しかも紫織には、千歳とも浅からぬ因縁がある。三久はこの一件を、仕事に響かせたくなかった。なにしろ、評判に傷がつけば、今後のキャリアにも響くからだ。「辞めるとは言ったけど、向こうからクビにされるのは癪よね。そもそも、こっちは濡れ衣なんだし」梨々香が三久にウインクした。「じゃあ、あたしが一肌脱いであげる」三久は頷き、二階を見上げた。「今日退院したの?もう平気?」「熱は下がったわ。秦先生は、あとは家で様子を見ていれば大丈夫だって」ここ数日、梨々香はすっかり疲れ果てていた。仕事がなくても、子どもが熱を出せば気が休まらない。外で働くよりよっぽど堪える。「じゃあ、ゆっくり休んで。私もそろそろ帰るから」三久は帰宅して車を停めるなり、梨々香から夜食を食べにおいでと呼び出されたのだ。パーティーではバースデーケーキを一口も食べずに帰ってきたため、ちょうど小腹が空いていたのだ。梨々香の家を出たところで、三久はふと思い立ち、薬を塗ってあげるから来るようにと洲人にメッセージを送った。家に着くや否や、洲人がやって来た。「電話しろって言ったのに、なんでメッセージなんだよ。目覚ましをかけて早めに起きてたから気づいたけど、そうじゃなきゃ絶対見逃してたぞ」洲人はぶつぶつと文句をこぼした。三久の嫌がらせなど、彼にはお見通しだった。「一日くらい薬を塗らなくても死にはしません」三久は、洲人に薬を塗ってやりたくない気持ちを隠そうともしなかった。「明日は朝から用事があって出かけますから、今夜塗ったらもうお世話しませんよ」洲人はぎこちない動きで腰を下ろした。「なんかさぁ、今日はさらに動きづらくなった気がする」怪我をしているのは膝で、かさぶたの周りの皮膚が突っ張っている。脚を曲げるたびに傷に響くのだから、動きづらいのも無理はない。「あと数日の辛抱ですね。塗り終えたら持って帰って、明日の朝はご自分でどうぞ」三久は腰を下ろして薬を塗り終えると、消毒液と綿棒を一緒に彼に渡した。「明日休みだけど、予定あるか?」洲人は綿棒を受け取る。三久は素っ気なく答えた。「暇じゃありません」「また残業か?」洲人が眉をひそめる。「酒井の野郎、人使いが荒いな。君、こんなにお腹が大きいのに……」そう言いながら、三久のお腹がどれだけ
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