「もう必要ない」由樹はふいに表情を引き締め、眉根を寄せてバックミラー越しに彼を見た。「降りろ。深川で野垂れ死んでこい」「一円も置いていかなかったくせに。お前のせいで二食抜いたし、昨日の夜は駅前で寝たんだぞ」耐えられなかったからこそ、龍太郎はわざわざ由樹のところへやって来たのだ。由樹は冷ややかな顔で言った。「餓死すればいい」「まあ、そうしてもいいけど。それで秦家の連中も厄介払いできて喜ぶだろうし。願わくば、俺が昔お前を助けた恩を覚えていて、いい墓地くらいには埋めてくれよな」龍太郎はどこか吹っ切れたような顔をしていた。由樹は鋭い目を向け、あごを引いた。「昔のことを盾にして俺に恩を着せるな。もう一度あんなことが起きても、お前ら二人に助けてもらう必要はない」誰も知らない。あのとき由樹を救ったのは千歳一人ではなく、龍太郎もその場にいたことを。この件を秘密にしてほしいと自ら頼んだのは、龍太郎だった。自分と由樹の関係を理由に、秦家がまた自分に取り入るような真似をしてほしくなかったからだ。いっそのこと、秦家に見放されて縁を切られたままの方がよかった。「早坂さんに二度と、お前のために危険な真似をさせたくないんだろうな」龍太郎は意味深に言った。「由樹、お前でも判断を誤ることがあるんだな。今なら後悔しても間に合うぞ」由樹は目を細めた。顎の線が張り詰めたように強張った。しばらくして、彼は話題をそらした。「送金しておく。降りろ」「頼むぞ」龍太郎はドアを開けて車を降りた。事態はここまで来ると、もはや由樹一人の問題ではなく、酒井家と村上家の問題になっていた。彼は運転席の窓のところで足を止め、もう一言付け加えた。「村上家の連中は、揃いも揃ってろくなもんじゃない。お前も本当に気をつけた方がいい」由樹は窓を閉め、龍太郎の言葉には答えなかった。ブガッティはその場に三十分近く停まったままだったが、やがて走り去っていった。そのころ、理紗は三久のオフィスで、親指を立てて盛大に褒め称えていた。「本部長、本当にすごいです!さっき田原部長の顔が真っ青になってるの見ましたよ。それに田原取締役の息子なんて、帰るときまるで鬼の形相で、ブサイクな上に顔を真っ赤にしてて……」初戦の幕は上がり、まずは勝利を収めた。だが一度対立が表面
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