配せした。梨々香は三久の妊娠がまだ公にできない状況だと理解しており、頷くと受付スタッフに案内されて蒼汰と一緒にベビーシッター選びへ向かった。三久は久留美たちの方へ歩み寄る。ちょうど同時に、久留美もこちらに気づいた。「まあ、こんなところで会うなんて。今日はどういった……」久留美は驚いた様子だった。「友人に付き添って、ベビーシッター選びに来たんです」三久は久留美に頷いて微笑んだ。「またお会いしましたね」久留美もつられて笑った。「ふふ。あなたそんなに若いのに、まだ結婚もしてないでしょう?こんな場所に来るような年でもないでしょうに」そう言いながら、お腹の大きな女性を自分の方へ引き寄せた。「これはうちの嫁の紫織よ」「はじめまして、早坂三久です」三久は高崎紫織(たかさき しおり)に頷き、自分から挨拶した。紫織は三久を値踏みするように見つめ、口調にはあからさまな拒絶が滲んでいた。「早坂さんね。百栄グループの酒井社長の秘書だって、噂は前々から聞いてたわ。
Read more