「依果はおじいちゃんとおばあちゃんに甘やかされて育った子なの。あなたはお義姉さんになるんだから、これからは大目に見てあげてね」摩美は千歳にそう言い聞かせた。千歳は頷いた。依果が部屋を出ていくのを見送ると、ようやく表情がほぐれていく。階段を下りてきたばかりのときは、内心落ち込んでいた。てっきり、由樹が昨夜出ていったことは皆に知られていると思っていたのに、誰も気づいていなかったのだ。摩美の自分への態度も、大きく変わった。まるで、あのスキャンダル騒動で由樹に迷惑をかけそうになったことへの不満が、一瞬にして消え去ったかのようだった。千歳は内心焦りながらも、無理に平静を装って頷いてみせた。この瞬間、酒井家の若奥様の座は盤石になったのだと感じていた。「うん、安心してください。これからは依果のことも、ちゃんと大目に見るようにするから」潔子は箸を置き、席を立った。「おばあちゃん、もう食べ終わったんですか?」千歳が声をかける。「今日は食欲がないの」潔子はそのままリビングへと向かった。千歳は「あ、そうですか」と小さく返す。「おばあちゃんも歳だから、たまに食欲が落ちるだけよ、気にしないで」摩美が促す。「早く食べなさい。食べ終わったら由樹に朝ごはんを届けてあげて」千歳は頷き、ようやく顔にわずかな笑みが浮かんだ。……久留美が経営するサロンは、富裕層の奥様方が集って交流するための場所だった。三久が到着したとき、着飾った上品な奥様方が、パラソルの下でスイーツを楽しんでいた。午後三時、日差しは強めだが、気温は心地よかった。三久は黒のワンピースに身を包み、長い髪をポニーテールにまとめていた。歩くたびに毛先が揺れ、若々しく溌剌とした印象だった。敬太は中までは付いていかず、車のそばに立って、こっそりと彼女の写真を一枚撮ると、それを誰かに送信し、スマホをしまって車内で待機した。「早坂本部長、こちらへどうぞ」久留美は三久が来たのを見ると、立ち上がって迎えた。彼女が三久を見つめる視線は、相変わらず遠慮がなかった。「堅苦しいので、どうか三久と呼んでください」今日はビジネスの場ではない。いちいち「本部長」と呼ばれるのは、この場の空気に馴染まない。「じゃあ……三久さん?」久留美はたった今その名を知ったばかりの
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