本当に怖いのは、敵が増えることじゃない。味方だと思っていた人間が、敵に回ることだ。哲朗は由樹と長年の付き合いがあり、何を最も嫌い、何を最も大切にしているかをよく理解していた。哲朗の本来の狙いは、この件を洲人に押し付けるよう由樹を誘導することだった。由樹がこのまま深川の人間と揉め事を起こせば、酒井家から責任を問われることになる。それを避けたかったのだ。由樹が聞き入れないのではと焦るあまり、つい失言してしまった。由樹の表情が一瞬で強張り、引き締まった頬が暗く沈む。「やれと言ったらやれ。四の五の言うなら西戸へ帰れ!」哲朗は首をすくめ、それ以上は何も言わずに、由樹の指示通り動くことにした。だが洲人のほうの調査も、温子の失踪という一点で行き詰まっていた。部下がすぐさま報告してきた。「うちだけでなく、酒井家の人間もあの女の行方を調べているようです」「酒井が?」洲人は驚きを隠せなかった。酒井は三久の子供が自分の子だとは知らないはずだ。それなのに、三久の件にまだ首を突っ込んでいるとは……これは、なかなか見応えのある芝居ではないか。洲人は口の端を持ち上げようとしたが、どうしてもうまく笑みが作れなかった。彼はどすんとソファに腰を落とし、眉間に無意識のうちに皺を寄せた。「酒井に何の関係があるんだ?酒井を見張らせて、奴らの狙いが分かり次第、横取りしろ」この恩を由樹に先に売らせるわけにはいかない。金を払って浅野をカジノから連れ出そうとしたが、相手の言い値は四億円だった。年増で、しかもギャンブル狂いのろくでなし。四百円の価値もないような女に四億円とは、洲人は思わずむせそうになった。カジノの責任者は足元を見て値をつり上げてきた。「嫌なら、酒井家に持ちかけるだけだが」「明らかに酒井を巻き込もうって魂胆だろうが。俺は馬鹿じゃないから払わないし、酒井はなおのこと払わないぞ!あいつがどれだけ抜け目ないか分かってるだろ」洲人は値切りにかかった。「その気があるなら、四百万出してやる。さらに四十万上乗せする」四億を一気に四百四十万まで値切った。「神崎さん、からかってるんですか」カジノの責任者は顔つきを変えた。「こっちも人を放すのにリスクを負ってるんですよ。高崎武司さんに捕まえろと言われた人間を渡
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