店員は彼女が気に入った様子を見て、すぐに付け加えた。「さっきもお二人のお客様がご覧になって、少し考えてからまた戻ってきますとおっしゃっていたので」「じゃあ、これにします」三久はバッグを開け、スマホを取り出そうとした。そこへ、指に挟んだブラックカードがすっと差し出され、彼女の目の前で店員へと渡される。「このベビーベッド、私が買うわ」三久が顔を上げると、薄紅色のネイルを施した指先。紫織のものだとすぐに分かった。店員は戸惑った様子で言った。「あの、こちらのお客様がすでにお決めになっていて」紫織は言った。「決めたっていうのは、まだ買ってないってことでしょ?お金だって払ってないじゃない」「それは……」店員は困惑した表情を浮かべた。「若奥様の目に留まるような品ではないでしょう。私に張り合うためだけに、お金を無駄になさる必要はないかと」このベビーベッドは十六万円。三久は値段を見て、少し胸が痛んだ。けれど高崎家にとっては、十六万円のベビーベッドでも痛くも痒くもないだろう。紫織がこんな真似をするのは、ただ三久に張り合いたいだけに違いなかった。「そんなわけないでしょ」紫織はカードを店員の手に押し付け、三久に向かって無理に笑ってみせた。「あなたにプレゼントしようと思って買うのよ」三久は一瞬、面食らった。「会計してきて。それでこのベビーベッド、こちらの早坂さんのお宅に届けてね」紫織は店員をちらりと睨みつける。店員はようやく我に返り、カードを持ってレジへと向かった。「結構です」三久は止めようとしたが、紫織に遮られてしまう。「前にあなたの秘密をバラしたことへの埋め合わせってことにしておくわ。でも、この前の謝罪は取り消すけどね。だってメディアの報道、間違ってなかったし。義母があなたと仲良くしろってうるさく言ってこなかったら、あなたなんて相手にする気もなかったんだから」紫織は皮肉げな笑みを浮かべ、はち切れそうなほど大きく膨らんだお腹を抱えていた。両手でお腹を支え、これ以上ないほど得意げに言い放つ。「うちの義母があなたに何を負い目に感じてるのか知らないけど、こっちが頭を下げたのだって、所詮は体裁のためよ。私のお腹の中にいるのは双子で、高崎家の跡取りになる子たちなんだから。腹が立っても、黙って我慢してなさい
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