「お休みのところお邪魔して申し訳ありません。てっきりまた具合が悪くなったのかと思いまして」三久は声を潜めると、そっと手首をひねって由樹の手から逃れようとした。由樹は手の力をふっと抜くと、気怠げに体を起こし、ゆっくりと座り直した。「……大丈夫だ」「どうしてきちんと食事を摂らなかったんですか?」三久が心配そうに尋ねた。「心配するな。薬はもう飲んだ」――は?医者はあれほど、決して空腹のまま飲んではいけないと強く念を押していたはずだ。それならばいっそ、初めから薬など飲まない方がまだよかったのではないか。三久はまだ何か言おうとしたが、墨を流したように黒い由樹の瞳と真正面から視線がぶつかった瞬間、喉の奥がきゅっと締まり、その言葉を呑み込んだ。「高崎家のご夫妻の結婚記念パーティーの招待状が届いております。明日の夜ですが、出席なさいますか」「高崎家の方々と親交を深めておくのは、こちらでのお前の立場にも少なからずプラスになるだろう」由樹はぽつりと続けた。「一緒に来い」「はい。そういえば、依果ちゃんが深川に来て、支社の広報部長に就任したそうです」この突然の異動を裏で手配したのは義景だった。依果が深川に降り立ってから、由樹はようやくその事実をあとから知らされたのだ。「彼女のこれまでの経歴を考えれば、まだ荷が重い役職だが、今は事情が事情だ。能力より忠誠心が求められる場面もある」「私がきちんとサポートしますので」思わず口をついて出た言葉に、由樹がわずかにまぶたを持ち上げ、三久へ鋭い視線を向ける。三久は慌てて取り繕うように言い添えた。「赴任されたのが依果ちゃんでなくても、どなたであっても、私は同じようにきちんとサポートするつもりです」「……そうか」何気なく返されたその短い言葉は、なぜか語尾がかすかに震えていた。「はい。休憩の邪魔になってはいけませんので、失礼して仕事に戻ります」三久は踵を返して静かに部屋を出ていく。ゆったりとした服のせいか、以前纏っていた鋭い雰囲気や強い存在感が幾分か和らいで見えた。由樹はネクタイをゆっくりと緩めながら、胸の奥に言葉にならない複雑な感情が重くわだかまるのを感じていた。不意に鳴った着信音が、その物思いから由樹を現実に引き戻す。哲朗からだった。スマホを手に取り、電
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