「今後、大野がこの業界に二度と顔を出せないようにしろ」――すでに電話は繋がっているようだ。相手は哲朗だろうか。三久は手を伸ばし、彼の腕を掴んでスマホを奪い取ろうとした。由樹が腕を高く上げると、爪先立っても届かなかった。「無責任な男を、そんなにかばって何になる?お前、人に捨てられるのが一番嫌いなんじゃなかったのか?」三久は一度も口にしたことはなかったが、確かに人に捨てられることが何よりも嫌だった。児童養護施設にいる子供たちは、みんな親に捨てられた子だった。三久も同じだった。三久の爪が彼の手首に食い込み、痛々しい跡を残す。きつく下唇を噛みしめながらも、それでも子供が研の子ではないとは口にしなかった。由樹は曲がったことが大嫌いで、嘘やごまかしを決して許さない男だ。幼馴染で結婚間近だった千歳の裏切りすら、彼は許さなかった。ならば、部下である三久の嘘を許すはずがない。たとえ仕事に関わらない私的なことであっても、だ。「どうして黙る?」由樹は薄い唇を開いた。瞳には怒りが滲み、辛辣な言葉が次々と溢れ出す。「俺の妻だった頃は、一度だって避妊を怠ったことはなかったはずだ」正式な夫婦だった間は子供一人も作らなかったくせに、相手が変わった途端にのぼせ上がったというのか。他の男の下で喘ぐ三久の姿を想像すると、あの甘い声や仕草が自分以外の男に向けられたのだという事実が、由樹の胸を掻き毟った。胸の内にくすぶる怒りの炎が、さらに勢いを増していった。三久の顔に羞恥と怒りが入り混じった。「あなたの子供なんて産みたくなかっただけ!優しくもなければ気遣いもない、いっつも仏頂面で、親の仇でも見るみたいな顔して!」由樹の目つきが一瞬にして険しくなり、額に青筋が浮かんだ。「それに、あなたの心の中にはずっと他の女がいたじゃない。そんなあなたが、夫としてちゃんとしてたって言えるの?夫婦だった頃だって、私を特別扱いしてくれたことなんて一度もなかった。あなたのお母さんにつらく当たられていた時だって、見て見ぬふりだった。それなのに離婚した今になって、私の味方みたいな顔しないで」同じ屋根の下で二年も暮らしていながら、由樹は彼女がこれほどの想いを抱えていたことに気づいていなかった。矢継ぎ早に浴びせられる非難に、由樹は言
Read more